勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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小石の投げられた世界:違う!

私が・・・私達がした事は早計であったのだろうか・・・

 

自分の告解を聞いた後、周囲の唖然とした様子を他所にティファ自身は俯いている。

まるで・・・自分自身が罪を犯した罪人であるかの如く

 

罪を犯したは此方であるというのに・・・・どうやら自分は、他世界のマザードラゴンの話で得て想像したティファと実際のティファを・・・・

 

「・・・・ティファよ・・・申し訳ない・・・・」

 

それは告解ではなく心からの謝罪。それまではこの世界の為にと神たるものとしてどこか世間を知らぬものの横柄さがのぞいていたのが、一変して後悔に濡れた声音に、俯いていたティファが顔を上げてそこに見た者は、確かに罪を意識した者の表情が浮かんでいた。

何を今更と、チウは兎も角ポップがその表情が癪に触って火に油どころか、メラゾーマにイオラも併せて撃たれた気分に陥った。

今更か?この世界如何にかする前に!俺の妹をアイテム扱いありきの対応した時点で・・

 

「・・・・それでも・・・・私は-竜の子等-を守りたかった・・・・長年を神として過ごした者として愚を犯しても・・・・それでも・・・」

 

だがその怒声は、響く事は無かった。

ポップとても鬼ではない・・・・さらに言えば、ティファの周りには自然情が深い者達がさらに慈悲の心を持つのが当たり前となり・・・-消えかけながら-後悔をしながらも、我が子を守りたいと泣く母にどうしても怒り切る事が出来なかったのだ。

 

「・・・・・・貴女を許しましょう、他界のマザードラゴン。」

 

そして・・・あぁ・・・どうしてあいつは・・・-いつもの如く-己を殺しかけようとも利用しようとも策謀をかけようとも、理由があり、どうしても守りたいものがあったのだと言われてしまえば妹は赦してしまう・・・・

 

その言葉に、マザードラゴンはくシャリと顔を歪めて泣き濡れる・・・・申し訳なさとそして・・・叶うのであれば・・・

 

「た・・・・の・・・・」

 

マザードラゴンは最後まで子を案じる言葉を言いかけるが、それは叶わず、それでも・・気のせいであろうか・・・ティファの首が縦に振られたのは・・・・そう・・見たかったのか・・

 

地上界にあっての最後の奇跡を具現化するマザードラゴンの姿に、ダイも少年ポップ達はもとより、一つの時代の終焉を見送るようにバーンとミストバーンもが空を見上げる中、一つの風切り音が鋭くなった。

 

「・・・・・おや残念、避けられてしまったね~。」

「・・・・・・てんめぇ・・・何しやがる!!」

「ふっっふっふ怖い怖い♪ここは戦場で、君達はこの世界の者ではないけれども僕隊の味方でもないでしょう?

敵を殺そうとすることに何しやがるも何もないじゃないか~。」

 

誰もが一つの時代を支え続ける事に命を懸けた尊きものを見送る中、死神だけが機と捉えてティファの身を大鎌で刺し貫こうとしたのをティファは飛び退り、気付いたポップがすぐさまトベルーラを発動して宙にいる妹を抱えてダイの横に降り立ちティファを下ろし名がら怒りに燃え上がるのを、キルバーンは敵を倒して何が悪いと平然と嘯くのを、少年ポップの怒声が響き渡った。

 

「ふざけるなよこの三文死神が!!!!」

「おやおや、君の仲間でもないのにどうしてそこで君が起こるのさ魔法使い君~。」

「こいつら・・・この人達は!!何も知らずにただ連れてこられただけだろう!!!巻き込まれただけだろう!!!確かにバランを生き返らせたのはそこの子供が作った薬だろうが!!お前達が戦う相手は俺達だろうが!!!!」

 

少年ポップの火を噴くような言葉に、それまで事態に追いつけずに動けなかったマァム・ヒュンケル・クロコダインもまた動き出し、そして三人の事を思い至り詫びを言う。

自分達のポップの言う通り、この三人は自分達の世界に・・・さらに言えば!自分達が不甲斐ないばかりに大魔王達に負けそうだからこそ連れてこられてしまった被害者ではないか!!

 

「私達のせいでごめんなさい・・・・本当に・・・ごめんなさい・・」

「すまない・・・お前達の幸せの時間を・・」

「我等が不甲斐ないばかりに・・・」

 

ダイとバランとその側にいるティファ達を守るように、ヒュンケルとクロコダインが最前列となりマァムとポップが最後の盾となるように敷かれた布陣に、ミストバーンは大勢がどう見てもついているだろうにいまさら何をと鼻を鳴らすが、バーンは其の気概を楽しみそして

 

「やぁ~勇ましいね~。そこのタキシードのお兄さんの力を借りればどうにかなると思ってるのかな?」

「ふっふっふ、さっきまで戦う戦わないで言い合ってたのに~人間って馬鹿なんだねキルバーン。」

「そうさ~、覚えておくといいよピロロ。人間というのは一生懸命で健気でおバカさんが多い・・・」

「・・・どうして・・・・・」

 

キルバーンはどう見ても勝ち目のなくなった勇者一行達を嬲り始めるのを、か細い声が割って入った。

 

「どうして・・・・そんなひどい事を?」

「・・・チウ・・」

「チウ君・・・」

 

それはティファと同じくらいに-キルバーンさん-を慕っているチウであった。

 

チウにとってはもう限界であった。

いきなり自分達は見知らぬ場所に突如として連れてこられ!その理由が慕いしティファさんをアイテム扱いするかの如くだと知らされ怒りを覚えたがそれだけではなく・・・違うのだ!!目の前にいるミストバーンは分からないが・・・大魔王と死神が・・・・自分が大好きな大魔王さんとキルバーンさんと違って酷い人達で・・・・そして・・そして・・

 

「貴方は・・・・ティファさんを殺そうとしたんじゃない・・・・嬲ろうと・・したんですね・・」

 

自分も武闘家の端くれで、対処は出来なかったがキルバーンの大鎌はティファさんの首を切り落とそうとしたのではなく、その身を刺し貫いて宙づりにしようとしたのが・・分かってしまったのだ。

 

「ふっふっふ、やっぱり君は純粋な子のようだね~。あ~でも予想よりも戦士としての目は養われているか~。」

 

自分の言った言葉にも悪いと思っている感情はどこにもなく、それどころか楽しんでいる・・

 

「正解だよ大ネズミ君。僕はその女の子には腹が立ちこそすれ興味は無いんだ。僕の親友・・あぁ、ミストの事を相手にもしないで虚仮にしてくれたそのお礼をしようとしたんだけれども失敗しちゃったんだよ。どじったね~。」

 

ヒョイと肩をすくめる仕草は同じなのに・・・・

 

「それでもさ、戦場ではこんな事は日常茶飯事なんだよ?弱者は強者に一方的にいいようにされるなんてそこらで転がっているよくある話さ。」

 

自分を教え諭すような声音も一緒なのに・・

 

「僕はね、強者と戦う事になんて興味は無いんだよ。獲物を罠にかけ、強くて一途に鍛え上げてきた者達が、成す術もなくなって、それでももがく様と絶望に満ちた顔を見るのが大好きなんだよ!ちょうど今の君のような顔がさ!!!」

 

その言葉も思惑も・・・酷くて酷くて・・・

 

チウを嬲り上げ、悲しみと絶望に彩られた表情に大粒の涙をこぼし始めたチウ見てキルバーンは、己の中の嗜虐性に火をつけられ興奮して声高に秘っしていた想いをぶちまける。

今までこんなに興奮をした事は無かった!あの大ネズミ・・・チウと言った、あの子に言ったように、自身を鍛え上げた強者程、自分のトラップに捕らえられた時の藻搔き苦しむ様は凄まじく、最後にはどうにもならないと知らしめられた時のあの表情を見ながらスッととどめを刺すときの悦楽を追いかけているうちに、自分は死神となった。

それは確かにヴェルザーの命を受けて大魔王の側近としての仕事を振られたにすぎないが、それでもこの悦楽は自分だけのもの!!誰の思惑も絡まない自分だけの特権が・・あのチウという子のあの表情は涙は・・・あぁ・・あぁ!!欲しい!あれを玩具として手元に置いておきたい!!この世界の終焉を、阿鼻叫喚を見るたびにあの子はどんな顔を晒してくれるのだろう!いつまで心を保つことが出来るのだろう?

 

「僕の下においでよ大ネズミ君!君みたいに弱い子位、バーン様は飼う事を許してくれるさっ!

バーン様、僕は今まで仕事をすれども報酬は全ていらないと言ってきましたが僕はあの子が・・」

 

           ふざけた事を抜かしてんじゃねぇぞ!!!!!

 

 

己の中に生じた醜い欲望のままに口走るキルバーンの言葉は、床にひびを入れる程の闘気を混じらせた怒声が遮った。

言葉を発したのは、ダキシード姿のポップが、いつの間にかヒュンケルとクロコダインの前に立ち、目には殺気さえも浮かばせている。

自分の妹を嬲って殺そうとし・・・挙句が・・・

 

「・・・・見んじゃね・・」

「うん?」

「手前ぇみたいな奴が!!チウに目を向けんじゃねぇって言ってるんだよ!!」

 

その瞳には殺気とそして燃え上がるような炎が踊っているのを、キルバーンは打って変わってつまらなさそうに自分の望みを言おうとしたのを遮った輩に答える。

 

「なに?僕が言った事が気に入らないのかい?」

「・・・当たり前だろうが・・」

「ふっふっ、どう見てもここの大勢は決しているだろう?君達が向こうでどんな風に大戦を終わらせたかは知らないけれども、今の君達は万全に闘える状態ではないだろう?」

 

キルバーンの言う通り、大戦時の装備品は全てなく・・・ブラックロットはおろか輝きの杖も無い・・・・魔法は・・・仕方がねぇ!

 

ゴォウ!!!

 

 

「おいよせよ!!!」

「駄目よ!今すぐにそれを消してちょうだい!!」

「やめてポップ!!」

「ポップ兄!!!」

「・・・おや・・・・魔法使いがグローブもつけないで発動させたら・・」

「あぁ・・手は無事じゃぁすまねぇな・・・」

 

悲痛な声が上がった。

それはポップが、左手にメラの炎を左手にヒャドの氷を出したからだ。

当然勇者一行はその呪文で何ができるかを知っている。自分達魔法使いの最大呪文極大消滅魔法・メドローアを!手袋なしで行えば手が無事で済むはずがない!!

それを消させようと、少年ポップとマァムと共に、チウとティファは悲鳴にも似た声で止めようとし、すぐ後ろのヒュンケルとクロコダインもポップを押しとどめようと必死に言葉をかけた。

 

「よせ!!穢らわしい言葉を大切な仲間に掛けられた怒りはよく分かる!!しかしあれの相手は俺達がする!!」

「その魔法をすぐに消すのだポップよ!!!」

 

このタキシード姿のポップもまた、自分達のポップと同じく仲間の為にその身を、命を懸ける漢であると悟った二人の脳裏には・・・・かつて記憶を失ったダイを守るために、地上最強と謳われた竜の騎士バランを相手にメガンテをしたポップの姿が脳裏に浮かびぞっとした!

近頃何かがダイとポップの間をぎくしゃくとさせて冷え込んでしまったが・・それでも、仲間を思う心はそのままのポップと、目の前にいる大人になったポップは同じようで・・グローブなしの魔法の痛みをものともせずに!キルバーンに向けて不敵な笑みすらを浮かべている!!

 

「・・・・生意気な目だね・・・死神としての僕の実力を疑って・・」

「違う・・・」

「・・・・違う?何が?僕が死神だっていうのが間違っているとでもいうのかい?」

「そうだよ。」

「・・・・益々生意気だね~。いいかい、僕は数多の・・」

「手前ぇがどれ程の命を嬲り殺してきたかは俺は知んねぇ・・・それでもな・・・」

 

ポップは左右の炎と氷に手を焼かれ凍らせられる痛みを感じながらも、心が凪いでいるのを感じる。

それよりもたった一つの想いの方が強いから。

 

こいつは、今目の前にいる奴は-死神-なんかでは決してない・・・

俺の・・・俺達にとって死神とは・・・・

 

ー君達のような立派な戦士と戦えて光栄だったんだ。今度は立派なお婿様・王様になっておくれよ。ー

 

俺は・・・・そうか・・・・

 

ポップは怒りながらも自分の中でモヤモヤしていた一つの思いの正体が何であったのかをはたと知った。

 

大戦時には敵対しながらもそれぞれ尊敬しても自分の手で倒したいと思い定めた相手がいた。

ダイにとってそれは大魔王バーンであった。最後のボスだからではなく、魔界を命を懸けて救わんと地上を消そうとしたその想いに、ダイは敬意をもって受けとめ其れでも討つ道を選んだ。

自分にも守りたいものがあり、守り抜くために。

ティファはその想いを魔王ハドラーに向け、ヒュンケルはかつての師であったミストバーンに、クロコダインとマァムはそれよりも仲間全員を守る方を選んだが・・・自分は、癪ではあるがキルバーンだったようだ・・・あいつはティファを狙った変態で疫病神で、それでも天晴な敵であった。

罠を使おうがそんなのはどうでもよかった!敵であるのだから、まして一つの世界の為に闘う戦場において、敵を倒すことを第一としたのだから!!

確かにティファを相手に穢らわしい事を一度言って来たが・・・・あいつには歪んでいてもティファを本気で愛していたのだと・・・そんなキルバーンを倒すために、自分は様々な戦い方を学び、そして勝ちたかった!!ティファの心の一つを掴んだあいつを、いつでも大人の余裕を魅せつけてきたあのいけ好かないキルバーンの背中を必死に追っていたようだ。

あの自分の中で大きな存在になった敵であった、キルバーンを追い越さんとして・・・それに比べればこいつは・・・

 

「衣装がダサい!!!!」

「・・・・はい?」

 

その言葉に、目の前のキルバーンは唖然としたが俺は本気で言ってんだ。

自分達の死神の衣装とは・・・確かに奇抜なデザインであるがあの艶やかな深みのある赤と黒の色遣いは良いとは思っていたが・・・こいつの黒に藤色はダサい!!そして何より

 

「言葉遣いも優雅じゃなくって気障ったらしい!!!」

「・・・・・お前は・・」

「余裕の仮面が剝がれるのも随分と早ぇえんだな・・・よく聞けよチウ!お前が泣く必要なんかねぇ!!

こいつみたいな奴は死神じゃねぇ!!死神なんて上等なもんじゃねぇ!!!

こいつみたいのはな・・・」

 

ポップはメドローアの準備をしながら、思った事を全部ぶちまける事を選んだ。

今までは、他所の世界の事柄に首を突っ込むかどうかを悩んだがもう知るもんか!!

チウが泣いている!!

きっと大切な方のキルバーンを思って泣いてんだ・・・だったら俺が宣言してやる!!

 

ーそうとも、言っておやりよ魔法使い君ー

 

不意に、自分達の死神の声が自分の思いの後押しをしてくれた気がするのは・・きっと気のせいではなんかじゃない。

あいつだったら!こんな奴を、敵であっても人を嬲りものにしてチウを泣かす奴を許すもんか!!

だからこいつは違うんだ!!!

 

  「お前みたいな奴はどぐされ外道って言うんだよ!!分かったか馬鹿が!!!!」

 

 

いつでも目の前の外道に向けてメドローアを撃てるように構えながら、若き炎の魔法使い二代目大魔導士ポップが吠え挙げる。




今宵ここまで・・・・

原作のキルバーン色は、色を検索した結果これではなかろうかと思い藤色としましたが、間違いであればご指摘いただければ幸いで、すぐに直させていただきます。

4のゾロ目で死神の話書くとは凄い偶然があったものですが(苦笑
序盤が長くなってしまいましたが、次で大魔王の前から暇乞いをします。

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