-私-は一体何という悍ましい事に手を貸してしまったのだろうか・・・後悔してももう遅い・・・・彼の純真なる竜を、無知蒙昧なる私の薄汚い策謀で殺してしまったのだから。
知らなかった
彼の竜がどれほどあの-悪女-を愛していたのかを
知ろうともしなかった
悪女のもとに行く前に、彼の竜から何か贈られていなかったのか、悪女の侍女にでも聞けば・・・
-手紙-を読めば、彼の竜と話し合い、其の恋が決して実らない事を、笑顔を見られることなど無い事を話し、純真なる竜を殺さずに済んだものを・・・
あの悪女は彼の竜からどれ程の物を貪ったのかを、部屋から出したその瞬間から嬉々として私に話してきた。
眩暈がした。
害されているなどとは程遠く、なまじな貴族の子女よりも丁寧に扱われ、そしてそれがために彼の竜は私は計略にまんまと嵌ってしまった。
知らなかったから、姫を攫い、兵達を傷つけた竜は悪しき竜だとしか考えなかった。そして力の無い私でも姫様をお救いし、国王と民たちの憂いを晴らすのだと、自己満足を果たす為に酷い事を平然とした。
彼の竜が-人間-の若者の様に、ただ恋をしたなどと思いもしなかった・・・知ろうともしなかった。
-無知-とはかくも罪なる事か
悪女は彼の竜から財宝の在りかも聞いたと王に告げ、宝はそのまま彼等の懐に。
以て私は悪女の夫にさせられた。
世間的に-竜を倒した英雄-を手放さず、その名誉をもって小国であった我が国をのし上がらせる為に、-初代竜殺し-の私に兵を率いさせ、怯んだ同じような小国を次々と併呑して行く様に、私は何度死にたかった事か・・・私は唯、国の父たる国王が嘆き悲しんでいると聞いたので-何とかしたい-と思っただけであるのに・・人殺しの罪人へと落ちていきながらも、子が出来彼等彼女らを守る為にも生きなければならないこの身が呪わしい・・・結婚をする時の条件に、私は一つ王と悪女に破れぬ約束をさせた。
誰かが破れば自身が死ぬ呪いの約束を
初代竜殺しは流れ者、勇者になった後は何処ともなく消えたと偽りを話し、王城内の貴族・騎士達以外には自分の事を知らせない事を。
謙虚で奥ゆかしいと悪女がしなだれかかってきた時には斬りたくなる・・・竜よ、この血まみれの悪女の何処に惚れたか、狂うてしまったか・・・
悪女と王達は知ってしまった
竜とモンスター達の死骸が珍しき素材になる事を。
国を大きくする傍らで、次々と罪なきモンスター達を狩りつくし、殲滅させれば他の国を飲み込みまた同じ事をする・・・・これもまた私の罪か・・・
私はこの悔恨を書に記し、いつか子孫たちに伝えて欲しい。
初代竜殺しの英雄は唯の罪人であったと・・・・・
おいで-アバン-
どうなされましたか父上?母上と兄君・姉上たちがお待ちですよ
よい、待たせておきなさい
はい・・・
アバン、お前は今年で十五になり分家を作るのは知っているね
はい!父上の様に立派な騎士王に・・
ならん!!!
ひ!!
アバン、父は罪人だ、同じように罪人になるな、お前は、お前達は剣を取って戦うな
・・・・父上?
上の子供達は悪女の教育でもう腐ってしまっている。皇太子も他の三人の王子・姫も利を貪る事しか頭にない。
だが-五番目-のこの子を産んだ時-スペア-はもういらないと悪女が放り出し、私の手元で育てられることが出来た。
世間的には贅沢であっても、それ以上貪る事は罪だと教え込み、知らぬ者達とは分かりあえると思うまで礼節を以て話をするように仕向け、何よりも慈しみの心を育てる事に傾注したのだが果たして・・・・
アバン、お前の家名は-ジュリアル-とし、長子には必ずアバンと名付けなさい
・・・・其れは我が国の言葉で-継いでいく者-という意味を長子に付けろと?
そうだ、父の罪を記した書をお前に与える、父の罪を知りこの国の罪を知りお前が許せないと思えば国を立ち去ってもいい、それ程の罪を私は犯したのだから・・・
父上・・・分かりました、この書物お借りします
そして-私-は父達の罪を知る
こんな事をこれ以上続けていれば、長くとも数百年は持つまい。
-憐れな竜-を討ったが為に、この国は貪る国になってしまった・・・父上、貴方の罪を、我が一族に継承させましょう。
そして彼の憐れなる竜の手柄話を盾にして他者を脅かすものあれば我等ジュリアル家が断罪しましょう。
其れはそもそもが罪からなる忌まわしき事なのだと・・・・貴方の名声はその時地に墜ちましょう。
されど父上、貴方にとっては仮初の名誉の為に無辜なる者を脅かされる方が許せますまい。
来なさい-アバン-
父上これは?
私が十五の時に私の父から預かりし書だ。そこには-罪-が書かれている。
罪ですか?
そうだ、私は父からこの書の罪を知りこの国を嫌ったならば出て言っても構わないと言われた
あのお優しいおじいさまがそのような事を!!
そうだ、しかし私はあえて別の事を言おう、この罪を我ら一族の長子が受け継いでいくべきものだと、もしもお前がこの国を出る事を望んだ時がお前の死ぬ時と心得よ
・・・そして弟が-アバン-に?
聡い子だ、其の賢さならば父の言葉と私の言葉の意味を知ろう、地獄を覗かせるが共に歩んでやることは出来る、出来れば耐えてくれ・・・・・
連綿と続く-アバン-達の遣り取りのはてに、五百年の後に悪女と初代勇者が拡張した国は一度滅んだ
小国の連合王国と、何故かモンスター達が彼等を助けるような動きを見せ、精霊達からも見放され、-地上-の一切から見放され、滅ぼされた後は忌み嫌われるように広大な土地が捨て置かれた。
全てが風化するのに長い時のはてに、彼等の末裔が再び荒れはてた土地を開墾し、悪女の血統ではなく初代勇者の血を色濃く残した起こしたカール王国は、代々騎士王を輩出しながらも周囲の国と摩擦を起こす事の無い穏やかな国として今に至る。
初代勇者は罪を消させないために敢えて表立って言う事は無くそのまま逝去した為、罪は受け継がれずに偽りの英雄譚だけが受け継がれる中、亡国の憂き目にあった時、王家と共に必要な物数点と-原罪の書-を持って国を堕ち、王家に従いながらひっそりと原罪を継承する。
何時か偽りの英雄譚で無辜の者を苦しめるものあれば断罪に処する事を誓って。
たとえそれが我らが仕える王家の者であれ誰であれ、億光の年月が経ちれども、我等-アバン-がいる限り、偽りの英雄譚を振りかざす者は赦さない。
原罪に苦しんだ初代勇者、我らが偉大なる高貴なる先祖の為に。
知らない事が、無知であることが罪であると知って苦しんだあのお方の為にも
初代勇者の国が滅び、幾年月のはてに誕生したカール王国内ではジュリアル家は学者としての功績を認められ-三代前-にジニュアール家へと名を変えた。
初代様から受け継いだ名ではあるが-アバン-が残ればそれでいい・・・・争わず子孫を確実に残せるように、そして無知でいない為に我が家は代々学者として生きて来たのですが、私が勇者になったのも何かの因縁を感じる。
現にこうして-竜の娘-を守る為に、初代勇者の偽りの英雄譚を振りかざす者を止めることが出来るのだから。
「・・・・嘘だ!!我等は正しい・・・・」
「疑うのであればこの戦いに勝った後、我が家に来なさい。その書物には初代勇者が-二度-しか使わなかった判が押されています。」
「・・・・・そんな・・・・」
初代勇者の悔恨から始まる連綿と受け継がれた罪の書を保管し守り通してきたジニュアール家の言葉には、疑う事すら許さない重みが込められる。
フローラ達現王家も知らず、されど初代勇者の判は今でも国宝級の者として封印魔法で保護をし遺されている。
其れは現在の書も同じであり、判を見ればすぐに明らかになる。
「フローラ様達王族にとっては不快なる一族ではあるでしょうが、-我等アバン-が受け継いできた初代勇者様との約束を今果たしましょう。
セイン、初代勇者は-無知-を憎んだのです。分からないから知らなくてもいい、殺しても良いという短慮に奔った事を嘆き悲しんだのです。
人間すべてが善でない事にもお嘆きになり、其れでもご自分が得た教訓で諍いの芽を摘む事を選ばれたお方。
功を述べるならばそちらだと私は思うのです。己の恥を残してでも子々孫々が正しい道を歩ける指標となる事を選ばれた事こそが。」
真実を知り、打ちのめされた。
セインも周りも愚かでは決してない。
きっと、-アバン-の話は真実だ。
ジニュアール家になる前からかの一族の長子は必ず-アバン-を名乗り、不幸にも幼くしてなくなればそれまで別名であった弟をアバンとしてきたのをカール王家に仕える者は誰でも知っている。
彼等は継いできたのだ・・・・・全ての罪を、誰であれ偽りの英雄譚を振り回した愚か者を断罪に処する覚悟を・・
フローラすら青褪める中、すすり泣く声が幽かに聞こえはじめる。
ファブニールの竜の後の壮大で悲劇的な話に黙り込んでしまったダイ達も辺りを見回せば・・・
「めんなさ・・・・ごめんなさい・・・何も知りもしないのに・・・・酷い事言って・・・ごめんなさい・・・」
「・・・・ティファさん・・・・」
泣いていたのは偽りの英雄譚を振りかざられたティファであった。
私も・・・・無知だ・・・・無知なのに初代勇者の事を酷い奴と決めつけて酷い事言った・・・アバン先生はどんな気持ちで・・・・
受け継がれた時の長さと思いの重さを別の事で知っているティファは、誰よりも打ちのめされた。
彼等の高潔なる思いを知らず泥を塗ったのが申し訳なくて恥ずかしくて・・・・偉そう言った自分が許せなくて!!
カール騎士達が青褪め沈黙する中、申し訳ないと泣くティファに、セインは何か面罵してやりたいが、言葉が出ない。
「セイン、初代勇者の思いを知ってもまだこの子を殺そうとしますか?」
「五月蠅い!!そいつは!!・・・・そいつは・・・・」
「この子は貴方の家族を滅ぼした者ではありません!!!」
「!!」
「この地上にに生きるモンスター達も魔族さん達も半魔の方々も!あそこにいる魔界の者達も貴方の家族を殺した者でもありませんよ!!!
魔王軍を倒すはあくまでこの地上を救う為!!いつまで己の憎悪に浸り傷口を嘗めまわして時を過ごせば気が済むのですかセイン!!!!」
断罪の声がセインを打ちのめし、カール騎士達の頭上に降り注ぐ。
地上を救う事と、私怨の為の鬱積を晴らすのを同一視する事をアバンは冷ややかなる声で罪だと処する。
「貴方方もです!この子の罪は確かにある!だがこの子は殺されなければならない程の罪をいつ犯したか!!フローラ女王陛下、お答えください。
ティファは、死ななければならない程の罪を犯しましたか?」
親しき者とても逃がさないその有無を言わさない声に、聞いているだけのダイ達の背筋すら震わせ、当代一の鬼謀を策すマトリフをも震え上がらせる中、フローラは毅然と顔を上げ答えた。
「料理人のティファは確かに地上軍に不和を齎せるほどの事をしました。その罪は今すぐ態度を改める事をカール王国女王フローラが命じます。
そして・・・ティファ。」
「陛下!!」
「そのような事を!!!」
「・・・・・・フローラ様!!」
ティファの罪を今すぐ改める様に宣告した後のフローラの行動に、騎士達は狼狽し、ティファと憎悪に彩られながらも正しき儀を知ってしまい心中が混とんとしてしまったセインまでも慌てさせた
セインとて、アバンの言葉が正しいのは分かっている!だからと言って、直ぐに受け入れれる訳もなく、どこかでまだティファを罵倒する心が自分を浸食しようとしていたが、其れすら吹き飛ぶことをしたのだ。
「貴女の恩を仇で返そうとした我等を赦してほしい。」
これまでの受けた大きすぎる恩を忘れ果て、殺そうとした自分のあさましい心根を謝すために、フローラが一介の平民に頭を深々と下げたのだ。
「顔を上げてくださいフローラ様!!!」
「ティファ・・・」
アバンの腕から飛び出たティファは、泣き顔を更に歪ませフローラに駆け寄り必死に言い募る。
「ティファの方が悪いの!!父さんや・・・必死になってハドラー達も受け入れてくれた女王様達の事を考えなかったティファが悪いの!!ごめんなさい・・・ごめんなさい!!!」
「ティファ!!」
泣きじゃくりながら謝るティファを、フローラが抱きしめ、そしてある言葉を思い出す。
-アレは幼い子供と同じだ。善悪よりも、助けたいと思いから助けるという幼い子供と同じだ。話す知識と雰囲気に騙されるなよフローラ。あれが何を言ってもやっても頑是ない子供が仕出かす事だ。悪いと思えば速攻で拳骨落として叱れよー
この場いないハドラーからの忠告を忘れ果て、話す知識と雰囲気にまんまと飲み込まれ怖れ・・・・・無知とは本当に怖いものですね-アバン-
無知でいてはいけない
「ティファ・・・・地上を共に守ってくれますか?」
「・・・守る・・・・だって、その為に私は今まで・・・」
「そうでしたね・・・・そうなのですよね・・・・・ごめんなさいティファ、貴女の外側だけを怖れて・・・また私達と共に地上を守りましょうティファ。」
「はい・・・はい!!」
偉大なる女王の力強い言葉に、冷え切ってしまった騎士達とティファの心を氷解していく。
彼女もまた、偉大なる初代勇者の名に恥じない末裔であり、無知でいる事を怖れる事も逃げる事無く認め、己を改めんとする高潔なる志を持ちし王であり、その瞬間、大魔王とキルがファブニールの竜の話に仕掛けた罠は全て食い破られた。
一つはティファが地上で正しいと語られる英雄譚を信じない異端者である事の暴露
二つ目はファブニールの竜の後継たるカール王国の騎士達の不快感をあおり不和の芽を撒いた事
三つめはその不和を育て、ファブニールの竜の英雄譚を誇りにする騎士達を暴発させる事
四つ目は其れにより起こってしまった不和を沈める為に、自ら犠牲になる事を躊躇わないティファを自死させる事。
そして五つ目に自死したティファを見て崩壊するダイ達を前に、キルが自死したティファを腕に抱きながら、ファブニールの竜の後日談たる原罪の話をぶちまける。
大魔王はファブニールの竜を殺した男がどんな生涯を送り、それが後の世の自分の邪魔になる勢力になるまで国家を成長させる男かどうかを偵察させ偶然に知った事。
こうして各王室の罪や弱みを地上進行時に使えないかと細かく記載し保管し、地上総攻撃前に念入りに各王室の弱点と弱みを突く為に再調査させて浮上した話を、最終決戦時に仕掛けて来た。
もしもアバンが現れなければ、五重殺のこの罠でダイ達諸共カール騎士達も戦意喪失して楽に勝てる筈であった。
たった一人の男の為に念入りに仕掛けられた罠は嚙み砕かれ、不和までいったティファとカールの結びつきを確かなものにされた。
「生きなさいティファ。貴女は大勢の人達に頼みにされているだけはなく、こうして愛されても居るのです。
ダイ君をはじめとした大勢の者達が貴女を愛してやまない事を、罪と同じくらいに自覚しなさい。」
この大戦の中身すらも変える程の・・・」
「先生・・・」
二人が落ち着いた頃合いを見計らい、アバンがまたもやティファを抱き上げ、心の底から心配しているダイ達を見るようにティファを促しながら言葉を贈る。
この大戦の最終決戦の場に、不思議と憎しみの念が薄いのはティファのせい。
怒りでも悲しみでもなく只々守るというティファの単純な思いが、魔王軍は魔界を、地上軍は文字通り地上を守る、ただそれだけの単純でそれが故に引けない戦いへと変わってしまった。
その強い思いが何処へと繋がるのか誰にも分からず、故にこそ先程の暴発へと繋がったのもまた事実。
「貴女が歩く道が何処に繋がるのか生きて歩いて指し示しなさい。」
ティファが二度と己を殺さない為の言葉を何度でも贈ろう
「生きて行くのですよティファ。」
今宵ここまで・・・・・・
一つの話から五重の罠にするまでのプロットが大変でしたが何とか形になりました。
初代勇者の苦悩と、歴代のアバン達の声なき声が書けていればと思います。
ファブニールの竜の後日談の為に、アバン先生の家系丸ごとでっち上げました・・・やり過ぎ感はあっても悔いなしです!
騎士が多く尊重されて要るっぽいカール王国で、ジュニアール家は何故代々学者(学者さんも国には必須だと筆者は思っています)で通しても尊敬されているのか子供の頃に感じた疑問に、色々と解決する為にアバン先生の家系自体をスーパーチートにさせていただいたのは悔い無しです!!(またかい!)
そして「生きて行く」は誤字ではありません
アバン先生が主人公に生きて道を歩き続ける事を願って贈った言葉です。
これをもって、アバン先生の言葉の回は終了となります。
そしてオリジナルチートキャラの主人公を御せる原作チートキャラの力を遺憾なく発揮できていれば幸いです。
次回から色々とまた動き出しますのでよろしくお願いします。
(まだ出てこない六大将軍とかザボエラとかパレスへの突入とかはよしろという話も//そしてハドラー達どこいったのかもでした・・)