勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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様々なフラグ、主人公の周りで立てたフラグを回収した結果です


策謀成れり

何で・・・どうして!!この力を-この子-が習得できるわけがないのに!!

このような事が・・・・何故?・・・どうして・・・

ティファを今すぐにでも天界に!!

出来ないでしょう!もう契約はなされてこの子は僕達の所に入れない!!

 

 

 

 

思い出した・・・・浮かれていたから断片的にしか聞いてなくて、いつしか忘れ果てていた三神様達のあの取り乱しようを・・

 

 

魔法が一切使えない

 

その事が悔しくて、契約が出来ない度に爺ちゃんは笑って大丈夫だと言っている影で溜め息を飲み込んでいた事が悲しくて、三神様達に泣きついたあの日、人神様が最後の手段だって言って、古代精霊と引き合わせてくれた。

これでだめなら他の事に目を向けろと言われながら。

 

契約前から天神様と竜神様は難色を示していた理由が今なら分かる。

私が契約出来た・・・・出来てしまった時にどうしてああも狼狽されたのかも。

 

そして、最終決戦一歩手前でミストかハドラーの黒の核晶を消す時にガン=フレアを使う前は何があってもハイ=エントを使うなと約束させられた理由も。

 

私が魔族の、其れも魔王じゃない、大魔王になれる魂持ちだったからだ

 

・・・・どうして・・・私が・・・・・父さんと母さんの子なのにどうして・・・

 

 

 

ミストの言葉はあまりにも重く、地上軍全員の魂の底まで心胆寒からしめた。

 

ミストの言葉で呆然として座り込んでいるあの少女が、魔界の神と同じく大魔王の魂を持っていると言われ、冷静になれる者など居る筈がない。

 

其れはティファを愛してやまない父親も兄達も仲間とても例外ではなく、ティファを信用しきれない者達にとってはこの世界の崩壊を聞かされたと同等の衝撃を受け言葉も出ない有様になったのは当然なのかもしれない。

 

 

「だからそれがなんだというのですか!!!!」

 

たった一人の者を除いて。

 

「ティファさんが大魔王の魂を持っているからそれがなんだというのですか!それがティファさんの優しさを損なわせる物なんですか⁉優しくて皆で笑い合うのが大好きなティファさんが変わってしまうナニカなんですか⁉」

 

剣戟もやみ、誰一人、其れこそティファの半身を自認しているノヴァとても、余りの事に衝撃を受けて言葉を発せられない中、チウはその小さき体の何処から発せられるのだというほどの大音声で、ミストの言葉を叩きつけていく!

 

「僕はティファさんが好きです!大好きです!!ティファさんが例え魔族でもそうでなくてももしかしたらもっと凄い何かであっても僕はティファさんが大好きです!!

強いからじゃない!頼りになるからじゃない!!笑っているティファさんが僕は大好きだ!!」

 

其れは愚直な程の単純な思いであるが故に、聞く者全ての心に不思議と染み渡る言葉であった。

 

大好き

 

ティファに助けられたという理由からではなく、マァムやヒュンケル・ラーハルトの様に母として慕うでもなく、ダイやノヴァの様に囚われた愛でもバラン達の様に救われたという負い目も何もない只々無心なる思いだけのチウには、ミストの言葉の策略は通じはしなかった。

 

その言葉に、ティファが俯いていた顔を上げチウを見る。

力強く、そしてどこまでも真っ直ぐに自分を見てくれるチウの顔に、ティファの心が浮き上がろうとした。

真っ直ぐな心に救われようとするかのように手を伸ばそうとも思った。

 

察したチウも、今すぐティファに降りて来て欲しいと言いかける。

 

だが不幸な事に、チウのように純粋に叫べるものが他におらず、チウの後に続けるものがいなかった。

 

あのマトリフとても・・・・常識という枠を壊して生きてきた積りであっても、マトリフも矢張り-人間-という枠組みを超えられてはいなかった。

 

人間にとって、魔王・大魔王は魂の奥底で怖れを抱いている。それは連綿と続いた太古からの恐怖が染み付き、-本能-が怖れさせてしまうという原始的で人柄によらずどうしようもない事であり、マトリフに一切責任があるわけではない。

そしてそれは他の者達も同様であった。

 

そして魔族たるザムザもロン・ベルクもなまじバーンを直接知るだけに、其の力を持っているティファに瞬間的に畏怖の念を抱いてしまい言葉が出なかった。

ティファの身の内から放出された暗黒闘気と、そしてその容姿からあふれ出る力の凄まじさを魔族であるが故に感じ取れてしまった。

ヴェルザーが封じられている今、魔界全土の支配者と言っても過言ではい神たるものと同じ気配をまざまざとその身で。

 

 

誰か一人でもチウの言葉に続く者があったれば、ミストの言葉を紡がせることは無かった。

 

「チウ・・・と言ったな。いつぞやティファとキルが貴様をバーン様の前で評価していたな。」

「・・・・・へ?」

「お前の心の器の大きさは三界一だと二人共に同じ様な事を言って。キルはティファ同様この大戦のどこかでお前を捕まえて共に自分の者にすると張り切っていたぞ。」

「・・・・・・あの人の考えも僕分かりません・・・」

 

そんな事を言われても困るとチウは本気で溜め息を吐く。

チウとしては、キルを変態と呼び真っ先に叩き壊すと気炎上げるポップ達にもついていけないが、キルのその辺も良く分からない・・・・あの人最終的に敵の僕達どうしたいんだろう?

 

「成る程、こんな状況下の中で私が話し掛けても動揺せんか・・・一つ問おう。」

「?」

 

前半のミストの一人心地は聞き取れなかったが、問いたいという言葉ははっきりと聞こえ達は目を丸くして、ティファではなくミストの方をきちんと見た。

 

・・・・本当にチウというのはティファと瓜二つだ。

 

兄であるはずのダイよりもだと、ミストは本気で思う。

敵の自分の言葉を警戒せずに何だろうと-良い子-で待ってどうするのだと、ティファに感じた老婆心が働くくらいに。

 

自分の言葉の毒に気が付かない所迄同じとは

 

 

「お前がティファを慕うのはそれは-モンスター-としての本能がそう成さしめているのではないか?」

「・・・・はい?・・・・あの・・・なさしめ?」

「・・・・・・済まない、言い直そう。お前のモンスターとしての本能がティファを此処迄慕っているのではないのかと聞いたのだ。」

「!!!そんな事!!!」

「無いと何故言い切れる!!」

「なん!!」

 

チウがティファを此処迄慕うのは、チウのモンスターとしての本能が、魔物の王たるティファの魂に魅かれているからではないかという事を言われたのだと理解したチウは、顔を真っ赤にして怒鳴り上げようとしたのをミストは情け容赦なく言葉で踏みにじっていく。

 

「周りを見るがいい!!」

「なにを!!」

「ティファを見る目がどの様な事になっているのか周りをよっく見てみるがいい!!

私の言葉の正しさを身をもって知れよう!!ティファ!お前も見るがいい!!!

味方だという者達を!敵だという者達の顔も全て見てみるがいい!!」

 

二人はとても良い子だった。言われた事を一度はするべきだと思う程の・・・可哀そうな程の良い子達が見たのは・・

 

「あ・・・・・あぁぁ・・」

「そんな・・・・そんなどうしてみんな!どうしてそんな目でティファさんを見るんですか!!!」

 

心の底から怯えてティファを見る味方の者達と、ティファを慕う目を向ける敵の顔であった。

味方である筈の者達の顔に、ティファは瞳をぐしゃぐしゃに歪め涙を流し、チウはどうして問狼狽える。

 

「これが現実だ。ティファ、お前が言っていた事は全てまやかしだ。この世界は-弱く・酷く-そして己達と違いすぎる者を受け入れるようには出来てはいない。」

「・・・・そんな事ない・・・」

 

味方の顔に打ちのめされても、それでもティファはミストの言葉を否定しようと必死に言葉を紡ごうと懸命に足掻こうとする。

 

幼い日、自分が世界を本当の意味で愛することが出来るようになれたあの素敵な呪文の反呪文の様な言葉を、認めるわけにはいかずに。

 

「そうか。」

 

その反論すらも、ミストにとっては想定内であった。

 

 

「-人間-に問おう!!」

 

ミストは最後の仕上げの言葉を発した。

 

「貴様等大魔王の魂を持っているティファが、この後も存在する事を赦しておけるのか?

敵と言いつつも魔界の為に涙を流して憂えるティファを!

もしも奇跡が起きこの地上にいる魔王軍全てが滅んだ世にて、魔界を本気で憂える大魔王がいる事を貴様達は赦せるか⁉」

 

答えは否だと知っている最後の毒がまき散らされた。

 

人間はこの楽園のような地上にて、其れなりの不自由以上の事がないのにそれ以上の繁栄を望み、領土問題に明け暮れ、経済を過剰に貪り、同族同士で争うと思えば一致団結をして金になるモンスター達を狩り尽くしその利権の為に争うという醜さを内包している。

 

そんな者達にとって、ティファは毒の様なものでしかない。

いつかその利を害悪だと断じ、声高に叫ばれれば人間にとっては堪らなかろう。

地上を救った勇者の妹というだけではなく、ティファは名を上げ過ぎた。

其れはティファの優しさから、己の罪を後悔した者達を救いたいと言いう善意からの発露であっても、一国であっても無視できない程の支持基盤が各国に増えすぎた。

 

地上が救われて暫くの間はその恩を王達は感じようが、周りはどうか?

特に戦場の恐ろしさを知らない文官・大臣達は?

十年経たずにティファへの恩など返し後嘯き、其の支持されている立場から躍起になって引きずりおろそうとするのは目に見えている。

 

だがそれはこの場にいる者達には関係がない。政治的問題で許せなくなると見ているのはカール女王フローラだけである。

 

だが他の者も赦せると断じきれるものがいなかった。

 

何時かティファが魔界の者達を助けたいと言い出し、そしてそれを実行しようとすれば、間違いなく人間社会がそれを赦すはずが無いからだ!!

 

 

 

ズガァァァァン!!!

 

 

たった一つのメラミが、全ての者達を代弁しているとでも言いたげにティファに打ち込まれた。

幸いティファの防衛本能が、暗黒闘気を放出して闘気の盾となったが、撃った者は其れを憎々し気に見る。

 

矢張りあれはいてはいけない者であった!!

 

 

「そんな-バケモノーはいらん!!」

「そうだ・・・勇者様の妹とは言え!そんなバケモノはいていい筈がない!!」

「フローラ様!!やはりあの者はバケモノです!!勇者様の片割れとはとても思えません!!

生かしておいては後の禍根となります!!」

「我等にあの-悪竜-を討つ命をお出しください!!」

 

頬を紅に染めたカールの若き騎士の軽率なる行動はすぐさまカール騎士達に伝播し、フローラにティファを討つ命を下す様に取り囲んで迫った。」

 

「何を愚かな事を!!」

「そんな事が許されると!!」

「黙れ悪逆の徒達!!お前達は確かに罪を償う道を許されているというが!!我等の故郷を滅ぼした大罪人ではないか!!」

 

ティファを擁護しようとするバラン達に、カール騎士団達は憎しみの声で怒鳴り上げた。

カール騎士達にとっては全てが我慢の限界であった。

 

バラン達を予め受け入れて欲しいという、料理のティファからの厚かましい願いからそれは始まっていた。

 

フローラが為政者として様々な理由でそれを飲み込めたとしても騎士は怒りを飲み込む事になった。

故郷を踏みにじる敵と戦い退ける試みも許されずに逃げるしかなかった屈辱、そして慕っているホルキンス団長の重傷が、彼等の心の憎悪をいやが王にも増させ、その思いが下火になる事も無い時に来た其の願いが許せず。

 

そしてサババ砦で助けたのは勇者だけではなく、長年カールの宿敵にして故郷の偉大なる英雄を殺した魔王ハドラーを助け受け入る事が拍車をかけた。

そして次々とティファのかかわった者達が人間以外を擁護し、迷惑を掛けられている自分達の前でティファをほめたたえる言葉を聞くたびに胸を掻きむしりたくなる思いを何度した事か!!

それでも、パプニカの三賢者筆頭のアポロ殿の説得もあったればこそ耐えてきた思いを!次々とあの化け物は踏み躙り!!あまつ大魔王の魂を宿しているなど許せるものか!!!!

此処であの悪竜を消す!!

間違った竜の騎士が生み出した悪竜を今ここで始末する!!

たとへここが戦場であろうと、地上の行く末が決まる大決戦であるのならばなおのこと地上の禍根は断つべし!

勇者達もきちんと話せば目を覚まして、共にまた大魔王バーンを討てばいいだけの事!!

 

「聞けバケモノ!!お前はファブニールの竜を討った男を勇者と認めないと言ったな!!!」

「あ・・・あ・・・」

 

生まれて初めて向けられる憎悪と悪意の目に、ティファは完全に怯えてしまい言葉も出ない。

ティファを本当の意味で知る者達が口をそろえて言う言葉がいくつかある。

その一つに、ティファは本物の悪意に晒された事がない。

 

其れは敵意ではなく殺気でもなく、憎悪や嫉妬、妬み恨みつらみの負の感情をティファは知らず育ってきた。

 

今日この時まで。

 

満足に言葉を発しないのを自分達を侮った取ったメラミを放った者は、一層憎しみの目をティファに向け勝手に話し出す。

 

「貴様が言ったファブニールの竜を討ちしお方は!我等が仕えしカール王の祖なるぞ!!」

「・・・・カール・・・・」

「そうだ!!ファブニールの竜の逸話は有名であっても、其の古の地が今は何処かというのはカールが今の国名となる前から秘っされて来た!祖となりしお方が、おん自らの力を誇示する事を望まぬという!目立ちたがり屋の貴様などには到底理解できない高潔なお心の下に秘っされてきたのだ!!

そして時代が下り!ファブニールの地が併呑・統合されてもなお祖の血脈は絶えず、数百年前に簒奪された王権を取り戻されカール王国を作られた!!

分かるかバケモノ!!貴様は我等がフローラ女王陛下の好意を端から踏みにじってきたのだ!!

その罪だけでも万死に値すると知れ!!!」

 

 

ミストの策は、処刑演目の時から始まっていた。

ティファの性質をただ褒めるだけをしたのではない。カール騎士達とフローラ女王の心をティファから引き剥がす為の一手。

己らの故郷を破壊した者を赦してほしいと懇願しておき、その口で尊敬し忠誠を誓いし主の祖を貶められ激昂しない騎士がいれば見ものである。

 

策は成れり

 

カール騎士達の言葉に、全てが飲み込まれた。憎悪と嫌悪の渦に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてティファの運命はここまで酷いのだろうと、眼下の光景をただ見せる蹴られるだけの三神は崩れる様に泣き伏す。

ハイ=エントを隠すと決めた時、其れでティファを守れたと思ったのに・・

 

三神がハイ=エントの使用許可を最初の決戦時に指定したのは、その十日後に最終決戦で敵・味方双方そちらにかかりきりになり、誰もティファの能力調べを悠長にしようとはしないだろうと踏んでいた。

 

そもそもが調べるにしてもミストの言う通り、死滅した古代の魔族語の古文書も、途切れ途切れにしかなく、ハイ=エントの技を記した者は現存していないから調べようがない、筈であった。

そして、ティファが大魔王の魂を持っている事を知る者はなく、天界にて魂を再封印すればティファに重荷を負わす人生ではなく、力をなくした女の子としての身とを歩ませられる筈であった!

バーン自身がハイティーンであったのが最大の誤算。

その事を知っていれば、確実にティファから力を取り上げ記憶も封印していたものを!!

 

この世界には、様々な神がいる。

自分達のように直接的にこの世界に関わる為の神と、一生自分達も会う事の無い運命と魂の輪廻を司る神もいる。

 

肉体と魂を与える神は、この世界に異物の様なティファに殊更に辛い道を用意した。

この世界は本来であれば二界は滅び、魔界だけが残るはずの道を、現世を憂う三神達がその道を違えようとしている。

 

ならばその道を行くのであれば、正道を歪めるのであれば代価が必要だ。

其れは三神達が払っては多すぎ、しかし只者がせる筈も無く、必然的に代価を取り立てる相手はたった一人となった。

 

この世界を好き勝手に生きていくとのたまった何も知らぬ無知なるものから。

 

 

三神達は、ただ三界を救いたいと願い、ティファもまた同じことを願った。

純粋なる善意から。

 

代価を知らぬうちにティファが支払わされたことを知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無知は罪だと誰かが言う

 

それが誰が言ったかよりも、混沌が蔓延った事が問題であった




今宵ここまで

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