非道と、外道とも言えるヴェルザーの言葉に、ティファの心は傾きかける。
ヴェルザーの言う通り・・・・ここで止まっていたら地上が、ひいては天界も・・
ふらりとティファが立ち上がり、よろよろと怯えているヴェルザー配下に近づく。
やらないと・・・大丈夫だ、今更・・・私の体は血塗れなんだ・・・・
-何か-を決意したティファの双眸に、狂気にも似た色が宿り、目が合った者達にさらなる恐怖を植え付ける。
「や・・・やめろ!!死にたくない!殺さないでくれ!!」
「いう事聞いても出られる保証は無いんだぞ!!!」
「お・・・俺達殺したら次に死ぬのはお前なんだぞ!!!」
長年ヴェルザーの苛烈さ外道さを間近で見て来た者達は本心を口々に叫び出す。
ヴェルザー程言葉を軽んじる者はいないと。
どう見ても目の前の娘っ子は人殺しなぞ出来る者には見えない!だが、娘っ子を返り討ちにしたところで今度はヴェルザーの手で殺される!!
少しでいい、まだ死にたくない者達はティファを反意させようと必死に叫ぶ。
どうやらヴェルザーは娘を弄ぶのが楽しいらしく、自分達の命などどうでもいいようだ。もしかしたら抵抗をつづける娘を嬲り者にしろと自分達に命が下るかもしれない!!
その時ヴェルザーが喜ぶような途轍もない非道で娘を嬲り者にすれば、気に入って気紛れに助けてくれるかもしれない。
淡い期待に叫ぶが、ティファの耳に何一つ届くことは無かった。
最早地上と天界の為にと、覚悟を決めたから。
「よせティファ!!やめるんだ!!!」
「っく!!!よすんだお嬢ちゃん!!!!!」
「おやめくださいティファ様!!」
「やめてくれティファよ!!」
「キルバーン!!お前の空間ではあの場所に行けないのか!!」
「やったさ!あらゆる空間を開けた!!それでもあそこに行けない・・・ヴェルザー!!!」
「やめてくださいティファさん!!」
最終決戦のこの最後の時に、敵味方関係なく誰もがティファを止めようと声を限りに叫ぶ。
愛おしいのだティファが!敵であれども、殺す事になっても穢す事をバーンもキルもそしてミストをしても望んでなどいなかった!
だが、声は届かずティファがふらりとまた少しヴェルザー配下に近づき、ヴェルザーひとりが喜ぶ状況に、ポップは渾身の力で叫び上げた。
「起きろダイ!俺達の妹が穢されようとしてんだぞ!!いつまで寝ている積りだ馬鹿野郎!!」
外が騒がしい、羽虫が外野で騒ごうとも声など届く事などないとういうに
バーン達の事も同時に見ているヴェルザーは、ポップの魂の叫びすらも嘲笑う。届かない声を、馬鹿みたいに叫ぶ愚か者たちが。小娘が穢れた時どのような顔をするのか見ものだ。
バーンは、小娘が穢れた時どうするのかも。
そのまま地上を消すか?それとも怒り狂いて俺の居城に黒の核晶で報復するか。
どちらに転んでも自分は痛まないのでどうでもいい。後者であったとしても、配下が死ぬだけで自分は死んでも輪廻転生でまたヴェルザーになるだけなのだから。
今は、ティファを・・・・・
ザァ~
「さあ、力は返した。存分にお前の力を振るえ。なに、お前の力なればあっという間に・・」
「・・・・う・・・ん・・・やく・・そく・・」
ふ・・・・ふっくっくっくっく!!ハァハッハッ八!!
「ああしてやろうとうも!お前が力を振るい!!羽虫共を殺し尽くせば・・・」
「そんなことしなくていいよティファ。」
これから命を刈り取ろうというティファが、子供のように約束を口にした事がおかしく感じたヴェルザーの言葉を、静かで、それでいて力に満ちた声が遮った。
その声に、何をしてでもここから兄と共に・・・最悪は兄だけでも出そうとしたティファが勢いよく後ろを振り返る。
「・・・・・ど・・して寝ててくれなかったの・・・」
瞳に映った者を、ティファは涙を流して詰る。全てが終わるまで、自分の酷い事を見られたくなくて寝ていて欲しかったのに!!何故!!
「そんな酷い事をティファにさせない為にだよ。」
妹の危機に、当身を喰らったダイの目が完全に覚めて妹に歩み寄る。
「起きたのか小僧。」
「・・・・・・」
二人の間にヴェルザーがするりと割って入りダイを見下ろすが、当のダイは無言でヴェルザーに瞳を睨みつけたまま歩を進めて妹に近づく。
一歩、また一歩と、ティファとは全く違う力強さで歩を進めるダイの姿にヴェルザーは苛立ちを覚える。
魔界で先の決戦時に見た時はティファ以上の甘ったれた面をしていた小僧が!何故-バラン-と同じ様な目で俺を見る!!
バランほど、自分の長き生涯に渡って苛立ちを覚えさせる者はいなかった。敵対する者たちは皆憎悪と嫌悪とそして、差異はあれども怯えた目で自分を見ていた。
自分を畏怖しながらもそれでもかかってくる愚か者達を嬲り者にして殺してきた自分を怖れ気も無く、澄んだ瞳に力を乗せたあの目を!くりぬいてやりたいと何度思ったか知れない!!綺麗事ばかりほざいたあの愚か者と同じ目を・・・
「分を弁えろ小僧!!」
「ダイ兄!!」
「・・・く・・」
苛立ったヴェルザーは闘気でダイを押し潰して地べたに這いつくばらせせせら笑う。
この体は映像でも幻などでもない。自身の築き上げた亜空間でならば、自分の力を依り代に込め、力を振るうことが出来る。
もっとも本体の千分の一でしかないが、ダイ達の力を落としているのでこの程度で十分通じよう。
「貴様には似合いの姿だ。妹を守れない無様な兄としてそこでただ眺めていよ。さぁティファ、-兄-を殺されたくはなかろう?」
「ひ!」
「さっさと羽虫共を殺して・・・何?」
ダイを這いつくばらせたヴェルザーは、良き質が出来ただけだと嘲笑い、ティファを促そうとしたが・・
ヒィィィイ・・・・・・ヒィィィインンン!!!!!!
「させない・・させるものか!!ティファを・・・妹を守るのは俺の役目だ!!」
闘気の圧力に押し殺されかけても、ダイの心は折れる事無く全身の力を込めて抗った。
ティファ!!ティファはそんな事をしてはいけない!!敵を倒すのも、殺すのも勇者の俺の役目なんだ!!ティファは・・・ティファは俺が守るんだ!!!
ああああああああ!
ティファを守りたいと願う心からの叫びが、体内深くに宿ったティファの紋章が応える。
兄の求めに応じる様に、ダイの左手の甲に
ヒィィィインン!!!!
紋章が輝き、竜闘気特有の青白い力の奔流がヴェルザーの亜空間を渦巻き
ピシ・・ピシリ・・・・ビシッ!!
「なんだ・・・どうなっている・・・・何をした小僧!!!」
空間に亀裂を走らせる。
にぃ・・・とうとう・・・
心の奥底で躊躇い、使う事を怖れた力を使ってでも、ダイには守りたい者がいる。
ティファを守るんだ!!!
「妹から!!ティファから離れろヴェルザー!!!」
叫びながらダイはヴェルザー目掛けて加速し、不意を突かれたヴェルザーは対処できず、ダイの左拳をまともに食らって吹き飛ばされた。
ヴェルザーのダメージはそのまま空間に響き、亀裂が益々深まるのと比例してダイとティファは力が元に戻っていくのを感じる。
・・・・空間の効力が・・・・これなら!!
「ダイ兄!!こっちに来て-アレー撃って!!!!」
力が戻り空間の亀裂を見てとったティファは瞬時に策を弾き出し、ダイに手を伸ばして、伸びた兄の手を握って一足跳びでヴェルザー配下の真ん前に着地し、怯える者達にティファは力強く声を掛けた。
「-全員-でここを出よう!!皆で!!!!ダイ兄!!双竜ならあれが撃てる!!ヴェルザーを討って!!!」
妹の無茶ぶりに、ダイは苦笑しながらも妹の頭を撫でながら了承する。
「全員でここを出よう。」
ふわりと笑いながらも、頼もしく答えてくれる兄にティファは泣きたくなる。もしかしたら敵になっていたかもしれないヴェルザー配下も救う事を了承してくれる兄に感謝し、呆気に取られている配下達を自分の側近くに寄る様に声を掛ける。
ダイ兄ならあいつをやっつけてくれる!!!
「・・・戯けが・・・俺以外此処からお前達を出すことなぞ・・」
「黙れ、出来るかどうか、お前は黙って見ていろ!!」
左手の甲のみならず、右の、本来の自分の紋章までも発動させたダイの口調は、ティファも聞いたことがないほど乱雑な言葉遣いであった。
ダイの心は既に忍耐が切れていた。意識は戻っていた、だが体はティファの当身のダメージで動くことが出来ず、寝ているのと変わらないので目を瞑っていた。
ティファが、自分とヴェルザーを会わせたくないのであれば、自分の体が動くまでティファの子供の様な思いを叶えようと。
ティファに投げかけられた残酷な言葉に心を乱さないようにするのは苦労したが。
「小僧!!図に乗るな!!!!」
「貴様こそ!!!消え失せろ冥竜王ヴェルザー!!!」
ヒィィィインン・・・カァァァ!!!!
左拳の紋章を下に、右拳の紋章を上にし重ねたその形を見たティファは、半信半疑で自分に寄って来たヴェルザー配下に動かないように指示を出し、配下達を守る為に完全詠唱のジ=アザーズの結界を張り、ヴェルザーはその形に驚愕する。
「き・・・貴様まさか!!!」
「二度と俺達の前に現れるなヴェルザー!!!!」
ドルオーラ!!!!!
ダイの両拳が-口-を開いた時、光の奔流がヴェルザーを貫く。
「お・・・・おのれ小僧!!ティファ!!!」
断末魔に怨嗟の声で二人の名を呼びながら消滅していくヴェルザーの分体を消し去り、空間をも砕いて行く!
「ダイ兄!!こっちに!!!!」
空間の崩壊にダイが巻き込まれる前に、ジ=アザーズの結界を固定して残したまま兄に駆け寄り、連れ去られた時とは反対にティファがダイを力強く抱きしめる。
「ティファ・・・・戻ろう。」
「うん・・うん!!!戻ろう!!!みんなの所に・・・」
果たして、空間がひび割れガラスが粉々に割れる音がした後、空間は完全崩壊した。
空間崩壊の衝撃に閉じてしまった目を開けばそこは白い床の上であり、見回せば青い空と白い雲、そして高い塔が中央に聳え立ち、呆然としている全員に温かい太陽の陽光が降り注ぐ。
ダイとティファ、そしてヴェルザー配下全員が、パレスのある地上へと戻れた証であった。
今宵ここまで
これと前回のサブタイトルは韻を踏んだように付けて見ました。
配下を大切にしてきたバーンとは違い、これまで出してきたヴェルザーの悪行の集大成を出しきりました。
その上でダイの真の力の覚醒の踏み台となり、報いを受け今頃は-分体-のダメージのせいで魔界の本体は激痛で喘いでいます。
本体は封印されたままで、力を分けた依り代に憑依し好き勝手させましたが、真の一からとは程遠いのでダイの双竜紋の前に呆気なく敗れました。
ダイの口調は、双竜紋を額に合わせて竜魔人化となった時の原作のダイ君を参考にしてあります。
戦士として、兄としてヴェルザーの非道に怒りに震え、とうとうダイもキレたのです。
これで勇者達の敵は大魔王と死神と影の参謀だけとなりました。
ティファを双方の陣営が案ずるも、大激突する事に変更はありません。
次回短い話の後に両軍激突の運びとなります。