そしたら・・・親父の記憶はもう元には戻ってくれないの?
ティファの推察を聞き、どうにもならない事だと悟った一同は悲痛な顔で俯く中、ポツリと幼く頼りない声がした。
それは自分を息子だと分かってくれない父の手を、それでも離さないダイの声であった。
その言葉に、ティファをしても何も言っては上げられなかった。
そうだと言わねばならないのを承知していても、しかし心が折られてもなお父と自分を大切だと言ってくれた仲間とこの砦の者達の為に闘うのだと言った幼い勇者の心を、手折る事になる言葉を発するのをティファとて躊躇った。
「・・・・何故・・あの子供達の行く道は過酷な者なのでしょう・・・」
バランの事で報告を受けたフローラは、一人でいる執務室で応えの無いと意をぽつりと問う
それは目には見えないがもしかしたら自分達の現状を見ている神々に対しての恨み言なのかもしれない。
ノヴァからの報告に、フローラは暗澹たる思いがした。
フローラ自身もバランの死因の凄まじさを聞いた時、神の御業をもってしても何事もなく元通りになる者なのだろうかとは思ってはいた。
目が覚めても体のどこかしらか、あるいは全身がかつてのロカの様に弱りはて、病床の身となり数年後には亡くなるのだろうかと危惧すらもした。
しかし現実は想像よりも残酷で、力をすべて失いそして命を懸けてまで守った息子との僅かに過ごした時間と微かな絆さえ、この世界の神々の都合で蘇らせられた代償として持っていかれるなど・・・・理不尽以外の何物ではないか・・
心が沈むフローラの耳に、扉が叩かれる音がしたので入る許可を出し現れた人物に、フローラはさっそく追加報告を求めた。
「ダイの様子はどうでしたかアバン・・」
「落ち込んでいました。敵対した父を受け入れ親父と呼んだ者が今度は自分を息子だと分からなければ無理もない話ですが。」
「矢張り・・・」
慕いし親の死に様を見せつけられ、其れでも奇跡が起こり助かり一息付けたところに・・この世界はダイをどこまで苦しめるのだと、民を慈しみ子等を見守る慈愛に満ちた女王の顔には、この世界の過酷な運命に憤りの怒りの表情が刷かれる。
唇をかみしめる時のフローラは、真に怒りを覚えた時の癖なのを騎士として仕えていたアバンはよく知っている。
宥める様に-朗報-もきちんとあると、それはどことなく自分の子供を自慢するような顔をしてフローラに報告をした。
今のダイとポップ達ならばきっと大丈夫ですよ
遡ったバランのいる部屋
そしたら・・・親父の記憶はもう元には戻ってくれないの?
ダイの短いながらも的確な質問に、ティファは偽りもまして希望を持たせることもしなかった。
先ずは代償の意味から教え、それが為にバランの力とダイとの絆を育む元となる一切の出来事を持っていかれたのだと。
残酷な真実ではある。しかしなまじいつか記憶が戻るとこの時点で言えばダイはその言葉に縋ってしまい、実はそれが永久にかなわないかもしれない事実を知った時のリスクを思えば、ティファも心を鬼にして真実を告げる道を選んだ。
それがどう作用されるかはティファには不安だった。たち直ったダイがまた再び心を追ってしまう可能性もあり、それ故にこの部屋に来る事は嫌だった。
希望を生み出し笑い合う事を信条としてきたティファにとって、其れとは真逆な事をしなければならないのを知っていたから。
自分の言葉に俯き沈黙をするダイに、何と言葉をかければいいのかティファには分からず、ポップ達もマァム達も泣いている・・・扉の近くにいるチウ達も共に泣いて・・・
「お姉ちゃん・・・・代償って言うのを、親父はこれからも払わないといけないの?」
「ダイ君・・」
ダイはどうやら代償の意味を知り、そんな事をこれからもバランが払わなければならないかと怯えているようだとティファは察した。
無理もない、自分との絆が大証の一つだと言われれば、この先ダイがどれ程バランと関わろうとも端から取り上げられるのではないかと危惧する気持ちは、ティファにも痛いほど分かる。
きっと自分も、代償の仕組みを知っていても、父からお前は誰だと全く見知らないもののように言われれば・・・ゾッとする!そして今目の前にいる幼い勇者はそれを味あわされているのだから・・
「ダイ君、君のお父さんを助ける為にこの世界のマザードラゴンは消滅をしました。
そして竜の騎士の力と紋章という途轍もない力と、竜の騎士と人間の女性との間に奇跡的に産まれた君との絆を持っていかれた。
代償は払いすぎても受け取り手が貰いすぎてもいけないんだよ。私はこの代償は続くものだと考えていない。
その代り・・・・今までの君と、君たち一行とのかかわりが戻る事も無いと思ってる。」
「そう・・・・良かった・・・」
「ダイ君?」
自分の言葉に良かったというダイの言葉に、自分は聞き間違えをしたのかと問いかける。
周りを見れば、悲しみながらも唖然とし始めた兄達の顔を見れば聞き間違えではないのだと知る。
そんな驚くティファに、ダイは自分の持てる言葉の全てを使って己の想いを打ち明けた。
「俺、黒の核晶から俺を守ってくれて、ボロボロになった親父を見た時、大魔王達との戦いの事なんて頭から無くなってた・・・・考えていたことはさ・・・俺を残して死んでほしくないって・・・親父が死なないようにするにはどうしたらいいのかって、マァムに何度もベホイミかけて欲しいって・・・生命エネルギーがないから無理だって、周りを困らせるなって言った親父の言葉聞きたくなくかった。」
今でも情景が浮かぶ
瞳には最早光はなく、死んでいく父の姿に何もできない無力な自分・・・父一人助けられない自分が勇者なんておかしいではないか・・
「俺、親父が死んだ時一緒に死んでしまいたいって・・・一緒に連れてって欲しいって思ったんだ・・」
「其方・・・」
その言葉に、ポップ達はダイの心の傷の深さを改めて知る事になり、長年ダイの傍らにいるゴメはダイの肩に止まり必死に頬を擦り付けるのをダイは優しく撫でる中、自分の息子とは思えないまでも、こんな年端も行かない少年が死を切望することに堪らなくったバランはダイの手を取る。
息子かどうか真偽の程は分からない、しかし人間を愛していた頃の心に戻ったバランには、この少年が哀れで堪らなかった・・・こんな子供が世界の何かに絶望しそして死にしか安息を見出せないなどとは間違っていると・・
「大丈夫だよ親父・・・みんなも・・・ティファお姉ちゃんの薬のお陰で親父は今生きてる・・・温かい手で俺の手を握ってくれてる・・・・それが嬉しい・・」
自分よりも大きく分厚い戦士の手のひらを、ダイは涙を流しながらゴメがいる反対側の頬に擦り付ける。
その行為を振り払わない優しい人が、自分の父だと思うとまた自然と涙が出る。
「代償がもう払われないんだったら、俺何が何でもこの大戦を勝って・・・親父と一緒にデルムリン島に行くんだ・・」
人が自分と、もしかしたら父の存在を許さないというのであれば自分達はあの島を生涯でないで過ごすのだと泣きながら誓うダイの姿に、バランの胸がちりちりと痛む・・・まるで自分が寝かしつける時泣いてしまうディーノを見ているようで・・・そして妻を泣かせてしまっているようで・・・
「ダイ君は・・・それでいいの?」
大戦を勝利に導いても、そんな未来しかないかもしれない事でいいのかと問うティファの言葉に、ダイはティファの顔を優しい絵替えで見返した。
「俺はきっと幸せなんだよお姉ちゃん。死んじゃったはずの親父が生きていて、心が折れて戦いたくないって勝手を言った俺を、それでもポップ、マァム、ヒュンケル、クロコダインは守ってくれた・・・ポップは俺が戦うのが嫌なら自分達が守るから、目の前からいなくならないでくれって言ってくれたんだ・・」
勇者の役目を放棄視しても、守ってくれた仲間達
そして自分の周りには自分を、この一行を助けてくれた人たちが確かにいて・・・親友を助けに行った勇気を認めて覇者の冠をくれたロモスの王様、助けてくれたお礼に剣と自分の小さな勇者と称号をくれたレオナ、モンスター達に育てられた自分に怯むことなく優しく教えを授けてくれた先代勇者のアバン先生、世界がどうなろうとも構わないと言いながらも自分達の想いに応えて力を貸して呉れたマトリフさん、そしていつだって力を貸してくれたバダックさんにエイミさん、アポロさん、マリンさん・・・・先生が死んでしまって悲しかった時に真っ先に手助けをしてくれたまぁむのお母さんとネイル村の村長さん・・・そして旅立つ時に見送ってくれた沢山の人の笑顔を・・・
自分は確かに小さな女の子から、そして一部の人から-小石-を投げらた。
その小石は自分の中の何かにも当たって・・・いつしか勇者を志した理由も、世界を守ろうとした理由すらも見失った。
「それでもね・・・見失っただけで、俺の中にはちゃんとあったんだ。
優しい人達を守りたいって・・・ただそれだけだけど・・・・俺はその人達を守りたいんだ・・」
投げられた小石に打ち砕かれたなにかは、砕けてしまっても決して消えてはいなかった。
ただ投げられた小石の様に小さくなって散らばってしまってだけ・・・・自分の中には投げられた小石以上の温かい-意思-が積み上げられたのをダイは思い出せたのだ。
それはアバンが危惧したように何もかもがティファのお陰ではなく、闘わなくてもいいと言ってくれた親友と、自分の心の傷に気が付けずに申し訳ないと泣いてくれた仲間達、そして・・・自分を傷つけてしまった己は存在していいはずがないと泣いたレオナの、皆の自分を想う心で溢れていた涙が思い出させてくれたのだ。
自分の中に積まれていき大切にしていた意思を
「だから俺は大丈夫だよ。もう死にたいなんて思わない、この世界が壊れても構わないなんて思わない、俺は守りたい。
親父と皆が笑っていけるかもしれない場所を守りたいんだ・・・・。」
今度こそ、小さな小石でなんかには壊されない意思の想いを崩されないくらいに強くなりたいと願うダイの想いを聞き届けたアバンは、微笑みながらその場をそっと去る。
ノヴァから齎されたバランの異常事態をフローラと共に聞いていたアバンは、ダイの心情を思いすぐさま部屋に駆け付け扉に辿り着いたのは、ティファの説明の後半部分からであり、それに対してダイが良かったと言った時であった。
ティファがそうであったように、アバンもまたダイの言葉が何を指すのかが分からずに、次のダイの言葉を待っていればそれは自分の考えていたことが本当に当てにならない事であった崩された瞬間であった。
ダイは己が思う程弱い子供ではなかった。
確かにダイは傷ついた。しかし傷つき心が折れども、それでも立ち上がりそして更に強さを増していたのだ。
そしてそんなダイの言葉の一つ一つをポップ達も頷き、その度にダイの様に力強い笑みが増していったのを見た。
一体自分は弟子達の何を見ていたのだろうと・・・師としてもまだまだ未熟なのだと思い知ったが、アバンの顔に暗さは無かった。
思い知る事よりも、弟子の成長した瞬間に立ち会えたことをアバンは喜びを覚えたのだ。
いまだに頼りない部分はあれども、ダイとポップとマァム、そしてまだ言葉をあまり交わしていないヒュンケルも成長をしている・・・そうしているのだ成長を・・・
この大戦で得た経験と、そして様々な者達意思に触れ温かさに触れ真心に触れ、時に残酷な事に触れてしまっても、傷つき泣いて悩みながらも彼等は成長をしている。
自分も・・・破邪の秘宝一つで満足するべきではないと、アバンもまた一つの意思を己の心の中に積み上げる。
たとえこの先小石どころかとんでもない大石が雪崩の如く押し寄せてこようとも、弟子とそして大切な仲間達とそして・・・あの人を守れる強固な城壁程の意志を積むべくそして襲い来る意思を粉砕する力が必要だと決意しながら、バランと其の事でダイ達がどうなってしまっているのだろうかと案じているフローラの下に歩を進め、そして自分が見聞きし感じた事の一切を報告をし、聞くうちに徐々に優しい笑みを浮かべだした女王に先代勇者は自信をもって答えた。
「人を思いやり守りあう意志の力があれば、どのような事が襲い来ようともきっと大丈夫です。」
その為にも、襲ってくる脅威からジタバタと足掻いて己達の意志を貫くためにも、時間のある今の内に自分達の強化を図る事をアバンは提言をしてフローラはその言葉に頷いた。
この大戦に勝ち、ダイが投げられた小石ではなく、ダイ達が出会えた良き意思が積まれた世界を作る為に
今宵ここまで
ここでようやく【小石世界】の物語に一区切りがつきました。
これまでは悪意や醜さの小石が勇者一行と周りの間に挟まり苦しめてきましたが、その小石が意味を成さない程の温かい意志(イシ)をダイが思い出した事により、周囲もまた思い出しました。
これよりは小石ではなく善悪様々な意思達が世界に積まれて物語は加速をしていきます。
(・・・・多分・・・筆者がアフターストーリーしない限りは・・・
それによりタイトルは多少変わり、次回よりは【いしの積まれる世界】となります。
この世界を無事に終わらせ、主人公たちの幸せまできちんとたどり着けるように頑張りますので、お付き合いを頂ければ幸いです。