勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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黒き影の思い

玉座の間での戦いが始まり随分経つが、三つの戦場では変わらない激突がポップとティファと玉になってしまった者達の目の前で繰り広げられている。

 

戦いの余波が時折届くだけでも、ポップには受圧で押し殺されそうな空恐ろしさを感じ、その度に冷や汗を流すが決して戦いから目を背けずに両の足に力を込めて耐えている。

後ろには守るべき妹と玉にされた仲間達がいる・・・クロコダインは戦いに参加する事すら敵わなかった事が無念だろう。

戦士として、この一行の年長者として、今まで様々な死闘の旅に互いの背を預けていただけにその無念と嘆きは自分にも分かる気がする。

おそらく自分が玉になったれば、どのような、其れこそ命を魔力に変換してでもと思い詰めようし、実際に出来るのならばやる。

 

 

それを見越してか、ティファは玉になった者達に時折声を掛けている。

 

心の底からの応援は必ず皆の力になると。自暴自棄にならずにダイ兄達を共に応援して欲しいと。

 

きっと今頃、姫さんもチウもおっさんも声をからす程に声援を飛ばしてるだろう。

俺はその声に力を貰ってここで踏ん張って戦局を見逃さずに素早くサポートする。

少しでも全員が楽できるように。

 

そのポップの目に、そしてティファから見ても徐々に戦局の流れが変わっている戦場が一つできた。

ヒュンケルとマァムがタッグを組んでミストを相手取っている戦場である。

 

 

ティファ程の聖炎程ではないが、ヒュンケルもマァムの光の闘気を完全に使いこなし、マァムなぞは打ち込む拳と足技の全てに光の闘気を練り込み少しずつであるが自分の体にあたる暗黒闘気が消されて行く。

この段階ではまだ支障はないが、長引けば不利であるのは目に見えている。

だが有効な打開策を見つけるには二人の猛攻が思考の邪魔をしてうまくまとまらない。

ヒュンケルの半分以上を己が育てたとはいえ、これ程の才をこの短期間で開花させたかと驚愕しながら。

 

数か月前も不死騎団の団長を実力で勝ち取る程であったが、心に余裕など全くなく、力の本質に必要な心・技・体の内の心などなかった者が・・・仲間とタッグを組んで己の引き出せる数倍以上の力で向かってくるとは・・・・感慨深くもあるが!!こちらにも譲れぬものがある!!!

主を!魔界を絶対に勝たせる事こそが我が望みの全てだ!!!

 

ミストは闇の衣に両手を掛け、封印の石は割らないまでも限界まで広げ、己の暗黒闘気を開放し、自分とヒュンケル達を取り込む様に広げ、一種の暗黒闘気の結界を作り出し、技の伝導性を高め、闘気の密度が高まった時に陣をめぐらせた。

 

「闘魔滅砕陣!!!」

 

しまった!!!

 

暗黒闘気が自分達の周りを囲んだ時、ヒュンケルもマァムも警戒を怠る事は決してせず、何処から技が来ても対処できるように背中合わせになっていたのがこの場合は災いした。ヒュンケルがミストが技の名を口に出した時、マァムを連れて暗黒闘気の結界内から出ようとしたが時すでに遅く、マァムの方を向く前に闘気で伝導性を上げた陣は素早く纏まっている二人を同時に、蜘蛛の巣にからめるが如く捕えその身に激痛を与えた。

その痛みは体そのものをバラバラにするが如く鋭く、ヒュンケルもマァムも声にならない悲鳴を上げ苦痛にのたうつのをミストは冷静に見据えながら、両の手を剣に変える。

 

 

せめて我が手で・・・裏切られたと分かった時には怒りが湧いた・・憎しみよりも先にだ。そして次に来たのは失望。この者もまたバーン様の偉業をなさんとする志を理解しきれなかったのだという思いと一抹の寂しさを・・・決して本人にも周りも明かす事の無い複雑な感情をヒュンケルに抱いた。

 

魔界の現状とバーンの理想を語るには、ヒュンケルは幼すぎ、またアバンへの復讐心が強すぎそれのみを糧にして生きようとする幼子に語れるものでもなかった。

それでも良かった。バーン様の下で力を振るうのであれば、他の軍団長と同じく自分本位であってもよかったものを。

バーン様もそれでよいと笑っておられていたのを・・・己達もまた天界に復讐戦と誓った身であり、ヒュンケルの憎悪が心地よかった。それを目にするたびに自分達の復讐心を新たに燃やすことが出来ていたのだから。

 

其れが敵の、其れもかつて裏切ったアバンの弟子にまた舞い戻り魔王軍に反旗を翻し、遂には世の者どもからあれがアバンの長兄よと称賛され、その事でどれほど主が失望した事か!そして暗黒闘気の何もかもを付立てた自分の心もまた・・だが!それもこれまで!!!

 

-外-からティファとポップの声が先程から聞こえてくる。中で何が起こっているのか見えず、それ故に下手に援護の攻撃も出来ず、聖炎で散らそうとしても一向に減らない事に焦り、ポップも真空呪文を試すが全く減らない闘気に怒りを滲ませている声がする。

 

今暗黒闘気の結界で外部からは内部の様子は見えず、濃度も通常の倍、其れこそティファがゴブレットで飲んだ以上の密度で覆っているこの場は、ティファが聖炎で燃やそうとしても容易には燃えまい!出来たとしてもその頃には二人はくし刺しになっている!!

 

 

そんな中、ヒュンケルとマァムは静かに目を閉ざしていた。

 

捕まり身動きが叶わない事に自暴自棄になったのではない。二人は自分の体内の気を指示かに練り上げ、そして間に合った!!

 

無言で両の手の剣で二人の首を同時に刎ねようとしたミストが迫った時、二人の目はかっと見開き体内で練り上げた光の闘気を存分に放出し、その威力は凄まじく、自分達を捕らえていた陣と暗黒闘気の結界のみならず、迫りくるミストを空中へと舞い上げさせた。

 

「「ミスト!!」」

 

激突を繰り広げている最中であってもバーンとキルはミストの身を案じ駆け付けようとしたが、激突相手がそれを赦す筈も無く進路を塞がれ、苛立ちながらもミストの名を呼び続ける。

ミストの体が空中を舞うに任せ全く動かない事を案じて。

 

ただの闘気ではない。古来より邪を滅する光の闘気の渦が、攻撃に集中するあまり防御を怠っていたミストに容赦なく叩きつけられたことで本体其の物にまでダメージが行ってしまい、生物であれば脳震盪のような状態に陥いるが、二人の声で意識を取り戻し体勢を立て直そうとしたが其の隙を陣を脱したばかりの二人は見逃さなかった。

 

ミストバーン・・・・せめて俺の手で・・・

 

「マァム!!闘気を練る時間が欲しい!!!」

「分かったわ!!存分に練って頂戴!!!」

 

ヒュンケルの求めにマァムは力強く答え、手甲を鎧化し、空中でまたよたついているミストに追いすがりながら己の内部の闘気を更に高める。

 

体制の整っていない相手に攻撃をするのは卑怯かもしれない、少なくとも今までそんな事をしたものは自分の周りには一人もいなかった。

それでも!自分達が敗けるわけにはいかない!卑怯と言われようとも!!

 

「武神流猛虎破砕拳!!!」

 

閃華裂光拳ではマホイミの威力が暗黒闘気で覆われているミストが使用している体に届くか分からず、ならば自身の技で最大の物理攻撃で光の闘気をねじ込みダメージを与える方が良いと、老師に授けられた奥義を解き放つ。

 

ミストも脳震盪状態から回復したばかりだが、伊達に修羅場や死地を幾度も経験してはいない。

両腕を交差させ暗黒闘気で防御しつつ力を抜いて落下するに身を任せ墜落しながら、技の威力を半減させた。

 

マァムも技が決まらなかったのを手応えで感じながらも笑みを浮かべる。

その様子に、ミストは途轍もなく嫌な予感がし、自分よりも一足先に地面に着いたマァムではなく、かつての弟子の方を見れば、左腕を前方に突き出したあの構えは!!

 

「ミストバーン覚悟!!!」

 

ヒュンケルも、かつての師に複雑な思いを抱えている。自分を今日まで大きくしてくれたのは間違いなくあの男であり、戦いの本質を教えてくれたのはアバンでは無くミストであった。

それは非情で容赦のない教えであったが、死闘を生き延びる力を与えてくれたのは間違いなくミストバーンであったのだ。

 

だからこそ!!貴方が育て鍛えてくれた末に生み出すことが出来たこの技で!!師よ!!!貴方を打ち倒す!!!

 

ブラッディ―スクライド!!!!

 

限界まで高めた光の闘気は、ブラッディ―スクライドの渦を通常の数倍の大きさの黄金の渦へと変貌を遂げさせ、ミストを飲み込みながら玉座の間に暴風を巻き起こし、戦っていた者達は一時中断せざるおえなくなり、暴風が収まるまで耐えなければならなかった。

 

それ程の凄まじい技の威力が消えた時、カツ―ンと、一つの玉が玉座の間に音を立てて床に転がった。

 

アバンの使徒の長兄として撃てるようになったアバンストラッシュではなく、かつて自分を育て技を生み出させてくれた師への自分なりの恩返しとして、ブラッディ―スクライドを放ったヒュンケルと、武神流の奥義である猛虎破砕拳を撃ったマァムも全ての闘気を放出してしまい、ミストを追うかの如く玉となり転がり、床の上には三つの玉が寄り添うように並んだのは偶然であろうか。




今宵ここまで

凄まじいブラッディ―スクライドも、ミストの暗黒闘気が辛うじて防御を上回り止めはさせず、また作中で書いた通り二人も限界まで闘気を使った事で決闘の場に相応しくないと判定をされ玉となり、引き分けとなりました。

残るはキルバーンとバーンのみですが果たしてどのように決着が付くのか、もう少しかかります。

そんな中ですが、筆者の都合により明日は投稿できません。
ストックを作って予約投稿という手もあるのでしょうが、筆者の筆は物凄く遅く、続きをお待ちの方には申し訳なく思います。

明後日には投稿を再開いたしますのでよろしくお願い致します。
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