「お父さん!お母さんごめんなさい!!私ライオネル様とのお見合いはできません!!」
キルおじちゃんとティファママに相談して二月後の夜に、夕餉を終えた後大事な話があると言って両親にライオネルとのお見合いお断りを切り出した。
その顔は少しばかり青褪めている。
スピカは今まで両親の意見を退けたことはなく、どちらかというとおおらかで意見をのんびりとした感じで受け入れていただけに、強く意見を退ける様にヒュンケルとエイミは戸惑いを覚えた。
別にライオネルとのお見合いはどうしてもさせようとは思っていなかった。
ただ旧知の戦友の息子と、愛娘が娶せられたらそれも良き縁ではなかろうか位の事が、何がスピカの気持ちを頑なにさせてしまったのか訳が分からずに心配になって問いただす。
「スピカ、お前とライオネルを会わせようとは思ったが会いたくない理由が何かあるのか?」
確かライオネルは一度しか会っておらず、自分は挨拶だけで一目ぼれしたのだと言っていたが、ひょっとしてライオネル自身が気が付かない粗相をスピカにしてしまったのだろうかと。
「理由はその・・・今は言えません。」
「なら何故・・・」
「その理由は、今日の日を入れて、私が十五歳になって一月した後の-二月後-に必ず言います!!!」
理由は言えないが、スピカはその代りに-約束-をした。
これぞティファがスピカに与えた助言の一端。
ティファは大戦時も自分の思いを周りに正直に言い続けていた。
-愛した人が、魔王、大魔王であってもいいじゃない!!!-
-こっちに来て父さん!!-
-敵であっても貴方を尊敬していますよ-
-今戦いをやめてくれるのならば、デルムリン島に案内します!!-
思いの丈を、誰はばかることなく馬鹿っ正直に。
そこでティファはさらに告げた。
「実は私は大戦終わる寸前まで、敵だった大魔王達にはもちろんの事、仲間や周りにはおろか、兄達にも多大なる秘密を持ち続けていたのですよ。」
ずっと魔界に勝つためにではなく、魔界をも救うために天界の三神様達と画策して動いていたことを。
おかげでティファの動きは敵味方どちらから見てもちぐはぐでおかしく見えていた。
当然であろう、倒すべき敵をどこか気遣う様にしか見えない言動をずっとしていたのだから。
それこど生まれてずっと傍らにいた兄さえも欺き、子供が持てるはずのない力や伝説の武具を持っていたのも仲間や家族たちはずっと自分に聞けずにいて、ものすごく心配をかけてしまった経緯がある。
「大戦の間・・・それこそ三ヶ月もの間一行全員と周りの人達を心配のどん底に突き落としていたわけですよ。」
秘密を三か月も持たれていたら、さぞ神経がすり減っただろうという苦笑めいた言葉に、先ほど-私の様に正直に話しなさい-といったティファを、呆れて鼻を鳴らしたキルは益々非難めいた視線を向ける。
そう、お気づきだろう。ティファは思いの丈は正直に話す癖に、自身の事をまるっきり秘密にしていたのだ。そんな者が、自分の様に正直に話せとは滑稽な事この上ないではないか。
だがキルとしてはティファの助言に思い当たることがあり、次の言葉でそれが成果だと知って益々嫌になった。
「私という、秘密を長い間抱え込まれていた者が側にずっといたのです。それこそ私自身が告白したことではなくて、周りの状況で知れてそこからようやくわかったという曰く付きでです。」
そんな者が身近にいたのだから、普段は両親の言う事をきちんと聞く良い子の愛娘が、二月後には自分の抱えている胸の内を-自分から明かす-と約束をする。三ヶ月に比べれば短い間なれば、その言葉を信じて一度くらいは無理を聞いてもらえるはずだというまさに暴論にも等しい助言であったので、キルがうんざりとするのは無理もない。
普通はそんな曖昧過ぎる理由で、普段と違いすぎる子供を期限付きとは言え放っておくではなくとも見守って待つ親いるのか、いないだろうにしかならない。
しかしだ、一種出鱈目で理不尽で傲慢で強欲な優しさを持った少女ティファに救われ心酔までして、そしてティファが抱えている秘密に振り回され一般感覚がマヒしてしまったヒュンケルとエイミ夫妻になら・・・・
「分かった、二月待てばいいのだな。」
「貴方、二月ならあっという間です。それにスピカは今まで我儘どころか反抗するしなくて、少しばかり心配だったの。
今回の事は、貴女の思う通りしてみなさい。」
「・・・お父さん・・・お母さん・・・」
通った。本当に通ってしまった・・・・
今から三ヶ月後ではなくて、二月後にする様にとも言われて日を置いて言ってみれば本当に良しとなってしまった事に驚くスピカを他所に、ヒュンケルとエイミは穏やかに了承していく。
「スピカ、エイミ母さんの言う通り思うようにしてみなさい。アキーム殿とライオネルには父さんが行って話をつけてくる・・・・・・だから心配するな。お前が悪気があって断ったのではない事くらい俺にも分かっている。」」
「そうよスピカ、その代り二月後にはちゃんと説明するんですよ。」
「うん!!きちんとする!!!お父さんお母さん大好き!!!」
自分の思いを行動を否定せずに、良い話を蹴った自分を優しく見守ると言ってくれる父と母に嬉しくなったスピカは、思いっきり二人に抱き着き、胸の中で力強く決心する。
ヒュンケルとエイミに話をしたスピカが行動を開始したのはその十日後だった。
キルに頼んでミストとパレスの外で二人きりで和える手はずを整えてもらった。
理由はキルはスピカが何やらミストに相談したいらしい、かなり悩んでいるようなので受けてはくれまいかと誘いだした。
普段は寡黙であっても情に厚く、それこそ双子が絡めば仕事をうっちゃてでも駆け付けそうなミストは、一も二もなくキルの空間を通ってスピカの下に現れた。
場所は・・・・・見たこともない洞窟の中であった。
しかも洞窟には普通ないだろうというイスとテーブルはおろか、ベッドにクローゼットに食器棚や竈やレンガで拵えられた簡易オーブンもあって・・・なぜか温泉が引き込まれていた!!
「ミストおじちゃん・・・・来てくれてありがとう・・」
「スピカ・・」
周りの置かれている物や温泉に驚いたミストは、スピカのか細い声ではたと思考を戻した。そうだ、今はスピカが何を悩んでいるのかを聞きに来たのだと。
見るからにそわついてオドオドとして、普段明るく笑っているスピカを知るだけに痛々しく見えて仕方がない・・・・一体何があった!-誰-かが関わっているのであれば、そいつは間違いなく細切れにして魚の餌にしてやる!!
そんな物騒な思考をしながらも、何故か椅子があるのでスピカに座るように促し、これまた何故か竈にはお湯の沸いてたポットがあって茶器も二つあるのでこれ幸いとばかりにスピカの為にお茶を淹れてやる。
「スピカ、何があった?」
お茶が蒸れるのを待つ間に、ミストは言葉短にそっと聞く。
普段は自分が何も話さなくとも、これが楽しかった、ティファママの作ったお菓子が美味しかった等々を、鈴を転がすような可愛らしい声でさえずるように話すスピカが、何かを言いかけては口を噤んでしまうのでこちらから水を向けてみた・・・・これがキルであったらな、もっとうまい事を言ってスピカの心をほぐして話しやすくしてやれるのに、不器用な性格と口が恨めしくなる中、スピカの心はミストの思いとは裏腹に、ミストの言葉に勇気を得た。
そうだ、私はこの優しいミストおじちゃんと生涯をかけてずっと隣にいたいんだ!!
「ミストおじちゃん!!!」
スピカは人生の中で最も勇気を振り絞って叫びあげた。
「私は!!ミストおじちゃんと結婚したいんです!!!!!」
・・・・・・・・は?
洞窟を駆け巡り、何度も反響されるその言葉を繰り返し聞いても、自分は何を言われたのか理解できないミストにスピカは攻撃の言葉を緩めなかった。
今がチャンスだ!相手の隙をつきなさいって-ティファママ-言ってた!!!
「私ミストおじちゃんが暗黒生命体名の知ってます!!その性質の為に!バーンお爺ちゃんと同じくらいの、六千歳越えなのも知ってます!!」
「・・・なん・・・だと?」
「キルおじちゃんとティファママが教えてくれました!!私がミストおじちゃんと結婚を真剣にしたいって知った時に・・・十歳の時に真剣な顔をして教えてくれたんです・・」
「・・・・・・・・・・あ奴ら!!!!」
「ひっ・・・・ふ、二人は悪くないんです!!ただどうしても!!私がミストおじちゃんと結婚したいから・・・だから!!」
「・・・・スピカ・・・お前は・・・」
ミストは本当に呆然とさせられた。スピカがまさか、自分と-本気-で結婚をしたいと思い続けていたことに。
あれは子供の、まだ物事も世間も知らない子供らしい夢のような可愛い言葉だとずっと思っていた。
それが証拠にスピカがある日突然その事を自分に言わなくなったのがその証拠だと。
寂しくはあった、自分の手元を巣立ってしまったのだと。それでもポラリスと共に、自分をおじちゃんと慕ってくれるこの子供等なれば、生涯変わらずに自分を慕ってくれるのであればそれでよいではないか。
いつか二人もヒュンケルの様に結婚をし家庭を持っても、また双子の時の様に一族全体を愛し守ってやればいいのだと・・・・・それがまさか!キルとティファが自分の一切をスピカに話していたとは!!おそらくそれはスピカだけでな無いはずだ、きっとポラリスにも・・・・そうだ!スピカが自分と結婚をしたいと言わなくなったのも丁度十歳を少し過ぎてからだ!!
・・・・ならば言わなくなったのは自分と種族と年齢が違いすぎる事に怖気づいて・・いや・・・それであるならば今のこの状況に説明が・・・
ミストの疑問や疑念を、スピカは吹き飛ばした
「だからそれがなんだっていうの!!!!!」
ありったけの気合を込めたその言葉は、ミストの何もかもを蹴っ飛ばしたのだ。
「おじちゃんが暗黒エネルギーの生命体であっても!!乗っ取っちゃたけれども竜人族の体と融合してることもキルおじちゃんが教えてくれた!」
-もうミストは魔界の竜人族っていう種族の肉体と魂までも融合して、まぁ・・・普通の魔族になってるね。-
その昔、大戦終盤前にティファによって-預かっていた-大魔王の若き肉体を喪失してしまったミストに、バーンの命令によってキルが新たに生きた肉体を捕縛してきてミストに与えた。
それから十年の年月が経った時、ある日突然-眩暈-がした。
そして意識がふつりと切れて、目を覚ませば-一日中眠っていた-のだと、ミストが倒れたと驚愕をしたバーンに呼びつけらて、駆け付けてきたザボエラの診断だった。
こと魔族の肉体は言うに及ばず、ミストの様に特殊な肉体の生態も研究していたザボエラの導き出した結論が、ミストの暗黒生命体のエネルギー体は、魂も含めて完全に今の肉体と融合しているのだと。
「人に乗り移れるシャドウに試させましたが、ミストバーン様のその肉体には、暗黒生命体のエネルギーは欠片も無かったとの事です。」
無論バーンの許可を得て、キル達の立会いの下での診断の為の事だがときちんと断りを入れて説明をした。
時に人に憑依し、裏切らせ諜報活動ができるシャドウの能力ならば間違いはないと結論が出されたのを、スピカは知らされたのだ。
「そうでなくともスピカは好きだよ!人の体乗っ取るのは良くないけれども・・ミストおじちゃんの衣の下が何であっても!!優しくて私の事をずっと守ってくれていた。
他の皆も同じように私とお兄ちゃんを大切にしてくれたけれど!スピカが結婚したいって思い続けたのはミストおじちゃんだけなの!!」
「スピカ・・・」
「好きなの・・・大好きなの・・・・すごいミストおじちゃんには私なんかじゃ釣り合わないって何度も思って・・それでもどうしても、諦めたくなくって、一生傍らにいたいの・・・・」
「わ・・・私は・・・」
「ミストおじちゃんは・・・駄目なの?」
「・・・・駄目に決まっている・・・・私は・・・」
「おじちゃんの一切はもう知ってる、そしたら・・・どうして駄目なのか教えてほしいの・・」
「それは!!?」
なんだ・・・・なんだというのだこの・・・・・・昔味あわされた戦慄は・・・・この不安に苛まれる感覚はまさか!!あいつか!!!!!
戸惑いから一変、自分の正体をスピカ達に教えたというキルとティファに対して覚えた怒りを再燃した。
おのれティファめ!!!!!!!!
ミストの考えは正しかった。これこそがティファの真骨頂
相手の心情や言動をあらかじめ読み切り、相手の動きを予め封鎖して、最後には己の望みを全てかっさらっていったあの憎らしいやり口を、そうとは知らせずにスピカに伝授したのだ。
おそらくミストは自分の正体や年齢、そして今現在の肉体の秘密をスピカに話し、自分はスピカが思うような相手ではないと、断るように仕向けるだろうとティファは読んでいた。
だからこそティファは、いつか起こるであろう-今日この時の為-に、スピカやミストよりも先んじて行動を起こしていたのだ。スピカが十歳の時に。
ミストの下の正体と、犯してしまったキルとミストの罪を、命が軽かったあの時の魔界の事とは言えども、その罪を平和の中で育ったスピカに許せるのかとも問うて。
スピカは思い悩んだ。ミストおじちゃんの秘密の一切が重くて・・・・それでも・・
「私もその罪背負っていこうと思う・・・・・」
母エイミが、かつて罪を犯した父ヒュンケルに出した答えと同じとは知らない筈の答えを出して以来、ティファはミストとスピカの事を静かに見守る道を選んだ。
誰が反対しようとも、一度はスピカがミストに思いを打ち明けられる場を作れるように画策しつつ。
ミストにとっては瞬きの間とも言えない、それでもスピカにとっては長い年月思い悩みながらも持ち続けていた思いを、無下にできる筈も無くミストは驚いて立ち上った腰を下ろし、スピカの思いと、それに対する自分のスピカに対する思いを真剣に考え始める。
スピカをポラリス同様赤子の頃から知っている。可愛い子供だった、自分に笑いかけてくれたあの時から・・・・・あぁ・・・・自分は捕まってしまっていたのではないだろうか。
あの二人の結婚のあとから数年後に、ダイ達が結婚をして子等を持っても、自分はスピカとポラリス程にはその赤子等には対して関心を抱かなかった。あのキルですらがみんな可愛いと相好を崩していてもだ。
そして・・・・ポラリスと違ってスピカには、癒されたのだ、あの笑顔に笑い声に、いつでも会いに行けば、明るい声で楽し気に話すあの声に・・・・キルとバーン様がティファを太陽と評したように、私にとっては・・・・あぁ!あぁ!!駄目だ駄目だ!!!スピカにはもっと相応しい相手がいるはずだ!!
こんな罪に塗れ、生命を冒涜したような自分が・・・・・
「ミストおじちゃん・・・・・・」
自身のスピカへの思いが何であったのかを知った。
いつしか-愛していた-のだ、この子供を・・・・一人の愛する女(ひと)として。
あの明るさに魅かれて、だからこそそれを許すことが出来ないとミストは己を断じた。
平和の光の余で育った、太陽の恵みのようなこの娘を穢す事なぞ出来ようはずがないと思い知ったミストの手は、優しい温もりに包まれた。
「ミストおじちゃん・・・・スピカはミストバーンが好きです!愛してます!!」
「スピカ・・」
「どんな事があってもミストバーンを支えます!!結婚してください!!!」
最早おじちゃんではない、この人は自分が愛するミストバーンで、何があっても諦めないと瞳を輝かせる。
其の想いの強さに、眩しさに、ミストの一切が焼き尽くされた。
「スピカ・・・・・・私も・・・・私もお前の傍らにおいてほしい・・・・こんな私でも・・」
「ミスト・・・うん・・・・うん!!よろしくお願いします!!!」
いつだって闇を抱えた者達は弱いのだ、太陽の温もりと明るさに
-カン!!カン!!!-
「今日はやけに張り切っているなポラリス。」
二代目大魔導士ポップの故郷ランカークス村から三キロほど離れた迷いの森の一角にあるロン・ベルクの小屋からは、盛大に火花を散らせる槌の音が明け方から響き渡っている。
ポラリスは未明より起き出し、このほど師のロン・ベルクから伝授された-鎧化-のスキルを持たせた剣作りに勤しんでいる。
水を飲んだっきり黙々とこなすその様に、鬼気迫るものを感じたロン・ベルクは寡黙な弟子を心配して声をかければ、鋼を打ちながらもポラリスは師の言葉に応える。
「妹が、人生をかけた事を成し遂げると知らせてきました。」
内容はまだ周りには言えないが
「妹が頑張っているのです。兄である自分が、怠ける訳には行きません。」
自分の魔剣となるものを完成させる道を邁進しているポラリスは、それを今こそ成し遂げるんだとばかりに槌を奮う。
強くなり、家族と周りを守れる男になる為に。平和な世であっても、いざという時をきちんと想定をして。
今まで師の知る鍛冶全てをを教わり、店頭どころか王侯貴族にまでも献上できる剣を作り出さるようになったポラリスであれば、それは可能であろうとロン・ベルクは見ている。
それに理由が気に入った
「そうか、スピカもお前も頑張っているのか。」
双子の想いが実現するといいなと愛弟子の頭を撫でて激励してやる。
・・・・・まさかスピカの願いが、自分と因縁浅からぬ男との事だとはつゆ知らず、後に知った時には天地がひっくり返る思いをするとも知らずにだ。
そしてその一月後、満面の笑みをしたスピカと、戸惑いながらもスピカの隣に座っているミストを前にして、ヒュンケルとエイミはそのミストの言葉で頭を抱える。
ティファはここまで読んでいたのだ。
ミストが仮にスピカを受け入れても、ヒュンケルとエイミにきちんと結婚の申し込みをするのに悩み苦しむだろうと。
それも入れての十五歳の一月後としたのを、ミストはその通りではあるが、自分の願いをかつての弟子に願った。
「スピカとの結婚を許してほしい。」
今宵ここまで