「お前が目覚めた時-何-をして遊ぼうか?」
気を喪ったティファを腕に抱きしめ、-樹-の節くれだった根に腰を下ろした-男-は、膝の上に乗せたティファの顔を優しく撫でながらんまりと嗤う。
「お前の記憶を今と昔の双方を舐めるように見尽くすか?私が見守る中で、お前が最も苦しんだ記憶を追体験させるのも一興か・・・お前は-何処まで-持ち応えて私と遊くれる?私とのお遊びに耐え切れなくなった時、お前はどのように狂っていくのだろうな~。」
せめて千年は持ち応えて欲しいと、優しくティファの肢体を己の掌で舐め尽くす様に撫でながら、男は嗤う。
その表情は分かるのに、男の相貌だけがぼんやりとしてはっきりとしない。更にいうなれば、目鼻口も繭も顔のパーツが刻一刻と変わっていくのを見れば、肝の太いティファとてもゾッとしたかもしれない。
自分が化生の者であるならば、この男は魑魅魍魎・妖しの類ではないかと疑って。
そしてその考えは半ば当たっている。
ゾッとするような思考の持ち主の男が腰掛けている樹が、突如としてざわめき緑の葉を落として枯れていく。
美しい樹が勿体ない事だと男は目の前に現れた黒き竜をを気にもせず樹の方を気に掛けた。
樹の幹は青白く、ほのかに光りを灯し緑の葉を煌煌と照らしだすのが美しいと愛でていたのを・・・
どのくらいか経った時、男は漸く美しさを愛でていたのを邪魔した者に視線を向けた。
「・・・・無粋だな。お前がここに来るとは。」
葉が枯れ落ち出し、樹の光りも目の前の者の殺意に怯えて消えてしまったのを男はつまらぬと憮然とし、ティファを抱えたまま目の前に降り立つ黒き竜を見下す様にねめつける。
「何のようだ冥竜王ヴェルザー?」
「・・・・・久しいな、お前に会うのは俺をこの世界に産み落とす寸前に、呪いを俺に吐いた時以来か。」
黒き竜、冥竜王ヴェルザーは、目の前の男を他の何よりも誰よりも嫌い抜いており、吐き捨てる様に男の言葉に返答する。
元より嫌い抜いていたこの男が、-ちび助-とその兄が命をかけて変えたこの世界にちょっかいをかけてきた事で更に男に対する嫌悪感に拍車がかかり、この男を殺せるなら、永劫に瘴気浄化の番人をしても良いと思う程に迄格上げしたのだ。
自分の運命を弄り、懸命に生きてきたちび助を今また弄ぼうとしている邪神と呼べそうなこの男・・・
「貴様のせいで地上と天界が大騒ぎだ。六大精霊王達が担当していた柱の持ち場を離れた事で、世界の繋がりが切れた。
お陰でちび助の異変は地上ではあの谷にいる奴等しか知らん。」
そうでなければ本当に地上界が大混乱して五月蠅い事この上ない事になっていただろうとヴェルザーはうんざりとする。
どれだけこいつは大勢から慕われているんだか。
埒も無い事を考えていると、クツクツ、悪意を煮込んだような悍ましい気配を漂わせながら愉しそうにしている・・・・・ほんの少し前の自分もこんな最低最悪性悪野郎だったのかと見せつけられている気がして最悪な気分になって来た・・・ちび助に仕出かした俺を、今すぐ時を巻戻して殺しに行きたくなる・・・・もっと言えば、クックとロビンを守り切れなかった自分をか・・・こいつと同じ穴の狢になった俺を見て、クックとロビンは赦して・・・・くれんだろうなと思うだけで自分を殺したくなってくるのだが・・・
「お前が-善意-を発揮するだなんていつ以来だろうね~。」
「・・・・・」
「お前の可愛い可愛いコマドリが・・・・・」
男がヴェルザーのコマドリに言及した時、その場は殺意で満たされ樹の枯れ具合が加速する。
黒き竜の鱗が更に艶を増し、金色の瞳がしんと底冷えし男を食い殺さんと射抜く。
「お前は何一つ変わらないね~ヴェルザー。」
「黙れ・・・」
「生まれる前に親切に教えてやっただろうに。-お前-は何一つ守り切る事も出来ず、目的を達成する事も出来ずに無為で虚しい人生を送るだろうと。」
男の口にした言葉に、ヴェルザーは殺意を浮かべた表情を更に苦くする。
不毛の大地に生れ落ち、四神が一人竜神と言葉交わす前の-最初-に自分に呪いを吐いた男。
全ての命と魂を循環させ-見守る-とほざいている最低なこの男が・・・
「相も変わらず貴様は俺以上に最低だな。」
自分に出来るのはたかだか現世で苦痛を与えるか肉体を殺すのが精々で、この男は死後までも付き纏い魂までも弄ぶ。
自分を竜神の言葉通り、-瘴気全てを浄化できたあかつき-に、自分を永劫の輪廻の輪の頸木から外すと言っていたが、今ならばその言葉がまやかしだと知っている。
嫉妬・憎悪・怨嗟の念を浮かべる者が根絶されない限り、瘴気は永劫なくならないのだから、約定其の物が竜神にはその気がなくともいかさまであった事を。
そして、目の前の男は約定其の物が始めから破綻していた事を知りながら、黙って自分を作り出し生み出す事を黙殺した。
命を廻し、司り弄ぶ
「貴様こそが本当の諸悪の根源だと言われても俺は驚かんぞ
ヴァルガブル神よりも更に古い、この-惑星-に生じた命と時を同じくして生まれた原初の神よ。
すっかりと捻じ曲がり、気に入りし生命を手元に引き寄せ弄ぶ邪神よ。
ヴェルザーの言葉に、男・マリシュ―スは気を悪くするどころかさらに愉快気にクスクスと嗤い出す。
「私の名前を呼ぶ者がいるとは随分久しい。現神の三神とて私の事を輪廻神様と呼んで崇め奉るというに。」
「ふん・・・・・何故お前は運命を狂わせ終わったそのちび助に構いつける。」
ヴェルザーも冥竜王の名に相応しく、ティファの因果律が狂わされていたのは一目見た時から知っていた。
ティファの魂は色こそ白一色で美しいが、構成が酷く歪んでいる。
魂は本来は正味の丸であるのにたいして、ティファの魂は後から様々なものを付与され不格好な事この上ないのを。
あの時はなんとも思っていなかった。こいつも自分と同じく、マリシュ―スに弄ばれた同族だという以外興味も無く。
時折、数百年に一度はそういう輩が出ては非業な死を遂げるか、兎角ろくでもない人生を臆させられると相場は決まっていた。
だがこのちび助ならばそんな碌でもない道を全力で蹴っ飛ばしながら突破すると見込んだのだが、最後の最後で当の邪神が出張って来るとは・・・
うんざりと自分を見ているヴェルザーを、マリシュ―スは嘲笑う。
ヴェルザーだとて知っている筈だと。
「この幼き愚か者がした事で大勢の-生まれない者-が出た事と、世界の因果律を壊した事は知っているだろうヴェルザー。
その対価を支払って貰うだけなのを、お前は知っている筈だぞ。」
嗤いながらティファを手放さず、直ぐにでも立ち枯れそうな樹の肌をゆったりと撫で愛でる。
この樹はとても大きく、立ち枯れそうであっても端の緑の葉がまだ懸命に気にしがみ付こうとしている。
この樹は今腕に抱いている幼き愚か者の命其の物、どんな生命体にも宿っている生命の樹が、健気に生きようと足掻く様を愉しみながら言葉を紡ぐ。
罪に報いがある様に、壮大な願いが叶った果ての対価を支払う者が必要であることを
今宵ここまで・・・・
都合により前々回と前回の話を結合させていただきました。
そして老害駄天使達とは違う意味で、主人公とヴェルザーの運命を弄りまわした元凶の登場です。
しかしこの元凶の言う通り、今作品での世界ルールの意味では彼が正しく、世界丸ごと変えた対価を-誰か-が払わなければいけないのです。
次回はその対価がどう支払われるのか、主人公の命運が決します。