勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

414 / 536
元魔剣戦士の結婚:番外編・中編①

十五歳になる一月前にミストに結婚してほしい宣言をしたスピカ。

その宣言は、多大なる苦悩の果てに成されたものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~遡った三月前~

晴れた空の下で、ぐすぐすと子供が泣く声が響き渡る。

その声を自分の両親と知っている人達に知られたくないと、今は無人のバルジ島の浜辺に連れて来て貰って、-二人-に会うまで我慢していた分の大粒の涙を流しながら・・

 

「泣かないでスピカ・・・君も暗い顔をしないでおくれよポラリス。君達には笑顔こそが良く似合うのだから・・」

「でも・・でも・・・・・どうしようキルおじちゃん・・・私どうすれば・・」

「・・・・父も今回の話には良い話かもしれないと・・・・・俺には何も言う事はできません。だからどうしても欲しいのです!キルおじさんの助言が!!」

「これは・・・・本当に困った事だね~。」

 

泣くスピカと辛そうなポラリスを前に、かつては仲間からも冷酷無比と呼ばわれ怖れられた死神キルバーンは、その姿はかけらも見当たらずに、ポラリス同様に辛そうにして溜息をつきながら、泣くスピカを優しく抱き上げあやし始める。

双子が赤ん坊の頃から泣いていた時と同じように。

 

後三月もすれば、この世界ではある程度大人になったと認められる十五歳になろうかという

スピカも、優しいキルおじちゃんになら子ども扱いをされても嫌ではなく、優しく揺すられ背中をトントンと宥められるように叩かれるのが心地よく、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。

 

ヒュンケルとエイミの双子は、この世界の平和を謳歌して育ってきた。

戦火の足音は無論の事、父の-昔の罪-も今や本当に過去の事となるほどにこの国に様々に貢献をして非難される声を聞いたこともない。

皆優しくて頼りになって、悪い事をすればきちんと叱られもしたが、反省をして謝罪をすればみんながきちんと許してくれる良い人達に囲まれて育ってきた。

 

そんな中、スピカが泣いているのはお見合い話が持ち込まれたからだ。

それもただのお見合い話ではない。普通のお見合い話しであれば、自分の年齢がまだ幼い事で断りやすく、父と母も常々結婚は好きな人とすればいいと言ってくれている。

それでも今回スピカが、兄ポラリスとキルおじちゃんに目玉通信で助けを求めたのは、相手がベンガーナの元戦車隊長で、現ベンガーナ軍の最高司令官アキームの令息だからだ。

名をライオネルといい、双子とは二つ違いで中身は父譲りの実直さもあるが、若者らしい柔らかさを持ち合わせている・・・・物語に出てくるような優しい英雄騎士がそのまま出てきたような具現化していたような人。

そんなライオネルとスピカ、そしてポラリスも初対面ではない。

去年国同士の交流で貴族やそれに類する文官・武官達の子女達を親同伴の交流の場を設けられた時に出会ったのだ。

大戦で戦友ともいえる仲になったアキームとヒュンケルは早速旧交を温めながら子供同士を引き合わせ、ポラリスは交流の場で妹に虫がつかないかを睨みを利かせるので忙しく、スピカも-他の男-に興味がないので、父の友達の子供程度の認識で終わったのだが、ライオネルが双子に一目惚れをしてしまった。

己よりも年下なのに、そうは見えない立派な体躯を持ち、、それに伴う様に大勢の王侯貴族やその子女達の中にあっても物怖じもせずにに堂々としているポラリスに、そして兄の肩程までの華奢で妖精のような容姿でふんわりと笑うスピカに。

 

それはライオネルの遅い初恋であった。それまでも武も文も懸命に学んでいたライオネルであったが、いつかスピカに結婚を申し込むような立派な男になりたいと更に学び、のみならず礼儀作法も師をつけてもらい、己を磨いて父に懇願をした。

スピカが十五になる前にお見合いをさせてほしいと。

 

十五歳になれば、ポラリスとスピカも社交界デビューをする。

そうなればスピカはさらに人々の目に留まってしまう。去年開かれた国同士の交流の時は、双子は途中で休憩しに行ってそのまま終盤も出てこずに、さして人の目に触れなかったが社交界デビューはそうもいかない。

デビュタント達が入場し、王より寿ぎを頂き最低でも三曲はダンスをデビュタント同士で踊りあう。

・・・・あの美形の双子が放っておかれるなどとあり得ない・・・

 

「無理強いは致しません!それでも・・・スピカ嬢に私の気持ちをお伝え出来る場を一度だけでも・・・」

 

切なげに告げる息子の願いを、アキームは妻に相談しながらヒュンケルとエイミに打診をした。

息子ライオネルの真剣な思いを綴って届けられた申込書に、パプニカの宮廷人のような思惑はなく、信頼できる戦友の子ならば会うだけでも良いのではないだろうかとスピカに告げたのだが、スピカは会うのも嫌だと泣く。

それは会うだけでも-あの人-に対する気持ちを穢してしまう様な、思春期特有の少女の潔癖さが拒んだのだ。

 

「お父さんと・・・お母さん・・・会ってみればッて言ってたの・・・でもね・・・私はね・・・」

 

会うだけも嫌だと泣くスピカを、キルは子供の我儘とは受け取らず、兄ポラリスも妹の癇癪だとも思っていない。

スピカは温室で育てられ、明るくよく笑う子であるがとても繊細な心を持っている。そしてスピカの気持ちが、とうの昔に決まっており、それを誓いの様に大事に大切に幼い胸の中に持ち続けているのも知っているからこそ、スピカに良き助言をしてあげたいのだが、自分には無理だとキルも苦悩する。

 

「分かっているよスピカ・・・・それでも僕ではきちんとした助言をしてあげるには今回ばかりは少し無理だ。」

「キルおじさんでも難しいですか?」

 

双子にとっては一縷の望みをかけてくれたであろう願いを無碍にする様で心苦しくなりながらも、キルはポラリスの疑問に答える。

 

「そうだね、これが何かしらの揉め事や、君の両親を取り込んだり、ダイ王太子達とコネを持ちたいといった策謀・謀略が少しばかりでも混じっていれば-僕-が裏で動ける余地があるんだけどね~。」

 

キルは別に今スピカとポラリスに挙げたこと自体は否定はしない。

人間だろうが魔族だろうが、少しでも良いポジションにつきたい、良い目を見たいという欲望は多かれ少なかれあるのが自然であり。それこそ王侯貴族に限らず大なり小なり家の結びつきの為に結婚をするのは珍しくはなく、其れでお互いがメリットがあればなお結構と考える方だが、自分の身内と思っている子供達がかかっているのであれば話は別で、いわば理不尽な我儘だとは本人も自覚している。

それでもこの二人を愛する以外の不純な考えを持ち込んでくるのであれば、それこそありとあらゆる手を駆使して、人知れず死なない程度ではあるが地獄の底に叩き込んでやるものを、この件に関しては-死神-の出番なぞ端から無いのだ。

 

「・・・・過去数回そういった-馬鹿-はいましたが、悉くアポロ様や助けを求めてマトリフ様が動いてくださいました。しかし今回はそれとはまったく違うのです。」

 

本当に純粋に妹を好いてくれているのは兄としては嬉しい。

だがスピカの心はもう決まっている・・・・父と母には申し訳ないが、せめてその事にスピカ自身が思いを遂げられずとも決着がつくまでそっとしておいてほしいのだ。

 

世の中とは、なんと儘ならないものか、、それでもキルおじさんが希望を照らしくれる。

 

「僕では無理でも、どうにかいい助言をしてくれそうなところに行こうか。」

 

その言葉に、双子は縋りつきたくなる。

この一件は誰もが悪くなく、それでも譲れぬものがある。

それでもスピカは不安になる。

自分が相談をしに行く事で、せっかく自分の事も考えて今回のお見合いを話してくれた父と母に知られてしまうのが。

我儘だと嫌われたらどうすればいいのか、、

 

「・・・・お父さんとお母さんに知られない?」

「大丈夫、-あの人-なら二人の、、いや、ーみんなーの思いを無碍にはしないよ。」

 

キルの確信に満ちた信頼する言葉に、スピカは安堵しポラリスも安心して妹の相談について行こうと申し出る。

元々妹に呼ばれたのですがと報告すれば、丸一日、足りなければニ、三泊はしてこいと言われて送り出されている。

 

「分かりました、今日は一日休みを取っていいとロン・ベルク師匠から言われたので俺も行きます・・・・だから心配そうな顔をするなスピカ。」

「お兄ちゃんも、キルおじちゃんもいてほしい・・・」

「大丈夫、最後まできちんと一緒にいるからね、ポラリスも僕に摑まって。」

 

 

 

空間を通り、キルは双子の悩みをきちんと聞いて良き助言をしてくれる人の下へと向かった。

-誰-にとっても、優しい答えを導き出すのを共に考えてくれる人の下へと




今宵ここまで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。