私は・・・・-彼-とどうなりたいんだろう?
夜の暗い森、彼と出会ったのはロモス王国ネイル村を少し離れた迷いの森で、今考えればきっと彼は私が悪魔の目玉を消した事で、勇者一行を見張れなくなったと困ったミストの為に偵察に来た時に遭遇した。
可笑しな人だった。-キルバーン-である筈なのに残虐性は無く、とてもカッコいい衣装が似合う紳士的な人だった。
敵の私にも乱暴ではなく優雅な口調で話す人で、私の周りにはいない大人の男性。
アバン先生も優しい大人だけれども、彼は・・・何だろう、教師と貴族的な紳士の差だろうか?
とても甘やかな声のせいだろうか?
会う度に優しい甘い声で話し掛ける変な人は、時に私の心の傷を抉り取り、怖い事も言われたけれどもやっぱり最後は優しくなる・・・・あの人は私をどうしいんだろうか・・・
あの時も今も・・・
大戦が終わって早三年の月日が経ち、十五になったティファは一人デルムリン島の大木の枝に座って-手紙-を読んでいる。
十五になったが身長はマァムよりも頭一つ分小さく、肩も手足も細いままで、胸もお尻も僅かに肉がついた程度で、スレンダーすぎなのではないかというのが本人の密かな悩みなのは秘密である。
そんなティファも、年頃の娘のように深い悩みに溜息をつく。
手紙を読み終えた後は近頃いつもこうなる。
古いというには紙はまだ新しく、それでも幾度も読むうちに折り目や端が綻んできた手紙。
それはかつて敵であった時にキルがティファに書いた感謝状とお見舞い状。
大戦の最中であっても、キルは大魔王の篩の篩で用意されたボス・キングマキシマムを倒した時に感謝状を書くというとんでもない事を約束し、果たして彼はそのあと倒れたティファを案じてお見舞い状も共に書いて単騎で勇者達が全員いたマトリフの洞穴に来たとか。
大戦時には遂に一度も目を通さなかったが、大戦後目を覚ました自分におじさんが渡してくれた。
これは嬢ちゃんのもんだ。あいつももう敵でもないし、読んでも良いと思うぞ。
敵からのものだと処分せず、律儀に預かってくれていたおじさんの言葉通り、渡されたその日の内の夜に、一人でゆっくりと読み通した。
感謝状にはあんな愚か者を相手にさせて本当に申し訳ないという謝罪と、お見舞い状にはボロボロになった私を見るくらいならば、昨日の夜に強引にでも連れ行けばよかったと後悔の念が書かれていた。
-昨日の夜-
篩の篩を私に告知する為にミストと共に来た時、私を攫って閉じ込めて・・・あの怖い言葉の裏には、私がボロボロになる前に-籠の鳥-にして保護したかったのだと知った。
あの言葉と、発せられていた気配に私を怯えさせて壊して・・・・
幾度も言っていた、私を捕まえると、手足が無くなっても一生面倒を見ると・・・分からない、どうしてそこまで私を・・・
近頃キルに会うと胸が苦しくなる。ドキドキとして喉がカラカラになって、何を話せばいいのか分からなくなって・・・・この間なんて頭を撫でられそうになった時逃げてそれっきり・・・
あれから十日が経って、以来島を出ていないで閉じこもりながらこうしてキルの手紙を何度も読んでる。
怖い事を幾度も言いながら、優しい手で自分を抱き上げ慰めもくれていたあの手からどうして逃げたのか・・・
何時でもキルが自分に障る時は優しかった。怖い事を言いながらも抱き上げられた時も撫でてくれた時も包み込まれるような安心感を覚える程に優しかった。
優しく包まれ甘い声で囁かれるだけで溶けそうな程の幸せを感じた時もあった・・大戦の最中、幾度も耳に甦った甘い言葉に囚われそうな時も確かにあって・・・
「・・・嬢ちゃん・・」
そうこんな風に・・・
「お嬢ちゃん・・・」
はっきり・・・・はっきりと・・・・し過ぎて・・・
「お嬢ちゃん。」
「って!!キ・・・きゃぁ!!」
「お嬢ちゃん!!!」
・・・・はっきりと聞こえると思ったら本人来てた・・・
いきなりキルがデルムリン島にいる自分の横に出現したことに驚いたティファは、木の枝から滑り落ち、キルに抱き留められ事なきを得て、二人で木の枝に再び座りなおしている。
「もうね、そこまで驚かないで欲しい・・・そもそも今のは僕の方が驚いたよ。」
「・・・・ごめんなさいキル・・・」
十日前、バーンパレスでティファがいつもの様に主と夕食を共にして見送る時、いつもの様に頭を撫でて送ろうとしたらティファが真っ赤になって自分の腕をあからさまに避けてそのままパレスの-ティファの自室-に逃げられ、クローゼットの扉からデルムリン島に帰られてしまった。
パレスには当然の様に、ティファの部屋が一部屋用意されている。いつティファが遊びに来て泊ってもいいようにと。
厳重な結界が施されたバーンの寝室の右隣に用意され、同じように特別な守りの結界が幾重にも施されている。
そしてその部屋のクローゼットには仕掛けが施されており、正しい手順で仕掛けを動かせばパレスのクローゼットとデルムリン島のティファのクローゼットが繋がる仕組みになっており、バーンが魔界と地上のゲートの仕組みをクローゼットに仕掛けた特別な一品。
そこを通られて帰ってもう十日が経つが、ティファの引きこもりにキルが焦れた。
どうして自分から避けるのかどうしても知りたくて、今が絶好の機会なのかもしれない。
抱き留めた後ティファを自分の膝の上に乗せたままの今なら、もしかして聞きだせるかもしれない。
「・・・その手紙、捨てずにずっと取って置いてくれているんだね。」
「あ・・・キルが・・きちんと約束を守ってくれた素敵な手紙なので・・・」
「そう、嬉しい。」
「嬉しい?」
「そうだよ。-敵-だった僕からの手紙を君はきちんと受け取って今も大切にしてくれているのが嬉しいんだよ。」
たったそれだけの事を、まるで宝物を貰ったように喜んでいるキルに、ティファはずっと聞けないでいた事を思いきって聞いてみる。
「キル・・・-賭け-の事を覚えていますか?」
その一言でティファの頭を撫でてご満悦であったキルの動きと気配が全て止まり、ティファは聞いてはいけなかったのだろうかと後悔した。
まるで、聞かれたくない事を聞いてしまった時のような気不味く、そして怖い気配がキルからし始めている。
「-賭け-ね・・・君はあの賭けの意味をきちんと理解しているのかい-ティファ-」
「ッ!!」
初めてきちんと名を呼ばれたのに、それはとても冷たい声音だった。今までのキルから・・・少なくとも自分には向けられた事の無いとても冷たく怖ろしいに、震えが奔る・・・
ああこの子は-まだ-子供のままでいようとしているのだろうか?体は少しばかり大きくなっても細く華奢なままのせいで誰もこの子が十五のレディだと気が付かないのをいい事に。
でもね、そのままの子供でもね・・・
「僕が君の事をどう思っているのかを当てる事が君の勝利条件だったけど、君は答えを考えてくれていたのかい?」
「あ・・・私は・・」
「ふむ、その様子だと考えていなかった・・・・・逃げたね。」
「あ!!」
「そう・・・僕の気持ちからかい?それとも・・・」
「あ!!やだキル!!」
「君の-心-から君は逃げたのかい?」
「わ・・・たしは・・・」
気配が冷たくとも耳に流れる声音は途轍もなく甘い声で詰る声に怯えたティファの心臓部分に、キルは今だ膨らみの少ない、其れでもティファが少女だという確かな証の胸を包みながら親指で強くティファの心臓を叩きながらティファを腕の中に閉じ込める。
今度こそ逃がさない、どうあっても-答え-を引きずり出す為に!
そしてティファは、キルの目論見通り答えを必死に考え始めた。
答えなければいけないと急き立てられるように。
大戦時には、-死ぬはずだった-自分の心からずっと逃げ続けていた。一歩間違えれば死に直結する綱渡りの数々。
死の大地の決戦でか、囚われた後の公開処刑の時か・・・もしかしたら、三神様達と六大精霊王達の代わりに天界の水晶を壊す時に死ぬかもしれないと思い定め、-自分の未来-を考える事を放棄していた自分は、-誰か-を特定して好きになる事をしなかった・・・未練を残すのが嫌で、其れよりも隙になる事自体が怖くて・・
今は?
私は・・・もう駄目だ・・・・・もう・・・・逃げられない・・・
「ティファ?」
名前を呼ばれただけでも、心臓が壊れそうになる。
「・・・ティファ・・・」
頭を撫でて貰うだけで頭の中がくらくらとして・・・・
「僕は君を愛しているんだよティファ。」
その言葉だけで、私は幸せだ・・・・・
カシャンと、何かが閉じて鍵をかけられた音がする
飛び続けていた鳥が籠の中に自から入るように、ティファは身体の力を一切抜いて、キルの腕に己の全てを委ね尽くす。
とうとうティファはキルに捕まってしまった。
キルの言葉に、想いに、全てに捕まってしまった。
ティファは観念する。ずっと逃げていた思いがなんであるのかを確認してしまったから。
キルの腕に閉じ込められながらもキルの膝の上に横座りになりキルの瞳を久方ぶりにじっと見つめる。
ここ数か月逃げていた瞳は、優し色が薄く、何かを待っている。
この言葉を、たった一言言おうとするだけで逃げたくなる身体を、キルの服を握りしめる事で堪え、ありったけの勇気を掻き集める。
私の答えを、大戦から三年が経っても、キルは私の答えを真剣に待ってくれていた・・・待たせてしまったんだ・・
この答えを言うのに、三年の月日が経っても待っていてくれたキルを私は・・
「私も・・・貴方が好きですキル・・」
「ティファ・・・」
「きっともしかしたら、ロモスの迷いの森で貴方に出会ったその時から。」
ティファのその言葉に、キルは目を細めて一層ティファを抱きしめる。
待った甲斐があった。もしかしたらと思う時が幾度もあって、其の度に持たされる幽かな希望と、其れでも子供の様に自分に接するティファとの落差にのたうち回り、其れでも捨てられなかった思いの果てに・・・
「キル・・・泣いてる・・」
「あぁ・・・」
「嬉しいの?」
「・・・・嬉しいとも・・」
キルが-涙-を流したのはこれで二回目。
一度目はティファが目を覚まして突如パプニカに現れた時、キルはティファに取り縋り涙を流して喜んだ。
それと同じくらいの喜びと幸せに、キルはこのまま溶け合ってしまいたいと思う程ティファをきつく抱きしめながら、左手で-仮面の下半分-を取り外すし、右手でティファの頤を持って上を向かせ、そっと口付けを落とした。
いきなりの口付けと、それ以上に-本物の舌-で口内を蹂躙されている事にティファは驚き、其れとてもキルの激しい口付けに思考をぐずぐずにされてティファは何も考えることが出来なくなり、キルの服を握りしめて思いに応える。
自分はこの唇を知っている・・・目覚める寸前に感じたのと同じあの口付けは・・
待っていた思いの重さを知らされるように、息が苦しくなった頃合いを見計らって少し口を離されたと思えば、さらに深い口付けに、ティファの全てが蹂躙される。
好きだという思いを口内諸共に貪られ、怯えても逃げられないようにきつく抱きしめられて閉じ込められる様は、まるで羽根をもいで鳥籠に閉じ込めようとしているようで・・
どのくらいの時間自分はキルに貪られていたのか・・・・
気が付けば荒い息でキルの胸にしだれかかっている自分に気が付いたティファは、羞恥心で俯くのをキルが許さず自分の方を向かせる。
「ティファ、愛しているよ。君を生涯閉じ込めたいほどに愛しているんだよ。」
真摯向けられる言葉と真剣な瞳に、ティファもそっと応える。
物騒な言葉なのに、ちっとも嫌だと思った事は無いキルの言葉に
「私も、貴方を愛しています。」
この後キルはその足でティファを抱け抱えたままバランの下を訪れ、ティファを愛しているので結婚を許して欲しいと正直に話し・・・・・えっらい騒ぎになったのは想像に難くないでしょう。
言った瞬間バランは鬼となりついで竜魔人となり、それでも愛娘もキルが好きだから許して父さんの言葉に打ちのめされあわやの大惨事は避けられた。
そして一息ついた後、ティファの祖父、ブラスにも許可をすぐに得られた。
ダイ達が嫌おうとも、ティファ本人とよく遊びに来るチウがキルを褒めているのを聞いており、キルの為人を知っていたから。
「ティファをよろしく頼みますじゃ。」
自分の事を何も望まないティファを、幸せにしてあげてほしいと願い、キルはその思いを真剣に受け取った。
そしてバランとブラスから二人の結婚を了承された足でキルは直ぐにバーンの下に向かい、互いの気持ちを確かめ、尚且つ父親のバランと祖父の鬼面道士ブラスからの結婚許可を取った事を報告して、バーン驚かせたが、バーンは直ぐに気を取り直し-息子-の幸せを喜んだ。
キルは自分のハイ=エント、マスター=エンゲージで命を与え、遂には・・・
「ティファと共に幸せになる事、其れが叶うならば好きにせよ。」
深く温かい声で、二人の結婚をバーンは祝福し、バーンの後ろで聞いていたミストも、万感の思いを込めてキルに視線を送り、其れだけでキルは親友からの喜びが伝わりにこりと笑ってミストに抱き着く。
きっと自分もティファも幸せになると約束をして。
後日ティファの兄達やあちこちの-保護者達-をも二人で説得し、特にヴェルザーが荒れたのを宥めるのに苦労した。
「俺が少し離れている間に纏わりつく害虫が!!!消し飛ばしてくれるわ!!!」
小型化してティファに纏わりついていたのはお前だろうがという言葉を飲み込んだキルは偉いと思う。
あの日、ヴェルザーは駄天使長老達がテランの薬草園に流れ着いた事を耳にして、今更するとは思えないが悪さをしたら罰を与える積りで見に行ったのが運の尽き!
ちび助に害虫が!!
ダイがギガデインストラッシュを、ポップがメドローアを、ヒュンケルがブラディスクライドを、マァムが武神流閃華裂光拳を、かつての仲間達が必殺技をキルに放とうとしたように、ヴェルザーも元の姿に戻ってドラゴン族最強の技・オーロラブレスをキルに吐こうとしたのをティファがヴェルザーの足に縋りついき
「キルの事を愛しているの!!」
泣いて叫ぶティファに免じてヴェルザーも折れた。守りたい愛おしい者の幸せを願って。
後にダイ達とは違う時期にキルとティファはデルムリン島で身内だけでひっそりと式を挙げた。
ティファは自分の事で騒がれるのを好まず、好きな人達だけでいいというが、招待客の多さにキルは苦笑したくなった。
ティファの身内は其れだけで数が多い。
ダイ達を筆頭は言うの及ばず、リュート村の子供達は無論の事で、遠くはパプニカの学者お爺ちゃん達三人も駆け付け、精霊王達も全員参加で付随する様に・・パレスからも双子の料理人とゴラムとガァグランスもバーンとミストのお供をしてきて物凄い人数と面子が・・・・ちゃっかりと出席しているアバン王も、人数の多さに驚き、いっその事大々的にしても差し支えない様の思ってしまったのは内緒だが、
キルの腕に抱き抱えられ、ウェディングドレスに身を包み幸せそうにしているティファの顔に、アバンとマトリフは満足そうに笑っている。
幼馴染のノヴァは、意外にもすんなりとチウとメルルのように二人を祝福する側に回った。ようはティファが幸せになれるのであれば誰と結婚してもノヴァはよく、ティファを泣かせた瞬間香り漬けにして粉砕し、今度はジブがティファを幸せにすればいいのだから。
マトリフもまた、ー嬢ちゃんーが幸せになればいいと笑っている。
後は-ヤケ酒-をしている父・兄達とロン・ベルクとハドラーが管を巻く中で、アバンとマトリフは祝杯を挙げる。
かつてティファに贈った言葉、生きて行くのですよという言葉を上書きすべく
「-幸せに-生きて行くのですよティファ」
そして数年後、キルとティファの二人はーキルフーという名の男の子を大切に育てたとか・・
髪の色は真っ黒く、赤い瞳の可愛い男の子を
このお話はここまで・・・・・えぇ・・・甘い主人公を出したくてデートを書こうと思ったらいつの間にやら物凄い事に・・・
IFなので、主人公の相手は確定ではないので違う相手も出ますが、今回の相手はキルルートとなりました。
彼の思いは本物であり、一番に出してあげたかったです。