勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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世界中の明日の為に➃

赦して欲しい、地獄を見せる事を

赦して欲しい、見られる者達の矜持を傷つける事を

 

 

これからする事を思うだけでティファの心と表情は暗くなり、その心を反映させるような歌声を、ティファは小さな声で紡ぎ始める。

其れは本当に暗く重く、聞いている者達の心を締め付けるティファが歌うに全く相応しくない歌声は、気が付けば精霊達と王も歌い始め、柱から延びる光の線がいつしか黒く染め上がり、徐々に地面に沈み始める。

 

深い深い声に呼応するように六芒星は下へ下へと向かい始める。

 

三神達を始めとした、精霊王達とティファが救いたいと願ってやまない者達の故郷へと。

 

そして六芒星が地の底へと到達した時、地上界と魔界を繋ぎ、繋がったと同時に六芒星は全ての魔界の者達に地上を見せた。

突如として目の前にあるはずのないものが見え始め、魔界の全土は地上以上の大混乱に陥り先程以上の声が響き渡った。

 

 

 

何だあの青い天蓋は⁉

眩しい!!あれは・・・あれは一体・・

緑の・・・あの綺麗なものはなんだ⁉

大勢の人間・・・もしや!今目にしているのは地上とやらか⁉

なぜ突然我等の目に・・

あの眩しいものが、もしや大魔王バーン様が魔界の為に手に入れんとしている太陽とやらか・・・

 

其れは魔界のみならず、地上の者達も魔界の光景が飛び込み、混乱をする前に戸惑いを見せた。

 

暗く澱んだ空気が常の魔界は、採光は蝋燭か少量しか取れず富裕層、其れも特権階級の者だけが使える油のランプ。掘り出せば空の代わりにある天蓋に埋め込まれた水晶群が、火山の光を乱反射させた光のみ。

見ているだけでその地がいかに不毛であり、一度人間が踏み込めば死んでしまうと分かる其の地に、数多見える魔族と地上のモンスター達とは形状が全く違う種類のモンスター達を見て直ぐに分かった。

 

この荒れていると言ってもいい足りぬ不毛の大地こそが

 

「これが・・・・魔界なの?」

 

ダイは身の底から溢れる怖れと共に呟くように声を押し出す。

もしも今自分達が見ているものが魔界であるならば、自分は生きていけない!かつてティファが叫んだ通り、こんな慰めも何もない地では自分は生きていけないという怖れと共に。

 

デルムリン島は豊かな島。文明社会などとは無縁であっても何不自由なく生きてこれた。

其れはウォーリアー船長達が服をくれお菓子や甘味、作物を届けてくれたからもあったのかもしれない。

それでも、きっとそれがなくとも自分と妹と爺ちゃん達と島の皆でお日様の下で笑って暮らしていた気がする。

何もないように見えて、海の中には魚が居り、島の果実は季節ごとに必ず実を結んで自分達の血肉になってくれていたというのに・・・

 

ティファ達が歌えば歌う程に、六芒星の陣は魔界の深部へと進んでいき、奥に行けば行くほど暗くなり、遂には採光すらが無くなった時、六芒星の陣がまた光り輝きだし-それ-を照らし出す。

 

「ヒッ!!!」

 

その声は誰が叫んだか定かでは無い。だがそれはもしかしたら見ている者達全員の声だったのかもしれない。

地上人はその光景に青褪め、声なく震え、バーンとミストとキルの目に、戸惑いが振り払われ再び怒りの火が灯る。

太古の昔にはそれなりに栄えていたであろう魔界の深部の現状は、それ程すさまじかった。

 

黒く澱み、最早凝って実態と化した瘴気が、生き物を飲み込み取り込み生きながらに腐敗させている様は、地獄としか言いようがなかった。

あまりの光景に誰も、何も言えない中、瘴気に侵され動く気力も無くなり蹲っていた瘦せこけた魔族の少年が、突如見え始めた物に手を伸ばす。最後の気力を振り絞って

 

「あた・・・たかい・・・・あれ・・なぁに?あぁ・・・・こんどは・・あそこに・・・うま・・・れ・・」

 

突如住んでいた村が瘴気に侵され食べる物も飲める物も無くなって久しく、自分を生かそうとしてくれた両親の声が聞こえなくなって幾日経ったか分からない。

逃がそうとしてくれたおじいちゃん達は更に濃い瘴気にすぐにやられて・・・それでも、自分の意識が全て無くなる前に暖かいものに触れられた事に瘦せこけた少年は満足したような安らいだ顔をして力尽きた時、悲鳴が上がった。

 

 

その様に、地上からの声が一斉になくなった

 

地上は柱の被害と戦の爪後があれど、海や山があり何処までも続く緑豊かな大地であるのに対し!魔界の凄惨さは筆舌に尽くし難く、地獄という言葉しか出なかった。

 

今この瞬間に死んだのは少年一人ではない!魔界の深部の至る所で、地上の温かさを羨み、そして少年と同じく最後に温かさに触れられた事を喜びながら息絶えていた。

 

最後まで言えずとも、その声は聴いている者達の心に確かに届いた。

 

今度は不毛の大地の魔界ではなく、あの暖かい物に満たされた地で生まれたいという彼等の切なる願いが。

 

 

「ハドラー!!何で魔界ではあんなに大勢の人達が死んでいるの⁉魔界はあんなに酷いところなの⁉」

「どうなんだよハドラー!!俺は・・・俺達はあんな・・・・あんな酷い目に遭っている人達と戦っていたってのかよ!!!」

 

ダイとポップを始めとし、マァムとチウ、そしてヒュンケル・クロコダインとラーハルトまでもが、魔界で生まれ育ったハドラーに詰め寄るように血相を変えて尋ねる。魔界の深部では大半の命が消えかけている!敵と戦っている訳でもないのにだ!!

 

しかしその答えをハドラーは持ち合わせておらず、それどころか魔界の深部の凄惨さを今日この時、ダイ達ともに知り同じように血の気が引く思いをしその問いに満足に答える事すらできなかった。

 

其れは同じ魔界であっても中心部と比較的深部から離れている魔界の者達も同じであり、同族が、魔界の深部が瘴気に侵されているのだと初めて知った者の口を噤ませた。

強者こそが生き残り、弱者は死んでも当たり前だと考えている魔界の者達を、青褪めさせるのに十分過ぎるほどの悲惨な事実を前にして。

 

魔界の者であっても到底生きていけない濃度の瘴気に包まれた地、そこに生まれてしまったが故にただ死んでいくだけの者達がいる事を、魔界全土の者達が今日初めて知ったのだ。

 

高濃度の瘴気が深部から広がり、其れはやがて魔界全土を覆うかもしれないという危機感と共に。

 

ダイ達の問いに、ティファが答える。

 

「魔界は、昔は地上にあったんだよ。精霊王様達が教えてくれた。」

 

魔界もかつては地上にあり、魔族と強靭な肉体を有した竜種とモンスター達と、人間と弱いモンスター達が共に地上で暮らしていた。それでも当時は大地に強い澱みがあり、強い種族の魔族と強靭な竜種とモンスター達が浄化しを引き受けてくれていた事を。

其れがいつしか自分達ばかりに負担が行き過ぎている事に気が付いた者達が不満を持ち、いつしか人間と弱い種族などいらないのではないかという考えを持ち始め、拗れ話し合いもせずに天界が魔界を地の底へと追いやった事を。

 

「・・・澱みは浄化能力が整った天界が引き受けたけれど、彼等の傷つけられた負の心が、もっと大きな澱みになって瘴気が発生したんだ。」

 

其れが長い年月を掛けて降り積もり、やがて魔界の現状を凄惨なものにしたのだと。

 

「大魔王、魔界はこの儘であれば数百年後には滅んでいるのでしょう?」

 

矢張り確信に満ちたティファの声に、バーンは無言であったが頷き肯定する。

 

「だからこそ魔界は地上を消したいのです。蓋になっているこの地を消す為に。

ここで疑問が一つ。何故魔界を地に落とした天界から滅ぼし、全ての聖なる加護の無くなり、易々と地上を滅ぼそうとしなかったのか?貴方の立場であれば、憎い天界に手を出さなかったのが不思議でした。」

「・・・今は?」

「この六芒星を乗っ取って初めて分かった事があります。」

 

ティファが、疑問だと言った事が最後は過去形になっている事にバーンは気が付き、ティファの導き出した答えを言うように促す。

何処までティファが分かっているのかを知る為に。

その問いに、ティファは素直に答える。

 

「天界は目には見えませんが文字通り天に存在すると、精霊王達が教えてくれました。次元が異なっているだけで存在していると。」

 

そこからは推測になるが、如何に魔の六芒星を以て黒の核晶を爆発させても、先に展開を滅ぼしてしまっては爆発力が上空に逃げてしまい、地上を完全破壊できないのではないか。

だからこそ爆発を逃がさない蓋とする為に天界を残しておいたのではないかというのがティファと三神達と精霊王達が導き出した答え。

 

 

ティファの答えはあっている。だが、其れが今更どうだというのだ?

其れは魔界に住まうのも達に死ねと言っているようなものであり、バーン達の心をさらに冷え込ませてティファを冷たい目で見据える。

 

魔界は知った事実に大混乱をきたし、いつか自分達もああなるのだという現実を知らしめさせられ、阿鼻叫喚を引き起こした者を。

 

精霊王達も、その声を聞きながらティファが次の妖精歌を歌わない事に焦れ始める。

この声の者達を救わんと今日まで来たのを、ティファは一体何をぐずぐずとしているのだと。

 

だが、ティファはバーンや仲間達、精霊王達の視線の問いに対して沈黙をして静かに待っている。

 

-その声-が必ず上がると信じて

 

果たして魔界の者達の悲痛なる叫び声とは違う声が、一際大きく響き渡った

 

死なないで!!!!!

 

来た・・・・来てくれた・・・

 

上がりし声に、ティファは安堵したような泣き笑いの顔となり、崩れ落ちそうになる。

そのティファの様子に応える様に、次々に声が多く、そして大きく響き渡り始めた

 

「死なないで!!死んじゃ駄目だよ!!!」

 

小さな子供の声が、死にゆく名も知らぬ少年に死なないで欲しいと叫んだのを皮切りに、大勢の悲痛な叫び声が世界を満たし始めた

 

「助けて!!!誰か助けてあげてよ!!!」

「あの人達が死んじゃう!!お父さん!助けてあげられないの⁉」

「ああ駄目だ!!逃げろ!!!そこにいては死んでしまう!!」

「まだ間に合うわよ!!諦めないで走って・・・・あぁどうして!!!!」

 

死なないで欲しいという声が、青褪め口を噤んだ地上人達のそこかしこから響き渡った

 

どうして命が簡単に消えるのだという嘆きの声に、ティファは涙を流して喜びたくなる。

 

世界は弱すぎも酷すぎもしない。まだ何も、誰も救えていないがそれでも!種族が違えど救いを求める人達を助けようとしてくれる人達がいる筈だと信じて来たのだから。

 

助けよう、私の全てを使って・・・・使い切ってでも助けよう




今宵ここまで
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