勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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幾夜の苦しみを癒してくれるものの為なら・・

大戦が始まる前は、俺は何も知らないガキだった。ただ剣を振るっていれば、強ければ王も姫様も守れる騎士なんだって、騎士を気取ったガキだった。

今の大戦じゃねぇ、ハドラー大戦が始まってから、俺の人生は激変しちまった。

 

自分の弱さを幾度も突きつけられ、ハドラー達の強さに翻弄され無力さに何度泣いたか知れねぇ。

そして、勝った後の俺の人生は真っ暗闇に閉ざされちまった。世界は平和になって、かみさんがいて可愛い女の子供もいるってのに、外で遊んで抱き上げてやる体力すらない廃人と化した俺が残ったのみ。

 

家族の重荷になっちまって、何度死んじまったほうがあいつらの為になるかと思ったか知れねぇ。

痛みにのたうち、其れでも死ねない変に頑強な己の体を何度呪ったか知れねぇ。

 

こんな身になって何度も思い知る。世界の運命とやらで、不意に不条理に幸せを奪われ閉ざされる辛さなら、俺にだって分かるさ・・・・。

其れをやめて欲しいと悪夢に叫んでも、助けが得られねぇ事も儘あるんだって知っちまった。

ガキだったあの頃の俺には分からなかったが、今なら分かるようになっちまった。

廃人と化した俺の肉体を、レイラもマァムも嫌な顔一つ見せずに見てくれるお陰で、俺は狂わずにこの世界の片隅で、ひっそりと息をしながらも辛うじて生きたいと思える。

苦しい夜を超えて、朝日を浴びながらあの二人におはようと言う為に生きて行こうと思える。

絶望の淵を、狂いそうになる思いを癒してくれる愛しい者達を守る為なら、どんな手段も厭わないその気持ちを、分かるようになるってのは良い事なんだか悪い事なんだか・・・・そして、助けて欲しいと伸ばした手を取ってもらった時のあの喜びも知ったんだから、良しとすべきか

 

アバンとマトリフ様と・・ちっこいティファのお陰で俺は生きられてるんだからよ

 

 

 

ロモス王国の過疎化しているネイル村の奥にはマァムの家がある。

家の奥にはハドラー大戦で重傷を負い、今も寝付いている父ロカがいる。

寝室のベットで身を起こし、隣で付き添って座っているレイラの手を握りしめているロカは真剣に言葉を紡ぎ続ける。

 

魔界を死に物狂いで守りたいという思いは、きっと自分の家族を死に物狂いで守りたいという思いと同じなのだろうと確信して。

 

一家の大黒柱が、大戦の責任を取る為に死のうとしている。自分もハドラーをアバンと共に討ち取ったが、今回はそれではいけないのではないのかという思いを伝える為に。

傍らのレイラも、魔界の神の言葉を聞いて憂えた顔をしている。どうやら短気で戦ってばかりいた脳筋な自分の考えは今回はあっているらしい。

少なくとも自分の周りの人間が、大魔王の死を望んではいないようだと。

死に掛けている家の主を、誰が好き好んで死なせたいのだというのだらうか?

 

 

「俺はロカ、今はネイル村の奥で寝たきりになっているもんだが、かつては勇者アバン一行で戦士してたもんだ。あんたが今大戦のラスボスの大魔王バーンか。」

 

ロカの名乗りに、地上でロカを知る者達全員がざわつく。ロカは先の大戦で、アバンに次ぐ功労者であり武闘派で有名であった。

其の身が廃人と化しても魔王軍と戦った者として。そのロカが、敗戦の将の首を要らないと言った理由が分からない。

それこそ、ロカをよく知るカール騎士のセインも、元主のフローラとてもだ。

あの勇猛な戦士は、一体どう言う積りで大魔王バーンにあのような事を言ったのだろうか意図が全く読めず困惑するしかない。

 

 

「そうだ、余がバーンだ。」

 

そのロカを相手に、バーンは些か面喰いながらも挨拶を返す。

己の首を以て大戦を終結に導き、魔界をよしなに頼むと告げ地上界と天界双方の返事待ちをしている所に、いきなりお前の首などいらんと言われた。

 

自分の首の価値は安い筈はなかろうに・・・・・余の首だけでは足らぬのだろうか?

 

「ロカ・・・そして沈黙を続ける地上界の者達よ、余の首だけでは足らんというか?」

「・・・・は?」

「それでは困る。足りぬかもしれぬだろうが晒し物にしても永久保存してもよいからこれで収めてくれまいか?」

「・・・あんた・・」

 

その物言いに、話し掛けられたロカは無論、世界全土がフリーズを起こし、ロカは内心で唖然としてしまった。

地上側の困惑の沈黙を!そんな風に歪曲してとったのかこいつは!!

魔界を救う為に生きて来た大人物たる魔界の神の首を!晒し者にしたいなどという非人道的な者がいないからこその沈黙を!!

 

「他の者は余に従っただけぞ。敗軍の将は余・・・」

 

其れを分からず見当違いな事を切々と言うこいつは・・・・

 

「あんた自分で一体何言ってんのか分かってんのかよこの大馬鹿野郎が!!!」

 

短気で沸点の低い事で有名なロカが、珍しく怒らずに話し合おうと頑張ったのをバーンは無下にしてしまい、本気で怒鳴られた。

 

 

「あんた何にも分かっちゃいねえ!!!あんたは一家の大黒柱だろうが!死に掛けてなくなりそうな家が、大黒柱迄なくしちまったら誰が支えんだよ!言っとくけどな!!ダイ達やティファ辺りがやってくれるだろうかと考えてんなら間違いだぞ!

確かにあいつ等なら滅びそうな魔界を救おうと躍起になって助けようと奔走してくれるだろうさ。けどな!その為にあんたに犠牲になってほしいって誰が言ったんだ⁉魔界で泣いている奴等!!お前達はそれでいいのか!大黒柱の首渡して守ってもらえて万々歳だってのかよ!!!!」

 

キレたロカは、そのまま魔界側を煽りに煽り始める。お前達は誰かに守ってもらうべくめそめそとなくだけでいいのか、そのまま一家の主を売り飛ばして生きていければそれでいいのかと。

 

そして地上側にも問うた。

 

「この大騒動の真の責任者を問うって言うんだったら、さっき知ったヴァルガブル神か、今はいなくて無理ってんなら三神達ってのも大魔王と共に責任取るのが筋だと思うがどうなんだよ?」

 

 

・・・・ロカの煽りと不敬すぎる物言いに、沈黙をしていた世界は再び大混乱をきたした




今宵ここまで

最初から何もない者よりも、幸せを持ちながら不意に取り上げられる事の方が、より不幸の重さが増すのかもしれません。

原作でも少々脳筋だったロカさんは、自らが絶望を味わう事で、様々な痛みと複雑な思いを知ったかと思います。
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