其れは凄まじい光景であった
あそこに行けばいい
たった一人の少女が、道を指し示しただけで味方が奮い立ち、我も我もと後から続き、悄然としていたのも達迄も救い上げる様は、味方であれば痛快であり、敵からすればこれ程の脅威はない。
成る程、道理でティファがこれほどの注目を集める訳です。
ティファは光だ。
兄のダイが力強く味方を率いる中、疲れ迷い悄然とした者達を救い上げまた道を進ませる力を与える・・・・勇者一行になるべくしてなった様な兄妹だ。
・・・・・私はそんなティファを偉そうに・・・
「お前迄もがあれに引きずられるなよアバン。」
「・・・・いつから起きていましたかハドラー?」
「抜かせ、あれがおかしな笑い方をしたから不快感で目が覚めたわ。」
目を覚ましたハドラーに言われた通り、アバンは目の前の光景に魅了され、ティファの何もかもに引きずられかけた。
地上を救った大勇者の名を欲しいままにし、当代の大魔導士たるマトリフをも唸らせた当代一の知恵者をしても、ティファの凄まじい影響力に引きずられかけたのだから畏れ入る。
だがそれにストップをかけて貰い、水を掛けられた様に冷静になれたアバンはホッとしながら旧敵に軽口を叩く。
ハドラーのけがの手当てを買って出た後、ティファが敵の不認識を詰り、処刑宣言書を読み上げ等が如くの時からハドラーの目が覚めていた事に気が付いていたが、ティファを見る方が忙しかったので放って置いただけだ。
見た事も無い技もさることながら、何もかもが眩しく目が離せず・・・これではいけない。
其れではマトリフ達の二の舞にしかならない。
言い方は不味いと思うが、マトリフは世の醜さに嫌気がさした果てにティファと、同じようなノヴァに会い、二人の無垢なる温かさと優しさに癒され、そして救われている。
そんなマトリフにとって、ノヴァとティファの二人の事が何よりも誰よりも優先するべき事であり、そして全てを受け入れてしまう。
せめて自分一人ぐらいは、ティファときちんとした距離を作り、第三者の目として良い事と悪い事の分別を付ける様に言うべきだ。
世間の常識に馴染めとまでは言わない。時折常識とは、人間だけが幸せであればいいというものが罷り通ってしまう事も儘あるからだ。
そんな常識にティファが馴染めようはずもなく、下手をしたらその考えに心を殺されてしまうか、耐え切れずにその他の種族を庇い立て人間をも敵にしてでも守ろうとしてしまう未来が浮かんでしまう。
彼等を見捨てられない
何処までいっても綺麗な心の儘に・・・・きっとその考えをダイ達も賛同して地上界が割れる。
そう成らない為にも自分に出来る事全てをしないといけない。
其れこそ平和の芽を育てるという漠然とした考えではなく、人類とティファを中心とした者達が諍いを起こさずに済むようにする事を。
幸い各王室にも王達にもまだ伝手は有り、影響力が残っている内にこの仕事を完遂させなければならず・・・そうすると本気でフローラを口説き落とさなければならない。
愛している女性の国を守る為にも、よりよい未来を地上に送らせる為にも、今の大勇者の地位だけでは足りない。
更に言えば、今一度地上を守った実績もここで再び上げ、ティファとダイ達の行く道を守る盾になりたいものだ。
様々な事を考え少しばかり呆けていたのを見咎められた照れ臭さもあるが、アバンは構わずハドラーに話しかける。
「あの子は、何時もあの様に叫んでいたのですか?」
「そうだ、自分が死に掛けようがボロボロになっていようが、自分の命などお構いなしに叫んでいたぞ。」
「それは・・・」
良い事ではないと、アバンは無意識に眉をひそめる。
自分は確かに眼鏡を預かってほしいと願ったが、其れはティファの命を犠牲にしてでもと言ったつもりはないのだ・・・・頼む相手を・・・そもそもが、十二の女の子にあんなことを頼んだ自分は本当に焼きが回っていたと再確認させられる。
一体自分は本当に何を血迷ったのかと言いたくなる半面、ヒュンケルのあの幸せを引き出せたのがティファである事に間違いはなく、胸中が複雑になる。
「ですが、先程のティファの様子であれば、大丈夫だと思いますよハドラー。」
ティファは、この大戦の後にリュート村に行こうと言っていた。それは自分も生きる事を望んでいる事だと、アバンは少しほっとしたのだが
「ふん!甘いなお前は。」
アバンの安堵を、ハドラーは粉々に打ち砕きに来た。
「・・・何故ですか?あの子は確かに・・」
「行くと言っていたな。あれは途中までは威勢がいい。俺に対しても最初はそうだった。だがな、ふたを開けてみれば、あれはいつでも途中から趣旨変えをしては、最後には自分を使って己の大切なものを守り通そうとする悪癖がある。」
「悪癖・・・」
「そうだ、今のあれに騙されるなよアバン。あれは最後には必ずやらかす。注視しろ、決して目を離すな。」
確信に満ちたハドラーの物言いに、アバンは再びティファの方に目を向けながら、言葉を返した。
「そこまでティファの事を知っているのならば、私ではなく貴方自身がティファを諫めるべきでは?」
わざわざ自分に託そうとせずに。
「・・・・無理だな。」
「何故ですか?・・・・体のどこかに不具合が?」
「違う、この後パレス突入して大魔王と一戦するほど体の方は良好だが、俺はもうあれに説教じみた事は言えん・・俺もマトリフ達と同じだ。あれの光に絆され、当人を前に今言った事は言えん・・・・言う資格とてない・・・」
「・・・ハドラー・・・」
「先生!!!!」
二人の話に割って入る様なマァムの大音声に、アバンとハドラーが声の方に振り返った。
本格的な戦闘が再開される中、マァムがティファを抱き抱え、ノヴァが護衛しながらこちらに爆走してきていた。
「先生!!ティファおねが・・・・・目が覚めたのねハドラー。」
マァムにとって、この戦場で絶対的安心なアバン先生の所に大切なティファを預けに来たのだが、当のティファがハドラーの事を聞いてびくりと体を竦ませ降りようともがきだした。
「ちょっとティファ!此処が安全だから、良い子だからバーンの居城の罠解除するまでここで大人しく待っていて頂戴。でないとアバン先生に負ぶい紐付けて貰ってあなたの事負んぶしてもらうわよ!」
・・・・・・其れは嫌だ!!
マァムの冗談ではなくそれ絶対に本気だろうという言葉に、ティファが固まっている間に、マァムはアバンにティファを手渡す。
「先生、居城の罠攻略に行ってきますのでティファをお願いします。」
「分かりました。また後で会いましょう。」
「はい!!」
「
ティファを安全な所に預けたマァムは、ホッとしながら待っている仲間の下に駆け付け、程なくしてルーラの光がパレス内部へと侵入を果たした。
第一段階はここで無事に終了できたようだ。
「ノヴァ君も行くのですか?」
「僕は後詰めです。魔王軍の動きが各地の何処で起こるか分かりませんので、僕は地上に居残ります。
ロン・ベルクさんもそうすると。」
「そうですか・・・・ティファ?」
どうしても、腕の中から逃げようとするティファに、アバンはどうしたのかと問おうとしたが、口を噤んだ。
ティファはひたすらにハドラーだけを見ている。
その顔は可哀そうな程ぐしゃぐしゃに歪み、涙をぼろぼろと流しているのはどういう訳か?
今宵ここまで