勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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化生の者、或いは魔性の者

其れは順調に見えていた。

ティファを抱えたままのバーンはそこから一歩も動かずとも、ポップより借り受けたブラックロッドを光魔の杖の如く、己のものとしたように自在に使いこなし、時に火の鳥をダイの突撃に合わせ放ち道を作っている。

 

ダイの攻撃を避けた者も、バーンの魔力の光球によって打ち据えられ、完全に自分達の方が有利に事を進めている様に見える事が、ティファの心を次第に落ち着かないものへと変えていく。

 

いくら何でも順調すぎるのだ。十数万年前に混沌の時代を前神と共に支え、十万年間ヴァルガブル神様を欺き、裏で天界の実効支配を担ってきた裏幕達が、こんなに簡単に倒れていく事が。

殺したい者を自分達の陣地に入れたからには何かしらの策があってしかるべきはずだと油断なく空間を式見で見張っているのだが、罠の類が一つもなく、一見すると兄と大魔王に翻弄され討ち取られている様にしか見えない。

 

・・・・ここまで単純に倒しきれるものなのだろうか?これまで裏からとはいえ策を弄し、魔界を瀕死に追い詰め三神様達を操る様に蠢いていた者達が・・其れはどう考えてもあり得ない。

しかし事実として、今のところ何かの力が働く気配すらがない。

ひょっとして不安に思うのは私の考えすぎで、本当に駄天使達は私憎さのあまりに策も無く、特攻覚悟で仕出かした事なのだろうか?

 

勝ち筋の見えているような戦いなのに、どんなに良い方向に物事が動いていると考えようとしても不安が拭えないティファは、思わずバーンの肩口に置いていた手に力を込めて握りしめた。

何かに掴まっていないと、不安で仕方がない心に負けそうで・・・

 

その頼りなげな顔をしたティファを、バーンは抱えている左手でティファの腰を優しく叩いて宥めようとした。

ティファの今の有様は酷い者であった。リボンは幽かに残って髪を結わえている程度で、他の着ている服もティファ自身もボロボロであり、顔からも青い血を流す細い傷が幾つもあり、上半身の布地は焼かれて中の肌着が露呈している・・・こんな有様をティファを愛しむ者達が見た日には、速攻で天界は全域が滅される事請負である。

自分達も三神達の思いに触れていなければ、率先して天界に攻め上っていたであろうから彼等の気持ちは理解できる。

 

兎に角、弱ったティファが何か不安そうにしている顔を見ると愛しさがこみ上げ堪らなくなる。

庇護し、守らなければならないとう気持ちが心を覆い尽くし、目の前の敵などうち捨てて放って置いてもティファを慰め、心の不安全てを取り除いてやりたくなるのだ。

 

ティファが不安がる事なもう何も無い。直にダイが全ての天族達を無力化するであろうし、直ぐに地上へと帰れるのだと宥める言葉を掛けようとした時、空間内が光で満たされた。

 

「ダイ!!余達の下へと戻ってまいれ!!!」

 

何かしらの攻撃が来るか分からず、大魔法なればマホカンタでダイ達をふたたび包み込んで守る為に、回り全てを警戒しながらダイをすぐさま呼びつけ、果たしてダイも無言でバーンと妹の下へと戻り、二人を守る為にバーンの前に降り立ちダイの剣を構える。

 

大魔法が来たら今度は自分が全て海波漸で斬ればいい。闘気攻撃が来たら大地漸を!罠だったらティファが見張ってくれている。自分達三人ならばどんな事でもキ切り抜けられる。

それ程の信頼をバーンと自分達のタッグに自信を深めていた矢先であっただけに、目の前の光景に愕然とした。

 

光りが納まっても何も起きず、攻撃か何かの不発であったと思って辺りを見回せば・・・

 

「どうした出来損ないの竜の騎士もどきの小僧よ?」

「死人にあった様な酷い顔をしている。」

「矢張りもどきの小僧はもどき、戦闘の何たるかを、策の使い方も知らぬ低き者よ。」

「なまじ-多少-力が使えるからと言って、驕り高ぶった愚か者よの。」

「見やい、魔界の神を専称している愚か者も同じような顔をしているぞ。」

「滑稽な事よ。高貴なる我等の力を見誤り、自ら罠に飛び込んできたとも知らずにの~。」

「少し我等に力が届いたくらいではしゃぐ小物らよ。」

 

ダイとバーンの攻撃で倒れ伏していた長老達が立っており、二人の攻撃で付けた筈のダメージが一切なく、それどころか叩き壊したはずの武具すらもが完全に元に戻っている。

しかも先程まで荒かった気配も落ち着いており、-何もかもが元に戻った-ようにしか見えないという不可思議な事に、長老達が指摘した通り、そのあり得なさにさしものバーンも何が起きたのか分からずに混乱して表情に出してしまったのだ。

とは言え魔界の神としての尊厳が、何時までもそんな自分を赦すはずが無く、内心はどうであれ直ぐに表情を消し、冷徹なる魔界の神の顔に戻し、思考を高速回転で回して、一体敵にどんな事が起きて-元に戻れた-のか、秘策はなんだと考えを張り巡らせる。

 

そう、バーンは敵達が回復したのではなく、自分達と戦う前の万全な状態に戻ったと考えている。

回復ならば傷は治ろうが、切り裂かれた衣服も、壊された武具も元に戻る事など無く、その事に立ち上がった敵達を見たダイもすぐさま気が付き、何故敵達が元の状態に戻ったのだと混乱したのだ。

 

 

「ふぇふぇふぇ、若造達には分かるまいだろうから、儂が教えてやろうぞ。」

 

バーンよりも更に歳を重ねたような一人の翁が、髭を扱きながら一歩前に出た。

言葉遣いは丁寧であっても、ダイ達を見る瞳は全く笑っておらず、全ての-元凶-たるティファを見る時は、憎しみに満ちた色が炯々と光り、ダイ達に事実を突きつけた。

 

「儂等はそこな-化生の者とも魔性の者とも知れぬそ奴-を捕らえれば、お前達が追って来るであろうと踏んで、敢えて其奴を呼んでやったのだよ。」

 

化生の者とも魔性の者とも・・・

 

ティファを指さした翁の口から放たれた言葉に、バーンとダイは即座に怒りを燃やした。

 

化生の者とはバケモノであり妖の類を指す事を、魔性の者とは人を誑かし惑わすものを指す、どちらもティファを貶める言葉の中で最低で唾棄すべき言葉をティファに吐かれて許せるはずが無かった!

 

だが二人の怒りをぶつけられようとも、言われたティファの傷つい気嘆いている表情を見ても、目の前の翁は何の痛痒も感じていないかのように飄々としたままでダイ達に依然話しかけて来た。

 

「儂の言葉に怒るとはまだまだ未熟よの。よいよい、そのような未熟なる者を導き教え諭すが我等の使命ぞ。気にはせぬぞ。」

「・・・貴様等・・・本気で余達の手にかけられたいと見える・・・」

「その口閉じろ!!ティファの足元にも及びもしないお前達が!!ティファの事を悪く言っていいものか!!!!」

「ほっほ、其れじゃ其れじゃ。その化生の者の事実を言っただけでお前達は儂等と争おうとする。其れは人の心に付け込み誑かし、惑わせ魅了して己を争奪させんと騒乱を撒き散らしておるじゃろう?違うとは言わさぬぞえバーンよ。」

「・・・・・」

 

翁の言う事は-ほぼ-間違いであるが、一部分においては正しく完全に否定できない事にバーンは苛立ち舌打ちしたくなるのを堪える。

すれば、本当の騒乱を撒き散らす者の言葉を一部認めた事になるのを厭うて。

 

だが、ティファを知った者達がティファを欲し、何時かそれが争いの種にならないと言い切れないのもまた事実である。

ティファの優しさに魅了され、いつしか光りを独り占めにしたいという愚か者がいつ現れるとも知れないのだから。

その時自分達が正気でいられるか自信が無い。

 

それが国であったればきっと攻め滅ぼしに行き、個人であればティファが愛した者であっても独占せんとすれば殺してしまうだろう自分の姿が目に浮かぶからだ。

ティファは、全ての者達で共有すべきだという身勝手さで・・・・

 

「業深き化生の者よの。」

 

バーンとダイの考えを見透かした様に、翁の顔にニンマリと笑い皺が深く浮かぶ。

自分達が考えていた通り、-世界の大半-がティファに魅了されている。

 

それ故に、-自分達の有利になる空間-に、勇者と大魔王を引きずり込む事に成功したのだから喜ぶのも無理はない。

 

「お前達を深き業から解き放ってやろうぞ。」

 

竜の騎士もどきの小僧と大魔王を滅して魂を救済し、化生の者を-討伐-すれば、世界も三神達の目も覚めよう。

 

「魔界は我等が救ってやる故大人しく消滅するがいい。」

 

そして我等が世界を正しく導こうと、後ろにいる長老達も大魔法の準備を整える。

 

-正しき世界-に不要なる者達を滅する為に




今宵ここまで

とうとう化け物以上のそしりを受ける主人公ですが、しかし筆者としては、当事者達とは違う第三者から見れば、敵も味方も出会う者達を良くも悪くも取り込んでいく主人公は、そう取られてもおかしくないと思いつつ、物語の為にその道を主人公に走って来てもらった次第です。

[翁]の笑い方は、高貴な者を装うとしても、もとの下種な中身が出るような怪しい笑い方にしてみました。

今回の後半と次回は駄天使或いは汚天使達の反撃ターンです。
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