静寂が、ロロイの谷を支配した。
先程までの闘争剣戟の音が掻き消え、敵味方双方たった一人の少女を注視して
ティファの、あの構えはなんでしょうか?
幾通りの剣・槍をはじめとした古今東西の武術全般の一通りを調べ尽くしているアバンとても、ティファの抜刀術は初であった。
当代の智者をして知らない者が、当然ガルヴァス達は知る由もない。
其れは静かな構えであった。それが構えだと思わぬ程の自然体でティファは立っている。
アバン流には、己の闘気を一度すべて内に仕舞込み、相手の攻撃の後に出来た隙を狙い、一気に闘気を高めて撃ち放つカウンター技の無刀陣があるが、其れとも違う。
ティファは雪白の鞘と鍔を持ち、チキリとほんの少し、雪白の刃も見えない程本当に少しだけ鞘から出したきり静かにベグロムを見据えたまま動かない。
ダイ達も、魔王軍もまたたったそれだけで立っているティファに、得体の知れない空恐ろしさを感じている。
まるで嵐の前の静けさの如く静かにたたずむティファに。
周りで見ているだけでもこの反応であり、空中にいるとはいえ対峙しているベグロム自身の恐怖は計り知れない者であった。
隙が無いのだ!どこにも!!
闘気の斬撃を振りまく?そんな小手先の技が通じる気すらしない!!
一体自分はあんなバケモノの何処を見て弱いと言ったのだ?少し前の自分を殺してくなっているがもう何もかもが遅すぎる!!此処で逃亡すれば、パレスにいる死神が自分を逃がすまい!全力で逃げたとしても、あの大ガマが自分の首を落とすだろう。大魔王と参謀の命を受け。
ベグロムとて馬鹿ではあるが真の愚者でもない。ここはもう目の前の敵を撃破するしか自分の生き残れる道が無いのは承知している。まさしく自業自得なのだから。
だが、攻められな・・・・攻めれば、あの化け物はどのような・・・
ベグロム!
・・・・ガルヴァス様!!俺・・・俺調子に乗って・・
過ぎた事は仕方がない、どう贖うべきかは分かっているな?
はい!あの化け物を倒すしか・・・
うむ。そこでだ、お前は手足の一・二本は失う覚悟があるか?
・・・たったそれだけであれに勝てると⁉
そうだ、お前がティファが繰り出す何らかの技を撃たせ、無防備になった所をデスカールがお前の背後から飛び出し脱魂魔術を仕掛ける。
そうすると・・・俺を死角にして・・・分かりました!その役目務めあげます!!
・・・・死ぬなよベグロム・・・
・・・・・はい・・・
・・・・こんな馬鹿した俺を、ガルヴァス様はお見捨てにならない・・・覚悟しろよバケモノ!!
ガルヴァスからの念話で、ベグロムの覚悟は決まった。
ティファの技はどうやらティファの味方も初見の様で、おそらく技の方に目が行きがちになり、油断はない迄も技の範囲外に向けていた目が少しでもそちらに行くだろう。
相手の心理を読みつくしてき作戦を立ててすべて成功してきたガルヴァスだからこその心理戦にも等しい策をベグロムとデスカールのみに念話で伝えるという念の入れようで。
デスカーレならば腹芸も出来、ティファと対峙しているベグロムであれば、策を授けられ勝機が上がったと多少浮かれても、ティファと対峙する武人としての覚悟が決まったと思われるだろう。
戦後にベグロムを生かすにはこの策しかない。
嫌いなティファの魂を大魔王バーンに献上するくらいせねばならない程の事をベグロムは仕出かしてしまったのだ。
業腹な事に、部下を助けるのにティファ頼みとは情けないが、ガルヴァスとて情はある。
敵やそのほかはどうでもいいが、自分を引き立ててくれた大魔王バーンと、日陰者になってもずっと付いて来てくれた部下は大切なのだ。
だが其れはティファにとりても同様で、貶し尽くされた身内とそれに等しい大切な者達の名誉の為にも負ける訳には行かない。
これには己の勝敗だけではなく、自身の強さを証明し、以て自分と対峙した者達が弱い訳がないと証明する、謂わば誇りを掛けた一世一代の大勝負に匹敵している。
「覚悟しろよバケモノ娘!!」
先に動いたのはベグロムだった。彼もまた、文字通り全てをこの斬撃に込める。
もしも無様に負ければ、先程の咎がガルヴァスと仲間達に及ぶかもしれない事に思い至り、決死の特攻となった。
「うおおおおおおお!!!!!!」
先程の軽薄さが欠片も無く、覚悟を決めたベグロムの裂ぱくの気合がロロイの谷の静寂を破り、空気を震わせティファに迫る。
その気合に混じった練り上げられた闘気の純度を感じ取った戦士達は青褪め迎撃するであろうティファを見た。
見た先のティファは・・・・未だに静かであった
ベグロムの動きが、まるでビデオのスローモーションのようだ・・・
ベグロムの動きをティファはさほどに凄いものだとは感じていない。さらに言えば、先程から周りの動きもさして見ていなかった。
逃げねえでくれ!お前さんが大好きなんだよ!!何があっても起こっても嫌うものか!!
戦いに行く事になろうとも、命を大切にしなさい
大好きだよティファ!明日教会に行こう!!
二度と俺達の前から消えないでくれ!!
ティファ!!守ってあげられなくて御免なさい・・・ごめんなさい!!
俺達に生きろと言ったお前が一体何をしている!!!
俺達が強くなる・・・・だからティファ・・・もうあんな事しないで・・・・
ティファ・・・・愛しい娘・・・・・
この構えを取った時から頭の中に甦る言葉と思いをティファは噛みしていた。
沢山の人達から贈られた言葉を、自分は受け取る振りをして逃げていた。
何時かバケモノの自分を知られて逃げられるのではと馬鹿みたいに疑って怯えて・・こんなにも・・・・自分は愛されていたのだと気付こうともせず。
貴方はたくさんの人達から愛されているのですよ
・・・その通りでしたアバン先生
魔法使いのおじいさんから貰ったあの素敵な呪文を、誰よりも信じていなかった愚かな自分・・・業は確かにある。その言葉と思いを受ける取るのが苦しくなる程の罪を、自分がよく知っている。大戦が始まるのを知ってもなお、取りこぼした命の多さに慄き、そしてその事で何時か好きな人達全員から嫌われるのではないかと怯え、そこから逃げる様に自分の命を投げ出していた臆病で愚かな自分。・・この考えもまた傲慢な思いなのかもしれない。結局何をしても私がいてもいなくとも、対戦は起こる事はきまっていたのだから・・それでも、こんな自分を愛し続けてくれている人達の為にも・・・
「死ねぇ!!!!」
死ねない!!!-今-ここで死ねない!!死ぬわけにはいかない!!私を信じて愛してくれている人達の為にも!!
「ああああああ!!!!」
ベグロムがティファのいる位置の中ほどに来た時、ティファがようやく動いた。
芒ことした瞳に、再び光を宿して。
ベグロム以上の闘気を発し、裂帛の気合を吠え上げ
生きて
「くたばれバケモノ!!!!」
「断る!!!!」
後から動いたティファよりも、上空からの滑空の推進力も相まったベグロムの方が早く、ベグロムの振り上げた剣の技の方が早く決まるかに見え、鋭い悲鳴がそこかしこで響き渡る中、
「うおおおおおおお!!!!!!」
行きなさい
敗けない!!勝つんだ!!!!
マトリフのお守りの言葉を始めとし、アバンから贈られた言葉がティファのそれまでの負の思い全てを薙ぎ払い、今まで暗闇にあったティファの道を照らしだす。
ズダン!!!!
勝って!!-その先-に行くんだ!!!!
自らは望んだ事のない、その先を見る為に、ティファはベグロムの刃に向かって、迷いなく最後よりもその先に向かう為に、
その一歩が、ベグロムの技の間合いを外し、修正する為の刹那の時間が明暗を分けた。
先に決まる筈であったベグロムの技とティファの技がぶつかり合い、ベグロムの技は、ベグロムの剣諸共粉々になり、ベグロム自身もその身を竜の爪に引き裂かれたが如くズタボロになり、天高く舞い上がる。
白目を剥き、受け身も取らず宙に放り投げられたベグロムを見て、誰もがティファの勝ちを確信し、ティファの技の威力の凄さに、その美しさに見惚れ警戒を怠り、その刹那を突かれた・・・・かのように思われた。
誰もデスカーレの動きに反応できない中、ティファの奥義はまだ終わってはいなかった。
自分ならば、大技を撃った後の敵の隙を見逃さない!
数多の修行をしてきた、死にそうにも何度もなった、仮想の修行場とは言え痛覚だけは本物で、手足が折れ千切れ掛ける中で、三神様達は何度もこんな修行やめるべきだと言ってくれたのを全部自分が断ってきた。-全部-を守る力が欲しくて!!
そして会得した中に、戦場で隙を見せる敵は討てるうちに討てだ!!
「おおおおおおおお!!!!!」
-竜-の攻撃は二度ある!!咢から逃れた者がいたとて!!!爪が斬り裂く!!
「・・・なんだと!!!」
ティファに迫っている積りであったデスカールは気が付いた。
ベグロムを斬った後もティファは止まらず円を描くように動き、自身が近づいているのではなく、引き寄せられている事に!!
ベグロムの剣は粉々に砕かれたが、ティファの刀を僅かばかりに弾き、初弾の技の威力を殺す事に成功し、宙を舞うベグロムは辛うじて生き永らえた。
だがその副産物で、超神速の刀が弾かれた空気と真空領域が発生し、後からくるデスカールを巻き込む態になってしまったのだ。
だが!それでも近づければ!!!
吸い寄せられているのであれば自然に流れを任せ!!自分はあの小娘の魂を抜き取ることに専念すればいい!!!
「脱魂魔術!!」
「く・・・・ぐうう・・・」
円心しながら、自分の大切なものが抜かれようとする感覚を感じる。常人であれば、技を止めてしまう原始的な恐怖を、ティファは飲み下す!
「ああああああ!!!!」
ズダン!!!!
「飛天御剣流最終奥義!!天翔竜閃!!!!!」
恐怖の更に先へと今一度左足を力強く前に出したティファの技が決まり、ベグロムとデスカールを飲み込んだティファの闘気の渦は、蒼天を駆け上っていった。
「私は弱くはない!!!!」
その光景を見届ける事無く、
「私と戦った者達は弱くない!!ガルダンディーとボラホーンが何故私に一撃で敗れたか!あの時私はこの技と同じだけの威力で二人に対峙したからだ!!」
まだ雪白が完全覚醒させることは出来なかったが、それでも闘気の上乗せはあの時点で出来ていた。
其の力を使ったからこそ、強敵になったかもしれないガルダンディーとボラホーンを瞬殺できることが出来たのだ!!!
「その後も私は一切手抜きなんてしなかった!!!それでも親衛隊達は生き残り!魔王ハドラーは私と引き分け以上の戦いをしたんだ!!!」
最終奥義でなくとも、雷は決して弱い技などではなかった。今のミストであれば、あるいは勝つことは易いかもしれない。ガルヴァス達であれば十分必殺技足りえている!!
「訂正しろ!!私と戦った者達の誰一人として!!!心・技・体全てにおいて弱い者など居なかったんだ!!!!」
ガルヴァス達に雪白を突きつけ誇りを懸けて叫ぶ竜の娘の言葉もまた、蒼天へと吸い込まれていく
愛しき者達の誇りを懸けて叫ばれる言葉と思いの全てが
それは確かに、この場に居る全ての者達の胸へとも届いた
今宵ここまで
・・・・・・この話を推敲している時もこうして書いている時も、技を出す前後総てで筆者の頭の中では『鬼滅の刃』の竈門炭治郎の歌が鳴り響いていました・・・
あの歌のようにあれればと思い書き切りましたが、少しでもあの凄い歌のように主人公が進んで行く様が書けていれば幸いです