「子供のこの子達に聞かずに、御両親に直接お聞きになられてはどうですか?」
自分と妹が三つ四つになった頃から-周り-は騒がしくなった。
父も母も城勤めの為に、俺達もお城の一角で愉快なお爺ちゃん達や、父さん母さんの仲間の人達がいつもにぎわっていたけどそれとは違う騒がしさ・・・今思えば不愉快な五月蠅さ。
自分たちの周りに常に誰かいられる訳もなく、時折二人でいる時を見すましてそいつらは来る。
-お父様たちにはいつもお世話になっております-
-今度我が家に遊びに来ませんか?同じ年頃の娘がおりまして-
-息子とお友達になってくれると嬉しいですね~-
父と母の仕事仲間の人達は違うと分かるような大人達が、自分の家に俺達を招こうと躍起になっていた。
鬱陶しい・・・・そうは言っても実害があるわけでもなく、他に何をされている訳でもないから父と母に言えることでもなく・・・・言って遊びに行くかと聞かれるのも何故か嫌だったので黙っていた。
「お兄ちゃん・・・あの人達、私・・・」
妹のスピカもストレスに感じ始めても、俺も妹も-そういう事-を隠すのが何故か上手くて、誰にも気が付かれずにはいられた。
父も母も忙しい、そして会いに来てくれる人達も、妹に魔法使いにならないかと笑ってくれるマトリフ様も、宮廷医長のロムス様とやはり忙しそうにしている。
みんな忙しいのだから我慢しようと、妹と二人で頑張ろうと約束したある日に突然聞かれた。
「君達二人とも何か嫌な事にあってるでしょう。正直に言ってごらん。」
その人は・・・・何と言おうか・・・物心ついてからはその人の事を胡散臭く感じていた。
赤と黒の仮面に道化の衣装を身に着けて、その身に着けていた衣装に相応しく始終しょっちゅう瓢げた振る舞いをする道化そのもののようで、チウさんとメルルさんと-あの人-以外には、あのアバン王様とレオナ王女様にまで胡乱な目を剥けられる怪しい者だった。
妹は博愛精神を発揮していたし、俺も怪しいがミストおじさんが普通に一緒にいるので、悪い人ではないと結論付けて一応はキルおじさんと呼んでいた。
ただそれだけの人が、本当に何の脈絡もなく、周りの大人所か父さんも母さんも気が付かなかった俺達の心情を言い当てた。
唖然として何もありませんという言い訳すら出てこなくて、妹はどうして分かったのポツリと言ってしまった。
・・・・それが無くても、キルおじさんはその時にはもう確信していたから、スピカが言おうが言うまいが結論は変わらなかったとは思うが何故、俺達に何か異変があったのかを察知したのか分からないのを、キルおじさんこそが困ったような雰囲気になって教えてくれた。
数日前にプレゼントを持って行ったとき、二人の雰囲気が自分が知る中で一番悲しい気配がしたのだと。
「僕はずっと、君達以上に隠し事に長けて、最後には自分自身すらも壊してしまった-可哀そうな子-を見続けていたんだよ。その子に比べれば君達は可愛いものだよ。」
その言葉に、自分達は隠し事もできないただの程度の低い子供だと言われた気がして腹が立ったが、キルおじさんは悲しそうな眼をして俺の頭を撫でながらされに言葉を紡いだ。
「そんな悲しい能力になんて長けても良い事はないんだよ。隠した傷は、最初は小さくとも放っておいて治そうとしなければ、いつか治らない程の傷になった時には遅いんだよ。」
それは隠していた本人も周りも取り返しのつかない事になってしまう。
そうなる前に、教えてほしい、君達を嫌な目に合わせているのは何なのか
その声はいつもの瓢げた声音では決してなくて、まるで俺達が傷つくのが自分の事のように悲しいと言っているようで・・・・・気が付いたらぽつぽつと話していた。
遊びにおいでと父の仲間の人達や騎士団や近衛騎士や、ロムス様、インス様・ワイズ様・フォス様達も言ってくれる。
「それでも俺は・・・俺達は嫌だと思ってしまう人達いて・・・」
言葉に出してみれば馬鹿みたいだ。何の根拠もなく、お菓子も貰って食べているのに、その人達の-笑う顔-がどこか歪に見えるだけで嫌おうとしているなんて・・・
話しているうちに顔が熱くなるのを感じたら、不意にヒンヤリとした感触が頬に感じたて顔を上げれば、キルおじさんんの両手に頬をはさまれていた。
もっと上を見れば、赤い瞳が優しく笑って俺の言葉を受け取ってくれた。
「そう、ポラリスとスピカは嫌な目にあったね・・・・・-近頃-僕達が大人しくしていたせいかな?」
俺の言葉を真面目に受け取りながらも、謎々のような言葉を言って。
俺とスピカに美味しい飴をくれて、近々嫌な事がなくなると言ってその時は別れて・・二日後にまた同じような歪な笑顔を張り付けた大人が来て、そいつはしつこく誘って来た。
-美味しいロモスのお菓子も手に入ってね、スピカちゃんもポラリス君もきっと気に入るよ。君達と同い年の息子がいると言ったよね?一度だけでも遊んでやった欲しいんだよ。-
その時の俺は、俺達はあまりにも幼くて、断る術すら知らなくて、どうすればいいのか分からなくなった時に助けが来てくれた。
「子供のこの子達に聞かずに、両親に直接お聞きになられてはどうですか?」
俺達以外にはいない筈の部屋に声が木霊した途端、俺達の後ろからキルおじさんとミストおじさんが出てきた!
「こんにちはポラリス、スピカ。目の前のお人には初めましてですね。
僕は魔界の現統治者・大魔王バーン様の側近でキルバーンと申します。こちらは同僚にして魔界の宰相位にいるミストバーンです。」
俺達とその人の間に二人は立って、キルおじさんは慇懃に挨拶をして、ミストおじさんは言葉はなくとも威圧する気配を出して、二人でその人を圧倒した。
俺達に対してはしつこかったその人は、何か言葉を言ったか言わないか分からないけれども、キルおじさんの言葉はきちんと聞こえた。
「この二人は先の大戦の立役者全員が祝福をした大切な子等にして心の拠り所なのですよ。-独り占め-とは感心しませんね~?」
その言葉を聞いて、その人は悲鳴を上げて部屋を出てしまったのをキルおじさんは楽しそうに見送って、ミストおじさんは忌々しそうにしながらもそ俺達の頭を無言ではあるが優しく撫でてくれた。
「いや~悲鳴上げるだなんて僕傷ついちゃうな~。二人共、僕が-あの人に悲鳴を上げさせてしまった事-をご両親や周りには内緒にしていてほしけれどもいいかな?」
僕って嫌われてるからね~と飄々と言っていても俺も馬鹿はじゃない、本当はこの嫌な事を父達に隠していた事を、そのまま内緒にしてくれると約束してくれた事くらい分かる。
以来俺達とキルおじさんは-内緒-を沢山持つ仲になった・・・・・ミストおじさんとはそうはならなかったけど。
ちょっと-悪い事-を教えてくれるのはいつでもキルおじさんだからだ。
「君達に近づいて嫌な気配がしたと思ったらとにかく僕が言った事を真似すればいい。」
真っ当な者ならそもそもが幼い子をそのまま誘う筈がない。そういう奴は悪い事を企んでいることが多い。もしも企んでいなかったら、その言葉通り両親に話を持っていくはずだから悪い事にはならないと。
-悪い事-とは何かを聞いても、俺達が五歳になるまでは教えないと言われた。
五歳になったら教えてくれると約束してくれたので、とりあえずはその通りにしたけれども、嫌な感じの奴は遂に来なかった。
大きくなってから分かったこと、その日を境にキルおじさんと、時折ミストおじさんも連れだって来てくれたことで俺達を無言で目に見えない盾を張って守ってくれたんだと。
五歳の約束の日にそれは分かった。
「君達の御両親は、この国でとっても偉い人なんだよ。そして僕も含めて君達の周りにいる人達全員が、他人が羨むほどの地位にいるだよ。君達と友達か、将来の伴侶になったらその人達にとっては嬉しい事なのさ。」
ようは俺達じゃなくて、父達に取り入りたかった-馬鹿-達だった
「・・・・父さん達はどうしてそういう奴らがいると教えてくれなかったのですか?」
俺の疑問に、キルおじさんは困った眼をした。
「-普通-の大人はね、子供にはそういった汚い者達が要る事を教えるのはもっと子供が大きくなってからなんだよ。」
「でも、キルおじちゃんは今教えてくれたよね?」
キルおじさんの矛盾のような言葉をスピカは無邪気に聞いた時、深い笑みをキルおじさんは浮かべた気がした。
「君達なら嫌な者達がいても、それが全てではないって知ってくれているからだよ。」
狭い世界で生きている子に話せば、世界は嫌な奴らだらけと誤解する。しかしポラリスとスピカは、もう様々な人に出会う機会に恵まれ、嫌な奴らも良い人達も、そうでない人達も知っていてくれる。
「そんな君達の知りたい事を、識りたい事を止めるのは僕の考えにはないからね。」
疑問に思った事、知りたい事、行きたい所があればいつでも声をかけてとキルおじさんと繋がる目玉を貰って以来、俺達の世界はぐんと広がって、今もまた俺達を助けてくれる。
キルが開けた空間を取った出た先は、とても賑やかな場所であった。
どこかの城の中庭で、花々や樹木が彩っている。
花や木の根元にはスライムの群れがいて、わたぼうやわるぼうが設置されている噴水で水浴びをしてわらいぶくろやおばけキノコ達ものんびりと日光浴をしている。
空を見上げればキメラやキャットバットが飛び交っているそこは、大魔王バーンの居城にして、現魔界の政庁の役目をしているバーンパレスであった。
「ポラリスこっちだよ。」
前に来たのはこの城の主の誕生日祝いに去年の事。広くて迷子になりそうだったとしか印象がなく、其れよりも誕生日プレゼントをスピカと一緒に考えて贈ったので、気に入ってくれるかとそちらばかり考えていたのでパレスの中をきちんと見ていなかった。
長い廊下も暗さを感じない程窓が多く、それでいて行きかう人々(?)がぶつからない程、パプニカ城よりも広い廊下で、ポラリスもだが泣いていたスピカも驚いてキルに抱っこされたまま周りを見回す。
骸骨やデビル、さまよう鎧達も、何かしら忙しそうに行きかっている。
ここで相談を受けてくれる人は・・・・まさか・・
双子達がある人に思い至った時、キルが扉の一つを叩いて返事を待たずに扉を開ければ明るい声が出迎えた。
「キル、それにポラリスとスピカもいらっしゃい。今ちょうど-仕事-が一区切りついたところなので気兼ねなくいらっしゃい!」
魔界のパレスの一角で、世界を良くする為に働いている人
「ママ!」
「お久しぶりです、ご無沙汰しております。」
「二人共いらっしゃい、キルは先程振りですね~。」
「その挨拶おかしくないかい-お嬢ちゃん-?」
スピカとポラリスがエイミ以外でママと呼び、キルがお嬢ちゃんという人物、かつての勇者一行の料理人にして今は世界を幸せにしようを標榜にして働いているティファは、昔と変わらず柔らかい笑みを浮かべて入って来た三人に席を勧める。
「今ちょうど紅茶を淹れますので。」
今宵ここまで