戦に負ければ、敗軍の将がその首を以て責任を取るのは当然の事。
大戦を仕掛け、挙句知らずに互いの生存権を賭けさせられて戦っていたのならば尚更で・・・それでも私は・・・
深い、其れこそ深海の如く、或いは深淵程の深みを帯び、もしかしたら神々よりも威厳を感じた声が発した言葉に、聞いた者達は即座には理解できなかった。
彼の者は今何と言った?首を・・・・
その瞬間、三界は再び沈黙が支配した。
天界は、魔界の神とまで謳われた大実力者自らが、己の首を以て魔界を救って欲しいと、滅ぼす筈であった天界と地上界の二界に助けを乞うっている事が信じられずに。
地上界は、お伽噺でも聞いた事の無いような、其れこそ天上の神と同列に語れそうな大人物が、平然と自分の首を差し出す事に。
そして魔界は己達を守る為に、自らの命を差し出そうとしてくれている、自分達にとっての神の慈悲深さに、救ってくれる嬉しさよりも、そうせねば救われない自分達がい惨めで、そうせざるおえないこの状況をどうにもできない自分達の無力さが呪わしく。
三神達は戸惑う。本来であれば命を懸けていたのは自分達であり、消滅する自分達が全ての責を負う事を、後は今まで育てて来た後継者達を披露し、以て三界の共存の道を模索して欲しいと運ぶ筈であったのをティファに止められた。
今のところティファは己の魂と器の大きさに助けられ消滅するようには見えないが、この事態をどうするつもりなのだろうか?
地上界では王達も困惑をする。確かに大戦で魔王軍に負けていれば、地上が消された事を鑑みれば大魔王の首を取る権利は有しているとも思える。
しかし、先程事の発端を見せられた直後に、このような事を言われても困るというのが各王家の反応であり、うかつな事が言えずに沈黙している。
そして地上の大多数の者達も其れがあるからこそ、何も言えないでいる。
贔屓の様に自分達の先祖を優遇し過ぎた・・・・そこから先は不遜すぎる考えなのだろうか?
少しずつ世界に啜り泣きの声が響き渡る。
其れが魔界からの声だと、心ある者達には分かる。
その啜り泣きを、ロロイの谷の者達もまた沈黙の内に聞いている。
自分達は、実際に死兵となりても戦った魔界の者達の思いが分かる。きっとこの声の中には、ティファに様を付けて呼んでいた彼等の声も混じっているのだろう。
自分達を犠牲にする事を厭わず故郷を守ろうとしていた彼等は、敬愛する主を喪わなければ魔界は救われないのかと、無力感に苛まれているのが、この場にいる者にはよく分かる。
各国で王は違えど、剣を携えたその日から、国と王と民達を守ると誓った騎士と兵士にとって、己の主が首を差し出す事態を考えただけでも身の内から食い破られるような胸の痛みを感じる・・・・彼等の無念はいかばかりか・・・・
ノヴァは暗くなり、星空の下浮いているパレスを見上げる。
この事態を一体どうするつもりだろうかと、内部にいるティファを見ようとするかのように。
その様子を隣で見ているマトリフ達もまたパレスを見上げる。
この事態を引き起こしたのはきっとあの子で、その先の答えは持っているのだろうかと案じながら。
外界が静かな啜り泣きで満たされる中、パレスの玉座の間はハチの巣をつついた騒ぎになっていた。
「大魔王!!俺達はもう戦いたくない!!!助けたいって言ったのにどうして分かってくれないんだよ!!」
「ダイの言う通りだ!俺は・・・俺達はもうあんたを倒すとかそんなの考えてねぇんだ!!」
「一緒に歩く道がある筈よ!神様達が言ったように魔界が天界に行った時、そこを束ねる貴方がいなくなったら大混乱にしかならないの分かってるの⁉」
「レオナ姫の言う通りです!大魔王、古来よりの習いで敗者の将としてその首を以て鎮めようとしているのでしたら間違っていますよ!!こんな結末を!魔界が許すわけもなく、また憎しみの連鎖が増えるのみです!!」
ダイが、ポップが、レオナもアバンも言葉を尽くしてバーンを反意させようと躍起になっている中、マァム達はどう止めてよいか分からず、其れでもこんな事をして欲しくないとダイ達の言葉の合間にやめるように幾度も言葉を放つ。
しかし、バーンは静かに笑っているのみで、ティファを抱き上げ頭を撫でて宥めようとしている。
ティファが、壊れてしまったから
「いや・・・バーン・・・・や・・・・いやよ・・やめて・・・」
「ティファよ、余は十分、いや十二分に生きて来た。長く辛い事も多かったが、其れでも余を慕い共に歩いて来てくれた忠臣達も幾足りもいて、其れなりの良き人生であったよ。
今生でディニアスに二度も見え、其方と出会た。其方達ならば魔界を悪いようにはしまい。
ここらが潮時なのだ。」
魔界の神がいなくとも、天上界の神々とティファが、今後の魔界を守ってくれようと思えるだけで憂いはなくなり、心が凪いでいく。
反面、自分の首を差し出した衝撃からか、ティファが泣き崩れ自分の衣服を握りしめながら何度も嫌だと泣いている。
憐れな程で、まるで自分の家族を人身御供に差し出すのを拒む様に、気が動転しすぎて瞳孔迄開いてしまい、全身をがたがたと震わせ、声を出すのも覚束ないのに幾度も自分の名と、いやだとしか言葉を発さなくなってしまったティファを、バーンは優しく抱きしめる。
「七千年・・・・神達からすれば瞬きの様であっても、余にとっては長き時であったよ。だからティファ、嘆くことは無い。老いた者はいつか死ぬ、たったそれだけぞ。」
静かで優しい言葉をティファに掛けながら、それはダイ達にも言い聞かせている言葉でもあった。
犠牲になるのではない。老いた者が寿命で死ぬると変わらんと優しく宥める様あ言葉に、何時しかダイ達も啜り泣き始める。
全てはもう、地上の人々の答えを待つしかない。勇者一行とは言え、敗軍の将の扱いに口を出せる権限はなく、世界中の者が断罪すると言えば止めることが出来ないのが分かっているからだ。
そんな中で、キルとミスト、そしてハドラーだけが沈黙をしている。バーンの死を止めないのかとラーハルトが詰った時、主が死んだ時はともに地獄に行けばいいと言われて即座に悟った。
ハドラー達もまた覚悟を決めている事を。
キルとミストは、もとより主が死した時は供をする気でおり、ハドラーもダイ達が大魔王を討ち果たした時は、世が少し落ち着いてからひっそりと人知れずに己の始末をつける積りであり、その事が一層ティファの心を打ち砕いたのだ。
彼等を犠牲にしてこの世界を救おうと思った訳ではない。彼等だけが悪いわけでは決してないのに・・・・
其れは子供の我が儘でありまさしく綺麗事であるのを承知して。
自分の手でハドラーを倒そうとしていたくせに、自分達の手で大魔王を倒す策を練ってきたくせに、いざ命を懸けられた時、これ程怖ろしい事だと知らなかったから。
自分だとて散々に似たような事仲間達の前でしてきて、これしか道がなかったと言っていたくせに、いざ自分ではない親しき者が命を懸けるを目の当たりにするのが、これ程怖ろしい事だと知らなかったから。
心が痛くて耐えられなくて、砕け散る思いを知らなかったから・・
勝手な事だとは分かっている。
それでもと願う事が止められない。
-誰か-にバーンを止めて欲しい。ダイ兄や自分達では最早止められない。
バーン達に近くなり過ぎた自分達ではもう・・・誰でもいいから・・お願いだから・・・
心を壊す程の嘆きに満ちたティファの願いに応える様に、一人の男の言葉が世界に響き渡った
「お前さんの首なんぞ貰っても誰も喜ばんぞ。」
其れは慈悲深く止める声でも、まして嘆きに満ちた声でもなくどこかぶっきらぼうで、それでいて温かさが籠っている様な不思議な声が、直ぐにまた聞こえた。
「首を貰って誰が嬉しいって言うんだよ?首になってお前さんは何を償う気でいるんだ?」
其れは叱責に近い声なのかもしれず、子供が馬鹿言った時叱る親父の様な物言いであった。
「少なくとも俺はお前の首なんていらん。」
今宵ここまで・・・・
沢山の事があり過ぎとうとう主人公の心が裂けながらも、バーン達の思いを押し止めようとしていますが果たして・・・・