・・・・おかしい・・・どうしてあの人が出てこない?
戦闘が始まってもう大分経つが、一向にあの人、ガルヴァス達が出てこないのを訝しみながらもティファは次々と手足を斬られ、体力を削られた敵兵を筒に入れていく。
敵の数が減らないと味方は消耗戦になると思い溜め息を吐いていたが、仕方がない。
何せ向こうにはガァちゃんが守っている何処でもドア的なチートアイテムがあって、補充は際限なくできるとは内緒だ。
そんな事を言ってしまった日には、味方の士気が駄々下がり間違いな。ただでさえこちらは新しい人員を補充する手立てがない。
フローラ様が、キメラの翼は作れないかと言ってきたけど意見は棄却させてもらった。
本来であれば王族の要請棄却なんて平民がやったら打ち首にされても文句は言えないけど仕方がない。
パレスには怖ろしい空間使いの死神が鎮座ましましているんだから。
「キルバーンが戦場に出て来ていないのは、此方が増援を頼みにルーラの類をかけた時に上空で仕留める為だと推察します。」
上空で味方が死んでその死骸が落ちて来た日には間違いなく戦意が削がれる。
ただ殺されたのではない。あり得ない状況であっても殺される危険があるのであれば、何時その兇刃が自分達に斬りかかるかと心身ともに竦まされる。
手ぐすね引いて待っている死神の存在を知っているのにそんな愚は犯せない。
物凄く具体的に言ったら、フローラ様の顔から血の気が引いてしまったが仕方がない。実際に起こるよりも、想像内で怖がってもらった方が実害はないのだから。
・・・・大魔王の策の一つは潰せたかな?
「残念でしたねバーン様。せっかく僕が死神としての仕事を全うしようと張り切った途端にこれだ。
本当にあの子には困ったものだ。」
パレスの玉座の間で、大鎌を担いでティファが言ったような類の事を実際にやろうとしていたキルはがっかりとしながら大鎌を空間に戻した。
目論見が外れたならば仕方がない。戦場に空間開けて大鎌を振るう手もあるのだろうが、其れは少しばかりリスクが高すぎる。
空間から大鎌が出た殿をティファが見れば、そこから自分を辿って何を仕掛けてくるか分かったものではない。
繋がった空間からラック=バイ=ラックで自分を戦場に放り込んで壊しに来る公算が一番高い。
此処はまだ無理をする時ではない。
-そろそろ-こちらの策も動かす時のようだ。
「上手くやってねミスト。お嬢ちゃんも抵抗しないんだよ。」
処刑演目前に二人に言った言葉を、キルは再び水鏡に向けた呟く。
バーンもミストに念話を送る。
ミナカトールの柱の四本目が間もなくパレスに届く。
五本目が出される時が、ティファの収穫の時だ。
そして四本目の柱がパレスへと到達をした。
「やったわ!!ティファ!!!届いた!!」
「やりました!!父さん!ここ私もいるのでラーハルト!マァムさんの頭撫でてらっしゃい!」
「なん・・・・・・・・バラン様のおそばを!!」
「ラーハルトよ。」
「う・・・・はい・・」
「行ってきなさい。マァムが喜ぼう。」
「・・・・・すぐ戻ります!!」
ラーハルトは顔から火が出る思いをしながら、周囲己敵を八つ当たり気味に蹴散らし、通った後には死屍累々寸前の敵が転がりティファがそれをせっせと回収しながら若人二人を応援する。
仲良くやるんだよ二人共。
ラーハルトの行く先を見れば、兄ポップが最後の柱を迸らせている。
今地上軍の方は大分いい感じになっている。
三賢者の三人全員が頑張って支援系魔法で味方の力の底上げをしてくれている。
攻撃力を上げるよりもスクルト・スカラで防御力上げて、味方の負傷兵を助けに行く遊撃隊たちの子にもピオリムで速さを上げて危険度をぐっと低くしてくれている。
「マリン、魔力系の万能薬を飲むのは三度目だろう。それ以上は飲むなよ。」
「分かってるわよアポロ・・・・・もっと魔力量があれば・・」
「姉さん、やれる事をやりましょう。呪文の位階を落として支援も出来るし、ベほ君が回復した人達の手当ても立派な仕事よ。」
「そうだ、焦るな。俺達には俺たちなりのやりようがある。」
魔力・体力回復万能薬は、三本以上飲めば体の害になる。
三人はマトリフとノヴァから口を酸っぱくなるほど言われているので無茶はしない。
もっとマトリフ達並の魔力があればと嘆くマリンを、アポロが諭しエイミが宥めて前を向かせる。
ベほもヒュンケル達がパレスに突入するまでは救護部隊のお手伝いで、無論パレス突入の時にはヒュンケルの肩に乗って共に行く。
ヒュンケルは自分が見ていないと駄目な男だからだ!
もう少しすればパレスへの突入の道が開ける。きっとガルヴァス達は上の守備隊をしているのかもしれない。
自分達が行けばミストも必然上に来るだろうし、其れだけでも地上部隊は楽に・・
其れは一瞬、瞬きとも思えない程の毛筋ほどの事であったが、ティファの意識が戦いから逸れてしまったその瞬間、叫び声が聞こえた。
「避けろガキンチョ!!!!」
ズバァ!!!
声を聞いたかどうかのその刹那、ティファは無意識に飛び退りながら、ガルダンディーの警告の意味を知ろうと眼下を見れば、直ぐにミストが上空の自分を追ってきている!
なぜ!ロン・ベルクさんが相手をしていたはずなのに!!
結界を足場に逃げ回りながらロン・ベルクを探して見つけた先には、多数の敵がロン・ベルクを囲んで攻めていた。
因縁浅からぬ二人である事をティファはよく知っている。それだけにミストがロン・ベルクとの決着を放り捨てた事が信じられなかった。
おのれの主の顔に、二度も三度も泥を塗った男を見逃すなぞミストらしくない!
なんだ?一体何が狙いだ?分からない、私を倒そうとしても今のミストでは倒しきれる保証は無いのだが。
逃がさん!!
最後の一人がミナカトールの柱を迸らせた時、仇敵にも近い男との対峙を放り捨ててまで来たのだ。
「全軍!!バランとその配下及び殲滅の騎士団長とそこのどうでもいい魔族の剣士を足止めしろ!!
大魔導士マトリフ!その場動くか大魔法を放つかすれば!!お前の背にいる負傷兵全員が我が軍の餌食になると心得よ!!」
ティファを孤立させるための策は用意してある。マホカンタ系の配下を途切れさせずに投入してきたのはノヴァ対策。
魔法が使えなければ剣で戦う以外なく、乱戦時に派手な闘気技は味方をも傷つけてしまう為に、どうしても剣に闘気を流して強化する以外の術はなくなり、敵の一斉攻撃をいなしていくしかなくなりその場で足止めとなり、ロン・ベルク達も似たような状況に陥り、マトリフもミストの一言で足を縫い留められる。
あれは脅しなどではない!動けば負傷兵皆殺し等、相手は平然としてのける。
やらないのは単に戦力を裂いてまでする必要が無かったからだ!今までは!!
なにか分からないが途轍もなく嫌な予感がする!
「逃げろ嬢ちゃん!!!」
逃げてくれ!もうこの戦場の外に行ってくれ!!
ロン・ベルク達も戦いながら口々に叫びを上げる。
「戦場の外まで行けお嬢さん!!」
「逃げてティファ!!!!」
ティファも、回復薬を飲んでいるとはいえ疲労がかなり蓄積している。
息が上がり、避ける速度も格段に落ちてきている。
足が重い・・・逃げないと・・・・
蓄積された疲労がティファの内部を蝕み始めた時、不意に-内部-から何かが溢れかける。
暗黒闘気を飲み干した時の様な、-甘さを伴うような眠気-が自分を襲いながら。
くらりとし掛けた時、ミストの刃が自分に斬りかかるのを見つめる。
無理だ・・・・避けられない・・
せめて傷は浅くするべきだ。結界も今は強度が保てない・・・後方に飛んで・・・少し切られるけど仕方がない・・
ダン!!
今ある渾身の力で後方に飛んだが、矢張りミストの刃の切っ先が自分の胸元を斬り裂き、地上から悲鳴が聞こえる。
其れは誰の声か分からないが、心配しなくてもいいのにと苦笑しかける。
血が染み出ても・・・・・・・なにこれ・・・・え?なんで・・・なんで!!なんでなんでなんで!!どうして!!!!
「あ・・・・あ!!あぁぁあ!!嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!」
戦場において敵の前であればいつでも冷静足る料理人のティファが、その日初めて錯乱に近い狼狽をし、ミストが追撃して来ない事を疑問に思う余裕すらなく叫び上げ、その声に姿にそして味方全員かすればあり得ない事に、戦場に沈黙が落ちる。
先程までの怒声と悲鳴、戦の干戈を交えた音全てが絶え果て、ロロイの谷にティファの声だけが木霊する。
ティファは今起きている事象の全てを拒絶する様に叫び続ける。
嘘だ!!嘘だ嘘だ!!こんなの絶対にない!!!そんなはずが無い!!だって!私は!
信じたくない!目に映る事がそれがどれほど途轍もない事であろうと受け入れるべきだと、様々な事を飲み込んできたティファが全身で叫び上げている。
己の体から滲み出る血が白い服を染めていき、まるで普段着ている-水色の服-の色となるのを否定しようとして
今宵ここまで