ペタペタと顔を触ってみれば確かなる感触がある
銀を混ぜたような不思議な青い髪を横算段にする人は一人しかいない
呆けている自分を呆れもせずに優しい瞳で小さい子を見守るような温かい目も確かにこの人で・・・・
不思議な静寂が戦場を覆いつくす。
パレスの玉座の間にてアバン出現を見ていたバーンとキルは、死んだ男がこのタイミングで出てきた事に度肝を抜かれ、現場にいるミストは、ティファと違い一切の隙を見せないアバンを攻めあぐね全軍に待機命令を出し、地上軍は目の前にいるのが本当のアバンかどうかの真偽が付かずに見定めんと沈黙をする。
不思議な静寂を破るのは、何時でもティファである
「私にただいまという貴方は、どなたですか?」
ティファとても半信半疑でいた。原作ではカールのお守りが機能して身代わり効果を発揮していたが、この世界でもそうなるという保証は何処にもなく、優しい雰囲気なればキルにも同じようなものが出せようし、なればこそモシャスを疑っている。
そのティファの慎重さにアバンは嬉しく思う。
場の雰囲気に流されず、見た者だけを信用しすぎず、これをして自分が託した者達を守り通してきてくたのだと。
「私は勇者の家庭教師・アバン=デ=ジニュアール3世です。」
「なれば本物のアバン先生である事を、この2つの質問をもって真偽を明らかにされる事を是とされますか?」
「構いません。この場全ての者達が納得するのであれば如何様な事でも。」
あぁぁ!!なんて物凄い落ち着き感!アバン先生だ!本物の先生だ!!・・・けれど・・
質問前からティファは目の前の人物が本物であることを野生の勘で分かったが、ちらりとミナカトールの柱制作中の兄達を見れば、ダイ・ポップ・マァム・ヒュンケル・レオナの全員が本物であるのかどうか分からず判断に苦しんでいる。
そしてマトリフとても。
長年友誼を結んだ、相方にも等しい勇者の帰還を、魔法使いたる彼が真っ先に駆けつけて喜びたいであろうが、迂闊な事はできないという信念を持った大魔道士としての性が身を縛っている。
兄達を早く安心させてあげたい、そして喜ばせて上げたい。
偉大なる師が、先代勇者の帰還が本当の事であると。
「一つ!!」
ティファが一体何を問うのか、戦場でアバンを知る全員が固唾を飲んで見守る。
一体何を聞く積りか。
質問するティファの喉はカラカラになる。
味方の不興を一心集めた自分が、偉大なる先代勇者に質問を投げかける事自体が、烏滸がましい事この上ないという自覚をして。
それでも!聞かないといけない!!
「先のハドラー大戦の時、カール王国では魔王に対抗できる術がないと右往左往した時、アバン先生は何と言って励まされましたか?」
これは原作知識もさることながら、フローラと顔合わせをして矢張り眼鏡の事からアバンの話になり、先の大戦時のアバンの勇猛な活躍と、そしてその時の話を実際に聞いたので出してみる。
これはカール騎士とフローラを安心させる為の質問。
そしてもう一つは今この場では自分と兄二人しか知らない質問
「ハドラーに最後の力を振り絞って立ち向かう寸前、私は貴方になんと言ったのか?」
こう来ましたか。
「一つ目の方からお答えしましょう。」
朗々たる声がロロイの谷を渡る。
「皆さんじたばたしましょう、です。」
これはハドラー大戦の最中に当時のカール国王が病に手倒れてしまい、兵力も圧倒的な差がある中で、自分達にはハドラーに対して打つ手が何も無いとあのロカですらが呻く様に言ってきた時、出来る事はあると言ったのだ。
じたばたと足掻き、少しずつでも前に進めばいつかは光明が見えると信じて。
その言葉に勇気を得たカール兵達は国王の代わりに前に出て立ち向かうフローラの下で一つに纏まり、後の世に多大なる影響を与えた言葉。
それをして巨大なる大魔王を前にしても世界が抗おうとしているのだから。
そしてもう一つは
「ティファさん、貴女が今かけている伊達眼鏡を託した後、私は一つ貴女に我が儘を言いましたね。」
「・・・・・」
デルムリン島でアバン先生に本当の実力を知られるわけにはいかないと、当たり障りのない会話で過ごし、なるたけ近寄らなかった事をアバンは寂しく思い、命を懸ける前に一度思い切り名を呼んで欲しかったのを・・・
「叶えてくれた貴女はこう言ってくれました。頑張れアバン先生と。力強く思い切り。」
「!!・・・・・ふぅ・・・・・・く・・・・」
「長い事貴女に大切なもの全てを守り切ってもらった上に、想像以上の重荷も背負わせてしまい申し訳ありません。」
「ふぅぅぅ・・・ふっく・・・」
「ただいま戻りましたティファさん。」
「・・・おか・・・おか・・え・・り・・なさい・・・お帰りなさいアバン先生!!!」
うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!
本物だ!本物のアバン先生だ!!!生きててくれた・・・来てくれた!!先生が!!
帰って来てくれたのだと、ティファは恥も外部もなくアバンに縋り付く。
ずっと不安だらけ心の全てを、大好きなおじさんにも漏らすことの出来なかった全てを吐き尽くすかの如く。
「姫さん!このミナカトールってのは魔法陣が完成したら陣を固定できんのか⁉」
「え・・・・出来る・・・」
「そうか・・・・俺の一切合切くれてやらぁ!!!!だからしゃんと伸びやがれ!ミナカトールの柱!!!」
ズバァ!!!
ポップの叫びが柱に乗り移ったが如く、膨大な気力を受けた柱は勢いのまま上昇しパレスに届くや否や、レオナも叫び上げた。
「ミナカトール!!!!」
全ての柱で描かれた五芒星の陣が繋がり、金色の陣を描くや否や全員が一斉に手を放す。
アバン先生の真偽のほどは先程の2つの質問によりてなされた。カール騎士達の間で伝説になった名言が、ティファが送ったエールがその答えだと、味方は現れたアバンとティファを守る為に、魔王軍は現れた新たなる脅威を排する為に。
双方の動きに気が付いていたアバンだが、何かを待つように上空から動かない。
腕の中で自分にむしゃぶりつく様に泣いているティファの頭を撫でながら待ち、意外にも早くそれは訪れた。
「先生!!後ろに!!!!」
トベルーラで二人を迎えに行こうとしたダイとポップを飛行モンスター達が立ち塞がり、応戦する二人の邪魔を排そうとするヒュンケル達にもそれは確りと見えた。
黒い空間が開き、大鎌がアバンの首の身を堕とさんと横一閃に振るわれる光景を。
誰もがアバンの首が落ちると悲鳴を上げるその中で、異常なる事が起きた。
首にまで迫った大鎌が、寸前で止まったのだ。
全員がティファを見た。アバンではなく、またもやティファが何かの力でアバンを守ったのかと。
しかし当の本人は大鎌と殺気の気配で寸前まで本当に気が付かず、敵の接近を赦してしまった事に驚愕し恥じて泣き止んだが何事だと目を丸くしているが、アバンは冷やいだ瞳を大鎌に向ける。
気づいていた、自分だけに向けられた憎悪に塗れた殺気に。
「どなたかは見当がついていますよ。空間から出て来てはどうですか、死神さんとやら。」
よくよく見てみれば、何時アバンが動いて刺したのか、大鎌の柄と鎌の間にティファを守った五芒星の陣に使用されたのと同じ、白く輝く羽が突き刺さっている。
シルバーフェザーに込められた破邪の力はすさまじく、道具からでも使用者が邪に連なるものであれば直接的に動きを止める事も可能にしてしまう。
キルも動けないからくりに気が付き大鎌を放し、それと同時にアバンも地上のヒュンケル達の下に素早く降り立つが、ティファを抱き上げたまま、出て来た死神と対峙する。
「初めましてですね先代様。」
「えぇ、お初にお目にかかります。貴方が大魔王の死神と名高き死神キルバーンですね。」
キルはアバンの力を警戒し、ミストの隣に姿を現す。
死んだと思った者が何故生きているのかなど、どうでもいい。今目の前にいるのが確かな事実なのだから。
問題は、生きていたのであれば何故ダイ達の前に姿を見せなかったのか?
未熟なダイとポップを如何に強者であっても、子供のティファの三人で戦乱の世界に送った後何をしていたのか?
今のアバンは監視していた時が小粒に思えるほどの強さを、内に秘めているのが気配で分かる。
其れはダイ達の様な物理的な強さや、ポップやティファの様に強かな強さ以上の何かを感じる。
この手の者が、力を蓄え確固たる信念の元で動いてくれば厄介な事この上ない。
だが、警戒をして怖れる以上の感情がキルの身の内を支配し、初対面のアバンに憎悪を燃やす。
今ティファはアバンの腕に抱かれ、どこか安心した気配を醸し出している。
マトリフに縋る時のあの安心感を。
本当であれば!!雪白でその身を刺し貫き、倒れゆくティファを絶望するダイ達に見せつけながら自分の腕(かいな)に取り込むはずでった!
それにより勇者達は完全に絶望に墜ち、その瞬間に全ての決着がつき、有象無象を殺し尽くしながらチウとメルルも手に入れ、黄昏時を待てばいいだけだったものを!目の前に佇む一人の男のせいで全ての目論見が外されたのだ!ティファを確実に手に入れる千載一遇の機会諸共に!!
「ねぇお嬢ちゃん。」
憎悪に塗れ、しんとした冷たい声でキルはティファに問う。
まだ引っ繰り返せる手がない訳ではない。
外野が騒ぐその前に。
「先代様が帰ってきても、カール騎士達と女王陛下が君の存在を許したわけじゃぁないんだよ。
このままだと君は確実に大勢の-人間-の敵になる。
今ならまだ間に合うからこっちにおいでよ?」
優美に優雅に、差し出すキルの手に、果たして絶望に落とされかけたティファが何と言って答えるのか。
各王国の兵士やその家族たちに感謝されたからとて、ティファの考えを知れば手の平を返す事は十分あり得るのを、この場ではダイとチウ以外の誰もが思い至り青褪める。
アバンはその質問を止める事無く、ティファの答えを待つ。
果たしてティファが、何と答えるか。それによって自分のやるべき事もおのずと変わるのだが、ティファの答えはいつでも単純であった。
「私が-皆-を好きだからいいの。」
「・・・・いい?」
「皆が私を嫌いになってもいいの。私が皆を好きだから、守りたいから、だから勝手に守ってるだけだからいいの。・・・・どうしてもいちゃいけないなら、この地上を去るよ。
皆んなが幸せなら、私はそれで嬉しい。」
静かに紡がれる少女のその言葉に、衝撃を受けない者はいなかった。
ティファは何処までも単純でそして純粋であった。
見返りなど端から求めておらず、嫌われていても自分が好きだから守るのだという、だから敵と言われても構わないのだという思いを持つ者が、一体どれほどの数いるというのだから?
愛しているのだから愛し返して欲しいという、原始的な本能さえ排したその思いの、何と美しく異端である事か!!
そしてだからこそキル達にとっては地上の全てが許せず憎くなる!!
「君を殺そうとした者達まで愛しているだなんて!!本当に君は!!君って子は何処まで愚かでお人好しが過ぎるんだ!!!」
ティファが守ろうとする者達にその値打ちがあろうはずがない!!その異端なる愛に相応しい者か!!!
「いいよ、その戯言打ち砕いて君を手に入れれば其れでいい。パレスに-帰って-おいで。
先代様、邪魔をした貴方も念入りに僕自らの手で殺し尽くしましょう。二度と黄泉路から這い出られない程に!!!」
全ての目論見を台無しにしたアバンを狩る宣言をし、ダイのストラッシュが届く前に地面からパレスへと帰還した。
パレスの罠の数を増やすべく。
今宵ここまで・・・・
アバン先生の真偽のほどの質問は、カールサイドもダイ君達も納得するものは何かを筆者はうんうん唸りながら考えましてあの二つとなりました。
そして死神の怒りを買った先生は原作通り
次回快刀乱麻の先生をどうぞお楽しみに。