「ついてくるならもっとコッソリ来ないと意味ないと思うよポップ兄?」
「・・・だってチウがああこう言いうんだもんよ・・・ちょっとくらい羽目外したって今日くらいは・・」
「ポップはメルルさんと結婚しても子供っぽいね・・」
結局やいのやいのと言いながら隠れているつもりで自分の後を追おうとして来た二人に笑ってしまったティファの態度で、自分達の事はばれているとポップは少しがっがりとしチウは少しほっとしてティファの前に姿を見せた。
そもそもがこの長い廊下は宝物庫とバーンの私室とティファのお泊り部屋がある魔界の神様の完全プライベートエリアとなっているので侵入者対策として隠れられる柱やオブジェなどはほぼなく、二人は少しだけある柱の陰に隠れているつもりであったのだろうが、ティファからすれば気配丸わかりで笑いをこらえるのに苦労したのだが限界突破して爆笑してしまったのだ。
「ポップ兄は本当にいたずら小僧みたい。もう少ししたらダイ兄達の分も含めてお祝いの品の披露タイムになったのに~。」
「ちょっとくらい覗いても罰当たんないぜ?」
可愛い妹の苦笑しながらの言葉もなんのその。今メルルや賓客達はこの会場の主たるバーンに挨拶をしているのでポップの周りは空白化した。
少し休むのを兼ねてダイ達からも離れて飲み物を取りに行こうとすれば、可愛い妹がどこか行くので何やら面白い事を隠しているのだろうかという第六感を信じて後をつけてきたのだと豪語する。
ちなみにチウもティファが出て行ったのを扉付近で見ていたが、女性の後を追うなどという考えを持たなかったのに・・・ポップがあとをつけようとしているのを見つけて止めるべく来たのに巻き込まれた。
ワイワイと賑やかにしながら三人は件の宝物庫に辿り着く。
「えっと・・・ハイ=ランクディア=ファランフィア。」
この宝物庫には鍵はない。その代りに合言葉の方式になっている。
合言葉の意味は古い魔界語でー位階高き者達の宝の守護をせよ-である。
これは正しい発音と、そして登録された者の闘気や魔力を発動させなければ開かない仕組みになっている。
尚登録された者が脅されて開こうとされようとしても
「ハイ=ランカーファルス=ディエルゴディア」
位階高き我を脅す不逞の輩なりと言葉を変えれば、登録された者以外の者を瞬時に焼き尽くす炎が噴き出す・・・・その際には他の人質がいたとしても諸共になるが、過酷なる魔界ではそれもやむをえないと誰も気に留めないのだがここに初めて来たポップとチウは無論の事で、出入りする仕組みを聞かされたティファも、侵入者の部分はバーンは知らされていないので当然知らない。
血生臭い事はもうティファの周りから排除しようというバーンの心遣いだった。
ここが作られて数千年経つが、幸いな事に大魔王バーンの居城に侵入するのは兎も角最奥の宝物庫に入り込めたものは誰もいないのでそんな怖ろしい事は実際に起きていない。
侵入した者は瞬間死神と影の得物の錆になっていたのだから・・・
「えっとね・・・どこだっけ・・」
宝物庫の中は広く、一度しか来ていないティファは兄とチウを引き連れて奥に行くまで相当時間を要した。
その間二人はティファについて行きながらも物珍し気に周りを見まわたして目をまん丸くしていた。
行った事はないが、まるで話に聞く美術館のようだとチウとポップは思った。
さすがは魔界の神様の宝物庫であり、よくお伽噺に出てくる竜の宝置き場の様に金銀財宝宝石達が雑然と積み上げられているのではなく、一つ一つがガラスケースや宝箱に入っている。
一振りすれば火炎魔法が出てくる文字通りの魔剣、姿が消える透明になるマント、ティファも持っている空飛ぶ靴にヒムたちと同じようなオリハルコン製のチェスが一揃い等、その機能や使い道は分からないものが多数あるが、見るからに凄い代物だけが持つ、たとえていうなればロン・ベルク作のダイの剣にも似たすさまじいオーラを二人は感じ、こんなところに保管されたティファからの結婚の贈り物は何だろうとポップがにんまりしたその時、宝物庫にいる三人はゾワリとした感覚に襲われた!
まるで・・・・不味い!!!
この感覚にとても覚えのあるティファは二人にすぐにこの場を出る様に言わんとした時、ティファが取りに来た-万能なる万能薬-を入れた宝石箱を中心に黄金の陣が出現し、宝箱をからめとらんとする触手の様に蠢く糸を見た時ティファはそちらに意識が行ってしまった!
「駄目!!それは本当に大切なものなの!!!」
「ティファ!!」
「ティファさん!!!」
「ジ=アザーズ!!!!」
なんの陣かは分からない!この糸もなにかはティファにも分からないが、大概なものそれこそ大魔王バーンの本気のカイザーフェニックスであってもヒビがはいりこそすれ割られないという自負があるティファは、宝箱に絡みついた糸を闘気で切断をして胸元に抱え込むと同時に、自分とポップとチウをすっぽりっと覆いつくす結界を張った。
これで陣の意図がどうであれ、この場から薬も自分達も動かすことはできないだろうとティファは考えた。
いつかの時、空間を封鎖して散々に死神キルバーンと魔影参謀ミストバーンと、彼等の主たる大魔王をも手玉に取ったのだから。
しかしティファの目論見は結界を張ってすぐに破られた。結界諸共に・・否、結界は破られはしなかった。
破られれば結界は術者にダイレクトにそのダメージが行く。その結界の機能が高ければ高いほどに大ダメージとして術者の身体を損なうティファの体には異変は起きなかった!
まるで結界を糸の様にほどかれたようだと感じたティファの感覚は正しかった。
「ティファ!チウ!!この場から逃げんぞ!!!俺に摑まれ!」
陣が現れた時よりも驚愕に満ちたポップの言葉に、ティファとチウがポップを見れば、ポップの足先が、糸の様にほどかれているように消えかけていた!!
「ポップ兄!!」
「ポップ!!!!!」
何事が起きたのか・・・ティファは混乱しそうになる思考をどうにか落ち着かせて思考を止めずに如何に全員でこの場より逃げられるかを算段する。
起きている事象の解明をして解決するには時間がない!であればポップ兄の言う通りに摑まって、トベルーラでこの場から出るべきだ!!最悪は天井に穴をあけて更に速度の出るルーラをしてもらえばいい!!!
そう算段をつけたティファは、走り出そうとしてもポップ同様に足のつま先がほどかれてしまったチウを抱え、いつ自分も同じ事になるのか分からないので一足飛びにポップの下へと飛び、ポップは無事な両腕で二人をしっかりと胸に抱えたが・・・・全員の体はもう半分ほどけていた!!
それでもポップは諦めずにトベルーラで部屋の脱出を試みる。もしかしたら陣から遠ざかれば、この不可思議な事象が解かれるのではないかという望みをかけて・・・だが状況は好転してはくれなかった・・・・発動しないのだ魔法が!!
「畜生が!!!!!」
瞬時にそれと察したポップは絶望のあまりに叫び声をあげて二人を抱きしめて呻いた。
自分達はこれから幸せな時を見んなと過ごすはずであったのに・・・なぜこんな訳の分からない事に巻き込まれた!せめて兄として妹と年少のチウだけでも助けたいのに・・・それすら叶わない事にポップが絶望しかけた時・・・声が響いた・
「お嬢ちゃん!!!!!!」
それはポップにとっては-苦手-な者の声であった。
大戦の頃は大嫌いで、少し前まえでも可愛い妹をつけ狙う不逞の輩で・・・そして誰よりも自分達を子供と侮らずに一人前の戦士達として真剣に自分達と戦った奇妙な人物は・・血相を変えて自分達の下に必死に駆けてくる者は・・・
「キルバーン!!!!」
ポップは出せる限りの声でその人物の名を叫び、そして救いを求める様に左手を精一杯伸ばした。
もう嫌いではない、しかしどう接すればいいか分からず苦手となった漢に助けを求める事がポップにとっては嫌ではなくなっていたから・・
その叫びに応える様に、キルもポップの手を掴もうと必死に手を伸ばす。
宝物庫に言った三人の様子をバーンから仰せつかったキルは、主の命を果たしながらもあの三人をもう少し遊ばせてあげるべくゆっくりと宝物庫に歩を進めた。
実はティファとポップとチウは、あの場を離れた事は気が付かれていないと思っていたが・・・全員ばっちりと気が付いていたのだ。
ただティファ達も疲れて羽を伸ばしたかろうという周囲の優しさで見ないふりをされていたのだが、戻るのが遅いと心配をし始めた全員を代表してバーンがキルに迎えに行かせたのだ。
キルなれば、すぐに空間を開けて三人を広場に戻せるからと。
そしてキルが宝物庫の合言葉を言って扉を開けてみれば!今まで感じた事も無い気配に驚き、ティファ達はきっと預かった宝箱の場所にいると確信をして空間を開けようとした開けられなかった!まるでティファに仕掛けられた空間封鎖のあの時の様に!!
嫌な予感しかせず、空間が開けられないと知った瞬間キルは走り出す。
今ティファ達の下に行かなければ!途轍もない事が起きてしまう!!三人の身をひたすらに案じて走った先にいたのは・・・下半身が消えかけている三人の姿が・・・
「お嬢ちゃん!!!!!」
キルはチウとポップの名も呼んでやりたかったが時間が惜しかった。
それよりもあの三人をすぐにこの場からはならさせる事ばかりを考えて駆けて行けば
「キルバーン!!!!」
普段は自分の事を、おいや、疫病神としか呼ばないあのポップが!自分を信じて懸命に手を伸ばしてくれたのだ!!
あの手を掴めば・・・もう少し・・掴んだ!!!
助けを求めた手が、助けを求められた手が必死に伸ばし合った事でその手が触れ合う事が出来!キルはその瞬間を逃さずに素早くポップの指を絡めとりそして握る事に成功したのだ。
ここ!!すぐにこの場から・・・・
離れようとした。
キルもまた事象の解明はできてはいなかったが、それでもこの場から離れる事を第一としてポップの手を握れた事で一息つくという愚を犯すことをせずにすぐに引き寄せながらその場からの離脱を図ったが・・・間に合わなかった・・・
「キル!!」
「キルバーン!!!」
「キルバーンさん!!!」
子供達が・・・自分の事を叫びながら解けていく・・・・あぁ・・あぁ!!!
「駄目だ!!!駄目だ!!!」
返せ!!!その
「ティファ!ポップ!!!チウ!!!!!」
三人がキルの名を叫ぶように、キルもまた三人の名を叫びながら再び三人に駆け寄るが・・その行為をあざ笑うかの如く陣は最後の光でキルの目を晦まし・・・あと一歩で三人に辿り着いた筈のキルの足を鈍らせそして・・・・光は瞬時に消え果てた・・・宝箱も三人の子供達を飲み込んでいってしまったのを、キルは呆然として膝から崩れ落ちへたり込む。
数百年の時を圧倒的な強者として魔界の神を親友と共に支え続けてきた死神キルバーンは、ティファ達が消え果た時、其の自負心すらも持っていかれたかの如く・・・
その場には、まるで最初からキルしかいなかったかのようにティファ達の気配も痕跡も消え果ててしまった・・・いや、ただ一つ、チウが身に着けていたブローチが一つだけ落ちていた。
灰色のロープを包むこげ茶色のマントの留め具としてキルが贈ったものが、床に取り残されていた・・・・ただそれだけが・・・・
かつて勇者達は・・・・仲間であり最愛の者ティファに、絶望の場から逃がされる為に彼女の掴んでいた手がほどかれそして陣へと吸収されてしまったのを自分は見た。
あの時の勇者達の顔は絶望に満ち溢れ・・・先ほど自分はポップに何を言った?
お嬢ちゃんという途轍もない精神的支柱を喪ったら、残された手紙があっても立ち直れた保障なんてどこにもないだろうさ・・・・
あれは・・・・絶望の淵から立ち上った彼等を賛辞して贈った言葉が・・・・呪いの様にキルを縛り付けた。
常であればどのような異変をも主と親友に真っ先に知らせるべき死神が、その場に縫い留められるように・・・・ここには・・・希望は残されていない・・・・何もかもが・・
同じ頃、会場でも異変が起きていた。
「あ・・・・あぁ!!!」
「ディーノ!!」
「どうしたのダイく・・・・メルル!顔が真っ青よ!!」
「どうした坊や!!」
「あぁ・・・・」
ティファと魂までも繋がっているダイとノヴァ、そして神々からの言葉を受け取れるまでに至った力の持ち主メルルが一斉に青褪めそして苦しい声を吐き出すのを周りが何事かと動揺する中、ダイ達は絶望にそこに叩き落されていた。
「嫌だ!!消えないでティファ!!!」
「ティファ!!!!」
「いやぁぁっ!ポップさん!!!!!」
それぞれが愛おしい者達の名を叫びあげながら虚空に向かって必死に手を伸ばしたのだ。
ダイとノヴァ、そしてメルルはティファとポップとそしてチウの気配が-この世界-から消えてしまうと直感が告げたのだ。
特にノヴァはこの世界で誰よりもティファの心と魂が結び付き、それが為に一度目の決戦のあの時、ティファがダイ達を逃がした直後、バーンがパレス全体に結界を張りパレスとティファを隠してしまい、ティファとの繋がりを強制的に遮断された時以上の喪失を味わい、直感が確信に変わり、それはティファに己の魂と命の半分を注いだ大魔王バーンのも感じられた!
二人はその瞬間、ティファの気配が最後にした場所に向かおうとした時-それ-はパレスを満たしつくした
ああああぁぁぁぁああああぁっ!!!!!!
死神の絶望に満ちた声が、パレスの全てを満たしたのだ
それはまるで、悲劇に満ちた事象への開幕を知らせる為に誂えられた絶望を凝縮させた開幕ベルの如く
今宵ここまで