花嫁様達が自国で大歓声を受けているその頃、デルムリン島にて花嫁を待つ花婿達は各国の王達とその随行員達とのあいさつがひとだんらくをしてへとへとになっていた・・・お式も挙げていないのに疲れるとはこれ如何に・・・・
「・・・・ベンガーナの王様に抱き着かれるってない・・・・」
「・・・・・リンガイアの王様俺の頭ぐしゃぐしゃにして笑いまっくてた・・・」
「・・・・・・ロモス王様にいまだにティファちゃん呼びされるなんて・・・・」
「・・・・・・・何故誰も俺に晴れがましいとか言わないで誉めて来るばかりなのか理解不能だ・・」
子供三人と大人の半魔一人は精神的にとってもお疲れ気味となってしまったのを、知り合い御一同で慰めている。
別に誰かに意地悪を言われたわけではないのだが、空前絶後の祝い事に、各国の王達と随行員達は普段の威厳や礼儀作法を逸脱しても構わんとばかりに、某魔界の神様張りにはっちゃけたのをダイ・ポップ・ティファ・ラーハルトが諸に受けてしまったのだ。
ベンガーナのクルテマッカは、大戦時は少年であったダイに勇者としての力を魅せつけられて以来大ファンとなり、背は伸びたとはいえ今だにあどけなさを残すダイが結婚することに感無量となり、実の息子が結婚するかの如く大喜びをしてデルムリン島について早々にダイに出迎えらた時に思いっきり抱きしめてしまったのだ。
ダイも背が伸びているとはいえまだまだ発育途中であり、意外と背があるクルテマッカにスッポリとまではいかずとも腕の中に納まり面喰い、盛大に祝われて少しだけ疲れてしまった。
ポップ達も理由は同じであり、リンガイアのアーデルハイド王は騎士王としても有名であり、魔法使いにしては動ける方のポップであっても加減なく頭を撫でられて・・・かき回されて祝われた手体力を半分削られ、ティファは十五にもなっていまだにシナナ王にちゃん呼びをされたのは些かショックであった。ダイやマァム達と違って全く成長しなかったからだにコンプレックスを持っているティファとしては、シナナ王に悪意が無くても精神にクリティカルアタックを食らった感じで落ち込んだ。
そしてラーハルトは、何故半魔の自分が主君の御子息やテラン王国の跡継ぎたちと合同で結婚式をすることに苦言を呈されず、寧ろ祝う言葉しかないのかに唖然としてしまった。
世界は変わり、穏やかな方に移ろいゆく時なのは分かるが、しかし厳然として身分差や、いまだに種族間の垣根がある筈で、誰か数名くらいは庶民が混じるとはといわれることを覚悟していただけに、反対に祝い事の嵐にびっくりである。
「・・・・・大魔王バーンの肝いりにケチをつければ即座に滅せられる・・」
純粋に祝う者もいれば、そうでない者もいるのはどこの世界にも必ずいる・・・・いない方がおかしいがそれは兎も角、この度のデルムリン島での開催にあたり、バーンはきちんと各国にくぎを刺す親書を出している。
内容は、大戦時勇者達は結婚を合同ですることをパプニカ王とテラン王に了承を取り付けてあり、その後勇者一行の武闘家マァムと戦士ラーハルトも加わっている旨を予め知らしめ、自分もその三組の幸せを心の底から願っているという・・・・好々爺のようでいて言外に警告というか脅しが含まれた親書は、王達は平然と読んでいたが、多少は庶民と半魔がロイヤルウェディングに入ってくるのを反対していた者達の心胆を大いに寒からしめた!今日の出の勢いに乗っている魔界の神様に挑む馬鹿なぞこの世界にはおらず、バーン相手に喧嘩できるのは、あの冥竜王ヴェルザーしかおらず、関係者一同の口を噤ませるには十分・・・十分以上であったがそれは兎も角、祝われる事は良い事ではないかと、バランもブラスも鷹揚に笑って花婿達と愛娘を宥めている。
ちなみにマァムの方はレオナとメルルと同じ時に花嫁姿を披露したいという希望で、自分の家でロカとレイラと待機しているのでもみくちゃにはされなかった。
「・・・・お前の花嫁姿見られてよかったよ・・・」
待機している家の中で、奇麗な花嫁姿になってレイラと喜んでいる娘にソファーに座って見ているロカはぽつりと溢した。
もしかしたら、自分はマトリフとティファとノヴァと、そしてアバンが共同開発をした万能薬が無ければもうとっくに死んでいたかもしれない・・・もっと言えば、大戦がはじまった時にティファ自身が自分を診てくれもっと身体に合った薬を処方してくれなければ死なないまでもここに来られたかどうかも分からなかったのではないと思う。
ハドラー大戦の最終決戦の地、地底魔城において勇者アバンを魔王ハドラーの下に送り届ける為に、もっと言えば無傷では無理でも万全な状態で送り届けるべく数々の敵や罠をその身で引き受けた結果、勇者アバンの勝利で生き延びる事は出来たが自身の体は廃人同様になり、息をするのも辛くて・・・・・何度死んでしまった方が楽か分からずにレイラ達が家にいない時を見計らって声を押し殺して泣いたか知れない。
そんな中、ある時アバンとマトリフが家を訪れた。
世間話だけではなさそうな雰囲気を察したレイラがマァムを連れて外に出て少しして、もしかしたら自分の体を回復させられる薬ができるかもしれないという言葉に、自分は一も二も無く飛びついた。
既存の回復薬はカールから王女や元同僚から届けられたがあまり効かず、もう死を待つばかりかと思っていただけに、少しでも望みがあるのならばと被験者になる事を総座に選んだ。
「俺はマァムの花嫁姿を見たいんだ!!見てやりたいんだ!レイラと一緒に祝って・・・喜んでやりたいんだ・・・・」
いつ死んでもいいだろうと強がっていた仮面は剥がれ、恥も外聞もなく泣き叫びながら望んだ言葉を、二人は笑わずに頑張ろうと言ってくれて・・・・そして今日叶った事が嬉しかった。
ロカの小さな呟きのような言葉は、残念ながらキャイキャイとしている可愛い妻と娘の耳には届かなかったがロカはそれでもかまわなかった・・・・・むしろこっぱずかしいので届かない方がよかったりする。
ロカも精神的に多少大人になっても、純な少年の不器用さが多分にあるのだった。
各国の王侯貴族達の挨拶も一通りこなしたダイ達も、式場となる聖堂の休憩の間で一休みとなった。
何となれば今日の主役は彼等であり、身分的に上だからと言って花婿達をいつまでも引きずり回すわけにはいかないとの配慮で休ませてもらっている。
部屋の中には当然ブラスを始めとした関係者御一同が通例通り詰めている。
ティファとミストだけは二次会のお料理の進行状況が気になり席を外している。すぐに戻ると言葉を残して。
ブラスもバランはもとより、マトリフもロン・ベルクも笑顔でダイ達を構いつけている。
あの幼かった少年達の巣立ちの時に立ち会えたのが嬉しいと笑い、飛び火するようにノヴァとティファの結婚はいつになるのかといった話にまで及んだ時にはダイが少し・・・ほんの少しだけヒヤリとする目つきをしたがクロコダインとチウが即座に鎮火させて事なきを得る中、普段はバーンの後ろいるのが定位置のキルも珍しくダイとポップに近寄った。
「あんなに小さかった君達が大きくなるのはあっという間だね~。」
言っていることが少々おじさん臭いがそれは兎も角、しみじみとしたキルの声音にダイとポップは面食らった。
キルと言えば確かにティファやチウを可愛がり女子達には優しいが、滅多に自分達には話しかけてこない・・・・・ティファを狙っている事もあってこちらが威嚇モードなのでそうなるのだが、今回はキルの方から話しかけてきたのに驚きである。
「はん!ちっこかった俺達は楽に勝てるって思っていたのかよ。」
ダイはキルに何と言えばいいのか分からず沈黙し、ポップはついいつものように憎まれ口をたたいてしまうのをキルは笑って受け流す。
「まさか、あの当時の君達に楽に勝てるなんて思った事は一度としてありはしないよ。」
「・・・・それってティファがいたから?」
「違うよ勇者君、きっとお嬢ちゃんがいなくとも君達は強かったさ。現に最終決戦のあの時は、お嬢ちゃんが君達の側にいなくとも強くなって僕らに打ち勝ったじゃないか。」
「そりゃ・・・・あいつが手紙残してくれてたから・・・」
「ふふ、魔法使い君は謙虚だね。お嬢ちゃんって言う途轍もない精神的支柱を喪ったら、残された手紙があってもたち直れた保障なんてどこにもないだろうさ・・・・お嬢ちゃんはその辺分かってなかっただろうけどね~。」
その言葉に、ティファ様の事を馬鹿にしているのかと常ならば食って掛かるラーハルトも、ティファ大好きっこのチウも言葉が出なかった。
言っては何だがキルの言う通りで、ティファは手紙を残せばあの当時の兄達ならば大丈夫という物凄く甘い見込みをしていた・・・・自身がどれほど愛されているのかを全く自覚していなかったからこそあんな強硬手段に打って出たのだろうが、一歩間違えれば勇者達は立て直れず、魔王軍の圧勝で終わっていたかも知れなかったのだ。
そんな世界はきっと、今の様に楽しい世界ではなく、魔界が生き残れてもどこか淡々とした日常を、少なくとも自分は送っていただろうとキルは思う。
地上と天界が消えてしまっては、おそらくティファの魂を手元に残していたとしても永劫笑わないティファを、それでも手放せない虚しさだけを抱えて・・・・主と親友が悲願をかなえられたと喜んだとしてもだ。
つくづく思う、自分達はこの光のような子等に負けてよかったのだと・・・・あの時勝ちたいと願った思いに嘘はなく、魔界の悲願を叶えたいという主と親友の願いの為に処理をつかむべく本気で戦いはしたが・・
「一度としてバーン様とミストと僕は君達を見縊ったことはないよ。少なくともテランでバラン君を破った時はミスト本気でお嬢ちゃんだけを倒そうとしたり、 君達に勝つ為にハドラー君の肉体魔改造させて戦力アップさせたり、パレスでのトラップをきちんと殺傷能力極限設定したりしたしね。」
にっこりと君達の事を認めて褒めているんだよと話すキルが正直言えば、ブラスとしてはダイ達を褒めてくれてた事は嬉しいがどう反応していいか分からず困ってしまい、ダイ達はもとよりチウとてもキルに対してドン引きであり・・・バランとハドラーには耳が痛かった。
今でこそこうして長閑にいられるが・・・自分達から魔道を行っておいて突然裏切ったのだから・・・・図らずもキル同様に、和睦が結べてよかったと思ってしまう中、キルはティファやチウにするように、ダイとポップの頭を優しく撫でた。
「君達のような立派な戦士と戦えて光栄だったんだ。今度は立派なお婿様・王様になっておくれよ。」
死神の自分が言えたことではないが、あの大戦で死んだ者達が浮かばれるほどに笑いの溢れる世界を作ってほしいと柔らかく笑うキルの手を、ダイとポップは跳ねのける事はせずに不思議な気持ちになる。
大戦の頃はあんなに嫌って・・・・バーンよりも倒すべき敵だと思っていたキルから称賛をされて祝われる事が嫌ではなくて・・・
その光景を、バーン達が微笑ましげにする中扉が叩かれティファとミストが入って来た。
デルムリン島に、花嫁達が来たという嬉しい知らせと共に
今宵ここまで