勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

41 / 535
この回にてデルムリン島を旅立ちます。
よろしくお願いします。


旅立ち

ダイの放ったストラッシュは未完成ながらも威力はすさまじく水平線の彼方まで届き、

直撃を受けたハドラーは手持ちのキメラの翼でかろうじて鬼岩城へと逃げ延びた。

ティファは行き先を知っているが放っておいた。

瀕死のハドラーよりも・・「先生!!アバン先生!!!!」

アストロンが解けたポップは砂浜に力なく座り、師を思い泣き伏している・・。

ダイの方を見れば・・「う・・っく・・」無理やり泣くのをこらえている。

(泣きたければ・・思い切り泣いた方がいい・・)

ティファはまずダイに近づき、握りしめているパプニカのナイフをゆっくりと離させ腰の

鞘に納め、ダイの手を引いてポップの真横に座らせた。

何だろうと、疲れてぼおっとしたダイは妹の顔を見ようとしたが出来なかった・・ポップ諸共に、

頭を抱きしめられた。

「二人共、泣きなさい。

悲しいときは泣きなさい。

泣いていいのですよ。」

優しい声が、泣くことを許してくれる。

戦いに犠牲は付き物というのではなく、倒れたものを悼んでいいと・・許されて・・

「うああー!!先生!!アバン先生!!」

ダイも、ポップの様に師を悼み、心の痛みのままに叫ぶように泣き始めた。

ポップも同様に、喉も嗄れるほどの声で・・ティファの小さな体にしがみついて泣いた。

力の限り胸の中で泣き、しがみつく二人をティファは何も言わずに受け止め、兄二人の悲しみを全身で受け取め頭をゆったりと撫ぜ続ける。

(今日だけは、今だけは泣いてもいい。)

これからもっと、今以上の過酷な旅が待っている・・子供にとっては地獄巡りと言ってもいい。

逃げたくなる程の酷きことが、恐ろしい敵たちがまっている・・死の淵まで行くことも。

そんな旅が待っている二人を、今日だけは心ゆくまで泣かせてあげたい。

その思いでティファは兄二人を心の底まで抱きしめる。

ダイとポップは泣き疲れと・・甘く優しいティファの気配につつまれて、眠りの底へとおちてゆく。

 

 

「おやすみなさい二人共。」

ゆっくりと休んでほしい。

「・・じいちゃん、先にポップ兄を家に・・ちょっとまってて・・。」

島の皆は今狂暴化を防ぐために私が寝かせたので力を貸してもらえない。

かといって、今のダイ兄をじいちゃんじゃ背負うのも無理だ。一人ずつしか運べない。

ポップ兄を背負い、ダッシュをすればあっと言う間に我が家に着く・・私本来の力が使える

・・・アバン先生が居なくなったことで・・。

そのまま二階の客間に寝かせる・・布団はポップ兄と-先生-の二人分ある。

もしかしたら魔王は来ないかもしれないと一縷の望みをしていたが知識通りになってしまった。

ポップ兄を寝かせて、直ぐに浜に戻ってダイ兄を背負いじいちゃんとゴメちゃんとゆっくりと歩く。

じいちゃんは始終俯き涙を堪えて、ゴメちゃんは私の肩に留まってぽろぽろと涙を流している。

二人も先生が好きだった・・思う存分泣いてほしい。

悲しみに沈まない様に、前を向いて歩けるように、悲しみを内にため込まないのが一番いい。

今日はダイ兄も二階の客間に寝かせた。

朝起きた時、ダイ兄もポップ兄も一人は嫌だろうから。

「・・ティファや・・。」

「・・私は大丈夫だよじいちゃん。

それよりも、旅の支度してくる。

誰も・・これ以上悲しまない様に、薬草うんと持っていく。

いいよね・・わたしがふたりについていっても・・。」

「ティファ・・行って・・無事に帰ってきておくれ・・。」

 

兄二人を寝かしつけ、哀しみを湛えた瞳で二人を見つめても・・ティファは泣かない。

本来ならば、ダイよりもよく泣くティファが。

心配で声を掛けても、静かな声は揺るがず、かえって不安になる。

心配じゃ・・こうとなってはダイとポップ君の二人だけで旅をさせるのは不安じゃ。

ティファには薬草知識と、外の旅の心得がある。

島の外の知り合いもいて、三人の旅の方が心強い・・しかしやはり心配だ。

ティファはダイとポップ君を泣かせても、自身は泣いていない・・自分達が泣いてもだ。

泣くのは悲しみや痛みから心を守るのには必要な事だ。

ダイとポップ君の事を守っているのに、ティファは自分の事を守っていない・・。

「ティファよ。」

「何じいちゃん?」

「守るのじゃぞ。」

「うん、分かってる。皆を・・」

「自分もじゃぞ。」

「・・じいちゃん」

「自分を守れぬものが他者を守れるはずが無かろう。。」

「・・・・」

「アバン殿から何かを託されたのじゃろう?その眼鏡と共に。」

「うん。」

「じゃからなティファや、それと共に自分の事も大切にするのじゃぞ。」

(・・優しいなじいちゃんは)

ブラスの優しさが沁み込み、ティファはふいに涙がこみ上げそうになる。

「・・守るよ、だから・・日の出まで休むね。」

「分かった。準備は明日すればいい。」

「うん・・お休みじいちゃん。」

ティファは一階の自室で休むことにした。

扉を閉めて、ハイエントの防音結界を張ると-ポタン-

涙が一滴こぼれ、後からどんどん流れ・・胸の痛みにたまらなくなりベッドへと思いっきり

飛び込み布団を握りしめて大泣きをし、ダイ達同様眠りの底へと落ちていった。

 

 

「本当に行くんじゃな、ダイ・ティファ・ポップ君。」

「うん、ロモスの王様と、レオナを助けに行かないと。

俺、皆を守りたいんだよ。

「じいちゃん、私も一行の料理人として皆を心身共に守るね。」

「ブラスさんお世話になりました。

俺も先生がやり残したことをしに行きます。」

朝全員が起きた時、話し合って決めた事。

魔王・・今は魔軍司令官になったハドラーに止めはさせず、今この時にも世界は危機に瀕している。

・・一応兄二人からは静止が入ったけれども、私が回復の薬草に詳しいとじいちゃんが後押ししてくれてついていける事になった。

出発の為にポップ兄達が乗ってきた小舟を三人用の帆船型にするのでちょっと手間取った。

「ティファならガルーダがいるじゃんか・・。」ちょっとポップ兄がぶうたれた。

「あのねポップ兄、ガルーダは目立つでしょう。

どこに敵の目があるのか分からないんだから、目立つことは禁止!

手の内はなるたけ隠しておく事。

今はそうでもないかもしれないけど、レベルが上がって手数が増えてもギリギリまで敵に気づかれないようにしないといけないよ。

変に目立つと敵に目を付けられて、攻撃目標一番にされたら危険度が増しちゃうでしょう。」

「そっか・・分かった。」最初のミニ授業になった。

こうやって少しづつ生きぬいてしたたかに強くなる方法を教えていかないと、

一歩間違えば全滅が目に浮かぶ。

勝って生き抜いて、これから出会う仲間達も守っていこう。

 

 

【ティファ・・本当に彼の者の行方は・・】

「知らずに行くね、竜じいちゃん。」

私も一旦は先生が完全にいなくなったと思って旅立つことにした。

私自身が何かに縋りつかない様に。

不確かなものを頼らない様に。

『気を引き締めて行け。

これより我ら三神はどのような事が起ころうとも其方に手助けはしてやれぬ・・』

「分かってますよ。

ですから、そんなに泣きそうにならないでください天神様。」

[本当に気を付けていくんだよ!!

変なのよって来たら種族問わずで倒しても、僕たちが許してあげるからね!!]

「・・もう・・人の神様は~。」

船の完成前に、忘れ物を家にとりに行く振りをして洞窟に来て三神様に挨拶に来た。

三神様の方が旅立るんじゃないかってくらいに辛そうだ。

「行ってきます。」

この世界で育って十二年・・様々な思いを込めて挨拶をして洞窟を出た。

洞窟の隣には、「ガルーダ、行って来るね。」ガルーダの寝床がある。

「-我はいらぬのか・・-」・・ちょっと不機嫌だ。

「暫くは兄達の歩調に合わせるよ。

・・遅くとも十日後にはガルーダに来てほしい。

白い鳩が来たら、鳩に付いてきてほしいんだ。」

ヒュンケル戦後の後位にウォーリアさんに頼みごとをするために戦線離脱をして別行動したい。

近頃ようやく式鳩が上手くいくようになったから、離れていてもダイ兄達の元に飛ばせる。

仕組みは簡単。

ダイ兄達の服に極最小の式の虫を付けて、虫で周囲の位置を確認するか、その式を目印に式鳩を飛ばせばいい。

離れていても皆を守る方法が増えた。

ガルーダもしょっちゅういたら目立つし、ガルーダだってのんびりしたいはずだ。

「-分かった。気を付けて行け-」

「うん、また向こうでね。」

ガルーダにも挨拶をして浜辺に行けば、

「ティファ~船で来たよ~。」

「早くしろ~でるぞー!」

船の完成と、島の皆の見送りが待ってた。

 

               -バサリ!-

             「「「出発!!!」」」

 

 

帆は追い風を受けて満杯に広がり海へと勢いよく走りだす。

三人で島が見えなくなるまで手を振り続けた。

島に、じいちゃんに、三神様達にお別れをして、いざ旅立ちだ。

 




次回は本章突入前に幕間を挟みます。
勇者サイド、魔王軍サイドの二章になります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。