勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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ただいまという言葉は良いものです

好きだから守りたいと思った

愛しているから守りたいと思った

愛おしいから守りたいと思った

 

たったそれだけで今日まで来た・・・・・ただそれだけの事が罪だったのだろうか・・

 

 

未知なるものが自分達の許容範囲を超えた時、大概は種族問わずに迫害への道を転がり出す。

 

今まではティファが何を言ってもやっても、其れは-ティファだから-と済まされて来た。

前段階的にティファの優しさと穏やかさに魅かれ、ときに救われて来た者達で周りが固められていたティファを守る楽園の中での出来事であったから。

 

あるものはその慈悲深さから何かをしても救う為だと割り切り

あるものは子供特有の優しさの発露と笑い

あるものは苦悩の果てにそれでも助けたいのだという高潔なる志にうたれ

 

楽園の中の者達の誰もがティファを止めようとはしなかった。

それが世間で通るはずのない毒にも等しい理想論であれ、常識を無視する事であれティファの成してきた実績を前にしてはそれらを忘却の彼方へと押しやらえていたが故に、誰もティファを諭そう、言い聞かせようとした者がいなかった。

 

一人だけいた。ティファの考えは世間からそして常識内から逸脱しすぎている。

その考えが捨てられないのであればせめてそれらを外に出すなと言い聞かせようとした者が。

 

陰日向なくダイ達を支えて来たロン・ベルクその人は、ティファに触れても珍しくもティファの考えに驚愕して思考を止めてしまい、その間にティファの素晴らしさに魅せられ遂には賛同しないまでもそういうものかと見ている者になる事なく、幾度か説教しようとさえした。

 

しかしそれはタイミングがかみ合わず、ある時は敵の襲来などで結局言い出せないままティファを一人の女性として愛してしまい、仕方がない、無茶したら自分がフォローしてやればいいと受け身に回ってしまい、-楽園-は崩れる事無く来てしまい、そのツケが全て今日この時に噴出をしたのは、そこをつく為の敵の策略である前に、あらゆる意味でティファの自業自得であった。

 

幾度となく放たれて来た理想の言葉は、時に人を温め、そして燻ぶる憎悪を燃やす燃料になっていたのだから。

 

ティファは自分を殺そうとした者も笑って許せる。

だが他者から見れば、-普通-の者達からすればそれからして異常者と見えよう事を思わずに許してきた。

そして-どうにもならない理由-があれば赦される機会が一度はあってもいい筈だという言葉が、-普通-の者達からすればどれ程現実を見ないふざけた言葉だと取られるのかを。

 

 

憎しみ、悪意、嫌悪の目に、ティファは息をするのすらが苦しくなる。

 

自分は・・・・カールの人達を不快にしたかったわけではない・・・それでも、自分が言った言葉に傷つけられた人達が目の前にいる。

 

その目の前の人達は私を殺そうとしている・・・・

 

助けたいこの世界の人に要らないと言われた・・・・不要だと、悪竜だと、バケモノだと・・・・ああそうだ、私はそのような者だった・・

 

 

・・・はは・・・・・ははは・・・あぁそうだ・・・・忘れていた・・・・

私は悪い子だった・・・・私は嘘吐きだった・・・・・私は罪人だった・・・

バーン大戦も鬼岩城襲来もピラァの襲撃も全部全部知っていても口を噤んでいた罪人だった・・・・・何を勘違いしてたんだろう

優しい人達の中に入れて貰えたから完全に-勘違い-してた・・・あぁ・・私は-怖い-ものだ・・・今までもずっと、優しい人達も言いたい事があっただろう・・

許せない事が沢山あっただろうに・・・

 

周囲の-目-が、ティファに思い出させる。

自分は何処まで行っても-異質なる者-であった事を・・・・・困ったな・・・このままじゃあダイ兄達があの人達と諍いを起こしてしまう。

優しい人達だからこんなバケモノでも庇おうとしてくれて・・・・其れは困るんだ・・・

 

雪白・・・・付き合って・・・・・

 

自分を取り巻く悪意を、それにより引き起こされる最悪のシナリオの全てを思考したティファは、雪白のリングをそっと包み込む。

其れは瞬きの間に思考され、カール騎士達の暴走にダイ達すらも心が追いつけずに止まってしまった間に行われたティファの思考。

 

私がいなくならば大丈夫だ

 

兄達も、大魔王の魂を持った者がいてはのちの迷惑になろう

世間も、きっと恐怖から私を庇う人達にまで迫害の手を伸ばそう

そして世界に諍いを撒いてしまおう

 

-そうなる前-に-元凶-がいなくなればいい

 

瞬時に己の答えを弾き出したティファの後ろに、空間が音もなく小さく開く。

 

ティファが行う-その時-を待ちわびて

 

「アクセス・・・・・」

 

 

不思議と心が凪ぎ-その時-を実行しようとしたティファに、漸くティファが何をしようかと誰もが気が付いた。

雪白を取り出し、その刃を己に突きつけたその時に!

 

「やめてティ・・・・」

 

 

 

      「おやめなさいティファさん!!!!!!!」

 

 

ダイが叫び、ミナカトールの柱を支える事を放棄しようとしたレオナ達の言葉よりも尚響き渡る声と共に、-五本の白い羽-が過たずティファが据わっているけっかいを円状に刺さり、五芒星の陣の展開と共に光がティファを包み込み、側に居たミストと-空間を開けて待機していた者-を瞬時に弾き飛ばす。

 

其れは本当に瞬く間の出来事であった。

さしものレオナも、此処に至ってはティファを助ける事を優先しようとした。

今までティファがどれほどの事をこの世界にしてくれていたかを知らぬ者達が、ティファを倒そうなど言う言葉を赦せずに。

 

勇者一行の仲間であり、将来の妹をむざと敵の策謀に死なせたくないと。

その願いが天に届きでもしたのだろうか・・・・

 

あの声を自分達は知っている!

一体自分達の目の前で起きている事は現実なのだろうか?

 

光りの渦が収まった先に見えたものに、ダイ達は息を吞む。

何かを言えば、其れは自分達の願望の幻が消えはて雪白をその身に貫いて果てたティファの骸を見る事になるかもしれない恐怖に縛り付けられ。

 

憎悪に塗れんとしたカール騎士達もまた時が止まった錯覚を覚える。

 

あの偉大なる英雄は死んだはずだ!!あれも敵の・・・・

 

そう思うには、目にしている人物の雰囲気があまりにも優しすぎた。

 

ティファが太陽と評されるのであれば、その者は木漏れ日の様に穏やかで、惨状が始まらんとしたこの中に会っても微笑みを絶やさず-バケモノの本性-を露にしたティファを平然と抱き上げている。

 

今まで戦場の殺伐とした空気を、ティファ特有の雰囲気で霧散視させていたものとは違う意味で戦場の空気を一変させる男。

 

 

「・・・・・あ・・・アバン・・・・」

 

体も心も震えさせながら絞り出すフローラの言葉がさざ波の様に、カール騎士達に、彼の英雄を知る者達の間に細波のように広がり、口に出して名を呼んだ者達の中から負の感情をも外に吐き出させていく。

 

先の大戦で世界を救った男の名は、料理人ティファをも凌駕する。

 

「いけませんね~大魔王の参謀さんとやら。可愛い女の子を策謀で雁字搦めにするとは無粋というものですよ。」

 

この状況下においてもティファ以上に飄々とした言葉を、破邪の五芒星の力に吹き飛ばされたミストに向かって言い放つ。

 

その柔らかく頼りないと映りがちな態度とは裏腹に、圧倒的なカリスマ性を誇り、大戦から十五年経っても衰える事の無い人望を持ち、大魔王ですらが強さの根幹が自分達と違い過ぎる事に警戒をし、ハドラーに抹殺を命じた-伊達眼鏡-を掛けていないアバンと呼ばれた男は、柔らかい微笑みを-伊達眼鏡-を掛け続けてくれているティファに口を開く。

 

ずっとティファに言いたかった言葉を、満を持して解き放つ。

 

 

「随分とお待たせてしまい申し訳ありませんティファさん。ただいま戻りました。」

 

 

漸くティファとの約束を果たす為に、アバン=デ=ジュニアール3世の帰還であった。

 

じたばたと足掻き、この世界を救うあの約束を守る為に




今宵ここまで


没ネタですが、この御人の登場シーンは、シルバーフェザーを落とした上空にいた-ビースト君-に一同が驚く中で飄々とした言葉を言いながらでモシャスを解いて敵・味方双方を更に驚かし煙にまく・・・・前後と全くそぐわず、ここまで重たい雰囲気での登場となりました。
(タグのコメディーの意味とは・・・)

主人公は元来の優しさ以上に、常々アバン先生を演じようとしてきましたが、元から違う為にいつも最後にぼろを出してきました。

アバン先生も確かに敵を赦さないところがありますが、(原作キルバーンへの対応参照に、矢張り完成された大人の全てを力と知識以外のほとんどが未熟な主人公は(自分がいなくなれば解決すると考えていた時点でアウト)形以上の真似が出来ず、最終決戦で味方の不和を引き起こしました。

次回は原作チートキャラと呼ばれた先生の本領発揮です。

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