勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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世界全てが繋がる瞬間、それぞれが願う事は


取り払われた壁の向こうに願う事

ヴェルザーが自ら引いた事で、ティファは改めて未開通のゲートを見て驚きの表情をした。

音こそ聞こえないが、向こう側からもゲートが叩く三つの手が見えたからだ。

 

若い手は人の神様で、少し大きく厚みがあるのが天神様で、一番しわくちゃなのが竜・魔神様手であろう。

指先や、拳から自分と同じく血まみれになっても叩く手に、自分だけではないこの世界を変えたいと願っているのは自分一人だけではないのだと思うと、涙はまだ流れたままではあるが、ティファの顔に決意の表情が浮かぶ。

 

「皆・・・あのね!私ね!!その・・・」

「良いティファ。」

「ふぇ⁉」

「余が知る其方は、温かく優しい娘ぞ。他の事なぞ知らなくていい。」

「・・・大魔王・・・」

 

なぜ自分がここまでの事が出来るのか、知っているのか成せるのかを端的に説明し、その上で、共にこの世界を助けて欲しいとお願いすべきだと意を決したティファの言葉を、バーンはいとも簡単に止めてしまった。

天界の使者である事等、バーンにとってはどうでもよく、ティファの中を自分は愛しているのだからと。

 

そのバーンの言葉に続くように

 

「ティファ、お願い事きちんと言って。」

「俺達頑張っからよ。」

「ティファのお願い事を、私達にも叶えさせて頂戴。」

「皆でやればきっとうまくいくから。」

「この壁を壊せばいいのか?」

「それでいいかティファよ?」

 

仲間達もまた、ティファの正体を聞く気はなかった。

 

どんな者であれ、ティファの優しさが損なわれるナニカなどではないという、チウのあの言葉と思いを、この場にいる全員が受け継いだかのように。

その優しさに、ティファはころりと涙を流し、自分の願いを口にした。

 

「この壁を壊せば、天界は魔界とも地上界とも繋がれるの!世界助けられるかもしれないから壊して欲しいの!!」

 

漸く、ティファの心からの願いを聞き届けられた者達は笑みを浮かべ、ダイはティファを抱えたまま、静かに闘気を練り始め、右横ではポップがブラックロッドに、左隣ではバーンが光魔の杖の宝玉に、それぞれが魔力を注ぐ。

 

奇しくも、同じように闘気は無くとも魔力を物理的攻撃力に昇華させられる理力の杖を持っている二人は、同じ発想に至りそれを以てゲートを打ち砕こうとしている。

 

三人が力を練る中、ティファも最後の力を振り絞る。

 

これを壊せれば世界は・・・

 

四人は示し合わせたが如く力を高め合うのを、周りは静かに、そして祈る様に見守る。ティファの言う通り、痛みをまき散らす世界が変わる事を願って。

天界と繋がったからとて、其れが可能であるかどうかなど誰にも分かりはしない。

其れでも、酷きことが罷り通る世の中を変えたいという声を、万民に届ける機会である事には違いなく、この壁が壊れる事を望んで。

 

力の高まりを互いに感じ、誰が言わずとも全員が一斉に壁に向かって力を最大限に放出をした。其れはこれまで散々に戦い合い、互いの力量が手に取るように分かるようになった結果であり、これまでの戦いが無駄ではなかったと言われた気がした四人は、心の儘に力を放出する。

 

しかし壁にひびが入るが、容易には壊せなかった。世界全てを遮断させていた結界の強度は凄まじく、自分達を以てしても力及ばないのかと嘆きかけたその時、最後のとどめの拳がダイとティファの頭上を通り抜けた。

まだ闘気系の万能薬を一度しか飲んでいなかったハドラーが二度目を飲み、渾身の一撃を壁にぶつけたその瞬間、ガラスが割れるような音共に壁は破壊され、三つの手が伸びるのを、ダイとポップとティファが思わず握りしめた。

 

奇しくもポップが人神の手を、ダイが天神の手を、ティファが竜・魔神の手をそれぞれにとって。

 

その瞬間世界全てが繋がり、荘厳な声が響き渡る。

 

生ける者全てには本能は当然ある。その本能が、響き渡る荘厳な声が、神々のものである事を、耳にした瞬間から理解させられた。

自分達は今、天井の神々から直接声を掛けられている事を。

地上では周りを見回せば、日常的にそこかしこに住んでいる全ての精霊達が顕現し、そして祈りの姿で空を見上げる姿を見て誰もが確信をする。

本能が教えてくれた通り、神々の声が聞こえているのだと。

 

声が聞こえた瞬間に本能が教えてくれた事を疑う程の事を、神達が言われたのだから疑うのは無理はなかった。

 

世界が嘆き悲しむ世にした事が申し訳ないと、天上の神々が謝罪してきたのだから。

 

神と呼ばれている自分達の力量不足故に、生きとし生ける者達が苦しむ世界にしてしまった事が申し訳ないと。

謝っても許される事ではないと承知しても、其れでも詫びさせて欲しいという言葉を、一体誰が神の言葉だと直ぐに受け入れるのだろうか?

 

神とは人間達からすれば偉大な力を持ち、地上が闇に覆われた時助けてくれる光の様な存在だと信じて生きていただけに、自分達の力量が及ばないと言われたとて分かりようも無かった。

人間からすれば、神が時折起こしてくる奇跡の偉大さを信じて来たが故に。

 

魔界側からすれば、十数万年も自分達を見捨て、今更何を言うのだ等怨嗟の声が溢れても、其れでも三神達は黙って受け入れ、其の度に申し訳ないと泣きながら謝り続ける事に、人間達は本物の神だと知っても戸惑い困惑をする。

其れはまた、ダイ達も同じ思いであり、ポップが一番にティファに尋ねる。

 

「ティファ・・・・俺さ、神様達がこの世界と繋がったらさ・・・すんごいお言葉が来るんだと思ってた。」

 

例えば、争う心を静めて我らの話しを聞いて欲しいとか、互いに傷つけあう世界を共に救おうとかをポップは想像し、ダイ達もその通りだと頷くのをティファは神様ってそういう者だと受け取られていたのかと知る事になった。

 

だが、自分が知る三神様達は

 

「ポップ兄、皆も、神様達もね、私達と同じなんだよ。」

「同じって?」

「えっとダイ兄も私も皆だって失敗して、悩んで苦しむでしょう。三神様達も同じで、天界が世界を分断してしまったせいで争わせる事になったのをずっと悔やんで、その事を謝りたかったんだよ。」

 

世界は他にも争う理由が無数にあれど、少なくとも魔界は天界が沈めてしまったせで滅びの道を辿らせ、その因果が大戦へと実を結ばせてしまい、これまで数多の地上界と魔界の者達が争い死んでいく一因を作ってしまった事を、許されるはずが無いと分かっても、其れでも詫びたかったのだと。

 

その思いは、徐々に地上界にも魔界にも浸透し始めている。何を言われようとも、幾度も幾度も詫びられれば、許すかどうかは別にしても、其れでも神々は真剣に己達の罪を断じて詫びているのだという思いが伝わって。

 

「謝ったからって!!俺達が救われるってのかよ!!!」

 

その思いが真剣であればある程に、死に瀕した魔界の者達の怒りがいやがおうにも増し、一人の魔族の言葉を皮切りに、謝罪など何の意味があると憎しみを込められた罵声が上がる。

 

その瞬間、世界の生き物達全員が見た。十数万年前の諍いを、そしてそれ故に魔界が沈められた事が、頭に映像が流された。

魔界の罪を知らしめる為では決してなく

 

「我等の力が及ばず、魔族達に過酷な道を歩ませてしまった。」

「そして、滅びる迄僕等は何もしてこなかった。」

「許される事ではないと分かっている。其れでも我等に、魔界を救う事を赦して欲しい。」

 

 

    「「「魔界を天界のある次元迄引き上げ救う事を赦して欲しい!」」」

 

 

これこそが三神達の願い。

魔界を地上界にではなく、天界の次元迄引き上げて傷ついた魔界の地を修復し助ける事を赦して欲しいと。

これまで地上界を魔界が傷つける要因となったのは天界にあり、どうか彼等を助ける事を赦して欲しいと。

 

三神達の言葉に、地上界も魔界もまた沈黙を以て応えた。

この神々の願いを、応とも否とも言える者などこの世界に居る筈も無く、一体何と言えばいいのか分からない中、ティファの横に膝を付いていたバーンが立ち上がる。

 

「ティファよ、余の言葉もこの世界全域に伝えられるか?」

「え?あ!ちょっと待って!!コネクト・・・・うん、この魔法陣の上に立てばいけるよ。」

「そうか・・・ティファ、ありがとう。」

「・・・・・大魔王?」

 

バーンの問い掛けに、急いでこの場も再び世界と繋がれるようにしたティファは、深い笑みを以てお礼をしながら自分の頭を優しく撫でるバーンに不安を覚えた。

何がと言えるわけではないが、其れでも胸騒ぎがするのが自分だけでは無いようで、見回せば兄達もキルもミストもバーンを不安な様子で見ている。

静かで穏やかなバーンの姿に、何故これ程の胸騒ぎがするのかが分からない。

それは魔界の現状の元凶を知っても、何の感情も見せない事が却って不安を煽るのだろうか?

そんな周囲の不安をよそに魔法陣の上に立ったバーンは、朗々とした声を発する。

 

 

「余の言葉が聞こえるであろうか。」

「この御声は・・・」

「まさか!!」

「貴方様は!!!」

「バーン様!!!」

「魔界の神の声!!!」

 

バーンの声に、いち早く気が付いた魔界の者達が次々とバーンに縋りつく。

 

「大魔王様!!いったい今世界では何が起きているというのですか!!」

「先程の神々の言葉の真意は一体!!」

「我等の苦境たる元凶は矢張り天界に!!!」

「あの者どもを滅ぼす許可をどうか!!」

「馬鹿者共が!!そんなことをしたからとて魔界が救われる訳でも・・」

「ではなにか!!奴らの気紛れの慈悲に縋れと?」

「そんな事!!地上界が許すものか!!!!!」

 

その言葉は実に千差万別であり、現状を知りたがるもの、魔界を助けるというのは本当であろうかと疑う者、元凶を滅ぼすという者達・・・そして、自分達の事を地上界が許すはずが無いと嘆く声が多数上る。

 

その思いは無理も無いと、バーン自身がよく分かっている。生存を賭けた戦いとは言え、此方が一方的に仕掛けて来た戦いの歴史の積み重ねによる業が、直ぐに解けるなどという幻想を抱いてはいない。

たとえ相手が滅びようとも、許す者の方が少ない事を。

 

だから

 

「地上界の者達よ、余はバーン。現在の魔界のおいて、最高権力を担う魔界の神・大魔王バーンである。」

「あんたが・・・・あんたが俺達の故郷にあの柱を落としたくそ野郎か!!!」

「神々の宣託なくば!!我ら全員が死んでいたというのに!お前達が助かろうなどとむしの良い事を!!!」

「魔界のせいで!どれだけの人間が死んだと思っているんだ!!」

「死にそうだから同情しろっての⁉だったら死んだ者達はどうなるってのよ!!」

 

地上界からの怨嗟の声を、バーンは黙ってその身に一身に受入れる。

 

バーンはティファ達の様に、無償で魔界を助けて貰えると端から思っていない。

それ程の業を、双方に持たせてしまったのは、ひとえに天界だけのせいでは無い。

ティファの言う通り、助けを求める事を試みもせず、ひたすらに戦いだけで解決しようとした行いの結果でもあるのだから。

 

その責は自分がとらなければいけない

 

「其方達の尽きせぬ恨みと怨嗟は、余にも分かっている。許せぬという思いも。」

 

理不尽な死の痛みを、喪う事の悲しさを自分達が一番知っている。その言葉に激怒の声が上がる前に、静かなバーンの言葉が世界に響き渡る。

 

「その恨みの全てを余の首を以て静め、どうか魔界全土を助けて欲しい。」

 

-ディニアス達-の言う通り、争い奪う事だけを考えていた結果、生まれてしまった因果の代償は払われなければならない。

 

自分の首を以て、業をどうか沈めて欲しいとバーンは地上界と天界に首を垂れる。

 

魔界の神が、首を差し出すが如く深く深く首を垂れる




今宵ここまで
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