勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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小石の投げられた世界:それそぞれ・・・

隠し砦の別室で、他界の自分(?)を看病していたチウが声に誘われる様に大広間に行ってみれば・・・・そこは混沌としていた。

両親に囲まれて困惑している少年ポップ、泣いている母レイラを慰めているマァムと、その周りを心配そうに見ているヒュンケルとクロコダインは真っ当なのだが・・・一部酒瓶が転がっているところを見てみれば・・・・案の定お酒大好きマトリフ大魔導士と魔界も名工様のロン・ベルクの中に・・・・アバンがいるのはなんでだろう?

 

確かティファが大広間でちょっとみんなに話すことがあり自分には見て欲しくないと言われたチウは、ならばこの砦でまだ昏睡状態のチウを見舞う事にして、見てみれば確かに大ダメージで、その傍らの椅子に座っている老師に挨拶をして断りを入れて眠っているチウの額に手を当ててみれば熱かった。

自分も体は頑丈が自慢だが、弱っている時の発熱は体に辛いと教わっているチウはすぐさま台所にあったたらいに水を張り、布巾があったので悪いと思いつつ黙って借りてすぐさま部屋に取って返してチウの額を冷やしてやる。

その様をじっと見ていたブロキーナ老師が初めてチウの事をきちんと見て質問をしてきた。

 

「君は異界というところから連れてこられたと聞いたけれども、君も武闘家かい?」

「はい!僕の世界のブロキーナ老師に教わりました。」

「そうか・・・もしかして人の畑を荒らして退治依頼された僕につかまった?」

「そうなんです・・・キャベツ畑と人参畑と大根畑を荒らしたら・・・・一生懸命に作ったその日の食べ物を荒らしたら怒りますよね。」

 

今のチウなら、どうして人があそこまで怒っていたのか、退治依頼が来たのかよく分かっている。

時折拠点にしているロモスの山間で畑仕事を手伝うようになったチウは、畑仕事の大変さを知ったんですと、傷ついて眠っている自分の弟子の姿に心を痛めているブロキーの心を少しでも軽くしようと世間話の様に話を始める。

もしも老師に拾われなければ、きっと自分は人に追い詰められて・・・そうなる前に老師様と出会えて縁を結べてよかったと笑うチウを、ブロキーナはじっと見つめて聞いてみる。

 

「僕に・・・僕達に武闘なんて習わなければこんな危険な目に遭わないとは思った事は無いのかい?」

 

ブロキーナは弟子を取ったことが無い。

自分の奥義は威力がありすぎ、悪用されればとんでもない事になるのが身に見えているからだ。

その奥義を託すに足る者が、先の勇者一行のロカとレイラの娘だった事にブロキーナは初めて人知を超えた縁と言うものは存在するのだと思った。

しかしチウは違う。人の畑を荒らして退治依頼が来たので出向いて捕まえようとすれば思った以上に頑丈で、何よりも瞳が澄んでいた。

荒々しい中にも見えた奇麗な瞳・・・その辺の人間などにはない純粋さを感じたブロキーナは、何かを感じてチウを生かしそして弟子にした。

人間の言葉を教えれば大人の真似事のような少々気障な言い回しをするが素直な性根はそのままで可愛い弟子であった・・・・まさかその可愛い弟子がマァムと同じく勇者一行の仲間になってこんな危険な目に遭っているとは思いもしなかった。

それをブロキーナは、昏睡状態を脱したているとはいえ痛々しい姿で眠っているいるチウを見て後悔し思わず聞いてしまった・・・もう自分の下を巣立った弟子の事だというのに。

 

「僕はしていません。老師様に闘い方を教えてもらえたから僕はマァムさんとの繋がりから得た大切な人達の為に一緒に最後まで戦いきる事が出来ました。

狭くて一人でいる事しかできなかった僕が・・・・あんなに素敵な人達と共にあれるのは間違いなく老師様のお陰なんです。」

 

強がりでもなく、慰めの気配も無い真っ直ぐな異界のチウの言葉に、ブロキーナの心は救われた思いがした。

自分の弟子のチウはどう思っているのか分からない・・・それでも・・・チウの言葉の温かさにブロキーナは確かに救われたのだ。沈黙が落ちたがそれは嫌な雰囲気ではなく、少し荒く感じていた眠っているチウの呼吸が穏やかになったのを見たチウは、夕飯を貰ってきますと席を立って大広間に出たのを、ほんの少しだけ後悔した。

 

 

少年ポップを案じているこの世界のジャンクとスティーヌが、何くれとなとなく我が子の面倒を見ようとしているのを、顔を赤らめているのは少年時代特有の恥ずかしさだろうとはチウでも分かる。

 

「お袋!もう本当にお腹いっぱいで入らねぇよ!!てか親父!!仲間の足引っ張らずに頑張れって言って俺送り出したの親父だろう・・・今更どうしたんだよ・・」

「分かってなかったんだよ・・・・本当の意味で戦うってことの怖さを・・・・馬鹿な親父だ俺は・・・」

「親父・・・・お袋も泣かないでくれよ。ダイもたち直れそうだし仲間達はみんな無事だ。それにこんなおいしい飯食ってたら力が・・・あ!!お前異界のチウだろう。」

「あ!チウ、お前なんも食ってないだろう。飯取って置いたから食えよ。」

「チウ・・・その・・・チウの容態はどうだった?」

「もうそろそろ目覚めると思ったのだがな・・」

「うむ、チウは頑丈だから大広間の食事の匂いで目覚めると思ったのだが・・」

 

チウを見つけたポップ達とマァム達はわらわらとチウを囲んでご飯を進めたりこの世界のチウの容態を案じたりとちょっとした騒ぎになったがチウはほっこりとした笑いを崩さずにいつも通りの優しい対応をする。

ご飯はブロキーナと共に向こうで食べる事、この世界のチウは発熱していたが今は落ち着いて穏やかな呼吸で眠っているので明日には目を覚ますことを話せば、どちらのポップも仲間達もほっとした。

チウは大切な仲間だ。早く良くなって欲しいとみんなが願っていたのだから。

落ち着いた雰囲気に戻ったところで、今度はチウが青年ポップに尋ねた。

 

「マトリフさんとロン・ベルクさんがお酒を飲んでいるのは分かるけれども、アバンさんが泣きながら飲んでいるのはどうして?」

 

あんな乱れたアバンは終ぞ見たことが無いチウの質問に、アバンの弟子一同とクロコダインは何と言ったもんかと頭を悩ませる・・・まさかティファとフローラとアバンが互いの立場を明確化して線引きさせるつもりが、協力してくれるはずのティファに梯子を外されそれをかつての仲間で悪友のようになったマトリフに鼻で笑われたのが悔しくてやけ酒してますとは言えないし・・・

 

 

「けっけっけ!お前さんは昔からその辺が甘ぇんだよアバン。だからあんな三流魔王と心中紛いの双方封印されるっていう目に遭っちまうんだよ。」

「ほう、こいつはそんな凄い事仕出かしたのか。」

「あぁ、力が足りねぇ自分にはそれしかねぇって言って、扱えもしねぇもん使っちまったら当然そうなるわな。」

 

普段は自分は大人でございと取り澄ましているアバンも、若さからくる数々の過ちや失敗を知っているマトリフの前では形無しであり、良い肴が聞けるもんだとばかりに笑っているナイスミドルの魔界の名工様に笑われる中・・・アバンとてほんの少しお酒を飲みたくなったのだ・・・城にいる大半の者達はそんなアバンの行動を止めなかった。

大戦の最中で魔王軍が自分達を血眼になって探しているとはいえども、張り詰めていたようなアバンを案じていたのは何もフローラだけではなかった。

長年実力は隠されていたが、意外に繊細なアバンをカール騎士達・兵士達は知っており、つまるところアバンもお疲れなんだな~と、マトリフ程ではなくともある程度察せられており・・・・茶番は兎も角お疲れはバレバレだったのだ。

今日くらいは少しは目外させてやれというかつての同僚達は、お酒を持ち込んできたロン・ベルクという魔族の男に、不謹慎ですと少年特有の潔癖さで噛みついたノヴァはバウスンが今日くらいは部屋で一緒にのんびりしようと優しくお引き取りをされ・・・労わられたアバンは全てを察してやさぐれたのを、こいつ青臭い、よくあんな茶番考え付けたもんだと世間様をよっく知っている魔界の名工様の格好の餌食化したアバンを、マトリフは益々笑ってもう嫌だと机に突っ伏したアバンの頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら忠告をしてやる。

 

「アバン、俺は昔言ったはずだぞ。手前ぇの手に負えないものに手を出せば痛い目を見るってな。」

 

凍れる時の秘宝をする前に、そして封印が解けた後にした忠告を、今再びアバンにしてやる・・・俺もポップ達の面倒見ている間にお節介になったもんだと己に苦笑しながら。

 

「マトリフ?」

 

その忠告は何に対して言っているのかと、机から顔を上げたアバンはまじまじとマトリフを見つめる。

忠告の内容に理解が出来なくて。

 

「やれやれ・・・俺はな、あの異界から来たって言う娘の事を言ってんだよ。あれはお前には金輪際扱いきれる柔な娘じゃねぇ、かくいう俺にも手に負えねぇ相手だ。」

「それは・・・・確かに様々な事を経験して一筋縄ではいかないとは・・」

「はっ!一筋縄?そんな生易しいもんじゃねぇぞあの娘っ子は。下手したら-人間-の真理をあの娘の方がお前よりも知っていると俺は見積もってるぞ。」

「まさか・・・彼女はまだ十五だと・・」

「年齢じゃねぇ、人との付き合いの深さやとんでもない経験を散々にして確実に手前ぇの血肉にしてる・・尋常じゃねぇって話だ。

お前できるか?異なる世界に飛ばされた瞬間からもう日常と変わらない思考回路に切り替えて行動することや見知らねぇ他人どころか異界の誰かを信じるって事が。・・・俺はな、俺の弟子の方のポップからあらかた話聞いた時あの娘に怖気が奔ったぞ・・・・敵に回したら駄目な部類の奴だ。回したが最後、どんな方法だろうが最後には敵は負ける、それもどうしてそんな方法で負けたのか訳の分からない内にだ・・・あの娘にはお前はあんま関わるな。

-人と-距離を保って線引きしていたお前とあの娘じゃ格が違う。せいぜい協力体制を維持していけるくらいにしておけ。」

 

幸い根はいい子のようだからというマトリフの言葉に、アバンはそういう者なのだろうかと首を傾げるのに、マトリフは溜息を堪える。

こいつは凄いのにどうしてこういう人間関係で鈍いのだか・・・・人に期待をしないと離れた分、人の心理や心情を見る目が低いのかとも思える。

確かに相手の力量やすぐる心根を見る目はあるのに・・・・だからこそ勇者の家庭教師辺りがあの時のアバンには似合いだったのかもしれない。

様々な事に疲れ果て、敵の子供を引き取った若造が、城の中枢にいられる筈も無く流れていく旅の方が・・・・・その分アバンの力量は落ち、相手を見る目も落ちたのをマトリフはしょうがないとは思いつつも落胆はしなかった。

自分だとて、人間にはもう期待していないのだから。

後は愛弟子のポップが仲間と共に無事に勝ちさえしてくれればいいとさえ思うのをひっくり返したのがあの異界の娘であった。

ポップから聞き出したティファの言動全てから、そして茶番の行方を見て思い知る。

こいつは人の手に負える者じゃない、個人がどうこうどころか国を相手にしても戦争をおっぱじめても負けなさそうな・・・・得体の知れない何かを感じたマトリフはアバンに忠告をする。

アバンの言う通り付かず離れず現状維持していろと・・・・大戦が終わればフローラと結婚すんだからと、揶揄いも交えながらもマトリフはアバンを撫でながら決意をする。

あの異界の娘が、これ以上こいつらを振り回さないように見ておくかと。

そのやり取りを酒を飲みながらみているろん・ベルクは、人間とは過保護の生き物だなと感じる。

魔界育ちの魔族には、まだ絆の大切さの本当の所を知らないのだ。

 

そんなこんなをしているうちに夜は更け、そろそろ子供達は寝かせようとアバンが正気付いて号令をかけようとした時、大広間にどよめきが奔った。

何事かと声が大きかった入り口を見てみれば・・・はにかみながら手を繋いでいるダイとレオナの姿があった。

どうやら・・・あちらもティファが何かを成したのだろうかとアバンはぼんやりと思いながら、戻ってきた二人や弟子達にも休むように促す。

それはヒュンケルだけではなくクロコダインも同様であり、見張りは騎士・兵士達で交代でするので、今日の疲れを全て取る事を第一とするアバンの提案に、クロコダインも頷く。

戦士たるもの、休めるうちに休めが信条だ。

 

部屋はどこが空いているか、先に出て行ったダイ達を追うか妹を待つか青年ポップ達が悩み始めた時、ティファが大広間に入って来た。

 

「ティファ・・・・あの二人大丈夫か?」

「ん?・・・・馬に蹴られたかったらダイ君と姫様に尋ねなよ。蹴られたら優しく手当てしおくから・・・・大人は飲んだか・・・アバンさん、ちょっといいですか?」

「どうしましたかティファさん。」

「今後私は買い付けに直接行きますが、デパートや個人で扱っている薬草の名前を教えて欲しいんです。」

 

向こうの世界とこちらの世界が完全一致している保証はないので、同じ名前の者でも毒であったならば洒落にならないからというティファの言葉に、明日までにリストを作っておくというアバンの言葉にティファはお礼を言う。

 

「おい娘さんよ、お前この世界の金も無いんだろう?またお前さんの持っているものを売るのか?」

 

アバンとのやり取りを見ていたマトリフの質問に、ティファは当たり前だと答える。

 

「奇麗な宝飾類じゃお腹は膨れませんし戦場の助けにもなりません。

これをそういう風に役立てた事を知れば・・・・きっと贈ってくれた人は喜びます。」

「ほぉ~そいつは贈り物か。お前さんの彼氏か?」

「まさか!こんなチンクシャ娘なんかにはもったいないいい人です。いい人なんです・・きっと私達の事を心配してます・・・ポップ兄とチウ君無事に帰れるようにしないと。」

 

物に執着はなく、守る者の為には何でもしかねない・・・こいつは諸刃の剣だと、マトリフは一層ティファを警戒した瞬間であったが、夕食を取りに来たチウは部屋に戻る前にティファに会えて喜び、そしてティファの話を聞いて決意が固まった。

 

「ティファさん-アレ-をください。」

「チウ君・・・いいの?」

「はい、長らく預かってもらいましたが、今の僕には使えないんですよね。」

「うん・・・・そうだね、そう使われたら、きっと・・・・」

 

チウは今日は良いので明日朝一で貰いますと言い残し、もしもこの世界のチウも目を覚ました時の為にと三人分のパンとスープを持って大広間を後にする。

 

チウが何を決意したのかと、妹に聞こうとしたポップはやめた。寝ればすぐに足は葉来るのだから、何か良い事を決心したチウの言葉を直接聞くのが良いだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして勇者一行の者達を取り逃がした魔王軍もまた動き出している。

無論ティファ達を取り逃がした後ミストバーンが血眼になって探している。

己の軍団と目玉を総動員に近い数を動員して。

しかし見つからずいら立ちが募る中、バーンから呼び出された。

使い魔の伝令ではなく目玉の通信でもなく、主と自分だけの繋がりの思念で呼び出されたミストバーンを待っていたのは、右手で頬をつき物憂げにして玉座に座っている主の姿であった。

 

「・・・・バーン様・・・・お許しを・・」

「・・・まだ見つからぬか・・」

「は・・・・」

 

その姿は、周りの者達が主の命令をこなせなかったときに見せる怒りの姿であり、それを今は自分に向けられているのに、ミストバーンは怖れを感じずに悲しいと感じる。

己を拾ってくれた主に、自身の全てを捧げつくしても足りぬ大恩ある主の命令を果たせない事が悔しくてそして悲しい。

その様を、バーンは愉しむ。自分を崇拝するミストバーンの姿が哀れでそして愛らしい。

 

「ミスト来よ・・・」

 

俯き自分に近づかない可愛い側近を呼びつける。

バーンは基本他者に興味は無いが、それでも気まぐれを起こすこともある。

呼びつけられたミストバーンはおずおずと近づく様がまた滑稽でありそして可愛いと思う。

自分の若き肉体を預かる一途な影を、自分の足元に膝をつかせてそして・・・頭を撫でてやる。

正確には-ミストバーンの本体-である-霧-の部分を。

 

「っ!!」

 

ジュっと焼きごてが肌に触れたような酷い音がする。

それはミストバーンの本体が触れられダメージが与えられる音色。

本来触れられるはずのない暗黒闘気の集合体は、主人の若き肉体を守る為に凝って一所に集まり密度が高く、そして主の暗黒闘気を纏った手であれば触れられる、。

光の闘気でなければ消滅しないはずの本体は、主人が与える苦痛に身を震わせて耐え忍ぶ姿に、バーンは目を三日月に細めてうっそりと嗤う。

 

「苦しいか?それとも悦いかミストよ?」

「あぁ・・・バーン様・・・・」

 

本体を触れられることが苦痛であるのに、己が触れる事を悦び恍惚としている哀れな-ミスト-

 

その内に・・・・不要となる哀れなるモノ

それも近いうちに・・・・あの異界の娘のせいで加速する世界・・・その時ミストをどうするべきか、苦痛と悦びのミストバーンの声を聴きながらバーンは初めて他者の事で悩む




今宵ここまで
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