大広間は勇者ダイの新たな決意を聞いて一同歓声を上げた。
大魔王に負ける前からたった十二歳の身で世界を救う勇者という重責をかけられながらも、大人達の助けがほぼない中での子供が多い一行だけで戦い抜いていた。
其れのみならず、敵だけではなく世界が・・・人間の悲しい部分が幼いダイに牙を剝いてしまっていた・・・そして柔らかで純粋な彼の心は目に見えない傷を負い・・・やがて彼の守りたいと願った想いを曇らせ折ってしまった・・・
その手折られた心の復活に兆しに立ち会えた者達はそれを名誉であると受け取った。
これからは共に手を携え世界を救う最後の戦いを共にするという言葉に、幼い勇者ははにかむように笑うのがまたいじらしく・・・少年ポップもマァムもヒュンケルもクロコダインもダイの久方ぶりの心からの笑顔を涙を流しながら喜んだ。
近頃は勇者は明るくあらねばならないとばかりに、戦場であっても力強く笑う事はあったがどこか気もそぞろでいたのを知っていても、どうにもしてあげられなかった。
懸念であるバランも・・・辛うじてではあるが受け入れられたのだからダイの心はきっと完全に回復するだろうと一行全員が安心した時、師のアバンの言葉が大広間に投げられた。
「お静かに!!」
その声は硬さを含み、普段飄々としている師からの声とはとても思えないが、何か重大な事を告げる時の声だと思い出したダイ・ポップ・マァム・ヒュンケルは直ぐに口を閉ざして師のいる方を見れば、真剣な表情をしたアバンの姿があった。
他の者達も何事かと口を閉ざし、大広間が静まり返ったのを確認したアバンはバランの事で追加の話があると告げた・・・・まさか勇者としての立場としては、矢張り何らかの罰則があってしかるべきと、フローラ女王に進言するのだろうかとポップ達は固唾をのんだがそうではなかった。
「ダイの父君がかつて魔王軍の中枢にいた事は消しようもない事実です。
しかしその罪を今後追求しないと事をここにおられるカール女王フローラ様が確約を去れ、そして我々はそれに賛同をしました。」
その言葉の内容に、誰もが力強くうなずく。ヒュンケルとクロコダインとて元魔王軍であり、ヒュンケルはパプニカを一度滅ぼしてしまったが同じくこの場にいるレオナ姫によって、生きて償う道を行く事を許されたのだから、バランもまたその道を行く事を誰もが望んで賛同をしたのだから。
一同の顔に浮かんでいる表情に、アバンは一度頷き続きを話す。
「異界から来た方達の情報によれば、魔王軍には軍にとって不要となった者を始末する死神・キルバーンというものがいるそうです。」
不要者を狩る死神・・・そのような冷酷なる者がいる情報に、地上界の軍部で生きてきた者達は怖気が奔った!
味方が戦えなくなったのであればすぐさま助け出し、退役をしようとも友誼を捨てずというのがここ数百年の地上のどこの国の騎士団・兵団であろうとも不問律とまで言われている常識であるのを、魔王軍はそれを許さず狩るという・・・・何と無慈悲な事かと、大広間にいる彼等は憤りを見せる。
「アバン!その死神とやらの特徴は何だ!!」
「そのような者を!勇者殿の身内に近寄らせてなるものか!!」
「み・・・みんな・・」
弱りしバランは自分達で守ると声を上げてくれる兵士達に、ダイは胸の中が温かくなるのを覚える・・・・・さっき言った時よりも、自分はここにいる人達に死んでほしくない。
親父もポップもマァムもヒュンケルもクロコダインも・・・・・そして自分は・・あの島で助けて以来自分の心の中に住み始めたお転婆だけれども優しい女の子を・・・守りたいと願った時・・・・アバンの印が白く柔らかい光を放った。
それは純粋な願いに、輝聖石が応えた光、ダイの心の闇が駆逐された瞬間であった。
その光は柔らかくて暖かく・・・しかし少し弱く頼りない・・・まるで今のダイのようなその光を、守りたいと大人達が胸の中で誓った時、アバンの声が響く。
「死神キルバーンは策謀を好み、謀略を好み、その性は残虐非道であると異界のポップよりの情報です。
そのような者であれば我々のこの結束を乱すために、ダイの父親を使ってくることは明白。
おそらくはバランが魔王軍の中枢にいた時、パプニカやロモス以外の王国を滅ぼしたないし蹂躙しよとしたという話を、あたかも真実の如く我々に様々の方法で話しかけてくると推察をします。」
それは鏡通信や、死神自身が現れ暴露するように話すかもしれない、方法は分からないがバランを使った仲間割れを引き起こす可能性が非常に高い事を懸念しているというアバンの言葉に元同僚のカール騎士・兵士達は頷き、謀略を信じるものかといった言葉を皮切りに、大広間の者達は死神キルバーンを姿を見たら真っ先に倒すべき敵だと共通認識をした。
この世界においても・・・・死神とはそうなる運命であるのだろうか・・・
大広間が熱狂する中、青年ポップは先程のような熱意が冷め疑問が発生をした。
何故アバンさんはあのような事を言ったのだろうか?
バランの罪は真実ではあるが、其の事をティファが胸に内に仕舞っておいて欲しいと、先程言外にてフローラ女王に願い受諾を去れ・・・険悪ムードになったというのに・・・罪事態が全く感じられず・・・・その様な事は敵からの謀略であると植え付けて・・・
違和感が溢れる中・・・一つの天啓の如き声がぼそりと耳を打った!
・・・・茶番か・・・
大広間の熱狂が冷めやらぬ中、ティファは自分はやる事があると自身を冷たい目で見ているフローラ女王に声をかけて退出し、そしてそのフローラとアバンもまた、この度の顛末と勇者一行の保護と今後の事を各国の王達に知らせる親書をしたためる為に席を外すが、他の者達は暫し自由に過ごしてほしいと、同じタイミングで反対の扉から出て行ったティファとアバン達・・・・青年ポップはちらりとダイ達を見れば、ダイの笑顔が先程よりも明るく、そして白かった頬に赤みがさしているのを見て確信した。
こいつはもう大丈夫だ。
ならばする事は一つ・・・・ティファが大広間を出て行った時・・・それは大戦時王達の前で自分と竜騎衆と父バランとの因縁を全て話した後の悲しみに暮れた心を抱えて逃げる様にふらついた足取りで出て行った・・・そしてアバン達の方はアバンは兎も角・・フローラもまた何かを抱えているような感じがした・・・追うのであれば・・・
「・・・・・アバン・・・あれは本当に必要な事だったのか・・私には今も確信が持てません。」
「フローラ様・・・」
「そもあの異界の-方達-は始めから私達に友好的で・・・ティファさんには申し訳ない事をしてしまったのでは・・・」
「あの異界の娘は確かに優しい。しかしそれこそがこの世界にとって困る事・・・・」
暗い声で話すフローラを宥める様にそして諭すようにアバンが話している時扉は叩かれた。
他国の王達に新書を出す為に退出したのに尋ねられてきた。
何か緊急な事が起こったかと訝しみながらアバンが出てみれば、扉を開けた先にいたのは、怒気に満ちた表情を浮かべた異界のポップであった。
何事かをアバンが問う前に、ポップが先に口を開く。
「・・・・この城の各部屋の扉は薄いんすね・・・」
その一言で、自分達がー仕組んだ事ーを知られたのだとアバンは察した。
それならばポップのこの表情に説明がつく。
しかしこれは
「おやおや、盗み聞きとは問題ありますよ?」
「・・・・ノックをしようとしたら・・・耳に入って来た内容に驚いてし損ねたんでね!」
ダン!!!!
「アバン!!・・・ポップさん・・・」
「あんた・・・・ティファをまた利用したな!!おかしいと思ったんだ!!大戦時のあいつは敵もそして俺達を守る為に味方相手でもあの手の交渉術の話し方をしていたがな!!世界が平和になってからはあいつはあんな酷いはなしかたをした事は一度として無かったんだ!!
敵に贈る手紙一つであそこまで嫌がっていたあいつが・・・いきなりぺらぺらと交渉をしたと思ったら・・・あんたの仕業かアバン!!!」
他界において、師のアバンはポップにとっては憧れで、自分が彼の年齢になってもあそこまで素晴らしい大人になる自信はねぇなと、ダイ達とよく話す程にポップの中のアバンは偉大な師である。
そのアバンの名を、ポップは他界ではあるとはいえ呼び捨てにするほど激高をした。
それもアバンの襟首を両手でつかみ、扉脇の壁に打ち付ける程に。
その激高したポップにされるがままになっているアバンの顔は、小憎らしいほど落ち着いておりポップの怒りにさらに油を注ぐのを、立ち上がり二人の側に寄ったフローラはまず扉を閉めそして、ポップに向かって頭を下げた。
「貴方の大切な方を、こちらの事情で巻き込みあまつさえ利用したことを正式にお詫びします。」
そのフローラの言葉にポップは自分の確信が当たってしまった事に失望を覚える。
先程大広間の熱狂を冷めた声が聞こえた。
それはこの世界のマトリフが、誰に言うともなく言った言葉・・茶番か・・・
その言葉の意味を考えた時、ポップは自分が感じていた違和感の正体が分かった・・分かってしまった・・・
「・・・・いつあんた達はティファに、大広間でのあの対峙の芝居を持ち掛けた?
あいつになんって言って承諾させたんだよ!!!」
「・・・・落ち着いてください、其れでは話せませんよ-他界のポップ-」
その声に、ポップはある考えにいたった。
「あんた・・・俺達の事嫌いか?」
その問いをしながら自分から離れるポップを、アバンは無表情で平板な声を以って答える。
「いいえ、嫌いではなく線引きをしてほしいのです。」
「線引き?」
「はい、先程あのティファという少女が言いましたでしょう。-自分達は迎えが来る-と言っていた。
あれが全てです。」
「それは・・・俺達はここにはいられないだろう?迎えが来た方がいいだろう・・・その間だけでも、ダイ達を助ける事が嫌なのか?」
師という立場を追われかけたから、ティファに自分達の世界の女王に冷たい言葉を投げかける冷淡な人物だと演出をさせたのかというポップの考えは即座に否定をされた。
そんな事よりももっと深刻な事が起こりかけていたのだと鋭い言葉を以って
「気が付いていませんでしたか?ダイとポップは貴方に、そしてマァムとヒュンケルとクロコダインさんはティファと大ネズミモンスターのチウという子に依存をしかけていたのを、貴方方は気がついてはいなかったでしょう?」
「依存って!!・・・・弱って殺されかけたのを・・・俺達が助けたから心強く思っただけだろ?」
ポップは完全に、目の前のアバンに敬語を使う事をやめた。己の大切な妹を、一度ならずも二度も利用したのだ・・・許せる事ではない。
かつて様々な者達からその知識を力を優しさを見込まれて様々な事を願われ利用された妹を、二度と誰にもティファを利用させるかという自分だけではなく、あの世界のティファを大切に思う者達の願いを、この世界の神からして踏みにじり、大勇者であるはずのこの男もまた利用したのだから。
そんなポップの想いを、アバンは見透かしたようにポップの質問に答える。
「ティファという少女は計り知れないほどの影響力を周囲に与える方だと見受けました。
世界が違うとは言えども、師にあたる私が彼女を利用した、其の一点のみで今貴方は私に牙を剝くように、ダイ達もまた貴方と彼女に依存しかけていると私はみたてました・・貴方達がいざ異界に帰るとなった時、おそらく他の者達はいざ知らず、ダイの心はまた死んでしまうかもしれない程に・・」
そしてアバンは抱いた危惧を如何にかするべく、その-ついで-に大戦後の世界を少しでも良くするべくティファを利用したことをあっさりとポップに話した。
この大戦が負けるかもしれないが、もしも勝った時、その時ダイの居場所を守るべく。
ダイは己の不甲斐なさで幼い身で重責を負わせてしまった。確かに彼の中に眠っていた力は途轍もなく、それが伝説の竜の騎士の息子であったのであれば納得がいく。
しかし心は、力の様に強くはなかったのを見抜いてあげられなかった・・・結果彼は人の世の弱さと醜さに触れ、遂には壊れかけた。
そのダイの心の拠り所となったのが一度は殺し合いをしたとは言えども、そこは親子の絆であろうか父・バランであった。
数ヶ月生死を共にしたポップ達ではなく、父バランであった。
そのバランが死んだ時、ダイの心もまた死にかけた時に奇跡の様に現れたティファ達に、ダイの心が傾いたのもまた頷ける。
しかし、三人はいつかは帰る身、それが明日なのか十年後なのか・・・あるいは数分後なのかは分からない。
長い時間の後であれば、ダイにとっては良い事である。頼もしいポップとティファに助けられ、もしかしたらその力を十全に引き出し大魔王達を討つ可能性が高まるから。
しかし現実はそううまくいくかという保証はどこにもない。
「貴方達が確実にいてくれる今この時に、ダイと周りの絆を今一度結びなおすことが急務だったのです。」
もしもダイがポップにべったりと依存している数分後に、現れた時と同じく突如消えてしまったら・・・
「きっとダイの心は今度こそ壊れてしまう。」
その様な事になれば、ダイの復活を待ってなどいられない程今の状況は差し迫っている。
その状況を生み出さない為にも、アバンは一芝居を討つことをフローラに提言をし、そしてティファを大広間に行く前に呼び出し、今ポップにしている説明をティファにもして、そして了承をティファはしたのだ。
フローラとしても、ある程度はバランの事は譲歩するつもりであった。
自国を攻め滅ぼされたとはいえ、このような状況で罪を談じている暇など最初からなく、魔王軍を倒す戦力を手に入れる為ならば、清濁併せ吞む覚悟を、アバンからの報告時のあの時にしていた。
もしもバランの罪が知られたとしても、カール騎士達ならば分かってくれると、-自国の民達を信頼する-道を選んだのを、アバンがそれでは不足であると提言がなされた。
それは一同が集まった大広間にてティファがバランを擁護し、フローラがその罪を追求し、それでも罪を許さないまでも、もう彼の者の罪を追求しなくてもよいのではないかという落としどころに持っていく為の芝居を、ティファとフローラがうったのだ。
元来戦場において生死を身近に生きてきた騎士・兵士であれば、善悪を問わずに己の子を命を懸けて守り命を落とした者を悪し様に言う者は少なく、そして、死んだ時の苦痛を知らされれば、それを以って罪を贖った事にしても良いのではないかという言葉が出る事をアバンは計算し尽くした。
最初にダイ達のこれまでの苦難の現状を大広間にいる全員に知らしめ、そして情に訴えたさせた。
そしてダイ達に対しても、自分達はやがてこの世界からいなくなることをはっきりと明確に告げさせた。
心が疲れ切ったとはいえ、ダイの根本は純粋な優しさが彼を形作っている。
何の義務も義理も、まして縁も所縁も無いこの世界の助けをしたのは、偏に自分達の為だと告げられれば、おそらくダイは無関係な人を巻き込むのを良しとせず、ティファと自分達が作り出した暖かい空気に触れる事で、-ポップの腕の中-から出る見込みは高かった。
そしてそれは成功した。
大広間は勇者の復活と、結ばれた新たな絆の誕生を寿ぎ、そしてバランの罪は永久に闇の中に葬られ、ダイもまた戦う意義を見出すことが出来たのだから。
フローラが芝居とは言えども、ティファを憎らしく思ったのはここにある。
彼女は信じる道を行こうとした、それは自国の民は無理であっても、少なくともここにいる兵士達は世界の為に、そして自分達の代わりに闘ってくれた幼い勇者に報いるべく、バランを許さずともティファの言う通り放っておいてくれると信じた。
しかし・・・その道はティファによって閉ざされた。
考えようによっては、民達に真実を話さない事で恨むべきは魔王軍であり、その魔王軍は勇者に撃たれたのだからと恨む相手がいなくなり、仇をと考えずに明日に向かって生きていく道がしっかりと出来たと思う事も出来よう。
しかしそれは真実を完全に捻じ曲げ自国の者を、命を賭けて戦う彼等を欺き、そして彼等を完全に信じるという民を慈しむことを第一として来たフローラの誇りは踏みにじられた。大戦の最中で勇者達の戦力が手に入るか問ういう時に、何を言っているのだと言われかもしれないが、フローラの傷だらけの心に新たな傷がついたのもまた事実であった。
そしてバランの罪を飲み込む事は容易ではなかった・・・自分の為に死んでいった者達の事を、自分は終生忘れまい、きっと何度も夢に見よう・・・・それでも、カール女王として世界と国の為にバランを受け入れる事を確定した矢先に残酷提言を・・・愛した男からされた・・・
自分が恨むべきはティファではないと知っても・・・それでもその案に悩むことなく乗ったティファを、矢張り許しがたく思うのは弱さであろうかとフローラは重い心を引きずって大広間を出たのだが・・・・・それでも・・・
「ポップさん、ティファさんを利用した罪は私にもあります。
為政者として、この世界を守る為にも、この砦にいる戦える全ての者達の絆を深め、そして-敵からの謀略-を跳ね返すためにも、あれは必要な事だと私も・・・そしてティファさんも認めたのです・・・」
辛そうにしながらも、それでもフローラは顔を俯かせる事なくポップに言い切る。
誰を欺こうとも、この世界を守ることが第一なのだからと
今宵ここまで・・・・・
つ・・・疲れました!!!黒幕・フィクサーとかを明確に書くのはこれが初めてで・・うまく書けたか心配です・・・
フローラ様がおっしゃったように、-誰をも欺こうとも-の中に読者の皆様も入れさせていただいたのですが・・・はてさて・・・
前回あとがきで書いたフローラ様に残酷な仕打ちをしたと書いたのは、為政者として自国の民達が真実を知ってもそれでもと、信じようとした信念をアバンと主人公によって閉ざされた事でしたが・・・上手く書き切れているか凄い不安ではあります。
しかし原作準拠世界線の【小石の世界】を、主人公達が去った後も少しでも良い世界が残せる仕様にしました。
この世界のアバンは、自分達の世界の者ではない主人公たちに対して冷淡に映るかもしれませんが、帰ることが前提の彼等に依存する事の危険性を誰よりも認識をして行動を起こし、やがては置いて行かれる弟子達の心を守ろうと奮戦慕います。
次回で料理人の真価の話は決着をします(・・・・上手く書けるといいな・・