勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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三神様、アバン先生の独白です。
時間軸は三人の旅立ちのすぐ後です。
よろしくお願いします。



ー幕間ー勇者サイド

               -三神-

 

【行ってしまったの。】

[無事に・・帰ってこられないか・・]

『致し方なかろう。

流れはあれを取り込んで動き出した。もはや止められん』

[・・酷いことしてるよね‥僕達]

 

運命はまさに動き出した。

それはダイ・ポップだけではなく、この世界に存在しないはずの-ティファ-という

少女を取り込んで。

ティファは他次元で死んだ者である。

この世界の大魔王バーンの力量は自分達を滅ぼすことなぞ容易にできてしまう。

しかしどうも大魔王は自分達を滅ぼすだけではなく、地上をも消そうとしている。

幾度かその試みを頓挫させようとしたのだが・・鎖国状態の天界からの干渉なぞ、バーンにとっては

無いに等しく全て無に帰した。

自分達は神と崇められてはいるが、力強き者には滅ぼされる。

それもこれも、十万年前に当時の主神が、やむをえずにした事とはいえ結果今の魔族たちの心を歪ませ闇を持たせてしまった責任はある。

だからと言って何も知らない地上界の滅亡を座視するつもりは毛頭無いが・・自分達の出来ることは尽きた。

そう嘆き、絶望しかけた時に驚くべきことが起こった。

当代の竜の騎士に子が出来ると。

人々が言うほど神は万能では決してなく、竜の騎士に子が出来ようとは予想だにもしていなかった。

しかし千載一遇の好機と三神には映った。

他の世界からこの世界の知識を持った者の力を借り、竜の騎士の双子の片割れになってもらう事だ。

神たる自分達が他者頼みなのは情けないのは自分達がよく分かっている。

それでも藁にも縋る思いで条件に当てはまった魂を呼び寄せたら・・いきなり死後の裁判を

楽しみにしていたのだと文句を言ってきた超が付くほどの変わり者だった!!

事情を話してもさして態度を変えず、

「責任もてませんがいいですか。」

なぞとのたまってきた。

・・どうなる事かと最初はハラハラした。

言う事やる事全て滅茶苦茶で、すぐに無茶して行き当たりばったりな行動で痛い目を見ても、

「次行ってみましょ~」

などと能天気に言いながらも・・心の奥底では痛いのや怖い気持ちを、無理やり押し込めて頑張っている優しい子なのを自分達はよく知っている。

家族の為、友の為、仲間の為に、決して弱音を表に出そうとしない。

「何となく、大丈夫です。」

今は、あの娘の言葉を信じて自分達も動くのみだ。

 

 

 

               -アバン-

「返してほしければ相応の対価が必要です。」

「足りなければ返しません。」

-師-としての立場を返してほしければ這い上がって強くならないと返さない。

おそらくティファはそういいたかったのだろう。

メガンテをもってしても、ハドラーを倒せた確信はまるで持てない・・全ては自分の

力量不足のせいだ。

今自分が生きているのはフローラに貰ったカールのお守りが、自分の命の代わりに砕け散ったお陰だ。

「カールのお守り。」

「死の淵からでもあがいてください。」

・・お守りの力もさることながら、瀕死の自分を死の淵から足掻かせ、生き返れたのは

ティファの言葉があったればこそ死なずにこの世に戻れた。

・・勇者と呼ばれ、この平和の世に馴れすぎたのか。

今の自分はハドラーどころかティファの足元にも及ばない。

ヘルズクローは現役のころの自分でも手こずった技だったが、ティファは苦も無く避けきれ

飄々としていた実力者。

それもあるが、ダイの中に眠っている力を引き出すことすらできない程自身が弱くなっている。

今の自分が一行の中に入っても、足手まといになるのが関の山だ。

ダイとポップは自分を頼ってしまい、中途半端な強さにしかならないのが目に浮かぶ。

だからこそ助かって浜辺に行き、三人が旅立つときも黙って見送った。

ダイとポップは明るく島に別れを告げ、ティファは自分の眼鏡をきちんとかけていてくれた。

「預かります。」

「似合わないので一時だけです。」

おそらくはティファは意識して自分と同じような言動で二人を導いてくれるだろう。

・・本来は大人の自分がすべき事を、力量が足らずに子供に押し付ける・・最低な話だ。

「弟子育成なぞにうつつを抜かし、お前自身は弱くなりおって!!」

「老いぼれたかアバン!!」

あのハドラーの言う通り、全くもって駄目な自分を今一度鍛え直さねばならない!!

一時恥をかいても自分が出来る最良の力を身につけねば!

その為には故郷カール王国にある破邪の洞窟に行く必要がある。

今まで人が到達できなかった深部まで潜り、一行の助けになる強さを。

・・そのぐらいしないと、ティファさん眼鏡返してくれなさそうです。

中途半端な力だと思われれば、感動の対面なぞ丸無視されて即座に、

「全くもって足りません!返しませんので帰ってください。」

とか言われて追い出されそうだ。

・・そう考えると可笑しくなり、想像の中でも笑ってしまう。

ティファは本当に不思議な子だ。

会ってまだ三日しか経っていなくとも、自分の心に影響を及ぼしている。

次会う時には必ず眼鏡を返してもらいましょう。

 

 

 




以上勇者サイドの重鎮方の独白でした。

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