先程の勇猛さも、味方の士気を高めた温かい吠え上げた言葉を言った者とは思えない程、ティファは顔を青褪めさせ泣きながらハドラーの顔を見ている。
一体何故?
ティファは先の決戦時に、ハドラーと死闘を繰り広げ、倒しきれずにやむを得ず黒の核晶を取り去りハドラーの命を救う事になったのはハドラー当人から聞いて知っている。
・・・・泣く理由が分からない中、ハドラーから溜め息を吐く声が聞こえ、その声にティファはびくりと身を竦ませる。
何がティファをここまで怯えさせるのか・・・命を取られかけても怯えない者が・・
その答えをハドラーは思い至り、自分を見て泣いているだけのティファでは埒が開かないといい加減じれ始めた。
「アバン、ティファ貰うぞ。」
「え!!ちょ・・・ハドラー?」
「ひぃ!」
超一流魔王に進化(?)しても、ハドラーの短気な所は変わっておらずティファをアバンから強引にひったくり、物事をズバリというところも健在であった。
「いい加減に泣き止めティファ。」
「う・・・・・」
「何故泣く?俺を助けた事を後悔しているのか?」
其れは無いと分かっても一応聞いておく。
自分助ける事も想定し、逃がした後の置手紙には自分と親衛隊達の分もあったのだから、後悔もへったくれもあるまい。では何故泣くのかさっぱりと分からない。
その答えは、矢張りティファらしかった。
「だって・・・ハドラー・・・・倒せなくて・・・・・助けてしまって・・・ごめんなさい・・」
「・・・・・」
「ティファが・・・キチンと貴方を倒せていれば・・・・・大魔王の仕掛けた事も知らずに・・・尊敬してた大魔王と戦わなくて良かったのに・・・倒せなくて・・助ける事しか出来なくて・・・」
・・・・・・・これはどうして、何処まで相手の事を思いやってしまうのだ。
ティファらしい答えに、ハドラーは溜め息を吐きたくなるのを堪える。
おそらく、ティファは自分が大魔王を敬愛していると言ったあの言葉に囚われている様だ。
決戦前に、主をどう思っているのかと聞かれた自分は即答で敬愛していると答えた。
あの時点で自分の中に黒の核晶を埋められているのを看破していたティファは、どんな思いでそれを聞いていただろうか?
物凄く複雑そうな顔から察するに、配下の者に爆弾を仕込む者を敬愛していると聞かされてはああもなるかと今だからこそ納得する。
そして、そんな主の駒にされているのを俺に知ってほしくはないと、全力で俺の頸を取りに来たか・・・・其れが果たせず、今日この日を俺に迎えさせたのが申し訳ないと・・・
「それに・・・・」
・・・・・まだ何かあったか?
「ブロックが・・・・・私の事庇って・・・・・逃がしてあげられなくて!!ごめんなさいハドラー!!中途半端で!貴方達を振り回した挙句があの様で!!!」
・・・・・・これは本当に・・
ゴン!!!
ティファの心からの懺悔の後に、物凄く痛そうな音が戦場に響き渡り
「この戯けが!!!!!」
それ以上の怒声が、戦闘を止める程の大音声がロロイの谷に響き渡り、木霊迄発生させた。
「俺がいつお前を責めたティファ!!俺がいつブロックの死はお前のせいだと詰った⁉」
「うぇ・・・だって・・・・・だって!!ブロックは私を庇って・・」
「お前がブロックにそれをしろと命じたのか⁉」
「ち・・・・違う!!ティファは皆逃がしたかった!!あそこで槍を受けても詠唱続けられたのに・・・・」
「ではブロックがした事は無駄だと言いたいのか?」
「ち・・違うよ!!ブロックは・・・・ブロックはティファを庇って・・・守ってくれたんだ・・・・」
「そうだ、お前を、ひいては俺達をあれは守ってくれたのだ。もしもお前があの時死んでしまっては、俺達を逃がす術など他になかった。ブロックは、城壁として俺達を守る盾になってくれたのだ。」
「・・・・・・・・・」
「ティファ、お前もダイ達を守る為に幾度もその体を張って守ってきた。」
「それは・・・・そんな事は・・」
「当たり前なのだろう?-お前達-にとっては。守る事こそが本質であるのならば、ルーク・ブロックはその役目を見事に果たしたのではないか?」
「・・・ひ・・う・・・」
「俺はなティファ、役目を果たし、俺と親衛隊達を逃がす事に一役買って散ったブロックを誇りに思っている。俺だけではなくきっとヒムもアルビナスもフェンブレンもシグマも。」
「・・・・ハドラー・・・」
「それにティファ、俺もバーン様に逆らうのにはやはり心痛むことあれど、無為に駒の様に淡々と死ぬ事無く、雪辱を晴らす機会を与えてくれた事にも感謝しているのだ。」
尊敬し、敬愛もしているが、矢張り許せないという気持ちもまた孕んでいるこの心の葛藤を、晴らす機会を与えてくれたティファに感謝している。
「俺を命懸けで倒そうと本気で戦ってくれた。そして救ってくれたお前に感謝している。」
「・・・ハドラー・・・」
「ありがとうティファよ。」
「ハドラー!!!!!」
この日何度目か分からない泣き声があたりに散らばる。
ティファは苦しかった。自分のエゴで助けたハドラーの誇りと尊厳を踏みにじったのではないかという罪悪感と、そんなハドラーが大切にしている親衛隊のブロックが、自分のせいで死んでしまった事が。
助けるからには全て救わねばならないと思ってい定めて全てを準備していたとどこかで慢心していた隙の代償を、ブロックに支払わせてしまったのではないかと。
だが、そんな事はハドラー自身に全て一蹴された。
ルーク・ブロックの本質は、城壁であり、敵からの攻撃を凌いで城の中の者達を守る事であり、その役目を見事果たしたブロックの死を、己のせいだと嘆き悲しむのはブロックに対する最大の侮辱であると叱りつけ、そして赦しもした。
己の命を救ってくれた事を。
「ハドラー!!ハドラー!!!」
馬鹿みたいに何度もハドラーの名だけを呼び、首にかじりついて泣き濡れるティファを、ハドラーは愛おし気に抱きしめる。
「済まない、俺の粗忽さで自分に仕掛けられたものも見抜けず、お前に全て押し付けて。」
「ハドラーは・・・・大魔王好きで・・・だから・・・・」
「そうか、俺は悪くないと言ってくれるか。」
「う・・・ふうう・・・」
「では、お前も悪くはないのであろう。俺もお前も其れまでにできる事の最善を果たしただけなのだから。」
ティファの罪悪感を打ち消す様に、自分もティファもお互いに悪くはないのだと教え込み、顔を覗き込む。
泣きすぎて、瞳も端も赤くなりぐすぐすと泣き続けるティファは見ていて痛々しい。
「分かったらいい加減に泣き止め。」
優しい言葉とと共に・・
「ハドラー⁉」
「・・・・・なにを・・」
傍らで見守っていたアバンとノヴァが唖然とすることをしてのけた。
泣くティファの瞳に口付けを落とし、涙を吸い上げていく。
「・・・・ハドラー?」
さしものティファも、びっくりして泣き止み、きょとんとした顔でハドラーを見上げる。
年相応か、幾分幼い印象の顔は初めて見る。泣いた顔よりもこちらの方がいい。
「泣き止んだか。」
「う・・・・・・」
「お前が泣くことなど何もない。少なくとも俺に関しては何もない。」
「・・・ない?」
「そうだ、ないのだ。だから泣く事も無いのだ。」
ティファの額に己の額を角で怪我させない力加減でくっつけ、優しく諭す。
間近で見るティファの黒い瞳は矢張り綺麗だと見惚れながら。
後もうほんの少しで・・・・互いの口が触れ合いそうになったその時。
「コホン!!!」
・・・・・アバンのストップの咳払いが聞こえ、それまではお互いだけに夢中になっていた二人は、顔を上げて辺りを見回せば・・・・・えらい事になっていた。
「バラン殿!!抑えて!!ドウドウ!」
「坊や!今あの馬鹿野郎凍らせたら嬢ちゃんも巻き込んじまうぞ!!!」
「ロン・ベルクさん!!敵はあっち!あっちです!!」
今にも真魔剛竜剣を抜きそうなティファ父と、マヒャデドスを発動させようとしているティファ幼馴染とティファの幸福まもるぞのロン・ベルクの暴走を、アポロとマトリフとチウが必死の面持ちで止めしかも、戦場から斬撃とレッドフェザーと固まった岩が、ピンポイントでハドラーに当たりそうになり紙一重で避けると舌打ちが聞こえた!!
「おっと・・・俺とした事が(ハドラーの頸の)狙いを外すとは。」
「おかしいな?(ティファ様にまつわりつく害虫目掛けて投げた)羽が当たんねぇぞ?」
「・チィ・・外したか・・」
メネロとブレイガンの二人を相手にしているラーハルトと、ザングレイを相手にしているガルダンディーはすっとぼけながら、ザングレイを相手にしているボラホーンは露骨に舌打ちまでする始末。
ティファ・・・・・・この子きちんと好きな相手と添い遂げられるのでしょうか・・
あらゆる意味で不安になるアバンを他所に、其れがいつもの事だとティファとハドラーは仕方がないとばかりに息ピッタリに溜め息を吐く。
自分達の事で周りが騒ぎになってしまうのはいつもの事だからと。
そしてティファはクスクスと笑いながら空を仰ぐ。
ブロックに、思い違いをした罪悪感をもって知らず侮辱した事を詫びながら、それでも、助けられなかった事を謝りながら。
ブロック、貴方が守り通した人達を、ティファが守るね。
心に新たな誓いを立てながら、にこりと微笑む。
その晴れやかになった顔を、ハドラーが愛おし気に見ているのに気が付かずに。
今宵ここまで
感想欄にて、テランの架空の村、リュート村と名付けた設定に気が付いた方がいるのでこちらでも記載させていただきます。
リュート村=竜と村=竜の娘と村
です。
テランがマザードラゴンを信仰している事と、主人公が竜の騎士の娘であり、竜に縁深き村になるように命名しましたが、筆者自身が考えるよりも、書き進めていくうちに竜と縁が深い村となりました。
細やかな所迄読んでくださる皆様のおかげで、頑張って最後まで書き切れそうです。
出来れば最後までお付き合いの程を、宜しくお願い致します。