side勇者とお姫様
逃げ延びた先の廃城で、まさかこんなに心穏やかに過ごせるものだとはレオナ姫は考えたことが無かった。
彼女の半生と言うべき十五年の月日は物心ついた時から前途多難で容易な事を一度として無かったから。
物心つけば、パプニカ唯一の跡取りとして取り入ろうとする者、己を傀儡にしようとする者、邪魔だからと自分を殺そうと虎視眈々と狙ってくる親族・・・そして十四歳の時には決定的な事が起きた。
賢者になるべくパプニカ王家に代々伝わる秘事を受ける為に訪れたデルムリン島にて命を落としかけた。
それは島に住まうモンスター達に殺されかけたのではない・・・それなりに信じていた神官テムジンと其の子飼いのバロンに殺されかけたのだ・・・毒サソリの猛毒に侵され意識が朦朧とする中自分を守ってくれた己よりも小さい男の子を頼もしく思った反面、人間を信じる事を辞めようと諦めかけた。
信じれば裏切られた時の痛みは、毒よりも痛くて怖ろしくて、最初から信じていなければ失望も裏切られた痛みも感じなくて済むのだから。
それでも、助けてくれた少年ダイの真っ直ぐな心に触れて、もう少しだけ信じようと・・それは大戦が始まりアンデットの軍団とその長によって城を国を蹂躙され父の行方が分からなくなり三賢者達と少しの兵士達と落ち延びようとも、ダイの事を思い出せばまだもう少しだけ頑張れると耐え抜けたほどに、あの小さな少年勇者の存在は自分の心の中で大きくなっていた。
だから・・・・怖かった・・・強いのは知っていた。そうでなければ子供三人で魔王軍の軍団長を二人撃破しロモスとパプニカを解放し、その時の軍団長達が彼等の心に打たれて改心して味方になってくれたとは言えあの化け物・・・フレイザードをも打ち破った実績の説明がつかない。
しかしそれでも怖かった・・・・ダイの力に怯えたのではない・・・彼の態度が・・力を振っている時のダイの態度が一変した時・・・裏切られたあの時を思い起こさせたから。
島につくまで船の中で賢者になる心構えを優しく教えてくれたテムジン、何くれとなく面倒を見てくれたバロンは、一皮むけば裏切り者であった・・・・人には本性と言うものがあるとその時思い知らされた。
目に見える事が全てではない・・・一皮むけば・・・ダイとても自分に何かを隠しているのだという疑念が・・・分からないと思った瞬間駄目だった。
分からない事が怖いと怯えてしまった・・・・
「・・・・情けないな・・・」
あの時の事を考えるたびに、レオナは己を殺したくなる衝動が湧きおこる。
怯えてしまったのは一瞬で、しかしそれはダイに小石を投げたた女の子を止めることが出来たはずなのに体は動かず、小石が当たってしまったダイを慰めるどころか、自分も同じように怯えた顔を向けてしまったあの時に戻りたいと何度思ったか知れない。
止めることが出来なかったのならば、そのあとすぐにダイに駆け寄り傷を手当てしながら慰める事をしていれば、少なくとも今の様に心の淀みを抱える事無く、バルジ島で助けられ再開したあの時の様に屈託なくダイと共に笑い合い苦しみを分かち合い、困難にも共に立ち向かうと素直に言えているのを・・・・逃げる様に城の最上階に出て月を見ながら思い悩まずに済んでいただろうに・・・
「どうしましたかレオナ姫様。」
思い悩むレオナ姫に、無遠慮に声をかけてきた者がいた。
それは自分達に聞き馴染みがない・・・
「先程は頼みごとを聞いてくださりありがとうございました。姫様達のお陰で素早く城内の皆様のお食事が整えることが出来ました。」
「・・・・私がしなくても、あの-式-とやらに任せても良かったのでは?」
無遠慮に来たものに、レオナはチクリと嫌味を言うが言われた者は堪えた様子は一向になく、からりと笑っている。
「お手伝いをお願いするとき言いましたでしょう。疲れている男達にとって可愛いお嬢さんたちからご飯を貰った方が士気が上がると。
私の式には可愛い女の子は生憎いないのですよ。言った通りマァムさんとメルルさんと姫様にスープをよそって貰った騎士・兵士達はノヴァ君によそって貰った時よりも鼻の下伸びていたでしょう~。」
「・・・・確かにそうかもしれないけれども・・・」
「良ければここでお茶を飲みませんか?月下のお茶会というのも偶にはいいでしょう。」
「貴女は・・・・緊張とか物怖じをするという事からは無縁なのですね-ティファ-。」
レオナの少し失礼な物言いにも静かに笑うティファは、式でテーブルと二脚の椅子を用意して構わずにお茶の支度に取り掛かる。
下から持ってきた茶器とポット、そして少しばかりの甘味と・・・・この少女は本当に一体何なのだろうと思いながらも、月明かりの下であるせいかこの状況がどこか非現実的で実はこれは夢の中なのだろうかと思う程に穏やかすぎて・・・其の事が初対面どころか正体も知らない異界の者の誘いに、レオナは素直に応じて椅子に腰を掛けてしまっていた。
先程の様に・・・
大広間でティファという少女が放った言葉に憤る者はいなかった。
彼女達がこの世界の神にされた仕打ちを思えばもっともだと誰もが納得をした・・・したのだが・・・
「・・・・貴女は我等と道を異すと言いませんでしたか?」
頭痛を堪える様にティファという少女に物申したバウスン将軍はきっと悪くない。
何故ならば大広間を出て行った少女が戻って来た時、手にもっていのは寸胴鍋で・・これから城内に向けて炊き出しをするから手伝って欲しいと言われればなんだそれはにしかならないのが普通だろう。
しかしティファという少女は大真面目な顔で頼んできたのだ。
「私は非力とは申しませんが百人近くいるあなた方の分のスープ作ったのですが一人で持ち運びして配るのは大変なのです。
それに飲んでいただかなければ腐ってしまってこれまた大変もったいない事になってしまうので飲んでください、お願いします。」
・・・・確かに今は蒸し暑い日が続く夏場で腐るのは当然だが・・・
「貴女は僕達を助けないと言ったではありませんか!それなのにやっている事と言っている事がバラバラで矛盾している!!」
少年の潔癖で言動が一致しない事を嫌うノヴァがティファに嚙みついたが一笑に付されて鼻で笑い飛ばされた。
「先程私はこう言ったのですよ?この世界の地上側の味方につこうと考えたのは偏にダイ君達の事があるからと。そして私はダイ君達に美味しい物を食べて欲しいと思いました。ただ食べ物を食べるだけではなく、温かいものを美味しく食べて英気を養って欲しいのです。古来よりお腹がすいては戦は出来ません、そしてそれは貴方達にも通じるのですよ?台所見てきたら-そこそこの食糧-があれども料理人の私から見たら不足もいい所です!たとえダイ君達が私の食事で英気を養えてもお味方の貴方達が駄目になるという状況は料理人の私にとっては赦せません!!きちんとした食事を提供するのできちんと英気養って魔王軍をぶっ潰しておやりなさい!!!」
・・・・・・・滅茶苦茶な論理に・・・・生真面目なノヴァは口をパクパクとして反論不能となり、一般感覚の大人達は唖然として、世間の酸いも甘いも嚙み分け裏の裏も見てきた筈の大魔導士マトリフと魔界の名工ロン・ベルクだけが、其の滅茶苦茶な論理に大爆笑した。
特に魔王軍をぶっ潰しておやりなさいが気に入ったようで爆笑している二人を他所に、ダイはお姉ちゃんの手伝いすると張り切り、ポップは料理のお礼は何をすればいいのだと聞いてみればその内容も飛んでも無かった。
「私の大切なチウ君傷つけてくれた服装言動悪趣味野郎と、大馬鹿大魔王もどきをぶっ倒してくれればそれでいいです。」
・・・・キルバーンとバーンをぶっ倒してほしいとにっこりと良い笑顔で言い切る少女に、唖然呆然とした大半はきっと悪くない、爆笑している問題ありそうな大人二人がおかしいのだとレオナが頭を痛めていると、其の不可思議な少女は自分の下にやって来た。
「すみませんがマァムさんとメルルさんとそしてレオナ姫はこれをつけてお願いします。」
・・・・渡されたそれは・・・・フリルのついたピンクの可愛いエプロン!
「あのね・・・手伝うのはいいけれどもなんでこれを付けるの?」
可愛いエプロンをつける理由が不明だ・・・不明なはずなのに・・・
すぅ・・
「男性陣の皆様!!このエプロン可愛くないですか?この可愛いエプロンを身に着けた彼女達をどう思いますか!!!!」
・・・・・・は?え?
「・・・可憐かと・・」
「いいかと・・」
「・・・癒されます・・・」
はい!!???
「・・・・・見たいかも・・」
ポップまでもがぼそりと言いてきた・・・これを着たら・・・喜んでくれるだろうかダイ君は・・・
そう思って身に着けてみれば、大広間の男性陣たちは良いもの見たような目を向けてきてマァム達は心の中で溜息をついた・・ポップとヒュンケルとノヴァまでもがマジマジと見てきた時には驚いた・・・男って・・・
そしてワイワイと賑やかな食事に、レオナはこんなにおいしくご飯を食べたのはいつ以来だろうかと思う程においしかった。
近頃は何を食べても砂を嚙むようで、負け戦の後とは思えない程ダイ達の表情は明るくて近頃のダイには見られなかった本物の力強さを感じて・・・複雑になって逃げる様にご飯を食べ終えてここに来たのに追って来たティファの淹れてくれたお茶は美味しくて・・・
何が心を悩ませているのですかというひっそりとしたような声に釣られるように・・・しまい込んで一生表に出さない筈の感情を訥々と話しているのをティファは静かに聞いてくれている。
何かを言ってくれるでもないが、自分が抱いてしまった心の弱さを非難するでもなく、表情を変えるでもなく静かな笑みを浮かべてただ優しく聞いてくれるだけで・・・ただそれだけでレオナは己の心を曝け出していた。
王族達にとって他者とは身内出ない限り信用する者ではなく、時に身内こそが敵の時が多々あって、己の本心を曝け出す事の危険性をずっと教えられてきたのに・・・どうして目の前の少女に何もかもを打ち明けてしまうのか・・・いけない事なのに、王女としてずっと生きてきたのに、目の前の少女は自分を姫様と呼びながら、ずっと一人の女の子として扱ってくれていたからだろうか・・・
全てを話し終えた時、ティファはそろりと言葉を発した。まるで吐息の様な呟きよりも小さな声は、するりとレオナの心に入り込んだ。
貴女はどうしたいですかレオナ
姫と言う敬称をつけずに、沁み入るその声に
「・・・・分からないの・・・・ダイ君を好きだって言いながら・・・ダイ君を信じ切れずに傷つけた私が・・・・ダイ君の側にいていいはずがないもの!!」
己を許せないとレオナは激高する・・・・それでも・・・
「側にいたいの・・・・ダイ君の温かい心に触れたいの・・・・でもそんなの身勝手よ!」
「何故?」
「だって私はダイ君を傷つけた身勝手な人間の一人なよ!!??貴女達が言ったでしょう!教えてくれたでしょう!!ベンガーナのあの出来事がダイ君を傷つけて追い詰めて・・私も傷つけたうちの一人なのよ・・・許されるはずないじゃない・・・」
自身も傷つき泣いている少女がここにいる・・・・でも、この女の子を助けるのは自分の役目ではない。
傷ついたお姫様を助けるのはいつだって・・
「どう思いますかダイ君?」
勇者か王子様だと相場は決まっている。
どう思いますかダイ君という言葉に、レオナは愕然とした。
だってここにはティファしかいないとばかりに思っていたのに・・・いつの間にか椅子に座り込んで泣いていた自分の手の上に、見覚えのある手が重なっていて・・・
「・・・・レオナ・・・レオナは俺が嫌い?」
「ダイ・・・君?」
「俺の力は怖い?人間じゃない俺は怖い?」
「わ・・・わたしは・・」
「俺の中には竜の力がある・・・・人間の体なのに魔族の強さもあるって言われた・・滅茶苦茶だよね俺って・・・怖い・・・」
「違うの!!!ちがうの・・・・怖いの・・・私は・・・・分からない事が怖いの・・」
訥々と自分は怖ろしい物だろうというダイの言葉を、レオナは震える声を押し出して止めそして・・・・おのれの怖い物をきちんとダイに告げた。
目に見えない人の心が、あの時・・ダイの豹変したような態度に、普段自分に優しくしてくれたのに裏切ったテムジン達の姿が重なり・・・ダイもまた自分を欺いていたのかと思うと怖くて仕方が無かった事を・・・
「ごめんねダイ君!!」
「レオナ?」
「弱くて・・・・貴方を好きだって言いながら肝心な時に何にもできなくて・・・・こんな私いない方が!!」
「レオナ!!!」
一切を告白して泣きながら謝るレオナが、自身を否定しようとした時ダイはレオナの頭を抱きしめる。
普段は年上のレオナの方が身長が高いが、今は椅子に座っている事でダイの胸の中にすっぽりと収まり、優しく頭をダイに撫でられる。
「弱くない・・・・だってレオナは俺が親父のせいで記憶がなくなっても逃げないでクロコダイン達と一緒に親父に立ち向かって俺を守ろうとしてくれた・・・勇者の記憶も力もなくなった俺を捨てないでくれた・・・・・その後だって・・俺達を助けてくれるために難しい事も沢山してくれた・・」
「でも!それでもダイ君は傷ついて!!」
「そうだよ!頭では分かっていたんだ!!・・・・レオナが俺に怯えても、それは一時の事だって・・・・でも・・・・どうしても俺も忘れられなくて・・」
子供二人がそこにいた。
片や王侯貴族としての心得を教え込まれた感情を露わにする事はおろかだと教えられた王女が、片や勇者とは強くなければいけないとずっと思っていた少年勇者が、互いに自分の弱さと心の痛さを言い合って泣いているのを、ティファは少し離れたところに行って結界を張る。
外から誰が来ても見えもせず聞こえもしない結界を・・・・泣いて言い、怒って良い・・かつて自分が贈られた言葉を-子供-二人にそっと贈る
自分の結界は絶対です、だから子供らしく泣いて言いたいことを言い合って良いのですよと、言葉には出さずに祈りを込める様に。
これがうまくいく保障なんてどこにもない、それでも・・・・子供が子供らしくあれる時間があったとてよいではないか・・・・・かつて愚かな自分を守ってくれた仲間や大人達がそうしてくれたように、急いで大人になろうとしている子供達の行く道が少しでも良くなることを願って、先程レオナが寂しそうに見上げていた月を見る・・・兄達はどうしているだろうか・・・怒っているだろう事は分かるが・・・暴走していなければいいのだがと苦笑してしまう。
お願いですからこの世界を滅ぼす計画だけはしていませんようにと物騒なお願いを月に師ながらティファは二人を待つ。
叶うならば・・・恋人繋ぎの握り方で仲良く出てきて欲しいなとにんまりと笑いながら・・その前にお前自身の恋愛模様はどこ行ったと、この場に突っ込むものがいないのが残念であった。
ちなみに先代勇者は無事(?)にフローラ女王に一世一代の告白をして、成功したのはまた別の話で、コッソリと別室でしたはずなのに大広間にいったん戻った時にニヤニヤとして来たマトリフに殺意が芽生えたのはまた別の話で・・・・さらに言えば
「・・・ダイ君・・・他界を滅ぼしたら駄目よ?」
「だってレオナ!!・・・もぅ分かったからそんなに可愛いジト目しないでよ・・・バーン、他界侵攻は諦めて三人助ける事だけに専念しよう・・」
「・・・・左様か・・・・致し方がない・・」
結婚したばかりであるが、もうすっかりとお嫁さんに操縦されている勇者とお姫様の姿があったとか・・・三者三様の模様はやがて互いの世界をどうするのか
この時はまだ誰も知らない
今宵ここまで・・・・・
コメディー時々シリアス・・・・悪いのは全部テムジンとバロンが元凶だ・・・
あれも原作においては物語を良くも悪くも動かした小石のようなものだと思う筆者です