全方向蒼天の世界は、何もない世界に見える。
けれど私は知ってる。ここには確かに天界がある事を。魔界を沈めた後、瘴気を一気に天界に引き入れた後、外部と
だから必ずここに天界はある筈なんだ。
三神からも六王達からも話を幾度も聞いて確証を持っているティファは、躊躇わずに全方向に向かって闘気を放出する。通常の魂であれば成しえない事を、大地と精霊王達の力を取り込んだ今の自分であれば可能であろうと考えて。
果たして自分だけの色の白い闘気は、雲一つすらない蒼天の空を駆け抜け、自分のいる所より上空にて弾かれた。
闘気が当たった所に、魔法陣の様な文様が薄っすらと浮かび上がる。あそこだとあたりを付けたティファは、上空に飛び上がってさらに近づきそっと手を前に差し伸べれば、打ち据えられて拒まれたように手が弾かれた。
間違いなく此処が天界を十万年もの間閉ざさせた結界の端。浄化を終えても尚も外界と隔絶させ、魔界の惨状を放って置き、弱いからと助ける筈であった地上が幾多の困難な目に遭おうとも、神託と使者を遣わせただけで済ましていた最大の原因。
現在の神達を悩ませ、挙句が心痛に追いやり涙を流させた元凶・・・でもそれが元凶と言えるのは後の時代、つまり当時の事を本当の意味で知っていない部外者の口さがない憶測による言葉だ。
いけないけない、ファブニールの竜で学んだはずだ。真実も当時の人の思いも、知った気でいるのが一番いけない事だって。
だから知ろう
「起きられよ、原神たる神、この世界の円環を閉じられ天界を守りし尊き御方。太古よりこの世界を眺めせしヴァルガブル・パテラス神様。」
結界に弾かれた事で位置を完全に特定したティファは、自身の魂が傷かつかないギリギリの範囲まで近づき、両手を押し当てるように前に差し出し-名-を呼ぶ。
三神達の前神にして、かつてこの世界に生じた全ての生き物たちをたった一人で見守ろうとした神の真名をはっきりと言葉にして呼んだ。
真名は高位の者であればある程に拘束力が発揮される。光の精霊王のはずれの息子、パック・スクィールを真名で呼び寄せたように、現存する魔界の古書にも記されていない前神の真名たるパテラスを付けて呼び寄せた。
ティファに呼ばれた事で、肉体と全ての力を結界にして天界を覆い尽くしているヴァルガブルの体は全て顕現し、天界の全容が露になる。
その広さは地上の、死の大地を除いた五大大陸のを合わせた大きさの半分ほどであるが、其れを全て覆い尽くしている結界の凄さにティファは鳥肌が立つ思いがする。
見えないのだ天界が。
確かに結界は露になり、巨大と言っても言い尽くせぬ複雑なる魔法陣の文様が、球体となって天界全てを隠し尽くしている。
十万年経った今を以て衰えず天界を鎖国させている力と、その歪みにたしいして。
その球体の魔法陣の一角の文様が、眼球の形となりティファと目が合った。
色はなく、白い眼はじっとティファを見ている。まるで品定めをしている様に。
どれ程の時間が経ったか。数瞬かも知れない、永劫かもしれない、分からなくなる程の力の圧に怯みかけたティファに、眼球から声を掛けられた。
「お前は全く読み取れん。」
「・・・・・」
「お前の頭の中身と魂を調べ尽くしたが、私の目を以てしても見通せん。」
「私は・・・初めてお目に掛ります。前神たるヴァルガブル様にご挨拶を。私は当代の竜の騎士が、人の女性と交わり生まれた双子の片割れでティファと申します。竜の騎士はご存知でしょうか?」
「・・・あぁ・・・数千年前、私が目を覚ました時に-三界の調停者-を生み出したと-四神達-がはしゃいでいたな。
そうか、その末裔が人の子と交わり・・・・興味深い。」
「ご存知であれば・・」
「だがな、お前は答えていない。」
「答え?」
「お前の中を見ようとしたが全く見えなかった。私の子が生み出した者であれば、私が読めぬはずが無い。」
「それは・・」
「お前はなんだ?何故読めない・・・何故私の力が及ばない!!」
「其れは!今から!!」
「お前は怪しい!!!さては私の子等が作った者が変質し悪しき者になりて私の頸木から外れたか!!!」
「そんな!!違い・・」
「お前も-あの者達-と同じか!!!!」
「ヴァルガブル様!!私は・・・」
「もうよい!!!何故だ・・・何故あれ程愛情を注いだというのに-お前達-は私を、私の子等を悲しませるのだ!!どこまでも勝手で!救おうと言った手を要らぬと弾き!!戦乱を呼ぶ愚かしさはまだ直っておらなんだか!!!」
「違います!!話を!!!」
「言葉は不要だ!!!」
ティファの事が読めない事を、何かと勘違いしヴァルガブルは激昂し、次第に思考を狂わせていく。
ティファの魂は異界の者が混じっており、それ故にバーンのハイエント、ヴレ=アナリュシスを以てしても力が及ばず見れなかった。異界の魂を、本人の同意も無く見る力はこの世界には無く、ヴァルガブルの力でも見る事が叶わなかった。
その事がヴァルガブルの何かに障り、彼を苛立たせ思考が怒りへと変貌してしまったのだ。
「お前達力あるものは何故力だけで解決を・・・何故話をしようとしない・・・」
繰り言のように紡がれるヴァルガブルの冷たさを孕んだ言葉に、ティファは背筋が凍る思いをしたが逃げ出さず、果敢にも話を試みようとして近づいた瞬間
「お前の言葉はいらない」
「え?」
魔法陣の文様が姿を変え、多数の金色の細い触手がティファを覆い尽くす。
「お前の身に全て聞こう。」
言葉ではなく、魂の記録全てを読みつくさん
すべて私に晒し尽くせ!!
今宵ここまで
前神にして生物全てを見守り加護を与える原神の漸くの登場でした