秋晴れの良き日だというのに、パプニカ城内にいるエイミの顔は曇っていた。
それは彼女が今処理している書類だけが原因ではない。
確かに彼女の仕事は近頃多くなってきてはいる。それは彼女が三賢者の一人であり、民の陳情が多くなってきている昨今、民の不安に耳を傾け時に不安を持つ民衆の、その不安が高まっていると判断すれば、直に会いに行ってその訴えを聞き届け、内容によっては宰相若しくは王の耳にも入れる、いわば三賢者とは魔法のスペシャリストというだけではなく、民草と王室を繋ぐ架け橋でもあり、それがパプニカ三賢者が国民に人気がある理由である。
大戦が終わってからずっと、民達は不安の中にいるのは確かなことであり大戦前に比べて陳情が圧倒的に上がっている。
それも無理もない話で、いきなり大戦が始まり、終わりも唐突でありおまけに魔界が人界のすぐそばに浮上するのだから、楽観視するものなどほぼ・・・・あの料理人の女の子しかいないであろうと言えてしまう・・・・・きっと彼女が目覚めていれば、優しい言葉と確固たる信念の下言葉を世界中に発して多少は民達の不安も和らぐのだろうが、エイミの顔を曇らせているのはそこではない。
今彼女の手には仕事の書類では無い物、お見合いの釣り書きを持っている。
自分には恋人がいる、のは城内では知らない者はいない筈なのだ!!
それでも三賢者の一人という事で、未婚のうちは自分と婚姻することでできるつながりを持つという野心をあきらめない者達がいるのだ。
幼少期よりパプニカの跡取りレオナ王女の側近候補としっ共に育って培われた絆と、今大戦での働きで益々国王からの覚えも目出度くなったのが自分の価値を多構えてしまったようで、この場合は頭が痛くなる。
実際に自分から求婚をしてくる者から、こうして画家に描かせた絵姿入りの釣りが気を届けられるのは正直うんざりとする。
本人からの求婚であればその場ですっぱりとお断りできるのだが、釣り書きは自分で会いに行かなければならず・・・・間違ってもお見合いの席で断ることはしない!場を持ってしまっただけでも脈ありと思われるのはものすごく迷惑でしかない!!
そしてエイミのつかれている最大の理由はそこではない・・・・ヒュンケルだ。
ここ最近のヒュンケルはどこか自分に対して壁を作っているのを感じてしまう。それは口さがない者達がヒュンケルの過去と罪をほじくり返しているのが原因なのは分かっている。
ヒュンケルは実際に大戦開戦時、早々地底魔城からこの国に侵攻を開始してきた。
それは神々の夢告げと、発明王バダックの開発した爆弾・炸裂団、そしてアンデットに有効打を与えられた聖油攻撃のおかげで死者は-少数-で収まった・・・そう、死者は少数で済んだ・・・零ではなく。
最前線では百には届かずとも、それでも死んでしまった者達は確かにいて、遺族や友人、恋人たちからすればヒュンケルは仇であり、許せない者達がいるのは当然で・・・それでも、ヒュンケルは大戦の中で、そしてこの先も償う道を歩くと宣して、自分もその道を共に行く覚悟はできていると告げたのに・・・
大戦が終結した直後は宮廷も静かだったが、平和が素早く訪れすぎてしまったのか特に官僚・文官などの、前線の苦労や恐ろしさを全く知らない者達がさえずりはじめた。宮廷雀とはよく言ったものである。
その標的は外から入って来た者達に向くのが常であり、ヒュンケルは格好の的だった。
曰く彼はこの国を攻めてきた大罪人である、所詮はモンスターそれも魔王軍に育てられた得体のしれないものではないか、そのようなものが我が国の宝の一人である三賢者のエイミ様と結ばれて良いものであろうかと、したり顔でささやきあっている。
それは決して王族や宰相、三賢者達の前では話されていない事であり、それでも確実に囁かれている公然の秘密。
とは言え、その噂を消すためにレオナたちが動くことはできないでいる。宮廷では王族といえども独裁ができるわけでは無く、宰相・大臣・官僚達がいて国の運営が出来ているのであり、ヒュンケルの噂取り締まる為だけに、彼等を尋問するわけにもいかない。
一番いいのは早くエイミとヒュンケルが結婚をし、彼を本当の意味でパプニカ国民にして行く行くは騎士団長の地位につけ、功績を立てさせ彼の償う道を歩いていく姿勢を大々的に表に出すことなのだが・・・・・そのヒュンケルが日和ってしまったのではどうすることもできない。
ヒュンケルが噂で苦しんでいるのは知っている。
宮廷雀は本当にそこかしこにいて、囀りがヒュンケルの耳にまで届いていることを・・その噂のことでアポロは憤慨し、気にすることはないのですと怒り気味に言っている事がヒュンケルの救いになりつつも、降り積もって自分との恋仲を見直そうとしてしまっている・・・・自分にマリン以外の身内がいなくてよかったと思う時が来るとは。
今代のパプニカ三賢者は司教テムジンのよって才覚を見出され孤児院から引き取られた。
それは自分の子飼いを作り、将来レオナ王女暗殺を成功させたのちに国を乗っ取る為の駒としての思惑があったようだが、テムジンにとっては残念なことに、アポロ・マリン・エイミは子飼い成功者第一人バロンと違って正義を志し、貫く者達手であったことだがそれはさておき、エイミとマリンは姉妹だがマリンは自分とヒュンケルの結婚にはむしろ積極的に賛成を表明してくれており、兄とも思っているアポロは言わずもがなである。
王も宰相も王女も、兵士・騎士達も、心ある文官官僚達も賛成してくれているというのに彼だけが・・・
鬱々と考えていると扉がノックされた。それも入室許可もしていないのに突然開けられ、エイミの形の良い眉がキュッと上に上がった。
三賢者はそれなりの地位が高くのようなことは初めてであり、しかも相手が今まさに手に持っている釣り書きに付けられている小さな肖像画の人物であった。
「こんにちはエイミさん。」
「・・・・・貴方は・・」
「あぁ、名乗っていませんでしたね。僕は法務大臣の補佐をしているアルテイル家の次男でポラスと申します。」
「そうですか・・・・それで何の御用でしょうか?」
「これはつれない、僕は貴女に求婚をしに来たのですよ?」
エイミの不愉快さを気にもせず話しかけながら少しずつエイミに近づく。
ポラスは貴族の次男坊よろしく、有力な家柄やエイミ達の様に高い地位にいる未婚の女性を鵜の目鷹の目で狙っている者の一人で・・・・それは一族の者達の為に悪いとは一概には言わないが、それでもこんな無礼をエイミにとっては許せる事ではなく、近づかないように警告を発しよとしたその時、扉が再び音を立て開いた!
「エイミ!!!」
それは血相を変えたヒュンケルであり、エイミの近くまで来たポラス等目もくれずにそのわきを通り抜け
「ちょ!!ヒュンケル!!!」
なんとエイミを!お姫様抱っこすると同時に部屋を走って後にし、エイミ同様何事かと呆然としたポラスを置いていった。
「ちょっとヒュンケル!いったい何事ですか!!!下ろしてください!」
「・・・すまない・・・」
「ヒュンケル!!」
お姫様抱っこのまま王城内を歩かれるのは恥ずかしいと、顔を真っ赤にして抗議するエイミに、ヒュンケルは申し訳なさそうにしながらも決して下ろす気はないと腕に力を込めての意思表示をし、そして-共犯者達-の元へと辿り着いた。
「アポロ!バダックさん!!!貴方達まさか・・」
「ヒュンケル殿!レオール陛下とレオナ王女に謁見の許可は得ました!」
「ささ、お早く!!」
「お二人とも、お世話なりました!!」
事態についていけないエイミを、ヒュンケルはそっと降ろし、いつの間にか辿り着いた謁見の間の扉をゆっくりと叩き、中からあけられた扉をエイミを伴
い入った部屋には、アポロが言った通り国王と王女が待っていた。
「ヒュンケルよ、エイミと共に私たちに報告したいことがあるとアポロとバダックからあったが、さてはて。」
「本当になんでしょうね~。」
中で待っていた二人は、ヒュンケルの答えを知っているが如く・・・・レオナのようにレオールも少々崩れた笑いをしている。
その二人とは対照的に、ヒュンケルは真剣そのものであり
「私は!こちらにおられる三賢者のエイミ殿を娶りたく!!」
「ヒュンケル!?」
「そのお許しをいただきたく!!!」
ヒュンケルは覚悟を持ってきた。
ロン・ベルクに、エイミをすっぱりとあきらめろと言われた時、胸をえぐられるような痛みが走った時、更に言われた言葉で蹴飛ばされたのだ。
「それができないって言うんだったら!死ぬ気で惚れた相手を守り抜け!!」
そうだ、エイミは、あの人は自分と共に地獄の道も歩いてくれるとそう言ってくれたのだ。
そして自分は其の想いに応えたというのを忘れたとは・・・・
蹴り飛ばされたヒュンケルの行動は、今まで悩んでいた分を取り戻すかのごとく素早く王城で頼れる二人、即ちアポロとバダックに協力を頼み二人も否やはなく素早く場を設け、そして今エイミは王と王女、そしてこの国の重要な者達の前でヒュンケルに求婚をされた。
それはエイミにとっては夢のような出来事であった。
孤児院から引き取られた者と嘲られる事なく、レオナ王女にもレオール王にも優しく接してもらい、エイミにとっては敬愛してもし足りない大切な人達の前で、愛する人から求婚をしてもらえた。
涙を堪え切れず、それでも震える小さな声でエイミはヒュンケルの求婚に応えた。
「お受けします・・・ヒュンケル。」
今宵ここまで
三賢者周りの設定作らせていただきました・・・