勇者一行の料理人であったティファには後悔していることがある。
沢山の事を自分で背負いすぎて、各方面の人々に多大なる心配をかけてしまったのは致し方ないと割り切っている。
心配をかけられた方としては胸が潰れる思いであったと怒りたくもなるが、それでもあれ等はティファでなければ数多の命が消えていたのだと分かっているので、ティファの一年の眠りの後お詫び行脚をしてきっちりと謝罪をした事で一応収まっている。
身内にもあんな無茶は二度としないと確約したので許してもらってそれもいい。
問題は・・・・
「ヒュンケルとエイミさんのお式で料理作ってお祝いしてあげられなくて・・・・・」
これである。
ティファとしてはあの二人の結婚は自分が盛大にお祝いの料理をしたかったと後悔している。
-原作のヒュンケルとエイミ-はどう考えても、仮に結婚するにしてもしないにしてもあんなにすぐに、それこそ大戦の最中に答えが出ていないと断言できるからだ。
それこそ原作ヒュンケルなどは実際にパプニカを一度滅亡させてしまった大罪から己を咎人と断じ、勇者一行の盾となり身命を賭すことが償いの道だと信じて己の事など顧みる気ゼロだろう。
そうでなくばあんな自爆特攻にも近いような、最後は全身の骨に微細なヒビが入るような戦い方を選ぶまい。防御するというよりも己を守る気ないだろうと言ってやりたくなるのをこの世界では全力阻止を掲げてうまくいった気がする。
そしてエイミにもヒュンケルとの橋渡しが出来て嬉しく、最終決戦のあの日ヒュンケルとエイミの結婚話が聞けてとても嬉しかったのだ・・・・自分が全てを使ってこの世界を優しい方向にもっていくという自分勝手に思っていたくせに、全力お祝いをしたかったというのは滑稽であろうが・・・
はっきりと言えば、あんな事をしでかしておいて命を繋げられたのは自分を愛して諦めないでくれたみんなのおかげであり、一年の眠りで済んだ事はどう考えても奇跡以外の何物でないのだが。
「ティファさん・・・私達はその言葉だけで嬉しいですよ。」
「そうだぞティファ、何かにつけてティファやマァムが作ってくれたお菓子やデルムリン島の美味しい野菜・果物を届けてくれるだけで助かる。
俺もエイミも忙しいから特に新鮮な野菜・果物は助かる。それに今はエイミも-大事な時期-だ。果物は本当に助かってる。」
「・・・そうですか?そう言っていただけたら嬉しいです。」
ヒュンケルとエイミが結婚し、その半年後に目が覚めたティファはアバンとフローラが、ヒュンケルとエイミが結婚をしたことを知って嬉しさと後悔が生じた。
アバンとフローラにはそこまでではないが。二人は王侯貴族であり、功績あっても城勤めの料理人の仕事を取る事はできないので起きていてもお祝いのお菓子を作るのがせいぜいであっただろう。
人にはそれぞれの分と言うものがあり、大戦という非常時だからこそたった十二歳の小娘の言が通っただけであり、秩序が回復するのが望ましい世界ではしてはいけないだろうとはティファであっても分かっている。
しかしヒュンケルとエイミの時は料理人ポジ買って出られただろうにと思うと落ち込んでしまうのを、ヒュンケルとエイミは優しい瞳でティファにお礼を言う。
ティファは近頃はあまり外出をしない。悪魔の目玉で親しい人達と連絡を取り合い、互いに部屋に居ながらにしてお茶を飲んでお菓子を食べ合ってペチャクチャと楽しいおしゃべりができ、お互いに何か用事が入ったり時間が来たときはまたね~と互いに負担なく切り上げられることができる、いわゆるオフ会が出来てしまうので外に出たいという意欲が低い。
しかしヒュンケルとエイミには、結婚式のお祝いが出来なかった代わりのように、二人の休日の日を聞いて南国特有の果物と、生でも食べられる新鮮なお野菜を定期的にお届けをしているのを、新婚から少し経つが、それでもいつまでも新婚さんのような若夫婦は助かるとお礼を述べて、果物はさっそく切り分けティファをお茶に誘って時折エイミとティファが夕食を作って食べてから見送ることもある。
ヒュンケルとエイミにとっては、ティファが無事にそれも短期間で目覚めてくれたので文句なぞ何もなく、起きてくれただけで嬉しいのだから問題はない。
特に-今の時期-は、ティファが側にいてくれるだけで二人の、特にエイミにとってはほっとする。
「エイミさん、-お腹-がまた大きくなりましたね。体の異常はありませんか?」
「大丈夫です。安定期に入ってからお城で書類仕事をしている時に、定期的にロムス様が直々に見に来てくれるので助かってます。それに姉さんはともかくアポロが心配しすぎてくれて書類の持ち運び全部してくれるので反対に運動不足になる気がするくらいです。」
最期の方は少し苦笑していたが、エイミは無意識に膨らんだお腹を撫でながら幸せそうに近況報告をしている。
そう、エイミは今妊婦さんなのだ。妊娠して八か月目になり、安定期に入っているので初産ではあるが適度な運動も必要なので出仕を続けている。
幸い三賢者の今のお仕事は宮廷魔法使いの育成に携わることが多く、其の為に必要な書類仕事をエイミが引き受けている。
王城であれば宮廷医師長のロムスがおり、姉のマリンがいてアポロも何かと・・・少々過保護気味ではあるがフォローしてくれるので気が休まる。そして何より王城にはヒュンケルもいる。
ヒュンケルはこの度目出度くレオナ王女付きの近衛騎士団の団長に任命されている。
騎士団よりもレオナを側近くで守れ、何よりも三賢者達と仕事をすることができるので誰にとっても願ったり叶ったりであるのはレオール王のお陰。
「我が後継者を守るのに彼ほどふさわしきものがおるだろうか?」
当然罪を許されたとはいえヒュンケルに対する風当たりはまだまだ強く、反対した者達にはなった王の言葉はその一言のみであった。
強さは当然いうべきところはなく、大戦時の彼の生きざまが決定打となった。
勇者一行を助ける道を行くといったのは口先だけではなく、何度となく訪れだダイ達の危機をその身を張って窮地を乗り越えてきたヒュンケルを信じてみようと言われては表立っての声は消えて無事に就任できて今に至っている。
そして今や最愛の妻が身籠っている、これほど幸せなことがあるだろうか?
それに近頃エイミのお腹が通常の妊婦よりも大きいと言われてやきもきしていたら、なんと双子のようだ。
これはロムスの見立てであり、ダイがエイミのお腹に二人の生命力を感じると言って、しかもお祝いにラーハルトとなんと遠くからはロン・ベルクが来た時に、二人の聴覚が心音を二つとらえたので間違いはないだろう。
エイミのお腹には二つの命が宿っている。
「出産は大変だと思うけれど経験豊かな産婆さんをもう見つけたから安心してね。」
とはレオナ姫が胸をたたいて大丈夫よと励ましてくれた。
双子・三つ子、時にもっと多産の出産を手掛けた産婆をレオナはしっかりと見つけ、エイミの産み月が半月になった時に呼び寄せる手はずが整っている。
仮に何かの拍子に早産となっても
「大丈夫よ!マリンにその人の下に一度行かせているからキメラの翼で連れと来られるから!!」
全てにおいて万事抜け目のないレオナはかっこいいとはダイの言葉であった。
レオナをはじめとしたパプニカ城内はエイミの出産を楽しみにしており、気の早いポップなどは出産祝いにと大量のお締めを贈り、チウも何か贈り物できないかとクロコダインと考えている最中。
それと同時にティファのヒュンケルとエイミ宅を訪れる頻度が増えた。
初産のエイミの様子を見に来ているのもさりながら、エイミの中で育っていく命を見るのが嬉しくて通っている。
悲鳴も聞かず、戦火を知らず、人の怨嗟を知らずに生まれ出る生命達・・・自分はこの子供達を見たくて戦い抜いた。
無垢で無邪気な子供達に影のさすことのない平和な世界・・・・夢物語ではもうない、現実にあるのだ今この世界こそが。
周りの心ある大勢の人々によって実現した奇跡のような世界、この世界がこのままの道を歩き、どうか次の世代もその次の世代もその道を言って欲しいと願う暖かな世界。
「生まれてくるのを待っていますよ。」
夕飯を取り終え帰る前にティファはエイミのお腹に手を当て願う。
無事に元気に生まれてほしいと。
そのティファの頭を、エイミは愛おしげに撫でる。
ティファにもいつか素敵な恋人を見つけ、そして今の自分のような幸せを味わってほしいとエイミも願って。
沢山の惨い目にあい、誰よりも沢山傷ついたティファがこれ以上ひどい目にあわずに幸せだけが訪れますようにと。
それから二月後のある日、ティファは-戦場-の只中にいた!
「産婆さんもう少ししたら来ますからねエイミさん!大丈夫です!呼吸はヒッヒフゥ~、はい!ヒッヒフゥ~を繰り返して、痛かったらヒュンケルの手を握って知らせてください。ヒュンケルその時は腰さすってあげてください。長丁場になるのでエイミさん、痛みの弱いうちに果実を擂り潰したこれを飲んでください、体力もいるので一口サイズのサンドイッチも齧るだけでもとってください。」
いつものように夕餉を終えてティファが帰ろうとした時、エイミが陣痛起こしててんやわんやになった。
すぐさまヒュンケルは城に登城し、レオナが手配しているという産婆を呼びに行ったが、あいにく産婆の方も難しい出産に助けを求められて昨日から出かけているという。
仕方なく宮廷医師の中でも珍しい女性で出産経験のある者がいたので産婆が来るまでも繋ぎとしてヒュンケルの家に行き、女医の指揮の下ティファも残っている。
幸い破水はまだなので生まれるまでは時間がある。
夕餉も摂った後なので体力の方も大丈夫だろうと女医から励まされている内に産婆を連れたマリンもやってきて、万全の体制になれた時にエイミの出産が本格的に始まった。
大戦時の戦いの時よりも、ミストとの過酷な修行の時よりもヒュンケルにとっては苦しい時であった。
妻が痛みの声を上げている。それもこれも自分とエイミの愛の結晶たる子供を、我が子等を産む為に。
二人の間の子であるのならば、何故女性のエイミだけがこのように痛みの苦しみにのたうつのか、その半分でも叶うならば全ての痛みが自分に移ってほしいとばかりにヒュンケルはエイミが握りしめる手を片時も離さなかった。
どうか、エイミと子供達が無事でいてほしいと願いながら
夕刻から始まった陣痛は、双子の為か夜中になっても終わらず、未明になって黒髪の男児が産声を上げた。
産まれた子の声に、ヒュンケルは涙が流れた。
多くの生命を殺しかけたのに・・・・産まれてきてくれた生命が愛おしとは身勝手だと思いながらも・・・
「ヒュンケル、産湯をつかいますね。もう一人の子も無事に出てこられるようにエイミさん励ましてあげてください。」
「あぁ・・・頼むティファ・・」
へその緒を切った産婆と女医から一人目を受け取ったティファは、用意しておいた金盥のお湯に赤子を浸し、血の汚れ全てを拭って身ぎれいにし、産着にくるんでこの日の為に用意をしたベビーベッドに毛布を敷き詰めフカフカにして赤子を横たえる。
本当は直ぐに初乳を含ませてあげたいのだが
「もう一人、貴方の妹か弟が来ますので、少しだけ待って上げてくださいね。」
小さな体で懸命に生きている事を伝えんといまだに鳴き声を上げる赤子に、ティファは優しく話しかけ、小さな手のひらに指を入れれば、そっと握り返された。
小さな手は、それでも生命であると言わんばかりに温もりの塊であり、我知らずティファも涙があふれて頬を伝った。
「・・・あ・・りがとう・・・・産まれてきてくれて、本当にありがとう・・」
大戦から大分経ち、この赤子が大戦後初めてという訳ではなく、それどころか最終決戦のあの日であってもどこかで生命は生まれ、死にもした。それこそが自然、それを分かっていても、ティファは感謝の言葉を赤子に掛け続ける。
この平和な世界に、産まれてくてくれた事が嬉しくて。
程なくして、二つ目の産声が響き渡った。
薄っすらとした銀の髪の女の子が、兄以上の声を張り上げながら。
二人の赤子の誕生を祝うが如く、ヒュンケルとエイミの家が中を陽光で満たされながら
今宵ここまで