「俺と結婚をしてほしいティフィール。」
悩み悩み抜いて、様々な者達に相談に乗ってもらい、今日この時を迎えたクロコダインは逃げたくなる己を叱責し、言葉を押し出す。
「出会った時より其方に心を奪われた。だが、こんな武骨で戦いしか知らぬ俺が、可憐で花のような其方を独占してよいか悩んで・・それでも、其方がほかの男の手を取ることを想像しただけで胸がかきむしられる。こんな俺だが妻になってくれティフィールよ!!」
風が緩やかに吹く中庭、二人が夕暮れ時に出会ったパプニカ王城の中庭でクロコダインはティフィールに結婚を申し込んだ。
再度の結婚申し込みはティフィールの心をかき乱すのではないだろうかと言う自分の悩みを-とある女傑-に蹴っ飛ばされた。
-女は男からの言葉をいつでもきちんと待っているの。愛の言葉ならばなおさらよ!きちんとおのれの言葉を伝えなさい!!-
その言葉に導かれ、ティフィールに伝えたいことがあるとロベールに許可を取り結婚を自分の口から申し出た。
その言葉を受けたティフィールのハシバミ色の瞳が大きく開き、しなやかな指が可憐な口を覆い震えながら涙を流し、華奢な肩を震わせ幽やかな声が漏れ出た。
「嬉しゅう・・・ございますクロコダイン様・・・・」
クロコダインが半年の間悩んでいたように、ティフィールもまた小さな胸を不安で満たしていた。
クロコダインは優しく懐深く、自分の境遇に同情して兄の提案を受け入れてくれたのではなかろうかと不安で不安でたまらず、逢瀬をしてもらう度に優しくされる価値が自分になぞあるのだろうかと泣きたくなった。
しかしクロコダインは言ってくれた。出会った時から自分に心を奪われたのだと赤裸々の想いを告げてくれた。
ならばもう悩まない。愛おしい男の言葉を疑うなぞそれこそ・・・・自分はそこまで弱い者ではないない!強くなりたい、せめて心だけでも強くなってクロコダインと共に人生を歩いて行きたい。
「私と結婚をしてくださいクロコダイン様・・」
細いながらも、ティフィールに出せる精一杯の声で同じようにクロコダインに結婚を申し込んだ。
何やら唖然としたクロコダインの気配を感じ取ったティフィールは、心臓がドキドキとときめいて逃げ出したくなった。
矢張り女の自分から言うのははしたなかったのだろうか?
だがそれは杞憂であり、大きくも優しい手がティフィールの心臓を抑えている手に覆いかぶさり、そして逞しい胸元に引き寄せられた。
ティフィールは何が起きたのかと驚き戸惑う中、温かくも力強い声が降って来た。
「俺の妻になれティフィールよ。」
そして幸せになろう
これほどの、幸せがあるのだろうかとティフィールは小さなその身を完全にクロコダインに委ねる。
終生共にありたいと願って
「・・・・今頃クロコダインとティフィールさんどうしてますかね・・・」
「あら、そんなこと決まっているでしょう。本当にこの辺はてんで駄目なのねティファさんは。-夫のロカ-よりも朴念仁な人は初めて見ましたよ?」
「あう・・・・」
パプニカ王城の中庭同様、緩やかな風が吹き抜けるロモスの迷いの森にあるネイル村の家のテラスでティファとマァムの母親レイラがお茶をしている。
ティファはクロコダインの再度の結婚申し込みがうまくいくのかとやきもきし、片やレイラの方は平然としてお茶を啜っている。
ティファとクロコダインからだけの情報ではあるが、そのティフィールと言う娘さんはどう考えたってクロコダインに惚れぬいているではないか・・・・それなのに武骨なクロコダインどころか年頃の娘が女心を分かっていないというのはどうなのだろうかと、クロコダインへのアドバイスよりもそちらの方がレイラにとってはメインになったのを、ティファは藪をつついて蛇を出してしまったと頭を抱えた。
レイラさんに相談してみましょうと提案をした自分を蹴っ飛ばしたいほどに。
能天気に、武人を夫にしたマァムさんのお母様に相談をしてみませんかと、悩めるクロコダインの事をレイラに相談したいと悪魔の目玉通信でアポを取り、後日きちんとお土産を持って家主のロカにも挨拶をして、なるべく人のこなさそうなところに小さなテーブルと椅子を置いて相談してみれば、レイラにとっても呆れらた。
「どう考えてもその娘さんはクロコダイン、貴方にべた惚れでしょうに。」
「む・・・そうなのか?」
「はぁ~・・・・」
自分の言葉に疑問を持っている時点でダメダメだと溜息をつくレイラに見据えられ、クロコダインはかつてない恐怖を覚えた・・・すなわち!蛇に睨まれた蛙である!!
ティファよりは背があるが、見た目は一般の主婦にしか見えないレイラから!立ち上るオーラは何だというのだ!?
クロコダインが感じた恐怖は、子を、それも娘を持つ母親からのお叱りのオーラであり、その認識悔い改めないと娘はやりませんよモードであったりする。
子を持つ母親はある意味恐ろしいのだがそれはともかく、生来心根が優しく・・・でなければあの口が悪く偏屈で、おおよそ愛情表現下手のロカを夫にはしていないだろう。
きちんとロカの良さも知るからこそ結ばれた、いわば結婚人生の大先輩の言葉は重く、クロコダインはただただ頷くしかできなかった。
「女は男からの言葉をいつでもきちんと待っているの。愛の言葉ならばなおさらよ!きちんと己の言葉を伝えなさい!!」
その言葉に、自分の何もかもを打ち砕かれたクロコダインは結婚申し込みを決意して、そこでめでたしめでたし・・・・・にはならなかった。
「時にティファさん、貴女はいったいどうなのですか?」
「ふぇ!!??」
「いつも他の子達の幸せや恋愛の面倒見ているようだけれども、ティファさんは自分の事はきちんと考えているんですか?」
「あ!!・・・や・・・その・・」
「・・・・ティファさん?」
「・・・・・」
「きちんと考えましょうね?」
「・・・・・あぅ・・」
良い笑顔で、他人の世話ばかり焼いていないで己の将来の事をきちんと考えなさいと、クロコダインを見送った後に小一時間説教されたティファは顔面どころか全身に冷や汗を流し、人生とは難しいと本気で嘆き、その一方で互いの想いを再度確かめ合えたクロコダインとティフィールは、人生とはかくも幸福に満ちているものなのだと、明るい道を見出したのであった。
今宵ここまで