勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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とある-愉悦部員-様に捧げます


後日談⑥ 銀の髪のティファは・・・

「逃がすな!我等の秘密を知ったあれを!!必ず・・・・」

 

腹の大きな魔族が吠狂う。-天界の恥部-ともいうべき、駄天使長老達の置き土産のような愚か者達と手を組んで、大魔王バーンを殺し、以て魔界を大混乱に陥れ魔界の覇権を握ろうと狂人なる夢に狂った魔族の男が、邸内に侵入し、一切の秘密を知っていると言って屋敷に乗り込んできた侵入者を殺せと吠え狂っている様は滑稽だ。

 

見ている者は嘲笑い、見られている者は見られている事事態に気が付かずに、躍起になって侵入者を探すが見つけられずに焦るばかり。

 

此処は魔界の涸れ谷で街道からも外れており、後ろ暗い事を密談するにはぴったりの場所だった・・・筈なのに!!どこから計画が漏れた?あの侵入者は何を知っているのだと、肥え太った魔族が焦るのを-ソレ-は嘲笑いながら身を顰めた場所から冷たい眼で見つめる・・・・あぁ今回は外れだ。バーンに後で文句を言おうと算段を付けながら。

 

あんな者が、-私-の望んだ-強者-には値していない。しかし死神を動かすには少しばかり複雑な案件である事は認めよう・・・・・何せ魔族と天族がおてて繋いで魔界を大混乱に陥れようとしているのだから、この後あれを殺したら天界の愚者達も諸共にしないといけない訳だから、自己判断して尚且つ地位だけはある厄介者を弑しても、罰則喰らわないー私ーでないと無理だわな〜。

 

豚の様な魔族も愚かなもんだ。自分の故郷たる魔界をそんな大混乱に陥れる莫迦は本来ならばいないだろうが、醜い豚のような魔族にはメリットらしきものはあるようだ。天界の秘術・ヴェルザーをも封印した法を用いれば確かに大魔王バーンに勝目は有る。あれが発動されれば誰にも、それこそ天界の三神様にも止められない。その後に封印されたバーンを質にすれば、覇権が転がり込んでくるという愚かな夢を見ている様だ・・・・・そんな事、金輪際無いのにな~。

その瞬間-世界中-から瞬殺されるってのに・・・唆されたとはいえ無様なもんだ。

 

豚のような魔族が覇権を握れるかはともかくとして、天界の恥部たる奴等にも確かにメリットはある。

豚のような魔族は所詮あいつ等にとっての捨て駒で、実行した豚男はその場でバーンを殺した罪で、死神か影に瞬殺されるのが目に浮かぶ。

大方その時は守ってやるという甘い戯言に唆されて、パーティー会場か会議等で近づいた瞬間にとでも目論んでいたのだろうが残念。

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「-私-が逃げる訳がないでしょう?」

「ッ!イオラ!!!」

 

 

音も気配もなく豚のような魔族の目の前に立ってやったらそれぐらいで狼狽してる・・・こいつの名前はなんだっけか?・・まぁいいか、往生際の悪い不出来な奴の中級爆裂呪文なんて-私-に通じる筈とてないのに。

 

ズシュウ

 

 

イオラの嵐が止む前に、血の雨がその場を濡らす。

 

腹の大きな魔族は、銀の髪を揺らして冷たい金色の瞳で相手をつまらなさそうに見ている少女の持つ-刀-で腹を深々と刺されそのまま持ち上げられて、空中にほおられ両断されて果てた。

 

血の雨を降らした少女は一滴の血もつかずに雨の中を歩き、両断した男の腕から腕輪をするりと取り上げぬたりと嗤う。

 

「成る程、天界の宝物庫から盗み出された品確かに。」

 

少女は嗤って確認した腕輪を-金のマジックリング-に大切にしまながら周りを囲んでいる兵や戦士達を見回す。

 

誰もが自分に対して憎悪の表情を浮かべいる。

魔界を救った大英雄を弑そうとした大罪人を罰した者を、そんな目で見るのは理不尽だと思う事なく、それもそうだろうと、向けられている少女は納得をしている。

 

此処にいる者は魔界が浮上した事で幸福を得たと、幸せな道を歩けたという者ではなく、旧魔界において力と権力に媚びへつらい目下の者達や弱き者達を甚振って搾取してきたゴミ屑共。

 

そんな輩が明るい未来を歩こうという善意の者達に所業を知られればそっぽを向かれて当たり前で、ようは旧悪がばれて新しい世界に居場所が無かった自業自得な者達。

 

それを反省して歩こうとすれば-甘い表の自分-は絆され周りに執り成しを測ったろうに愚かな者共。

 

反対の暗がりの道を自ら転げ落ちて来たから-甘くない裏の自分-にこうして殺されるのだから・・・

 

「自業自得という事で。」

 

にっこりと年相応の少女の顔で嗤いながら一言を言い切るその刹那、少女はその場にいる全員を絶命させる。

 

愛刀の-雪白-を無造作に振るって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-アレ-は愉しかった・・・ハドラーとの激突は何よりも愉しく甘美であった

 

 

雪白のリミットをリリースし、其の時持ち得る己の力を全開にして戦ったハドラーとの激突という名の喰らい合い。

 

命と命・思いと思いが真剣に激突したあの時、-私-は確かに愉しかった。

 

戦いが楽しいかというハドラーの問いに、-表の私-は楽しいか分からないがと言ってたが、間違いなく-私-は愉しかった。

 

-魔族-の私は愉しかったのに・・・・

 

「-もう-帰って来たのか・・・・」

 

ー仕事ー全てを終えて月明かりのパレスを散策し、あの時の楽しさを噛みしめていた少女に、憂いを秘めた声が掛けられる。

少女は慣れた様子で、声の主に振り返る。

 

「今晩は-バーン-。そんなに-私-に早く会いたかったですか?-仕事-の成果は後でしに行こうと思っていたんですよ。其れとも、報告をさっさと聞いて穢れた私を寝かそうとしているんですか?」

 

貴方が愛してやまない-幼な子-とはまるで違う、-私-の存在を秘っしたいのかと軽やかに言い放つ少女に、バーンは返答する事無く無言で少女・・・ティファに近づく。

 

普段の黒髪ではなく銀の髪に金色の瞳は雪石膏の肌を際立たせている。

外見と同じで-今のティファ-は普段のティファと全く違う。

いうはずのない皮肉を軽やかに口の端に乗せてコロコロと嗤っている姿なぞ、幼な子が絶対にしない事をして愉しんでいる。

 

その姿に溜息をつきながらもバーンはティファに近づきながら頭を痛める。

 

これで何度目か・・・・ティファがパレスで泊まると-こ奴-が表に出てくるのは

 

最初に-これ-に会った時は様々に意味で驚いた。ティファが泊まる事になり隣の寝室に入るのを見届けてから就寝して程なく、ティファが自分の寝室に来ていきなりシーツの中に潜り込んできた。

 

一人寝が寂しいのかと思う間もなく、-ソレ-がティファではない・・・もっと言えば-ティファの自身の体で同じ姿をした全くの別物-だと直感が告げて、カイザーフェニックスを放とうとした時-ソレ-はクスクスと嗤ったのだ。

 

「今晩はで、初めましてバーン。貴方が-私-を表に出す事を望んで、数年越しにその望みを叶えて表に出てきた瞬間殺そうとするなんて酷いじゃないですか。」

 

酷く奇妙でありながら、しっくりとくることをケタケタと嗤って言い放つティファを見て確信をした。

 

-コレ-は最終決戦の公開処刑でティファに飲ませた自分の暗黒闘気がティファの魂と結びつき、表に出て来てしまった魔族のティファであると。

 

「私もティファなんですから邪険にしないでくださいね。取り合えず、-お腹-が空いているので暗黒闘気下さい。私このままだと消えそうなんです。」

「・・・・・断ると言ったら?」

「あっは!そうですね、-私-を餓死させれば残りは-綺麗な幼な子ちゃん-だけになるんですもんね・・・・・そっちの方は-都合がいい-ですよね。

綺麗な夢を見て優しい言葉を言うだけの者の方が好きですよね。それなら仕方がないですね。」

 

魂に結びついたとはいえ、生じたばかりの-モノ-は、酷く不安定でそのまま放って置けば消滅する筈であったのを・・・

 

「くれるんですか?物好きですね。」

 

何故か、消滅させるのが忍びなく暗黒闘気を分け与えてしまった。

己の死を軽やかに笑う様は、矢張りティファだからだろうか?

・・ティファもまた、死に掛けながらも自分達に笑っていたあの姿と重なったせいだろうか?

 

それは気の迷いなのではなかろうかと、暗黒闘気をソレが貪る姿を見て早くも与えて生かす事を選んだ自分に後悔したくなる

 

自分の手から出す暗黒闘気を夢中で貪る魔族のティファ・・・・コレをダイ達が見ればどう思おうか?

気配は清廉さとは程遠い、血生臭を漂わすコレを・・・

 

最早生かす道を選んだは自分てあり、殺す事ができないのであればと、苦虫を潰した顔でバーンは一つの約定をソレにさせた。

 

「約束せよ、余の前以外に姿を現さんことを。」

「その約束をして私に何かいい事があるんですか?」

「なに?」

「ああ、綺麗な幼な子さんはこんな取引しないか・・・・言い直せば-何か愉しい事-下さい。出来れば誰かと激突したり、命の遣り取りするような愉しい事・・・言ってしまえば死神がしていた仕事そっくりください。」

「ッ!・・・・魔界が浮上したこの世界でそのような事が・・・・」

「あっは!嘘ばっかり!!」

 

ダイ達やそれこそ側近達にさえこのティファを見られたくないと望むバーンに、-取引き-を持ちだしたティファはバーンの言葉を嘲笑う。

 

「この世界の-全員-が幸福に向かったいるなんて-夢物語-があるもんですか。

-誰-ですか?平和の世に馴染めず、馴染もうとせず、旧悪に浸りたい莫迦達は。

-何処-に行けば死神の手に負えない程の強者の謀反人と戦えますか?

殺してもいいでしょうか?この-平和な世界に不要なる者達-なんて。」

 

言い募りながらクスクスと嗤ってバーンに纏わりつくソレに、バーンはゾッとして思わず手を振り上げ払いのけてしまい、ティファの顔に傷がつくのを見てはっとした。

コレがどれほど幼な子と違う事を言おうとも、ティファ自身である事に間違いは無いのだ。

しかし傷つけられた当の本人は、其れすらも愉しいと嗤ってい乍ら自分を詰る。

 

「酷いですね~。もとはといえば貴方の暗黒闘気を受けて目覚めたのが私なのに、私がこういう話をするというのも、-ティファ-が平和な世界に不要な者がいる事を承知している証なんですよ。

違いがあるとすれば、貴方達の好きな幼な子は-話し合って-考えを改めて貰うと平和的解決に心血を注いで、-私-はそんな事はどうでもいいので話も通じないような凝り固まって、-死神-とても持て余す強者の悪人と戦えればそれでいいにです。」

「・・・・・そんな殺伐とした事の何が楽しいのか・・・」

「愉しいですよ。相手の意思が、良かれ悪しかれであっても強ければ強いほどその思いを通そうと命を燃やして向かって来るのを、此方も命懸けで戦うあの-激突のような食らい合い-を再びしたく。」

 

バーンが吐き捨てる様にソレが言った言葉を否定しようとするのを、嗤って己の望みを言い切って見せた。

 

魔族の闘争心と戦いを望む戦士としての性が、暗黒闘気の力を得て生まれてしまった魔族のティファの望みを。

 

表の料理人たるティファには、到底理解できない思いの望みを。

 

あの時、バーンの暗黒闘気が注がれ経口摂取までしたあの時、別たれるように生まれた黒い魂の望み。

肉体分離に至れるほどまでに成長する事は叶わず、其れでも確かに存在してしまった-不要の自分-望みを。

 

魔界が浮上し数年経った今、魔界が、ひいては三界が揺れ動く程の者達が動こうとしているのを憂えた表のティファとは反対に、隠れ潜んでいた-自分-は悦んだ。

この事態なれば、自分が愉しめる場をきっとバーンが与えてくれる。

自分が表に出て愉しみながら、世界の-掃除-が出来ると示せばいいのだから!

 

「コレに血が付く事は絶対にしないと誓う。少しでも幼な子に血の匂いがすると感じたら-私-を消しても構わない。一度だけでもいい、もう一度だけでも愉しみたいの。」

 

あの時のような苛烈な愉悦は感じられなくともだ。

 

超一流魔王で戦士のハドラーと比べるなんて贅沢はしない。どんな薄汚れた事でもするからもう一度だけ愉しみたいのだと・・・・・

 

「良かろう・・・・・」

 

その歪んで穢れに満ちた望みを、バーンは葛藤の果てに了と答え、ソレはにこりと嗤いながらバーンの右手の中指に忠誠の誓いの口付けを落とす。

 

先程の約定を本物にするべく

 

すなわち料理人ティファから血の匂いをバーンが感じ取ったと思ったその瞬間、自分の魂を、ティファ自身が傷つく事無く葬り去れる契約を。

 

 

以来数度の-仕事-をソレはこなして見せた。

 

キルの手にも余り、かつ天界の者達でも手が出し辛い堕落した上位者達の首を狩って来させ、其の度に約定は守られている。

 

「ジ=アザーズ使えば返り血なんてつく訳も無しですよ。魂に?まさか!罪悪感なんて感じないんですから私にだって-血の匂い-がこびりつく事なんでないですよ。

大体-生き物-を殺して調理する世の主婦や料理人達からそんな匂いはしないでしょう? 同じ命を殺しているところは同じだというのに不思議に思った事は無いのがそもそも私からしたら変です。

そんなのは命を奪ってしまったという罪悪感か、血の匂いによって好んで返り血を浴びるか精神病んだ者かのいずれかで、魂を変質させたのが血の匂いを感じるというのではないかというのが私の見解ですかね。

私からすれば、強者と戦えて愉しいのであって、血を見るなんてどうでもよくて、過程が楽しいのに結果なんてどうでもいいんです。」

 

ようは強者と戦えて相手を倒せればそれでいいのであって、結果はどうでもいいのだと嗤っている。

 

その歪んだ思いが世界を裏側から救っているのもまた事実で・・・・約定も守られておりコレを消す理由が無い事をバーンはいつしか諦めた。

 

コレは有用であり、そして・・・

 

「・・・・バーン?」

「・・・・・黙っておれ。」

 

幼な子とは全く違う方法であり、コレ自体はどうでもよく思っている-結果-で世界を救っているのもまた事実であり、バーンは銀の髪のティファを抱き上げ歩き始める。

 

「-そろそろ-要り様であろう?」

「・・・・・・明日は槍かイオナズンの嵐ですか・・・・」

 

何時でも、暗黒闘気が切れて苦しくなった時は、察しても決して自らは与えると言わなかったバーンが、自ら暗黒闘気をくれるという・・・

 

何の心境の変化があったのやらと、銀の髪のティファは不思議になるが、これは悪い気がしない。

 

表に出て初めて抱き上げられるのも、其のままバーンの寝室に連れ込まれるのも悪くはない。

 

バーンはそのまま銀の髪のティファを寝台に上げて報告を聞きながら暗黒闘気を存分に与える。

 

血生臭話をしながらも、自身からは決して血の匂いをさせない歪んだ不可思議なティファもまたティファの一部なのだと受け入れて。

 

そして夢中で自分の掌から生じる暗黒闘気を貪っている銀の髪のティファは果たして気が付いているのだろうか?

 

今銀の髪のティファは、両の掌を合わせ湧き出されるバーンの暗黒闘気を夢中で貪っているその様は、ミストが出してくれる料理の数々を夢中で平らげる-ティファ-と同じ様に無邪気な顔をしている事を・・・・




このお話はここまで・・・・・

IFストーリーにしようか悩んだのですが、公開処刑の話のあの時確かに人格を持たせて出した筆者としては、これも主人公の一部だと思い邪険に出来ず、育って-裏方の主人公-が誕生しました。

感想欄でも、主人公のダークな面を見てみたいという要望にも後押しして頂き書かせていただきました。

表の綺麗な主人公も必要で、光が無ければ生き物は死んでしまいますが、それでも、-裏-から世界を守っている者がいるという事もまた事実なのだと筆者は思うのですが果たして・・

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