酷い事をされた世界を嫌いになれず、憎む事も出来なら変えるしかないじゃないか
「いいじゃないか・・・・笑って過ごす日常を望んだって・・・」
今日も明日もその次の日も、家族や大切な人達と笑い合って生きて行くだけの人生を望んね何が悪いか
晴耕雨読の人生を望んで何が悪いか・・・宝石が欲しいのではない、財産なんて食べていける分あればいいじゃないか
名誉なんていらない、地位もいらない、そんなものなくったてデルムリン島のあの島で笑って生きてきた
外は、素晴らしくてそして酷く醜くそして・・・愛おし人達と沢山であった宝石箱の様で・・・・
「開けてよ・・・・開いてよ・・・世界・・変えさせてよ・・・・」
最早腕を上げる力とて無くとも、ティファは気力のみで見えない壁を叩く・・・いや手を打ち付け続ける。
ボロボロと泣いて鼻水迄流しながら、其れすらもティファは気にもせずに壁を打続ける。
周りは、ティファの言葉の重さに縫い留められ動けずに、静寂の中心許ない音と、同じような弱々しい声が響き渡るたびに、聞いている者達の心をも打ち続ける。
賢人と呼ばれた者達がこの場には幾たりもいる。若き天才と師からも世間からも敵達からも言われた者とている中で、ティファはただの一度もその者達に問う事をしていない。
先程叫んだ言葉に応えられる者はいないと知っているかの如く
争いを無くす方法なぞ無い。生き物は欲深く、自然界の者とて清らかで無垢などというのが嘘なのを現実を見てよく知っているから
憎しみを捨てられないのもまた然りで、だからこそティファは自分の中にある怒りを誰に伝える事をしてこず、抱え込んで今日まで生きて来た。
伝えるだけ無駄だから
自分の抱える怒りを伝えたとて、相手は驚愕して終わるのが目に浮かぶ。話し合いよりも戦って解決する方が多い世界において、自分の考えの方が異端で外れておかしなことを考えているというのを知っている。
だから誰にも問うつもりはない
周りを一切見る事無く、壁を叩き続けるだけなのもその証拠で、ティファは自分達に何も期待していないのが伝わってくるのが苦しくて・・・・それでも・・・それでも・・・
「ティファ・・・・」
「あ・・・にぃ・・・」
「ごめんね・・・ティファがこんなに苦しんでる事にも気が付かない情けないにぃちゃんで・・・・怒ってたんだねずっと・・・痛いのも苦しいのも・・・全部嫌だったよね・・・」
「にぃ・・」
「苦しかったよね・・・・・」
「にぃ・・・うん・・・・苦しいの・・痛くて苦しくてこんな世界嫌いだ・・・」
虚ろなる人形の様に、ただ壁を叩くだけの妹の背後にダイも座り込んで抱きしめる。
ずっと共に育ち、母の胎内にいる頃から共にいた双子の妹の苦悩を分かってあげられないぼんくらな兄でいた事が情けなくて泣きながら謝る。
笑顔が良く似合い、島ではずっと笑って生きてきた妹に、こんな世界嫌いだ、言わせてしまう世界に怒りを感じながら。
ティファがもしも、先程の怒りに答えを自分に求めて来ても自分は答えられない。ティファが、魔界の者達が味わった痛みを自分は知らない。知らないのに答えられる筈も無く、それでも、痛み続ける妹を一人にして良い理由にもならない。
そして
「ティファ・・」
「にぃに・・・」
「うん、御免な・・・俺賢くなったつもりでいても、さっきお前が言った事なんててんで考えてなくて・・・ただ目の前の敵倒せばそれで終われるだなんて・・・駄目なんだよなそれじゃあ。きっと世界はそんなんじゃあ憎しみだらけになってさ、お前が笑う日が無くなっちまうんだよな。」
ポップも弟の後ろに座り込み、弟と妹をすっぽりと腕に納めて二人事抱きしめる。
未だ二人の小さな体の弟妹達・・・そんな二人に痛みを押し付ける世界なんて・・
「ティファ、お前はどうしたい?」
「ハドラー?」
「この世界をどうしていきたいですか?」
「アバン先生・・・」
「ティファ・・・・一緒に考えさせて。」
「マァムさん・・」
「お願いだから、一人で抱え込まないで!」
「姫さま・・」
「憎んで争う事なぞ俺ももうごめんだ。」
「ヒュンケル。」
「気心知れたものとも争わなければならない世界なぞ俺ももういらぬ。」
「クロコダイン。」
「僕も痛みをまき散らす世界なんて大嫌いです!」
「チウ君。」
「ティファさ・・・・いや小娘、お前の思いを言ってみろ。お前が抱えて来た言葉の後に、言いたい事がまだあるのだろう?」
「・・・ラーハルト・・」
その三人の周りを、仲間達が取り囲み、ティファの視線迄下がるようにと膝を折ってティファに優しく問いかける。
ティファは、この世界にどうなってほしいのか、心の底の願いを聞く為に。
ダイ達は知っている。ティファの中身がとんでも無く、この世界の常識が通じない所がある事を・・・それでも・・・
「お嬢ちゃんは何がしたい?」
「キル!!」
「お前は、どうしたい?」
「ミスト・・・・」
敵をも魅了してしまう優しい女の子なのを。
キルもミストも世界を呪って幾久しく、ティファの抱えている思いと痛みを知っている。
其れはきっと・・
「ティファよ・・」
「・・・・大魔王・・・」
「この壁を壊せばよいのか?」
魔界の神・バーンの方がより知っている。長い月日を魔界の惨状に心痛めながらも歩き続けて来た彼こそが。
バーンは静かに怒りを湧かせていた。真なる敵は矢張り天界であり、天族であった。
滅びゆく自分達を滅んでもよいではないかと言われたあの時、ティファが自分の思いを代弁するが如く怒鳴りつけなければ天界を滅しに単騎で行こうとしたほどに。
だがティファの言葉と、その後のダイの言葉で怒りが霧散してしまった。
怒りも憎しみも、狭い箱庭で行われているのに等しいと言われたのだから無理はない。
それでも、狭かろうが何だろうがこの怒りと憎しみは本物で、誰にぶつければいいと胸を焦がした時、ティファはそんな世界は嫌いだと言い放つ。
憎しみの連鎖を止める事もせず、殺し合いを続けて痛みをまき散らすだけの世界など嫌いだと・・
天族にも、ティファ達の様に自分達を救いたいと言っていた者達が大勢いたではないか・・・・一度だけ、たった一度だけ信じてみたい・・・・六大精霊王達も動き、先の神までもがティファがしようとする事を赦したのだから・・・信じてみたいと、生まれて初めて敵対した者を信じてその手を取りたいと思ったのだから。
「其方は本当によく似ている。」
「う?」
「いや・・・・よい、何時か・・・・魔界が救われた時、其れでも
自分の若い頃の話を。
幼い頃、自分の国が魔界の勢力争いに負け、両親は命をかけて自分を助けてくれた。
その後魔界の奥地を放浪していた時、気紛れで助けたスライムの・・・
「私って、ディニアス君に似てる?」
「ッ!其方・・・」
「御免・・・・記憶流れてきて・・・」
「そうか・・・・よく似ている。あれも己を襲った者達の家族を余が殺そうとしたのを泣きながら止めて来た者であった。殺し合いを続けるなんて怖いと泣いてな。」
弱いスライムが、魔界の強者たる自分が守ると言っても驕る事無く、集まって来た者達の間をぴょんぴょんと忙しなく跳ねながら種族の間を取り持ち、常に笑っていたディニアス・・・古・魔界語で愛しき者と名付けた者に、ティファは本当によく似ている。
あれの子孫を代々手元で保護して守り、今は魔界にいる。滅びに瀕した魔界に。
そうであった・・・あれも矢張りティファと同じで、戦いだけで解決したがる余を良く叱って来た。無論そうしなければ攻め滅ぼされる時には悲しんでいたが何かを言ってくることは無かったが、それでも、命が消える事を・・・・
数千年の時を超えて、再び余にとっての-ディニアス-を見つけられようとは・・
バーンは沈思しながら、ヴェルザーに念話を送る。
聞こえているなヴェルザーよ。
バーン⁉・・・・何の積りだ・・・俺にあの娘の言葉を聞いたからには改心しろとでも?
まったく違うな、そんな事で改心できるほど其方と余達の業は軽くあるまい
ふん!分かっているのならば何が言いたい!!
礼を言いたいのだ
・・・・・・
「礼だと!!!!!」
バーンの言葉にヴェルザーは念話ではなく、実際に驚きの声を上げてしまい、いきなりなんだとティファ達が警戒する中バーンは苦笑する。
「そこまで驚かずともよかろうに。」
「長年殺し合いをしてきた俺に!お前が礼などといえば驚くわ!!なんだ!?そこの小娘の為に俺の機嫌でも取って!世界を救う手助けでもしろというの!!」
「まったく違うな。見当外れもいいところだ。」
「・・・貴様・・・」
ヴェルザーの言葉に、バーンが何ごとかヴェルザーに対して礼を言いたいのだというのを知ったティファ達、特にキルとミストは心底信じられないものに対する視線で主を見てしまった。
ヴェルザーの言う通り、長年血で血を洗う魔界の掟に従うが如く、殺し合ってきた相手に魔界の神が礼をしたいと言えばそう成るのは当然であるが、バーンは本気であった。
理由はごく単純で・・・
「いつの頃からで、何時までであったかは知らぬが、其れでも魔界の瘴気を浄化してくれた事に礼を言いたいだけぞ。」
「!!黙れ!!!黙れ黙れ黙れ!!!俺が望んだ事ではない!!五千年も働いても瘴気を無くせない馬鹿な魔界を!俺は見捨てたのだ!!今更礼なぞいるものか!!そもそも瘴気が完全に消えれば俺の魂は解放されたのだ!!輪廻の輪に再び戻り!ヴェルザーではない何かになれていたのだ!!!!魔界など!天界と同じく憎んでも飽き足らんわ!!」
そういう約定の下で、自分は生まれたのを知って、本気で取り組んだのが馬鹿馬鹿しいと吠え上げるヴェルザーに、それでもバーンは言葉を紡ぐ。
「其方が五千年もの時間を守ってくれたが故に、-ティファ-という宝を得る事が出来たのだから。」
「・・・・・貴様・・・正気か?」
「其方も分かっている筈ぞ。」
バーンのその短い言葉に、ダイ達は訝しげな顔をしても自分には分かっている。ティファは間違いなく天界と繋がって育ったものだ。
おそらく魔界の寿命が近づき、神々が手塩に育てた使者なのかもしれない。
もしかしたら、どの時代であろうとも魔界が滅びに瀕した時点で、地上界にて目星をつけた者を育成して投入する手筈であったかもしれな。
そしてバーンは言わんとしている事は、使者が-ティファ-であった事だ。
自分だとて愚か者になったつもりは毛頭ない。八つ当たりをしてもだ。
ティファ程痛みを知り、其れでも世界が愛おしいなどと本気で言える者などいない。
敵を助けたいと、疲弊しても前に進んで救おうとする者もいないのは分かっている・・・分かっていても・・・この憎しみの炎が消える事は今すぐにある筈も無く・・・・
「もういい・・・お前達の好きにすればいいではないか・・・・」
疲れた
救う事も、怒りを抱き続け憎しみに駆られ続けるのにも、もう倦み疲れたわ
「こんな世界を、どうにかしたいのであれば好きにしろ・・・」
壁はそのままにして、其れでもヴェルザーは石像の本体に戻った。ティファ達が、この世界をどうするのか、それにより世界はどう反応するのか高見の見物をしてやると心の中で毒づきながら。
赦しはしない、されど・・・・あの叫び声に偽りの響きを聞き分けられなんだ俺の耄碌した耳に免じて見物に回ってやると言い訳をしながら、。
あの魂の叫び声に、何を感じて何を思ったのか知りたくも無いと背を向けて
今宵ここまで
憐れなる竜王は一時舞台を降りました
この世界のダイ君は、主人公の守りによって、原作の様に人から怖れの目を向けられることなく、それ故に主人公たちの心の痛みを理解できず、其れでも守りたいと願う優しい勇者に育ちました。
知らないからこそ分からずとも、心に影さす事なく真っ直ぐな男の子に。