甘いじれったさに胸を焦がす少女三人がティファの秘密部屋で楽しく愚痴りあっている時を同じくして、そのお相手たる野郎三人もまた同じような内容で煩悶していた。
「・・・・どうしよう・・・メルルの奴が日増しに色っぽくなって・・・自覚なく俺に甘えてきているのにもう限界・・・」
大戦時、それこそ味方が倒れ鬼眼の瞳の玉の中に封印されていった死闘の時であっても弱音を吐かなかった二代目大魔導士にして巷では炎の魔法使いと呼ばれ尊敬されているポップが、疲れ切った顔をしてデルムリン島のダイの家のリビングのテーブルの上で突っ伏している。
今日はこの家の主のブラスさんはロモス王国のモンスターと人との共存についての話をする為に、バランと共に出かけている。
丁度ダイも島に帰省しているので偶には男同士で近況報告しないかと誘われ、手土産を以てさっそく互いの近況を教え合い、そこから自分達の恋人の可愛さの話が盛り上がり・・・・後はどうしてこうなったのかは推して知るべし・・
その姿を見れば、普段ならばお前らしくない、もっとディーノ様の魔法使いとしての自覚を持てと言いそうなラーハルトも似たような顔をして弱々しくポップの言葉に賛意を示すかの如く頷くのを、横目で見つつ勇者ダイがポソッと一言
「・・・・・もうさ・・・・・婚前ってありだよね・・・・」
小さな声の筈なのに!その力強さと声音に潜んでいる昏い響きに!!緊急事態を察したポップが慌てて身を起こして弟を速攻諭す!
ダイの目が本気でヤバい!!こいつティファが沢山の隠し事してたの知った時と同じ目つきしてやがる!!!
すなわちそれは、、本気で不味い信号!!
「駄目だぞダイ!!いいか!?俺達はロカさんや・・・言っちゃぁなんだがお前の親父さんみたいなことしていい立場じゃぁねぇんだぞ!?」
ポップはダイのおっそろしい一言で完全覚醒を果たした。
自分だとて・・・ダイの言った一言を何度実行しそうになった事か!?その度に耐えたのだぞ!思春期で多感で性の芽生えが萌えるお年頃なのに!!なのにメルルは知ってか知らずか近頃自分に甘えまくってくるのだぞ!
恋人としてはそれは嬉しい!あと半年も待てば-妻-になってくれる愛おしい
二年半前、大戦終了を世界各地の王侯貴族達が国内・領内に布告をした後、テラン王国では併せてもう一つの布告がなされた。
勇者ダイ一行の占い師メルルを次期テラン女王と定める
それはメルルの人生を、ひいては伴侶となるポップの人生を激変させた。
それは仲間内ではレオナは元からパプニカ王国の跡継ぎ娘で、その恋人ダイもレオナの父親にして現国王レオール王も許可されたことであり、当然将来王配になるのは予め決定されている事であり、翻ってみればメルルはテラン国民であり祖母ナバラが高名な占い師として王宮内に出入りをし、フォルケン王からの信任が厚く、メルル自身はもまた祖母より占い師としての血筋とそれ以上の才を大戦時に遺憾なく発揮したとしても、メルルとしての感覚では庶民の娘であった。
そしてポップ自身はテラン国民ではなく、ベンガーナのランカークス村の武器屋の息子であり、いかに世間や仲間達、果ては魔界の神から評価されようとも彼自身は一般庶民であることを忘れずに、王侯貴族に列せられる気は微塵もなく、また考えの外であっただけに、フォルケン王からの要請とそれを悩みながらも数日後には迷いなく受けたメルルにも驚かせられた。
メルルは凄い
普段はか弱く恥ずかしがり屋ながらも、ここぞという時には芯の強さを見せるメルルにポップは称賛し、そして何度めか分らないほどにメルルに惚れ直した。
はにかむように笑うメルルに、自分達が無茶をした時心配して本気で叱っているメルル、険しい道を共に歩いてくれると言って大戦時最後まで共に来て呉れたメルル・・・いったい自分は何度メルルの新しい面を見せてもらい、この先何度惚れ直すのだろうか分からない。
女王となるのを受けた時のメルルの表情は、未知なる道への怯えをほんの少しだけ浮かばせながらも懸命に笑て受けたあの顔を見た時、自分もすぐに決心がついた。
大戦時はメルルが自分達を支え手れた。今度は自分が生涯をかけて彼女を支えるのだと。
そこからのポップの動きは速かった。
「親父、お袋、俺メルル支える為にテラン国民になる。」
王侯貴族の勉学の為テラン城に入ったメルルに、やる事があるので数日メルルと離れると言ったその足で、ポップは直接ランカークス村の両親の下に向かった。
大戦終結後は自分も含めて仲間全員は一時帰郷し、ポップは父親と母親と交わした、必ず無事に二人の下に帰ってくるという約束を守り、ジャンクとスティーヌは泣きながら帰って来た息子を二人で泣きながら抱きしめて出迎えてくれた。
死ぬかもしれないとポップ自身何度も思い、その度に仲間を守りたい世界を、そして両親達との約束を守るのだと胸に浮かべて気力を振り絞って駆け抜けたのが、その瞬間に全て報われた気がして数日間は両親の下で、優しい時間を過ごした。
それだけに、息子が他国の、それも王配になりすと言うのは物凄く気が引けたのだが自分の言葉に面食らった二人にさらに事情を説明したところ、あっさりと許された。
「そりゃお前、サッサとメルルさんの所に行かないと駄目だろう?」
「そうよポップ、お前の部屋はそのままにしてあげるから、今からすぐにメルルさんの所に戻ってあげなさい。」
・・・・・許されたどころかさっさと行けと言われた
気に入らなければ国の大臣さえぶん殴って王宮鍛冶を辞めたジャンクと、そのジャンクに愛想尽かすことなく妻であり続けたスティーヌらしい一面ではあるが、息子としては何かこうもっと・・・・優しさを表に出すのが少しだけ下手な父はともかく、母が寂しがるとかないのかと憮然としてしまったのを、父に想いっきり笑われた。
「お前はまだまだ子供だな。いいかポップ、親ってのは子供の幸せが一番だ。少なくとも俺とスティーヌにとってはそれが最優先だ。お前とメルルさんが世界を良くしながらも二人で幸せになれる道があるってのに、親の俺達が邪魔なんてするわけがねぇんだよ。」
だからといって、ここがお前の家であることには変わりない。いつでも二人でここに帰ってこいと言いながら、ジャンクは二カリと笑いながらポップの頭をぐしゃぐしゃにしながら優しく頭を撫でてエールを何度でも贈る。
疲れたら帰ってこい、俺達はいつでも二人の帰る場所なのだと。
その言葉と行動に、今度はポップが面喰いながら少し横を見れば、母もうっすらと涙を浮かべながらも自分を送り出す決意に満ちた瞳をしている。
「ポップ、メルルさんもお前も頑張りすぎないのよ。貴方達は・・・もっと・・・・・子供でいていいんだから・・・・」
つっかえながらも、スティーヌは気丈にポップを送り出す。
大戦の前から家を出てしまった息子・・・・あの時どれ程胸が潰れる思いがしたか分からない・・・・・アバンからポップを弟子にし預かる旨の手紙が来た時、読んだ直後にその手紙を引き裂きかけたのを夫に止めれらたのがつい昨日の様に思い出される。
あの時ほど、人を憎んだ事は無かった!大切な息子を返して欲しいと何度思ったか知れない!!
一介の庶民の武器屋の息子が、勇者の家庭教師という訳の分からない男の下に弟子入りをし・・・・・戻って来た時には世の中が滅びるかもしれない大戦の最中で、まさか息子と同じ年ごろの子供達が最前線で戦う勇者一行であったとは、完全に自分達の了見の外であり、飲み込むまでにどれ程の苦悩をした事か・・・・・それが無事に帰ってきてほっとしたと思えば・・・・・我が子はどうして平穏な道を歩けないのだろうかとスティーヌは母として息子の進道が険しすぎると心が痛くなり、そしてそれはジャンクも同じであった。
表面では笑っても、心の中では息子の門出を祝うべく泣くまいと歯を食いしばる。
ポップは幼い頃は飽き性で性根が座らずにフラフラとしていた子であり、そしてスティーヌに似たのか線の細い子であった。
将来は自分の武器屋を継いでほしいとついポップの心情を考えもせずに怒鳴りつけてしまう事が多かったと、ポップが家を出てからその事をずっと考えさせられた。
フラフラするな!そんなんじゃいい武器を作る男にはなれねぇぞ!
どうしてお前はそう直ぐに物事を放り出すんだ!!
・・・いいからもう向こうに行っていろ・・・
怒鳴って呆れて・・・・元々ポップには武器を作るのに興味がなかったのだと、息子が見知らぬ剣士についって行った事からその事は伺い知れた。この家に、ひいては家業に何の未練も無いのだと。
どんな形でもいい、無事に帰ってきてほしいと思う様になった時、自分達の願いが通じたのか、ポップは逞しい一人前の男になって帰って来た・・・・自分の目は節穴だったと思い知ったがそれよりも嬉しかった。
息子が無事に帰って来たのだから。
その逞しく頼もしい息子が、今度は惚れた娘の為に王政に関わるという。
自分と妻に言えることは何も無い、ポップが決めた道を黙って応援しそして疲れたその時に、二人を包めるようにしてあげる事こそが親たる者の務めだと胸に誓って。
その決意は確かにポップに伝わった。
自分はずっと、全部母親に似ていると思っていた。線が細く、顔立ちなんて思いっきり母親と同じで、それでも今見ている二カリとした父親の顔はきっと自分も元気よく笑おうと思ってした時の表情と同じであると思えた。今自分の頭を撫でている時の手つきも・・・自分がダイとティファにしている時と同じ感じで・・・・・小さい頃に良い事をした時には必ずこうやって褒めて貰って・・・・・自分はジャンクの怒鳴り声と物言いにが嫌いで、武器作りなんてものには微塵も興味が持てなくて、旅の剣士として立ち寄ったアバン先生に憧れて家を飛び出し・・・・清々したと思った・・・
もう興味のない事に縛り付ける酷い親父に怒鳴られる事なんてなくなったと・・・・たとえ父と衝突をして嫌なことがあったとしても、それ以上に自分は生まれてから十二年間ずっと父と母に包まれて守られていたのを知りもしないで・・・
「お・・・おや・・じ・・おふくろ・・・・俺!どこに行っても!!何になっても親父とお袋の息子だから!!ベンガーナのランカークス村の武器屋のジャンクとスティーヌの子だから・・・・いつでもは無理でも・・・必ずメルルや・・・俺達の-子供達-と一緒に帰ってくるから・・・・沢山沢山帰ってくるから・・」
「ば・・・かやろう・・・・こんな目出度い男の門出に泣くやつが・・・」
「お・・おやじだってないて・・・」
「ポップ!体に気を付けて・・・・メルルさんと一緒に幸せになるんだよ!!」
「お袋・・・うん・・・うん!!」
そうして結局、ポップとスティーヌだけではなくジャンクも大泣きして妻と息子を抱きしめてポップは一晩泊まることになり、夕食を終えて夜が更けても三人の親子は沢山の話をして、翌朝ポップはメルルの待つテランへと帰っていった。
行ってきますと、二人に眩しい笑顔で挨拶をして。
そして戻ったその足でポップはまずテランの王宮内にある政治庁舎に向かった。
本来ならば、国の大きな都市か街にある住民登録の場所は・・・・自国民の数五十人に満たない小国とも言い難いテランにはここにしかないので早速登録してテラン国民となってすぐにベンガーナのランカークス村の村長の下に行って手続きをしてもらった。
自国の、それも自分の村から英雄が生まれたと喜んでいただけに村長はがっかりとした、若者の幸せの為だと涙を呑んで手続きを終え、見届けたポップはすぐさまテランに取って返して今度は王宮魔法使いになれないかを、メルルに内緒でフォルケン王に面会を申し込んで直に聞いてみたら、フォルケン王に偉く驚かれた。
「君はもうメルルの伴侶も同然で皇太子のようの者だ。なぜ王宮魔法使いになりたいと?」
己の失政のせいで国を傾け様々な苦労をしながらも、産まれながらの王族のフォルケンには男の意地と言うのは理解の外であった。
そう、ポップは棚から牡丹餅のようにメルルのおこぼれにあずかって国の中枢に入るのを良しと出来なかった意地であった。
一介の武器屋の息子が勇者一行の魔法使いをしたからと言って、ダイと違って本当に庶民の自分が将来女王になるメルルの伴侶となるのに何の不足も無いと周囲に言わしめるために、そこからの仕上がり、三年後の結婚までには王宮魔法使いの長になる!!と、意気込んでみれば・・・・フォルケン王に願い出たその瞬間に決意した全てが叶ってしまった・・・
「・・・・ポップ・・・・・君は・・・・その・・・ティファも含めて君達はもっと自分達の成した功績と世間の評価を知りなさい・・・」
聡明で温厚篤実と言われるフォルケン王に、ポップは溜息をつかれてしまった
今のこの世界で、勇者一行の者にケチをつける者がいるものか・・・・・魔法使いポップは料理人ティファとは違ってその辺をきちんと知っていると思っていたフォルケンは、ポップへの教育方針の変更を決意した。
まず自分達の立場と世間からの評価をきちんと教え込み・・・・・そこから王配としての心得を教えて行こうと・・・・・・ポップ以上の魔法使いが、この国どころか地上界にいる筈も無く、三年もかけてこんな弱小国と・・・・自分で言っていて悲しくなるが・・ともかくこの国の王宮魔法使いの長になんて即日の内になれるのを知らなかったのかと突っ込みたくなったは墓場までの秘密であるが、それはともかく、ポップにはフォルケンの嘆きは伝わらずにただただ驚いた。
王様俺達の為に、破格の待遇をしてくれたのだと勘違いをし、俺達の幸せはこの国の幸せにもするんだと意気揚々とメルルの下に向かってから二年半・・・・・勉学よりも、フォルケンから任せられ各国の大臣達や使者達と国の祭りごとの話をする時よりも・・・・メルルとの甘い時間が苦しくなるなんて言うのは完全予想外だ!!
あの可愛い笑顔本当に何!?好きと言いながら甘えてきてくれる柔らかい肢体を俺にどうしてほしいと!?もうメルルの全部を食べたいと思うのは悪ではなかろう!!
・・・とはいえ、両親を始めとし、手紙でお悩み相談してくれる師や可愛い顔で気遣ってくれている妹ティファや、人生と王としての先達であるフォルケン様やハドラー・バーン達等、様々に大切な人達から応援してもらっている身としては!ダイの言った事を実行するわけにはいかない!!
世界が・・・・本当に文字通り三界全てが自分達を注目しているのだ!!清く正しく結婚するその日まで耐えねばならない!!!
「あと半年なんだぞダイ!もうひと踏ん張りだ!!」
あの大戦の時以上の忍耐力を叫びあげるポップであった。
今宵ここまで・・・・
少女達よりも更に-具体的に-・・・え~何をとは言えませんが鬱積している男の子達のお話が長くなりそうなのでそれぞれに振り分け、今回はダイの大冒険どころかドラゴンクエストの中であっても本当に珍しい庶民のポップ君が、いかなる決意を以て王配になるかを綴ってみました。
次回は勇者様と槍使いさんの番となります