勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主人公もまた、人の子なのです


明日が欲しい

貴様等に俺の苦しもの何が分かる!分かるものか!!!

 

 

天界に、三神達に苦しみにのたうち回れと言った当の本人、ヴェルザーこそが苦しみ苛まれのたうち回る人生を送っていた。

 

寿命で死んだ事がないから分からないが、襲われ殺されても、瘴気の浄化の役目を拒んで侵され病で死のうとも、何をして死のうとも自分はヴェルザーである事をやめさせてくれなかった天界を呪いながら、数万年の時を渡ってきた。

 

浄化して救っても、それでも瘴気はなくならなかった。もとよりなくなる筈も無かった。

その事を思うだけで、魔界の領地に石像として封じられている胸の奥が、怒りと憎悪の炎が燃え広がる。

 

嫉妬・憎悪・謀・裏切り・羨望・渦巻く魔界の惨状に、始めの五千年くらいは本気で浄化をしていただけに、次第に魔界に渦巻く負の感情に振り回され、其れで死んで終わりになる事の無い、真の意味での永遠を繰り返させられるこの身が呪わしく、自分をこのように作り出した三神達を、許す事なぞ出来はしない!今まで好き勝手をしてきた魔界も同罪で、救われる機会などという幻想を!踏みにじってくれる!!

 

 

そのヴェルザーの怒りを、ティファはその小さな体で受け止めている。

未開通のゲートを叩いて触れる度に、ヴェルザーの怨嗟に満ちた怒鳴り声がする。

数万年の降り積もった怒りを全てを吐き出すが如く、ティファにぶつけている。

 

御綺麗で、何をしても最後には人々から好かれる小娘に何が分かると、人間の様に八つ当たりの言葉を吐いて。

 

その言葉は聞いているだけのダイ達の方が怒りを沸かせ、今すぐ魔界のヴェルザー領地に乗り込み、ヴェルザーを滅殺したいと怒りを湧かせる程に。

そしてキルは主にそうするか伺いを立てようとしたが、バーンがダイ達と違って静かにティファを見ている事に気が付き口を噤んだ。

 

バーンは見定めようとしてる。ティファが、三神の側にいる天族・精霊王達率いる精霊達が何をしようとしているのか。

ヴァルガブル神の名が出た時から、バーンはティファのほぼ全てを知った。

 

矢張りティファは、天界と通じていたのだと。

予想は当たった。だがしかし刺客ではなかった。

どうやら何かの冗談である様に、三神とその側近たる者達は魔界を救うと言って必死に動いている。

 

それが嘘か誠か、真偽の定かをバーンは見守っている。

 

ダイ達もまたティファがしている事の意味を知り、途轍もない事をしている事が分かっても、止める気配がない。

それ程までに、ティファは必死だからだ。

 

未開通の入り口を何度も何度も叩き、握り締めた両拳から血が流れるのにも気が付かず、ティファは壁を打ち続ける。

拳から伝わる痛みを無視して。

 

 

これさえ壊せれば!!

 

 

「邪魔しないでヴェルザー!!そんなに他者の幸せ見るの嫌なら!!自分だけ閉じこもって二度と出てこない!引きこもり竜王になればいいだろう!!」

「そんな事で!!俺のこの怒りが消えるものか!!!」

「だからと言って自分の不幸を他人に押し付けるな駄目竜王が!!」

 

ティファは壁を叩きながらもヴェルザーの相手までしていた。理不尽で、ティファの方こそがヴェルザーの被害に一方的に遭わされ、危うく身も心も魂まですらが穢されかけたというのに。

 

始めはティファもヴェルザーの怒りを理解しようと努めていたが、最早罵詈雑言の罵り合いと化している。

 

馬鹿竜王、駄目竜王、理不尽の八つ当たり竜王と・・・竜王の名の価値が大暴落する程に

 

言われれば言われる程にヴェルザーの怒りが深くなり、とうとうティファに対して言ってはならない言葉を叫んでしまった。

 

「貴様の様に真の痛みを知らない小娘如きが何を偉そうに!!!!」

 

暴力による痛みではない、心が死んでしまう程の痛みを貴様は知らないと言われたティファは、心の奥底に仕舞い込み、見ない振りをしてきた痛みの蓋をこじ開けられドロドロとした感情かこみ上がり、全ての動きを止めた次の瞬間、ティファのあの叫び声が広間に響いた。

 

 

          「ふざっけるな!!!!!!!!!!」

 

顔を真っ赤にした、あの怒りに満ちたティファの怒鳴り声が。

 

「お前が!!お前だけが痛みを知ってるなんて事思ってるな!!確かに!私達には永劫を繰り返す痛みなんて、そんな辛さなんて分かりようがないさ!

けどな!それでも!!私だって何度痛くてこのまま眠りの底についてしまいたいと思ったか知れないのを!お前だって知らないだろうが!!!」

 

生きていくだけで、不安と苦しみを味わう理不尽さを、自分だって知っている。

息をするだけで苦しい日々が、叫んでも誰も来ないあの孤独感、冬の雪を手に取るだけで痛みが奔った弱った体を引きずって生きてきたあの日々を忘れた事なんて一度としてない。

その痛みを、転生した今でも何度夢に見た事か。目が覚めればもしかしたら転生していた方が壮大で長い、都合の良い夢であり、また苦しみを抱えるだけの体と日々に戻っているのではないかと怯えてさえいる・・・

 

「痛いのは嫌いだ!苦しいのなんてもううんざりだ!!そんな事を繰り返さなければいけない世界なんて!いっそ私と共に滅べばいいって何度思ったか!!」

 

其れはティファのが抱えている最後の秘密。今生において、決して表に出さない筈の痛みの秘密を、ヴェルザーは知らずこじ開けてしまった。

 

能天気で、御綺麗なはずのティファのドロドロとした怒りは、周りに沈黙を強いてただティファの叫びを聞かされるだけの場と成り果てる。

 

「どうしてこうも争いたがる!!助け合えばいいというのが綺麗事か⁉なら殺し合っているお前達は上等な者だって言いたいのか!相手を理解せず力づくをするのが高尚だとでも言いたいのか!!痛みを知らない子供のいう事だと!賢しら気な事を言うなって言いながら!憎しみを忘れず連鎖させる者が偉いのか!!他者を騙す者が賢いのか?それが偉大な大人だって言いたいのか!!!!」

 

ずっと心の中に仕舞っていたかった・・・・魔界が死に掛けても、放って置くのが正しいと言った天族の老害達にたいして。そして先の大戦のせいで凶暴化したとはいえ、最早何もしない無抵抗なモンスター達を殺して英雄面した者達にも、其の者達にも恩賞を与えていた者達にも。

助けたのに、自分を騙して殺そうとしたはぐれ魔族を、人間を、モンスター達を、笑って許す事が出来る程、私は出来た者じゃない・・・ただ、仕舞っただけだ・・・・忘れようとしていただけだ!!思い出すだけで許せない怒りが湧くほどに・・それでも・・

 

壁に両手を押し付けたティファの瞳から、涙がぽたりと落ちる。

 

「其れでも・・・どうしても・・・・世界が憎めなかった・・・・」

 

どんな目に遭っても、どうしても、どちらの世界に生きている生命に対する愛おしさが消える事は無かった。

 

辛いと言えば包み込んで守ってくれる人達は確かにいて、同じようにそれ以上に苦しむ人が、それでも泣いていた自分を慰めてくれたこの優しい世界を・・・愛しい者達がいるこの世界をどうして憎めよう

 

「憎めないなら・・痛い事が繰り返される世界を変えるしかないじゃないか・・」

 

憎んで壊すことが出来ないならせめて・・・・

 

「痛みが全て無くせなくても、生まれてもすぐに死ぬしかない馬鹿みたいな世界を壊すしかないじゃないか!!!

誰かが泣いても叫んでも放って置かれる世界なんて私はいらない!!死ぬ定めに生まれたなんて言う馬鹿みたいな言葉が当たり前の様に吐かれる世界なんて嫌だ!

生きていれば痛い事も悲しい事も騙されて酷い目に遭う事があって!それでも次の日には笑える日が来るかもしれない!次の日が駄目でも次の次の日が!それでも駄目でもその次の日にはいい事があるかもしれない、助けてくれる人が現れるかもしれない世界が欲しいんだ!!!

理不尽な死が罷り通れない!生まれたからには未来目指して歩いていける世界が欲しいと思ってなにが悪いってのよ!!!!」

 

 

好きな人達もそうでない人達でも、誰もが太陽の下で笑い合える権利がある世界が欲しいと願う事の何が悪いというのだと、壁に手を押し付けたまま俯いて泣きながら叫ばれる其れは、まさにティファの魂の叫びの全てであった




今宵ここまで

良い事と不幸な事が半々で、もしかしたら理不尽で不条理な事の方が多い世界において、主人公の願いは子供の戯言、或いは狂人の夢やもしれず、この願いもまた、他者に善意を押し付けるものなのかもしれません。

それでも、せめて物語の中だけでも、そんな綺麗事が通るかもしれない世界があってもいいのではないかと、この物語を書きました。

主人公の叫びは、何処まで通るのか。
もう暫くお付き合いくだされば嬉しく思います。
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