先の大戦の勇者一行とその関係者御一同の結婚式は晴れの日と相場が決まっているのだろうかというほどに秋晴れの良き日、今日はヒュンケルとエイミの愛娘、スピカが十六歳の誕生日を迎えると共に、愛する人・ミストバーンとの結婚式の日。
物心ついた時から結婚をしたいと、小さな胸に秘めた思いが満願成就した日であった。
スピカは母エイミにも父ヒュンケルにも似ずに華奢で、重い物も兄や保護者達が変わって持っていてくれていたので文字通りスプーンとフォーク以上の重い物を持ったことがない箱入り娘。
その娘が白く輝かしいウェディングドレスに身を包み、恥じらう姿は一国の王女のようである。
その花嫁をあらゆることを守ろうと決意しているミストは普段と変わらない白のローブ衣装のままで式をあげると聞いた時、女性陣達がそれでいいのかと騒ぎ掛けた。
生涯の中で間違いなく一番のこの日が、普段着ているもので良いのかという言葉を、やんわりと止めたのは花嫁ほんにんであった。
それがミストらしいのだと、式の始まる前から夫婦の惚気のような言葉に、一世一代のこの大事な結婚式にあれでいいのと聞いたレオナ王女達は聞いて後悔をした。もう身も心もとっくにミストバーンの者になっている・・・
そんなスピカが身に着けている花嫁衣装は、どうしてもそれだけは贈らせてくれ、無理であるならば出資だけでもさせてくれておっしゃる魔界の神様の必死さに、母エイミは苦笑しながら-半分だけ-を出してもらい、シンシアテーラーに注文を発注して作られたのだ。
「私のところを選んでいただきありがとうございます!!大魔王様よりも、花嫁衣裳の為の宝石はお預かりしております!!!お金は気にしないでくださいね!!!!」
いつかの日、ティファという少女とお茶会をした事で自分の人生は一変した。ティファと大魔王とキルバーンとの出会いによって。
女性の地位は低い物、それこそ三賢者のエイミとマリンが特別であり、何かしらの特別な才を示すか地位にいなければ男のようには自分の夢を存分に追及することは難しく、其の内どこぞに嫁がされるのだろうと諦めかけていたあの日、自分の衣装愛を爆発させて大魔王様に語ってみれば、-面白い、余の服を作って見せよ-と受け入れてもらい、普段の真っ白いローブとは違い貫頭衣風のではなく、黒に近い濃茶色の合わせのローブに、同系色で片側だけのマントと言う洒落着を作って見せたのがきっかけで、困難な道のりながらもお衣装作り仲間のキルの励ましや助言を貰って店を立ち上げ今や押しも押されぬ大テーラーにまで発展をした。
それがなくともスピカの衣装は決まってシンシアテーラーであった。
女性初の大テーラーシンシアの誕生の一端となったあのお茶会にエイミもいたその縁で。
可愛いスピカちゃんの産着からウェディングどれまで作らせてもらえるだなんて・・・テーラーとしてこれ以上言う事はあるだろうか!!?いや無いだろう!!!お金なんて本当にいらないが、それではヒュンケル夫妻が納得すまい・・・・・・本当にかかった費用の半額以下をヒュンケル達に提示した強かなシンシアの腕は確かだ。
花嫁の素肌はあまり見せてはいけない、見ていいのは新郎の特権だを標語にされたような、肌露出の少ないドレスだが決して野暮ったくはない。
長袖のハイネックではあるが、鎖骨から首・長袖の部分は肌が見えそうでいて見えないぎりぎりの薄さのレースとアップリケで覆われており、コートトレーンに仕立て上げられたその衣装は、優しいスピカを白い花の妖精の様に見せている。
スカート部分には真珠が、胸のあたりには小粒のダイヤがそれと見ない限りは分からない絶妙な配置と数が縫い付けられており、花嫁スピカを一層光り輝かせている。
お化粧もほとんどする必要もなく、念願かなってミストバーンと結婚ができるのだと思うだけで頬に血が上り、シンシアの助言で本当に薄化粧で唇も透明のリップでよかろうとなった。
天然で美しいのだから、弄る方がよくなかろうと。
その美しい花嫁になった愛娘を涙交じりに見守っている。
あの小さく可愛かった娘が、今日自分の手を離れて新しい家庭を築こうとしてる。
「スピカ、これを。」
衣装の着付けとメイクが全て終わり、髪を編み下ろしにして花飾りでまとめ終わるのを待ち、エイミが鏡の前で座っているスピカの耳に、真珠のイヤリングを付けた。
それは見るからな古い装飾だが、不思議と金の留めぐのみならず真珠も色褪せていないアンティークのイヤリングであり、スピカはあまり宝飾類を身に付けない母が持っているのが不思議な気がしたのを察したエイミがイヤリングをスピカにつけてあげながら、優しい顔で教えてくれた。
「これはね昔お母さんが、貴方の様に結婚式を迎えた時にバダック様が下さった物なの。なんでもバダック様のお母様の物で、代々伝えてきたのを自分の代で無駄にするのはいけないから私に継いでほしいって言って、贈られた物なのよ。」
「お母さん・・・・ もしかしてこれは・・」
「そう、聞いたことがあるでしょう?サムシングフォーの話を。」
結婚式花嫁の幸運を願うサムシングフォーの一つ、サムシングオールドを贈ってくれたのは、父親の様に自分を見守ってくれたバダック様からだったと微笑みながら真珠のイヤリングをつけてくれる母の手を、スピカは肩越しに握る。
「ありがと・・・お母さん大好き・・・」
「あらあら・・・せっかくのお化粧が涙でやり直しかしら?」
「いいの・・・嬉しいんだもん・・・」
母と娘のその姿に、シンシアやレオナ達は薄っすらと涙を流して見守る中、サムシングニューとして、エイミにあらかじめスピカに贈るサムシングオールドのアイテムを聞いていたレオナが、美しい真珠のネックレスをスピカにつける。
サムシングボローの友人から借りるものは、スピカの学友や近所のお友達は一般人が多く-無理!!魔界の神様来るお式は本当に無理だから!!!-と半泣きされて、-でも絶対にスピカの事をお祝いしたいから!落ち着いたら私達だけでお祝いさせてちょうだい!-と、お式の十日後に学友一同祝うの会を約束し、その代りこれを使ってと白シルクの手袋を渡された。
-私たちのお小遣いや家のお手伝いをしてもらったお駄賃をちょっとずつ出し合ってシンシアさんに作ってもらったの-
これの最初の使い手にスピカになってほしいと渡された。
スピカと自分達のサムシングオールドは、この手袋で決まりで、友達の結婚式は必ずこれを使っていこうと言われた時、スピカはワンワンと泣いた。
嬉しくて幸せで、その気持ちが移ったように友人たちも大泣きをしたのを思い出しながら手袋を身に着けたスピカはまた泣きたくなってきた・・・・サムシングブルーの青、白いバラの花束を彩るように、獣王遊撃隊の森に住まうモンスター達が森の中にひっそりと咲いているのを探し当ててくれたブルースターを添えられた、萎れないようにと式の寸前まで花瓶に入れられているウエディングブーケを見つめながら幸せをかみしめて。
幸せな花嫁支度の一方では、花嫁支度を待っているミストは、親友キルがそわついていることにうんざりとしていた。
「何故お前がせわしなくしている。」
「ん?・・・あぁだってミスト!スピカの花嫁衣装だよ!!?君気にならないのかい?」
「・・・・もうすぐ見られるだろう・・・」
「もう!!そういう問題じゃぁ無いんだよ!!!」
・・・・ではどういう問題なのだと、その辺の機微は少々薄いままのミストは、親友や周りの男どもが狼狽える様にそわついているのに呆れている。
父親ヒュンケルはまぁ分かる、愛娘が嫁に出るのだから・・・だが何故キルだのマトリフとロン・ベルクとだのがそわつくのだ・・・・・
「・・・・・あ奴が羨ましい・・・・・」
まさかティファを羨む日がこようとは・・・・
「へっくしょん!!!・・・・誰か噂してる?・・・・は!トライフルの完成急がないと!!ローストチキンとビーフはいくらあっても今日は絶対に残らないと請負です!!あるだけの食材の調理を!!!ケーキの準備はどうですか?スピカちゃんの好きなポテトチップスとポテトサラダをもっと作ってあげましょう!!!」
どうも!!久しぶりに-料理人している-ティファです!!噂されたからってくしゃみするなんて昭和くさいですって?ほっておいてください!!!私はいそがしいのです!!!!
今や厨房は戦場です!!!!
料理は今日はいくら作っても足りる気しない!出した端から無くなっていくのが目に浮かぶ!!お酒なんて私の秘蔵品と、大魔王の持っているワインセラーを放出してようやくだろうと見積もるってどんだけなのよ・・・
スピカちゃんのお友達来れなかったのは残念だけれども・・・・まぁ、ほぼ一般のお子さんが魔界の神様ご臨席するところに平気で来られる道理はないわな・・・
後日のお祝いの会も私が頑張って美味しい物作ってあげるからそれで許してほしい!その子達も今日のお式で目玉通信で祝福の言葉をその場でスピカに言えるように手配したからね!
「ティファさん!!聖堂での誓いの儀がもう少しで始まります!!今の内に着替えてお二人を見守って上げてください!!」
ティファのアシスタントの料理人が、ティファにも先の参列をと薦めれば
「そうよティファちゃん!!」
「貴女は着替えて・・」
「「ここは私達にお任せなさい!!!」」
ミストとスピカの結婚式の料理の支度は、パプニカ王城の厨房や大魔王のお抱え料理人たちが声を上げる前に真っ先にティファが名乗りを上げた。
「かつての勇者一行の料理人の出番でしょう!!」
ニヤリと不敵に笑って名乗りを上げられては、誰も何も言えなくなったのを異議申し立てが意外にも飛んできた。
「私達、」
「魔王軍の料理長がやらないで、」
「「誰がミストバーン様を祝うというの!!」」
ミストを慕った双子の魔族が、スピカの事もきちんと祝うから共に作らせてほしいとティファにガチ談判をして共同で結婚式の料理指揮を執ることになった。
双子は淡い恋心をミストに持っていたが、ミストバーン様の幸せの為ならばと自分達の胸に仕舞いこみ、終生恋はもうしまいと心に決めて今日この日の料理を最高の者にすべく調理を指揮し、盛り付けに指示を出し、料理の飾りつけなど隅々まで目を光らせる中、式本番が近づいていると送り出す。
スピカがティファをママと呼んでいるのは知っている者は多く、-母親-が式に出ないのはあり得ないと厨房一同から追い立てるようにされ、双子に両脇を抱えられて廊下に出されたティファはパチクリとし、すぐにクスクス笑いをしながら厨房の扉に向かって頭を下げた後、長い廊下を走り出す。
もうすぐ結婚式の本番が始まろうとしている
今宵ここまで
お式は長くなりそうなので二部にしました。
次回でこの番外編も最終話となります。