「今の内に武具の点検をしましょう。」
「はい!」
「その前に自分達の身体チェックもですね。体の何処でもいいので、少しでも違和感がないか深く探ってみましょう。」
「「「「「「は~い!!」」」」」
「少し大げさすぎないかアバン?」
「これから立ち向かう相手を考えたら、チェックしてもしたりない位ですよハドラー。」
ティファの疲労が限界点を達してただいま静養中。
眠いとフラフラしながらダイの腕から抜け出たティファは、クロコダインの方にとことこと近づき、道中でチウをゲットし抱き上げムギュとしてそのままクロコダインの待ち構えていた腕の中にポスっと収まり、チウをむぎゅむぎゅしながら夢の世界へと旅立った。
えらい事にきちんと大きめの砂時計を式で制作して、砂が落ちたら起こしてと辛うじて言い残してからの旅立ちであった事だ。
・・・・・・えっと・・・
何でしょう?クロコダインさんもチウ君も突然のティファの行動に手慣れた様子で対処していたような。
クロコダインの所に行く途中にチウは移動し、チウを抱っこしたティファの近くにクロコダインは移動して待ち構えていたような?
「・・・アバン殿、ティファは極限まで疲れるとこうしてチウを抱きしめて俺の腕の中で寝るのが一番居心地がいいらしい。」
当人曰く癒されるとか。
今も寝ながらチウの匂いをクンカクンカと嗅いでニヘラと笑っても寝ているティファに、アバンと同じく初見のラーハルトとハドラーもすぐに納得した。
思えば今日一番疲労が溜まっているのはティファの筈だ。
処刑演目に始まり、敵の策謀と味方からの攻撃という精神攻撃と、そして己の最大の秘事を知る羽目になって肉体も心も一番疲れきっているのは間違いなくティファだ。
それでも、笑ってダイ達を安心させんと務めていたのだろうが限界もいいところ。
肉体が悲鳴を上げ心が休みたいと泣いて眩暈を引き起こさせる位に。
アバンは休むのであれば、真ん中にクロコダインとチウとティファを入れた車座になって全方向を警戒しながら諸々のチェック時間に有効利用しようと発案し、良い子一行とディーノ様たち守る為にもやっておこうのラーハルトは素直に、少しアバンが過保護すぎないかと、甘やかさずイケイケな軍曹タイプの気が少しあるハドラーは意見しながらも真面目にやっている。
体内の奥・・・・・俺の左手にはティファの紋章がある筈なのに・・・・
ダイの剣のチェックしながら、ダイは己の左手をじっと見る。
右手の紋章は直ぐに発動できるのに、未だに左手は出来ないでいる。
ティファが、自分を強くするためにくれた大切な紋章なのにどうして・・
答えは分かっている。怖いのだこれを使うのが。
この紋章を使って戦えば、力は単純に考えても二倍にはなる。使い方次第では数倍も・・・・それでも、使えない。使った瞬間、ティファが消えてしまうのではないか?
埒も無い事かもしれないが、力の強くなった自分の姿を見て、
「ダイ兄にはもう私は必要なさそうだ。」
笑ってどこかに行ってしまうティファの姿が浮かんでは消え、紋章を発動させられずにいる。
馬鹿な事を考えるなと、自分の考えを聞いたらきっと皆こう言うだろう。
そんな事でティファがどこかに行ってしまう事等あるものかと。
それでも、どうしても不安が付き纏う。この先で、ティファがまた自分を使って何かをして・・・そして今度こそ消えてしまうのではないか?
この力を使わずとも・・・・いや、大魔王にそんな甘さは通用しまい・・ティファが地上ロロイの谷で死兵相手に叫んだ通り、一切合財使ってようやく五分。
おそらくそれは自分とハドラーとポップ達を入れた総力戦をしてその位になれる領域だ。
ハイ=エント対策はティファが考えている様だが、その時はティファは身動きが取れなくなると言ってた。
仮に動けるとしても戦わせるつもりはないとはポップが明言していた事だ。
ティファの動きははっきりと言えば癖があり過ぎパーティー戦向けではなく、下手にどちらかに合わせよとしてもいい結果にはならないと。
ならばサポート重視で行こうとなっている。
ティファ、お願いだからどこにも行かないでね?
クロコダインの腕の中でスヤスヤと眠っているティファを、ダイはちらりと振り向き・・・・全員と目が合った。
「いや・・・やっぱさ、気になって・・」
「武具も体も大丈夫だったわ・・」
「終わったぞ・・」
「・・・私もアバン先生から預かったフェザー迄確認したわよ・・・」
「俺もだ・・・」
「いや~、そろそろ起こし時かと・・・」
「・・・起こすか?」
自分と目が合った全員は、ハドラーも入れてどこか言い訳している。
そうだよね、皆ティファの事大好きだもんね。
「これが終わったらさ、全員でデルムリン島にルーラしない?」
リュート村の前や戦勝式だとかの前に、終わってすぐにだ。
下に戻ればおそらくフローラ達に王達に報告して国を安定させて等の、-勇者一行の責務-として様々な式典が待っている筈だ。
昔からティファが教えてくれた。勇者になりたいと言ったその日から。
戦う時の心構えを、戦っている時の味方と繋がる術を、そして、戦いに勝利した勇者がすべきこと全てを。
ダイは魂は無垢で純粋であるが、知識だけならば王侯貴族と遜色ない程で、下手な貴族の庶子よりもマナーまでもティファから教わっている。
-いつ-王侯貴族の仲間入りをしてもダイが困らないようにと。
其れを一行の誰も知らないのは、ダイの天真爛漫さと・・・妹愛が暴走しがちな残念な所と勇者としての頼もしさが勝っているからだ。
だから、そんなダイの提案にポップ達は無邪気にそうすっかと笑っているが、後々の事を見据えている事に気が付いたアバンとハドラーはダイの知性の高さに驚いた。
失礼な話になるが、ダイは本能的な天才であって、知性的な所を披露して来なかったから。
武においては間違っていないが、それはダイのたった一つの一面でしかないのを目の当たりにしたのだから驚きも無理からぬことかもしれない。
子供とは・・・無限の可能性なのですね。
ダイの一面を知ったアバンは思わず微笑む。
かつて子供達を教え、平和の芽を育てようと志した自分の思いは間違っていなかったのだと言って貰えたようで、嬉しくて笑いが自然と浮かぶ。
ハドラーも同じ思いを持ち、この一行の全員がどの様な成長を果たしどの様な道を歩いて行くのか見届けたいものだと深い笑みを浮かべ、ラーハルトは何処までも竜の親子の行く道を付いていく積りなのでダイの提案を良き事だと笑って了承する。
今日を勝ち、明日という日を手に入れんと心に誓って。
「お嬢ちゃん疲れちゃいましたね~。早く来ないかな~。」
水鏡で一行を見ながらキルは先程からそわそわとして落ち着かないでいる。
「少しは落ち着いたらどうだ?大魔王様の御前で見苦しいぞ。」
「え~駄目ですかバーン様?」
ミストに怒られてもめげないキルは、技とバーンに話しを振ってみる。
適当な暇つぶしも兼ねているので察している二人は半分呆れ気味。魔界の神を暇つぶしに使う神経の太さはティファであっても無いだろうし、この馬鹿だけであろうとミストは断言できる。
「そなたがそこまでそわつくなぞ初めて見るな?」
「いや~、篩の篩の時の夜中の使者役の時もお嬢ちゃんに早く会いたくてそわそわしてましたよ?」
あの時以上に一行全員が来るのが待ち遠しい。
「今日を勝って地上を消して、浮上した魔界の大地から朝日を見るのが楽しみでもあるんですよ。」
忌々しい瘴気は地上に出た瞬間薄まろう。魔界の住人達にもあの青い空と太陽を。
「バーン様、僕はもしかしたら初めてかもしれません。」
「・・・何がだ?」
穏やかにキルの告白に、バーンはなんだと問い返す。
数百年生きて来たオートドールの初事とは何かを。
その問い返しに、キルは穏やかに笑って応える。
明日という日が来るのが待ち遠しいのですと
今宵ここまで
今まで料理人の影に隠されがちでしたが、勇者の兄もチートでカッコいいのです