いきなり空から生じてきた三人のうちの一人の少女は、着ている服以外の一切をそれこそ首に下げていた小さな金のマジックリングまでも鎖ごと引きちぎり乱雑に地面に落とし、自分達にとっては最悪の敵に頭を下げている光景に、少年ポップは覚えた困惑を振り払う以上に苛ら立ちが募る。
他界と言った、それが何を指し示す言葉かは分からないが目の前には自分を少し大きくした男がいる。
普段の自分ならば絶対に着ないような・・・着られない上質な布で仕立てられた白いタキシードを身に着け、愛用の黄色いバンダナこそしていないが何となくは分かる!こいつは俺が成長した姿だと。
そして上等なロープを身に着けたチウがいて、少女は頭を下げている相手が大魔王だと分かっているだろうに無防備な姿で頭を何故下げているのか、少年ポップだけではなく周りも何事が起きているのか固唾を飲んで見ている中、甲高い耳障りな声がその場を破った。
「きゃはは!おかしいの!!宝石全部落として命乞いしてるのかな?僕にはさっぱり分からないよ。キルバーンは分かる?」
「ん~なんでだろうね?僕達に首でも落としてほしいのかな?」
「ほんとほんと!こんな細い首僕でも落とせそうだ!!」
無邪気を装いながらも死神と残虐なる言葉を交わしながら、瞳は見知らぬ少女を嘲る笑みが浮かび、少女を小馬鹿にするように周囲を飛び回りうっとおし気にしているのを、少年ポップ達は苛立ちそして大人の姿になっているポップの気配が変化したが、少女は一言も発さずただ黙って頭を下げ続けている事に、ピロロは逆に自分の事を無視しているのかと腹が立った。
-人形-を使って殺しても、大魔王は止めまい。このいけ好かない小娘の言う通り!所以知らずに戦いの場に入って来た慮外者を討つ名分があるのだから!!
死神が、動こうとした瞬間、またもや右手を挙げて止める者があった。
「待たぬかキルバーンよ。ふむ・・・他界とは異界の事か娘よ?」
誰であろう、この場を仕切るに一番ふさわしい大魔王バーンその人であった。
バーンは基本自分以外に興味は無く、側近達は有能であるがゆえに侍らせているが、興味は無い。
しかし目の前に出現をした者達には多少興味をひかれたがそれだけであり、見た感じ特別な何かも感じなかったので戦意を喪失させた竜の子供諸共に葬ろうとした矢先、目の前の娘がした事と、今の態度で興味が魅かれ、質問をしたがだんまりのままであることにバーンの笑みは広がる中、主の返答にも答えない無礼者をミストバーンが両手を刃に変えたがそれも押しとどめさらに言葉をかける。
「ふむ、其方は-色々な事柄-に精通しているらしい。-誰-が其方にそれを教えた?人の身では知りえぬ事を何故知っているのか余に教えてくれまいか?」
無礼と取られても仕方がない少女の態度に、魔界の神とも言われる強大な首魁が相好を崩していっそ優しいとも思える声音に、長年師のミストバーンと共にあり時折大魔王が配下の者達と話すときの像から聞こえて来る圧倒的な強者の威圧を知っているヒュンケルと、同じく元魔王軍であったクロコダインは信じられない面持ちでバーンと少女を見比べ、大魔王を初に見た少年ポップとマァムもまた驚く中、チウとポップだけが冷静にそれを見守っている。
ティファが何かをするのはもう当たり前なのだから。
しかし最大限の譲歩ともいえるべき温情を受けてもティファは動かず、本気で忠誠心の塊ミストバーンが切れかけて時・・・・・更に信じられない事態が起こった!
「はっはっはっは!!本当に-心得のある-娘ぞ!!!」
・・・・あの冷静沈着で、全ての事象が己の想いのままになったとしても薄っすらと笑うだけにとどめるあの主が・・・・童のように笑ったのを、隣にいる死神もその使い魔も唖然とした。
一体あの無礼な小娘の態度のどこに見るべき点があるというのか。
それを紐解いたのはバーン自身であった。
「覚えておくがよいミストバーンよ。古来より魔界は闘争に明け暮れた地であり、戦いを神聖視し、強者が何よりも貴ばれる事ことは知っていよう。」
それはミストバーンとキルバーン達にとっては当たり前の事であった。魔界においては強者こそが全てであり、弱者は何も言う権利などありはしない過酷な地。
その地において決戦とは特別な事であるのは自明の理であるが、だからそれがどうしたとキルバーンが肩をすくめて見せる無礼を、バーンは笑って許した。
-無知なる者-を叱っても意味がないからだ。
「目の前の娘は-古の魔界-において決戦を穢すことがどれ程の冒涜かを知っておる。
もしも故意ではなくその地に足を無断で踏み入らば殺されようとも文句は言わさぬ。
その無礼をあがなう方法がこれぞ!
もしも先程余の問いにこの娘が応えれば余はすぐさまこの娘の首を飛ばしておったわ!!
何故ならば余はこの娘たちの事を許す言葉をわざと入れなんだ。この娘はそれを察し、いまだにひたすらに余に詫びているのだ。」
愉快気に怖ろしい事を言い放つ大魔王に、誰もが慄然とした!!
優し気な言葉の中に罠を平然と混ぜ込み、人の命を弄んで愉しんでいる・・・こいつは生かしておくだけでもいけないものだと、少年ポップ達は怖れながらも怒りを沸かす中、ポップとチウは困惑をした。
この人物は本当に大魔王バーンなのだろうか!?自分達の知る大魔王バーンと似ても似つかない・・・
周囲の思惑を他所に、バーンは正答なる許しの言葉をティファに告げた。
「余はその方の言う通りこの世界の大魔王バーンである。異界からの迷い子ティファよ、面を上げ余の顔を見て直答することを許そう。疾く頭を挙げて余の質問に須らく答えよ。」
異界からの迷い子、それがこの三人の正体であろうとバーンが導き出した答えに、果たして目の前の少女は応えた。
「他界の大魔王バーンの言う通り、我等三名はこことは異なる世界より来ました。」
顔を上げ、真っ直ぐに自分を見る黒い瞳には怖れも迷いもなく凪いでいた。
それこそ敵愾心も感情の昂ぶりも無く、静かな瞳であった。
「ふむ、其方は人の子に見えるが何故我が配下達も知らぬ古式ゆかしい作法を知っていた?」
「それは決戦の場に足を踏み入れてしまったものが詫びる事を指し示していますか?もしも角があれば叩き落し、尾があれば叩き切り、羽があれば引きちぎり・・」
「牙があればおのが手で引き抜く・・・・完璧よな。」
・・・・・物凄い詫びの作法に、地上育ちのポップ達は背筋に寒気が奔った!!
間違って迷い込んだだけでそんな事をせねばならない魔界とはどれ程悍ましい所なのだと
・・・しかし其の作法はどうやら魔界においては最早廃れているのだと-ポップ達-は察した。
何故ならば先ほど大魔王は二人の側近に覚えておくようにと言っていたからだ。
魔界で長らく大魔王を支えてきたミストバーンをして知らぬ事を、何故知っているのだと問うのは自然だと少年ポップは思った。
そしてどのような答えが少女の口から紡がれるのかと・・・・死にかけた戦場において不謹慎ではあるが、持ち前の好奇心が勝ったが、少女は答えを言わなかった!!
「他界の大魔王バーン、貴方は私の知識がどこから来たかと問いますが、その答えに対する対価に何をくれるおつもりですか?」
何と答えではなく!!答えに対する報酬を口走ったのだ!!
「無礼者が!!!!」
少女の応えに今度こそミストバーンが切れたが、少女はそちらには見向きもせずに大魔王バーンだけを見つめて話を進めた。
「情報は値千金とも申せましょう。それは地上においても魔界においても天界においても同じこと。
他界より-連れてこられた-私達の知識はまさに万金であると自負しております。」
主の命により動かないとはいえミストバーンの殺気にも怯まない少女を、ピロロは再び絡みだす。
親友をこけにするような身の程知らずの小娘の肝をつぶしてやらんと!
「本当に本当に無礼だな~。なに?もしかして魔界の神様に気に入られたって勘違いしちゃった可哀そうな子なのかな?頭を切り落としてもっと頭のいい人と取り換えてあげたほうがいいのかキルバーン?」
「そうだねピロロ~。バーン様、あの女の子の首を落とし開戦の狼煙代わりにしますか?なんでしたらバラン君の亡骸諸共焼き尽くすのも一興ですよ?」
その言葉に、少年ポップ達は瞬時に警戒をしポップとチウも動きかけ・・・そして・・・今まで周りがどれ程の事になろうとも父の亡骸から顔を上げなかった-ダイ-が顔を上げる・・・今、親父の亡骸をどうすると・・・あの不愉快な死神は何と言った?
それは幽鬼にも似た、悍ましい表情であったが幸いにしてそれを見る者はなく、その表情を一変させる言葉がその場に響いた。
「ふっふ、何とも躾がなっていない配下をお持ちのようですね他界の大魔王バーン。」
嘲りと脅しを受けた、吹けば飛ぶような少女が死神とその使い魔を痛罵したのだ!
「主の許しも無く私達の会話に入り込むとは程度が低いにもほどがありましょう。口を開けば開くほどに、襤褸が出てお里が知れるというもの!その口を噤むことをお勧めいたしましょう-三文死神-殿。」
声は決して大きくはなく、それでも声音に宿る力強さに誰もが聞き入ってしまった・・言われた当のピロロとても!
ピロロにとってはそれが何よりも屈辱的であった。自分の正体を知られないように人形の弱き使い魔を演じる中で嘲笑われる事なぞ慣れており、死神キルバーンは軍内部においても忌み嫌われ罵声や陰口は当たり前の筈なのに・・・・何も出来い小娘が偉そうにしている態度にはらわたが煮えくり返れ、こいつは自分の手で殺してやるという殺気を人形に移して-キルバーン-を動かそうとしたのを見たティファは内心で笑い、兄達は困惑している気配に苦笑しかけるのを止めるのに苦労する。
普段の自分であれば、相手に怒りをもって罵倒したことはあれども相手を見下した物言いをした事はないと自分でも断言できる。
どのような相手であってもきちんと対峙するべきを心がけて頑張って来たのだから。
しかしこの世界ではそれが通用しないであろう事は容易に察せられる。
それが通じたのは偏に向こうでは積み重ねてきた功績と、矢張り勇者一行の者という名前がものを言ったからだ。
自分の思惑や言葉を通そうとするのならば、通せる位置に立たなければならない。
即ち大魔王の側近風情が口を差し挟むなという強者ムーブをしなければならない。
言葉も使いも遜りながらも不遜な態度は崩さず、話せる者であると無言のアピールをする事。
それが好きか嫌いかなぞ言ってはいられない!今自分達が放り込まれた状況がどういうところなのか、そもそもがこの世界はどのような世界で地上と魔界が争い合っているのかの根本すら知らない。
情報を得るには、この場で一番の強者である目の前にいる見知らぬ大魔王の関心を先ず惹かなければならない。
少なくともこの状況から逃れる為の-策-は仕込んでいるが、それにしてもこの後の行動の指針が欲しい。
その為にも、第一にすべきは自分は知識が高く心得のあるものであり、魔界の神とも謳われし者との会話も十全にできるものだと知らしめるべく、キルバーンを踏み台にしたのだが果たして
「その娘の言う事にも一理あろう。その方の出番は後にあろうから今は口を差し挟むなキルバーンよ。」
「・・・・・・かしこまりました・・・おいでピロロ・・」
「・・・・・は~い・・・」
確実に死神と影の不興を買ったが、それに見合うどころかお釣りが来るほどの対価として大魔王を釣る事には成功したようだとほっとした。少なくともこの世界では大魔王と死神の関係はドライなようだ。
向こうでこんな物言いをしたものが居たら、大魔王は激高はしないまでも不快さを示すだろう。
己の大切な側近を蔑ろにした事に対して・・・・ここは・・・-原作-もしくはそれに近い世界線なのだろうか思考するティファに、大魔王バーンが声をかけた。
「その方は他界のティファと言ったが、きちんと名乗ってはいなかろう。
対価の前払いとして余から名乗ろう。
余は魔界を統べりし大魔王バーンなり。ここにおるは右にいるのが余の側近の一人ミストバーン、左にいるのが同じく側近であるキルバーンである。異界から来せし娘よ、其方達の名を問おう。」
ティファの胆力に面白みを感じたバーンの問いに、ティファは笑みを浮かべ名乗りを上げた。
「過分なお心遣い痛み入ります。対価として名乗らせていただきましょう。
先ずは私と共に来た者達から。
お察しかと存じますが、黒髪の青年は他界の勇者一行にて魔法使いをしており、私と兄妹の契りを交わした兄ポップ!大ネズミは他界の勇者一行のチウです。」
その答えに、察していたとはいえ少年ポップ達は驚きの目を二人に向けた。
見れば二人は自分達と違って少女のとんでもない言動を、心配や困惑こそすれ驚いてはいなかった・・・あの少女はいったい何なのだ?
どう見ても戦う者には見えないのに!勇者一行の魔法使いポップと兄妹の契りを交わしたという事は、僧侶・・・見習いだろうか?
可能性としてはそれしか考えられないと、敵方のミストバーン達もそのくらいで見積もっていたが・・・-ティファ-という少女はどこにいても周囲の予想を悉く覆す存在であった!
「改めて名乗らせていただきます。私は他界の竜の騎士バラン、故アルキードの王女ソアラが娘!!」
その出だしに・・・・この世界の誰もが、それこそ大魔王バーンですらも驚いた!
その名乗りをするからには
「勇者ダイの双子の妹であり・・」
矢張り-ダイ-の兄妹!!
その答えに信じられない思いがしたのは少年ポップ達だけではなかった。しかし・・・自分達と同じく少女の名乗りに呆然としているダイの顔を見れば確かに似ていた・・・それこそ性別を取り換えれば、ダイと少女は同じであろうというくらいに・・・もしや実力を隠せるほどの強者であるのだろうか?竜の騎士バランを父に持つのならば当然勇者が二人いる一行は存在せず、ならば剣士か武器を極めし戦士か、あるいは遠距離支援の魔法使いという可能性もある。
一行に魔法使いが二人いれば、前後左右からの挟み撃ちも可能であり、戦いのヴァリエーションが多くなれる。
少女ティファはどれであるのだろうかと固唾を飲めば・・・・・・そのどれかどころではないものを良い笑顔で言って来た!!
「勇者一行の料理人をしていたティファと申します!!!」
・・・・・・なんだそれは!!!!
今宵ここまで
・・・・同じ人物を同じ場所で呼び分け合うのは初めてです。
ようやく物語を進める形になったかなと思いますが、こうした方がいいのではとご意見あれば筆者助かります。