「貴様!!我等が大魔王様の首を喜んで差し出すとでも思っているのか!!」
「大魔王様!!お願いです!我等の事を思うのであれば!死んで責を果たそうなどと言わないでくださいませ!」
「我等がこの地で生きてこられたは貴方様の慈悲のおかげなのです!!どうしてあなた様の首を差し出した我等が!その後をのうのうと生きていけましょうや⁉」
「地上界の者達!バーン様の首は渡せん!!価値が下がろうとも我等も魔王軍の高官の身!!
其方達の土地を調べ上げ!軍をどこに配置するかも全て手配もしたは我らぞ!!」
「地上界の戦死者の数も当然調べ尽くせる!!其の御方は渡す事できずとも!その数と同じ身を差し出す事を我等は誓う!!!」
「だからどうか!!大魔王様の身は!!!!」
ロカの物言いに、すすり泣く世界の沈黙を破ったのは魔界からであった。
当初はロカの目論見通り、煽られ発奮した魔界側は当然大魔王に生きて欲しいと縋りついたが、その後は物凄く予想の斜め上を行かれてロカは再び沈黙して頭を痛めた。
どうして命の遣り取りしたくないから止めようとするこっちの意図を全て曲解してくるんだよこいつ等は!!
俺は何度も死んで償うのは間違いだって!ドストレートに言ってんのにどうしてこうも勘違いされんだよ!!
どう言ったらこの勘違いから抜け出してくれんだよこいつ等は!!
ロカはベットの上で病とは別方向で悶え苦しむ。自分の馬鹿な頭を物凄くフル回転して伝えた思いが、こうも勘違いされたら泣きたくなる。
だがこれで、地上側も分かった筈だ。魔界側も大魔王を決して死なせたくないのだと。
自分達の身を捧げてでも守ろうとしている事を。
もう自分以外の誰でもいい!魔界の言い分を砕く奴出て来てくれ!!どちらかの言った事を実行した日には!魔界と地上界と天界の間に新たな憎しみの連鎖が生まれてしまう!!
其れだけは駄目だ!!
「だから!!俺が言いたいのは魔界だけが責任取んのはおかしいって言いたいんだよ!!魔界が取るってんなら!魔界の始祖達に頼りっぱなしだった天界も取れって言いたいんだよ!!!」
これで伝わらなければどうすればいいんだよこん畜生!!
生来言葉よりも腕っぷしでの言語が多いロカは、これ以上なんて言えばいいんだと叫んでお手上げになる寸前、思いがけずすぐさま援護の言葉が世界に流れた。
「それは確かにそうかもしれませんね~。」
ロカのあまりな不敬すぎる物言いに、天界憎しの魔界側までもが絶句した時アバンののほほんとした言葉が三界に流れた。
今度は当代一の知恵者たる先代勇者が何言いだす気だと、ロカの言葉に呆然としたバーンはこんな時にも飄々としているアバンをまじまじと見る。
自分一人の首で大騒動を納める積りでいたのに三神まで巻き込んでしまっては、天界の怒りを買ってすべて元の木阿弥になってしまうではないかと危惧し、止めようとティファを抱えたまま一歩出ようとしたその時、ダイとポップに思いきり体を抱え込まれた!!
「アバン先生!!言いたいことあるなら今の内に!!バーンは黙っててよ!!」
「ダイ!絶対にこの頓智気大魔王様放すんじゃないぞ!!ティファ!!お前はそのまんまバーンにしがみ付いてろ!!!」
「うん!分かったポップ兄!!!大魔王!アバン先生のお話遮ったら駄目なの!!やったらこの御鬚全部むしるからね!!!」
「放さぬか三人供!!子供の其方らに・・・」
「「「他人様の好意分かってない人は黙って聞いてて!!!!!」」」
もうロカや地上の好意が全く分かっていない大魔王を、子供三人叱りつけるその声は魔法陣通して世界中に筒抜けとなっており、物凄くあり得ない単語の数々と情況に、三界は様々な沈黙を何度したのか分からない程フリーズ起こした。
勇者達が率先して最大の敵を庇おうと、守ろうとしている気がするのは気のせいだろうか?
しかし仮に守ろうとしているのであれば反対に、悲壮感漂う魔界の神様に怒鳴りつけたロカもさることながら、黙っててだの頓智気だの、挙句が御鬚毟るってなんだそれは!守りたいのか罵っているのかどっちなのか全く分からず、世界は唖然茫然としている。
だがダイもポップもティファも、そして言ってはなんだがハドラー達以外の全員が、大魔王の覚悟を本気で反意させようとしている。
アバン先生だったら何とかしてくれるだろうと見込んで、子供三人は頑張って覚悟がん決めしてしまったバーンの足止めに勤しみ、後は超絶頼りになる大人アバンに託す。
その様子に、アバンは苦笑する。
まさか武闘派のロカが、あんな事を言いだすとは思わなかった事もあり、これは大変な仕事を引き受けたかも知れないと。
其れでも嬉しく思う。敵を倒すだけが勇者達の目的ではない。困難にあえぐものを助ける事も勇者一行のすべき事。
弱り苦しみ嘆く者達を光の道を共に歩めるようする者達こそが、正しい勇者達だと信じて歩いてきた事が間違ってはいなかったと、目の前の子供達が証明してくれている事が嬉しくて。
己の生涯をかけてでも!
「先程名を告げられましたが改めて。私勇者の家庭教師をし、先のハドラー大戦では勇者をしていましたアバン・デ・ジニュアール・三世と申します。
先程仲間の戦士ロカの言う通り、今大戦の真の責任を問うならば、魔界の神たる大魔王バーンのみを責めるは片手落ちになり、彼の者の首を大戦の責任を問うために求めるならば、天界側の責任の所在も問わなければ不公平と言わざるを得ないかと。」
先の大戦の功労者である戦士ロカだけではなく!大勇者のアバンを名乗る男の言葉に天界に巣食っていたいた害悪ともいうべき最長老達に戦慄が奔る。
あの男の言う通り、若造の三神達のせいで魔界の現状の元凶を最早隠し立てることは出来ず、世界全てに知られてしまったからこそアバンという男の弁が成立してしまう。
ヴァルガブル神は最早おらず、三神達の責任問題まで口にされただけでも天界の紋目は丸つぶれではないか!!
身勝手な思いで天界の威光を笠に着て、アバンの言葉を否定しようとしよとしたその時、小さな声が奔った。
「私達・・・・ずっと戦い合わなければいけないの?」
「困ってる人たち助けるのに、誰かが死ななくちゃいけないの?」
「仲良くしたらいけないの?」
「どっちかがいなくらないと駄目なの⁉」
「ずっとずっと憎み合う事が正しい事なの⁉どうして助けたいだけなのに誰かが死ななくちゃいけないのさ!!!」
一つの声は、少しずつ大きくなる。
其れは子供達の叫びであった。
魔王軍の襲来で、柱によって村を捨てざるを得ないかった子や、中には兵士であった祖父や父達を殺された子達までもがその叫び声の中に混じっていた。
もうご免なのだこんな事は。誰かが死ぬ事も傷つく事も苦しむ事も・・・そして彼の竜王の如く、憎む事に子供の心は疲れ果てていた。
魔王軍に父達を殺された時に覚えた憎しみの心は、たったの数か月であっても子供の心を疲弊させるのには十分すぎる時間であった。
彼等は幼いながらに、生きている限りこの苦しみと憎しみをぶつけあって生きていくのかと思うと、絶望するのには十分であったのかもしれない。
「もうやだ!!敵なんて死んじゃえって言うお母さんの顔いっつも怖くて苦しそうだ!!おじさん達もおばさん達も皆苦しそうにしてる!どうしてこんなに苦しまなくちゃいけないんだよ!魔界助ければ-敵-はいなくなるんでしょ!戦いなんてもういらない!戦いなんて!!どっかいっちゃえばいいんだ!」
其れは、一つの真理であったのかもしれない。
叫んだ子供の年は漸く十になったばかりで、難しい事は何一つ分からず戦いの元凶だとか責任取る為に命捧げると言われてもちっとも分らない。
それでも、魔界が住むにはいつ死んでしまうか分からない怖い所で、安全な自分達の住んでいる所を取ろうとして攻めてきた事は分かった。
なら、魔界が怖い所でなくなれば、もう戦いに来ることも無くなる筈。
-敵-がどこかに行けというのではない。魔界を助け、本当の元凶である戦いこそどこかに行けという幼い子供の言葉に、大人達は胸が潰れる思いがした。
無垢なる心で未来を歩くべき子供に、戦いの、憎しみの連鎖に巻き込んできた罪を自覚された時、幼い子供の懸命なる叫びに応えるものがあった。
「その子供の叫ぶ通り、戦いにこそどこかに行っていただきましょう。
私はカール王国の女王をしているフローラです。我が国は、今大戦の責任を大魔王バーンの首を以てとる事も、また魔界の者達の命を持って償うという提案に対して異議を唱えます。」
凛とした女性は名乗りを上げ大魔王達の言葉を拒否した。
「地上界の者達は知っている者もおりましょう。数か月前に地上を攻めて来た魔王軍の軍団長の中には、現在改心して勇者一行と共にこの地上を守る事を約束し、生きて償う道を歩いている者がいる事を。」
この事を知っているのは軍関係者か、それ以外は城勤めでも高官しか知らされていない事であり、まして庶民に知らされておらず、カール女王の言葉はまさしく寝耳に水であり地上界も魔界も騒然とする。
敵でそれも軍団長であったものがと。
騒然とする世界に、フローラは毅然と顔を上げて世界に提言をする。
「地上界を攻められ、死んでいった者達に深い哀悼の念を私は生涯決して忘れないでしょう!
それでも!今ここで私達は憎しみの連鎖を断ち切らなければいけません!
敵を赦せとは言いません、悲しみを忘れろとも言いません!!私の中にも許せない思いは確かにあるのです!
その思いを抱えても、カール王国の女王たるフローラが提言します。
どちらかが滅びなければいけない暗闇に向かう道を、未来ある子供達に歩かせない為にも、誰かの命を以て償うのではなく!罪を犯した自責の念に苦しみぬいても生きて彼等が償う道を行く事を提言させていただきます!!」
その毅然とした言葉に、続く者達がいた。
「我が国ロモス王国も、フローラ女王の言葉に賛成しよう。」
其れは一番に柱を落とされ街を破壊されたロモス王シナナの声であった。
彼もハドラー大戦と、今大戦で戦いの世を要らないと本気で思う。誰かの命が喪われるのも御免であった。
そして、バーンと同じく民を愛し守る為政者おして、彼の死を受け入れることは忍びなく、フローラの言葉に賛同をする。
「責任の所在と、償う方法は魔界を救った後で考えよう。それよりも今は我が国ベンガーナも。」
「リンガイアも。」
「テランも。」
「「「その提案に賛同しよう。」」」
フローラ女王とシナナ王の言葉を皮切りに、各王家全てが賛同する中、大勢の賛同の言葉が地を埋め尽くし始める。
「俺ももう戦いなんてこりごりだ!!家に帰りてぇ・・・」
「戦いなんてどこかに行けばいいのよ!」
「もう・・・・どこかで終わりに・・・」
地上もまた疲弊していたのだ。
長年い年月の争いと、いつ敵が来るかもしれないという怯えと連綿と続く魔族への恐怖と憎しむ心に。
赦せなくても、其れでも子供達に同じ辛さを与えたいという者は少なく、其れでもどうしても許せない者達の言葉も確かにあって・・死んだ者の気持ちはどうなると叫ばれるのを、周りは止めるでなく、同じ痛みを持つ者として慰め、そして説いていく。
苦しい時いつでも助けに行く。そして一緒に憎しみの連鎖を止めようと。決して一人にはさせない、共に乗り越えようと沢山の声が苦しむ者に届く。
「大魔王・・・・これでもまだ首を差し出す?」
地上のその様子を共に見ているティファは、バーンに問う。
世界は優しさに満ちようとしている。その道を邪魔するのかと。
「ティファ・・・・・余は・・・余達はどうすればよい?死以外の償う方法なぞ、他にあるというのか?何をしろというのだ!」
苦しんで出した答えが、優しい言葉で拒絶されたバーンは、どうすればいいと迷子の子供の様に頼りなげな面持ちでティファに問う。
神にもまして地上の大人達でもなく、バーンもまたティファに問う。
数多の者達がそうしてきたように、優しい料理人から答えを得るべく。
その問いに、ティファは優しく微笑み応える。
「助けをきちんと求めて、助けて貰って、世界の争いを無くす道を歩いていこう。」
魔界が浮いて助かっても、お互いに芽生えた憎しみの業は根強く残るだろ。
「憎しみを無くす道を探して、苦しみながらも一緒に歩こう大魔王。」
きっと世界はその事を赦してくれるはずだと信じて
なぜなら、世界は弱すぎも酷すぎもしない。
助けを求める声に大勢の手を差し伸べられ、多くの優しい思いの声が上がっているのだから
今宵ここまで