勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

45 / 535
-三人-の初陣の回です。
よろしくお願いします。



初陣

「あそこがうちよ。

三人とも、遠慮しないでね。」

 

ネイル村は思ってたよりも広く、村の奥まったところにマァムさんの家があった。

・・ロカさんが生きてるってどんなどんな状態なんだろう?

会ったら勇者一行の大先輩に、きちんとした挨拶せねば。

気合を入れて家に招き入れて貰ったら、リビングにも入り口から見える台所のも人影はない。

気配は二人分あるし、

「父さん母さんただいま!」

マァムさんも元気に挨拶してる。

いるはず・・「遅えぞマァム!!心配したろうが!!!」わっ!!

すんごい雷親父の声がバリバリと降ってきた!!

「お客さん連れてきたの。

ミーナ助けてくれた人達で泊めてもいいでしょ?」

「何だと・・そいつはぜひ泊ってもらえ!」

・・えっと・・「あのマァムさん、今のは父君ですか?失礼ですがどちらに・・」

「あっいけない・・あのね、父さんまだ体が本調子じゃなくて寝室で過ごすことが多いのよ。

母さんも今父さんの寝室にいるはずよ。

後で父さんとは食卓で会えるわよ。」

成る程、ロカさんともかくレイラさんは大きな声出さないか。

後でか・・いや、すぐに会おう。

 

「失礼とは思いますが、」

「何ティファ。」

「ロカさんに今ご挨拶をしてもよろしいでしょうか?

泊めていただく家主にお礼も兼ねて挨拶をしたいのですが。」

よそ様の家の寝室に入るのはマナー違反だろうけど・・。

「俺もきちんと挨拶したい。」

「俺もだな。」

ダイ兄とポップ兄も礼儀正しくて挨拶したいようだ。

「分かった、こっちよ。」

 

寝室に通されると、痩せた男性がベッドの上に座っていて、傍らにはレイラさんが私達を迎えるために

立っていた。

肺機能が低下しているのか息をするたびに肩が上下をし、姿勢が自力で保てない為か、

枕もとの壁にクッションを当てて座っている。

それでもこちらを見る瞳には力強さがあり、歴戦の兵の風格が自然とにじみ出ている。

この人がだれか知らなくとも、敬意をもって接したくなるほどの人物だ。

「失礼いたします。

突然の事なのに泊めていただきありがとうございます。

私はティファと言います。こちらは兄のダイと、共に旅をしているポップです。」

「初めましてダイです。」

「ポップです。泊めていただいてありがとうございます。」

「堅苦しいのはいいよ、俺はロカ。こっちはかみさんのレイラだ。

ミーナちゃんの事ありがとな。」

「ミーナちゃんを助けてくれてありがとう。レイラと言います。」

 

二人のお礼でまたダイ兄達照れて赤くなってる。可愛いな~。

「お・・ティファって言ったな・・その眼鏡、もしかしてあいつのか?

それにポップ、お前が付けてる紋章あいつの実家の。」

「そうです・・俺達先生の弟子で、この家紋は先生の許可をいただいて

付けさせてもらっています。」

「やっぱそうか!はっは、俺の娘もあいつの弟子なんだぜ。」

「はい、マァムさんから道々お聞きしました。」

「お前さん、なんかあいつに似てんな。あいつは・・どう・・っく!」

 

 

雰囲気と言動がアバンに似ていて、同じような眼鏡をかけている少女にアバンの近況を尋ね様としたロカは急に胸の近くの服を握りしめうずくまる。

「ガ八っ!!ア・・クゥ・・ハァア・・ハァアクゥ!!」

 

咳と共に苦しみ始めた。

 

「あなた!」

「父さん!!」

(不味い!!)

「レイラさん、マァムさん落ち着いてください。マァムさん、洗面器にお湯を入れて来て持ってきてください。

レイラさんは厚めの布団をお願いします。・・ロカさん背中を失礼します。」

ティファはロカの突然の発作に慌てることなくてきぱきと指示を出し、

冷静な声のティファの指示に二人も何の疑問も持たずに動き出す。

 

「ダイ兄リュックからタオル一枚出して、ポップ兄はレイラさんから布団受け取ってきてください。」

 

どうしていいか分からず途方に暮れる兄二人にも仕事を割り振りながらロカの状態を診察をする。

触れている背中にはほとんど肉がついておらず、加減を間違えれば骨が折れてしまいそうなほどだ。

顔色も悪く、唇もかさついていて生気が乏しい。

「ティファ!布団持ってきたぞ。」

「お湯持ってきたわ!」

「ポップ兄布団私が貰うからロカさんをもう少しベッドの足元の方に・・そうそこくらい失礼します。」

 

ポップにロカを少し移動してもらい、布団を丸めて即席のマットレスを作って背に充てて

ほんの少しだけ寝た状態にし、お湯に布を浸して固く絞り、

「少しはだけますね。」

ロカの寝巻の下から布を差し入れて胸に置いて、ロカが蒸気を吸えるようにする。

全員が見守る中、ロカは少しづつ呼吸音が静まり眠ってしまった。

 

 

「ティファさん・・ありがとう。いつもなら、こんなに早くは落ち着かないの。」

「どういたしましてレイラさん。三人とも、ひとまずロカさんは大丈夫ですよ。」

「・・良かった。」

「ナイスだぜティファ。」

「ありがとうティファ。」

お礼言われても・根本的な解決にはならないから少し複雑。

脈を図ってみれば弱くてゆっくりとしている。

この分だと内蔵系統も相当よくない。

・・大戦から十五年・・いまだにこの人は癒えていないのか。

「レイラさん、ロカさんは夜は眠れていますか?」

「いいえ・・時折咳き込んで起きて・・うつらうつらとしか・・。

それでも、定期的に昔の知り合いの方が来てくださって薬を飲んだ後ベホマを掛けてくださって、変わった治療法ではあるけれども薄皮を剥ぐ様によくなってきているのよ。」

 

昔の・・薬とベホマって・・ロカさん生きてるのはおじさんのお陰か!

私ったら何でそこに気が付かなかったんだろう。

万能薬作りの時にはまだロカさんが生きていて、ギリギリ間に合ったんだ・・。

おじさんが熱心にやりたがったのは研究魂はほんの少しで、本当の目的はロカさんを

助ける方だ。

「今の治療に差しさわりのない範囲で、少量の痛み止めと眠れるようにムーラン草(眠り薬)もいかがですか?

一応本職の薬草学を修めた人から教わっていますので安全は保障します。」

「何から何までありがとうね。」

「いえいえ泊めてもらうのでこちらはほんのすこしのお礼ですよ。」

笑って言ったら、

「ふふ」

「どうかしましたかレイラさん。」

「いいえ、ロカの言う通り貴方がアバン様に似てるから。」

「そうでしょ母さん。」・・二人とも照れます。

 

泊めてもらうお礼第二弾は夕食作り、一行の料理人の出番だ!

無論レイラさん達は固辞しかけたけれども、スマイルで押し通して台所をお借りした。

食材は島から持ってきたのと、上陸したロモスの浜辺で売られていた干し魚と根菜類が残っていたのを使って調理した。

パンに栄養一杯の海鮮スープの出来上がり。

少し前にロカさんが咳と共に起きたので、スープだけ飲むことになって食卓はみんな集合で来た。

口にあってくれればいいけど。

 

「これ美味いな・・なんか体にすっと浸み込んでくみてえだ・・。」

ゆっくりとロカさんが飲んでくれてる。

ロカさんのだけ長めに食材を煮込んで柔らかくして、干し魚は入れないで御出汁にして出した。

パンもスープにしてゆっくりと食べてる。

 

「三人とも、何で魔の森になんていたの?」

「うん・・本当はロモスの王城に行こうとしたんだけどけど」

「迷子になっちまってよ。」

「そう、私が送っていってもいいけどアバン先生はどうしたの?」

・・やっぱりこの質問来たか。

平和な世ならいざ知らず、この大戦時に子供三人の旅なんてあのアバン先生が許可するはずないもんね。

兄達思い出して落ち込んだ。

「あのね・・」

「あのな・・」

「先生は魔王に襲撃されて、戦闘後に魔王を追っていってしまいました。」

ロカさんの体調を考慮してそういう事にしておこう。

 

「・・あいつ一人でかよ・・昔と変わんねな。

という事は三人はあいつに無断で一行見習いとして旅してんのか。」

ロカさんが話している間に兄達の足をつついて話し合わせてねを頼んだ。

「そうすっと・・お前達は勇者一行の見習いか。」

「はい。」

「そうです。」

「まだまだですが。」

「あいつの事を見つけて助けてやってくれよ。

俺じゃあもう力になってやれねえからよ。」

ロカさんの言葉には様々な重みがあって場が沈んでしまった。

「っと・・ダイが・・勇者見習いか?」

沈んでしまった気配を感じたロカさんが明るく話しかけてくれた。

「はい!いつか先生のような凄い勇者になります!!」

「そうか・・ポップは魔法使いか。」

「そうです。」

「ティファは・・薬草に詳しいから僧侶か?」

「違います。」

「違ったか、レイラがお前さんは薬草に詳しいって言ってたから・・素手のようだし武闘家か?」

「それも違います。」

「・・んじゃあ分からねえな~。」

「勇者一行の料理人です。まだ見習いですが。」

「・・はあ⁉」

「ほらティファ、呆れられたぞ。」・・うっさいぞポップ兄は。

「料理人て必要かよ・・」

「必要です!いいですか・・」

ポップ兄にした説明をロカさんにもして、薬草に詳しいのはその為だとも話した。

「・・なんか変わったところもアバンに似てやがるな・・」

ロカさんは感心したのか呆れたのか微妙な顔してる。

 

 

私の調合薬を飲んでからロカさんは寝室に入り、少しして様子を見に行くと深く眠っていた。

脈を図ると特に変わりはなく、呼吸音も異常なしだ。

「ありがとうティファ、父さんがこんなにぐっすり眠っているの初めて見た。」

「いえいえマァムさん、まだ様子を見ないと。固形物は柔らかくして一口サイズでお出しして、肉や魚の栄養はスープでお出ししても摂れます。

眠れるようになれば内臓系の回復も向上されると思いますので薬のレシピを後程どうぞ。」

「ティファは本当に料理人を目指すの?」

「はい、まだ見習いです。」

「今でも十分凄いと思うけどね。」

「ダイの言う通りだぜティファ。」

「・・ダイ兄、ポップ兄、そう言うの身びいきって言うんだよ?」

嬉しい事を兄二人が言ってくれる。

楽しいひと時だけれど、

 

            -グオオオオオオ!!!-

 

 

凄まじい方向が戦いへの時間へとかえてしまう。。

来たか、獣王クロコダイン!!

距離は離れているだろうに強さを感じる咆哮だ。

「マァム!!」

片づけをしていたレイラさんも強さが分かって青い顔してる・・。

「何が・・やっぱりモンスターが・・。」

「そんな!!だって・・森で暮らしてるモンスタ―達は狂暴化しなかった・・。」

「魔王軍ですね。」

「・・ティファ?」

「マァムさん、大戦初日で城の方は襲われませんでしたか?」

「村長さんのところには、非常時用の伝書バトが届くの。

大戦当日襲われたけれども、何とか撃退したって・・」

「また主力を整えて襲ってきたのかもしれません。

・・もしかしたら隊長格かそれに近いもの自らが。」

 

 

「隊長格⁉」

「じゃあこっちに来たら不味いじゃないか!

早く行かないと!ポップ兄、私達も。」

兄が一人で突っ込んでいくのに頭を痛めつつ、ティファも追うようにもう一人の兄を急かしたが、ポップは真剣な瞳でティファを見る

 

「お前はここに残れティファ!」

 

「どうして!!」

ティファとしては早くダイに追いつきたいのに止められて焦りをにじませる。

如何に兄が紋章を発動させられるようになってもまだ土壇場で不安定な力でしかない。

一対一でクロコダインと戦えば敗れるのは必至だ!

駆けだそうとするティファの肩にポップは手をかけて再び止めて自分の方に向けた。

「お前が言ったじゃないか。料理人は敵を倒した俺達に美味いもんを腹いっぱい食べさせてくれるって。」

「それは・・」

島でまだアバンが居た時、料理人の仕事内容を話した時に言った事。

一行の者が戦い終わった後、傷ついた体を薬草で治して美味しいものを食べさせるのが料理人の仕事だと。

何時でもどこでも・・どんな状況下であっても料理を出すと・・。

 

「だから・・美味いもん作って待っててくれよ。

必ずダイと一緒に帰ってくるからさ。」

ポップは怖い思いを必死に押し隠して妹に残るように言う。

・・本当は力強く笑ってティファを安心させてやりたいが・・手の震えが止まらない・・。

情けない、それでも妹分は守りたい。

「・・分かった・・」

「ティファ・・」

「飛び切り美味しいもん作って待ってるよ。」

にこりと、優しい笑顔を浮かべて信じて待ってくれると・・。

「おう!任しとけ!!」

「私は行くわよ!!」

「「マァム・さん!!」」

「大丈夫!

私も先生のハードスペシャル合格貰ってる。

毎日鍛錬さぼってないし、特典ももらってるの。

足手まといにはならないわ!!」

「・・分かった、行こう!」

 

 

・・皆・・行ってしまった・・。

「レイラさんは止めないで良かったのですか?」

マァムさんの力は分かっている・・けれども、母親としては止めたかったろうに。

「あの子は、ロカと私の子です。ですから止めません・・いいえ・・止められません。」

レイラさん・・悲しげな顔をして・・。

かつて戦った自分達の娘に、戦うなと言えないと・・。

それでも、止めたいともう私は甘いのだろうか?

「・・レイラさん」

「はい。」

「皆が帰ってきた時すぐに食べられるようにして待ちましょう。」

「ええ、そうしましょう。」

これから夜明けまで勝負が続くのか・・長い夜の始まりだ。

           -グオオオオオオ!!!-

皆無事に帰ってきて。




ロカさんは生きていますが、完全には癒えていません。
万能薬は後遺症になる大怪我を早期治療を想定して作られましたが、
後遺症や病にはにはいまいち効きづらい設定です。
ロカさんと似たような設定の人がこの後出る予定です。

クロコダインは声のみの出番となりました。
次回は魔王軍の御前会議の様子と、ダイ達との戦闘になります。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。