「ポップ兄、チウ君、良い話と悪い話どっちから聞きたい?」
記憶が無くなっても、それでも父は生きている、だから大丈夫だというダイとバランをしばらくは二人きりしよと全員で部屋を後にして大広間について朝食を食べ終わった後、ティファからいきなり話を切り出されたポップとチウはきょとんとしたのは無理もない。
良い話も悪い話も、今ティファが何かしらの情報を持つほど動いていないと思っていたので、もしや式見で何か引っかかったのだろうかとポップは思ったが、それならば自分達ではなくこの世界のアバン達に言う筈だと思いなおし、であるならばなおさら何の情報だがさっぱりと分からず、ポップはおどける様に両手を挙げて降参のポーズをとった。
「何の情報だが分からねぇから、良い話の方から頼むよティファ。お前もそれでいいかチウ?。」
「そうだね、分からないからいい話の方から聞かせてもらえると助かりますティファさん。」
「ん、分かった。できればダイ君にも聞いてほしかったんですが、皆さんにもかかわりがあるので聞いてくださると助かります。」
昼食はそれぞれにやる事があり集まるのは難しくとも、朝食と夕食は見回りや見張り以外はなるべくともに摂ろうと言う女王様の御達しが出たので、主要メンバーと言って差し支えの無い者達は全員がいる中、ティファはお知らせがあるので聞いてほしいと要請を出し、席を立とうとしたもの達が全員座りなおし終えたのを見てから大事な話を始めた。
先程この世界のマザードラゴンの思念からメッセージが届いたと。
その一言で大広間にどよめきが広がり、そして
ダン!!!!
机を打ち据える音がそのどよめきを消し去った。
音の方向を見てみれば、まなじりを上げ目に殺気を宿したポップの姿があった。
そして打ち据えた机にはひびが入りそして魔法使いの手は握りしめすぎているせいで血が滲んでおり、ギリギリと噛みしめるその口から今更何をと、怒りにまみれた声音が漏れ出す。
自分達の息子と同じ顔をした少し大人びたポップのその凄まじい有様に、スティーヌは青褪めさしものジャンクも背中に汗が伝う。
しかし青年ポップの怒りは無理もない事であった。
この世界の我が子竜の騎士と、その血に連ねるダイを救う事でひいてはこの世界を守る為とは言えども、神に御業に等しい奇跡の薬と自分とチウと妹を攫って来たと言っても過言でないマザードラゴンが、一体今度は何の用だと、怒りを発している。
その様を少年ポップもゾクリと寒気が奔る。あの表情はかつて兄弟同然の愛竜を小自分に殺されたからと、自分を嬲り殺しにしようとしたガルダンディを思い起こさせるほどの狂気に満ちた怒りに近かく、あの時の恐怖が思い出され、頼もしいと感じていた大人のポップの怖ろしさを垣間見た。
青年ポップは、自分よりも強くてその怒りに触れれば怖ろしい人なのだろうか?
だがそんないかれるポップをティファは笑って宥める。
「ポップ兄、マザードラゴンさんは思念体になったから今あっちの世界とこっちの世界の伝書鳩さんみたいなことをせっせとしてくれているんだよ。
謝罪も受けた、想いも受け取った。だからティファはマザードラゴンさんを許したんだけれども・・・やっぱり駄目かな?ポップ兄とチウ君巻き込まれちゃったもんね・・」
笑いながらも、兄とチウには申し訳ないというティファに、ポップがいつまでも怒っていられるわけがない。
立ち上って説明をしようとしていた妹を膝にのせて抱きしめ溜息と共に怒りを全て押し流す。
一番の被害者が怒っていないのに、自分達はとやかく言えねぇよというポップの言葉とチウの僕ももうその事で怒りませんというチウの言葉に、ティファはついついニヘラと相好を崩した笑いになってしまう。
自分の兄とチウの心意気が嬉しく、そして朗報が伝えられることに。
「後二・三日の内に私達を迎えに来てくれる人達が来るんだって。」
「・・・・・まじか・・」
「来てくれるんですね!!!」
迎えが近日中に来る
その朗報はポップとチウのみならず、大広場全員が、それこそアバンまでもが歓声を上げて喜んだ。
異界から連れてこられた子供達がきちんと帰れるだろうかと内心でとても案じていただけに、この世界のマザードラゴンが帰れると保証したのだからこれで一安心である。
「んでティファ!それ誰が来てくれんだ?」
「あ・・・それがね、誰が来るかで揉めに揉めてるみたい・・・来る準備が整うにはもう少しかかるからいいみたいだけど・・・」
はい!!???
誰が来るのか揉めている・・・確かこの子供達は神様から大切にされているという話であった。
実際に思念体になったマザードラゴンが伝書鳩しているくらいなので、人選は直ぐに決まっているのだろうと他界の者達は全員が首をひねる。
少年ポップ達も、仲間がそんな状態になったら真っ先に立候補して乗り込んでいると野にと思い首をひねるが、青年ポップとチウはとっても思い当たる事がありまさか・・・
「・・・まさかとは思うが-全員-で来たがってるとかそういう事かティファ?」
ダイ達のみならず、魔界の神様と影と死神様も来る気満々とか言わないでくれよ頼むから!!
ポップの嫌な予感は的中していた。
「あ~・・・人数制限ありってところで、全員が来たいってなってたのが無理だから揉めてるって・・・」
妹の言葉にポップは顔を引きつらせて内心大絶叫を起こした。
頼むからやめてくれ!この世界の大魔王とアレは最悪な奴で目撃した勇者一行全員の心証が最悪なのだ!!
来たが最後!本当は魔王軍と通じていたのかという超あり得な・・・い事ではないが兎も角!!誤解から異界でバトルする中帰るのなんて御免こむる!!
そうでなければ・・・せっかく元魔王軍であっても許される方向になれたヒュンケルとクロコダイン、そしてバランの立ち位置がまた可笑しなことになりかねない・・・頼むからあんた達は来ないでくれと心の中で滂沱の涙を流すポップに、難しい事は無理でも、何となく-あの人達-来るのは不味いとはチウも思うのでそっと溜息をつく。
頼みますから来るにしてもアバンさんやマトリフさんとか穏やかな人が来て欲しいと。
そして悪い知らせというか、あまり良く無い知らせというのが、迎えの人達が来たとしても、それは時空の壁に穴を大きく開ける為の意味合いもあり、更に穴をあけて固定するためにむかえがきてもすぐには帰れない事であった。
そこは問題ないだろうとポップとチウが答え、落ち着いた頃合いをみてアバンがティファ達、特にポップに頼みごとがあるという。
何事かと聞いてみれば、まだこの世界にいてくれるのであれば、自分達の特訓に付き合って欲しいと言う事であった。
今の自分達の力では不足であり、大魔王達を討つためにも力を挙げたいというアバンの頼みを、聞いた大広間にいるポップ達、そしてノヴァがカール騎士・兵士達も立ち上がりポップ達に頭を下げる。
これ以上異界のポップ達の力を借りるのは心苦しいがそれでもお願いしたいという紳士な願いに、ポップはにんまりと笑って受けた。
「俺は魔法を使うだけの魔法使いじゃねぇぜ?」
自慢ではないが大戦が終わってからもブラックロッドを使ってラーハルトに鍛えてもらい、ヒムに体恤の動きを学び、時間を見つけてはパプニカ王国にルーラをしてダイの下に行き木剣と棒で打ち合いをしており、デルムリン島にダイが戻った時に互いに魔法も使用した組合をしている。
どんな敵が来て、一行と自分がばらけさせられても負けない為に、動ける魔法使いを目指しているポップは研鑽の歩みを止めていなかった。
「おいポップ、お前俺の小型のメドローア見て驚いてたな?後でやり方教えてやる。マァムとヒュンケルとクロコダインも魔法をよけながらの特訓やってみるか?魔王軍のモンスターには魔法使う奴がちらほらこっちには居たから一応やっておいて損はないと思うぞ?
それとノヴァ!!」
次々と特訓の内容を提案するポップに、アバン達は驚く。あと数日すれば戻れる彼が、最後までこの世界の為にここまで力を貸してくれることに対して畏敬の念が芽生える中、最後にひときわ大きく呼ばれたノヴァは、自分も何を教わるのかと慌てて返事をしてみれば
「お前はティファとだ。ティファ、お前ノヴァの相手してくれるか?」
「・・・・へ?」
「え~・・・・」
言われたノヴァは、どこで買い付けたのか分からないが、少年が着るような白い理念の長そでシャツに、茶色の長ズボンに編み上げブーツを履いている少女が相手だと言われたことに驚き、突然の指名を受けたティファは超微妙な顔をし、そして今日は無理だとお断りをする。
「なんでだよ・・・誰か倒さなければいいんじゃねぇのか?」
「いや、そこは良いんだけどポップ兄・・・今日買い付けに行くって言ったでしょ・・」
「あ、薬草か・・・・」
「そうだよ、魔王軍に動きがあれば知らせる様に伝言式鳥置いて行くから行ってくるね。
ノヴァさん、私もそこそこ戦ってきているので、微力ながらお手伝いさせていただきますね、明日から。」
「あ・・・はい!!」
こんな優し気な少女が戦えるのかと、ノヴァならずアバンすらもが本気で疑念を持つ。
彼女は一行のサポータとして確かに優秀そうだが力の方は果たして
その疑念を他所に、ティファは出掛ける。
この世界の為に-様々な事-をする為に。
「えっと・・・これとこれと・・・後これください。」
「毎度!今はこんなご時世だからね・・・・全部売ってあげる訳にはいかないんだよ。」
「そうですね、陸路も海路もモンスター達にいつ襲われるかと思うと品を運んでくるる行商の人達が少なく、品数が薄い中売り切れならばともかく買い占めはいけませんからね。」
ティファ達の世界よりも、この世界の特に薬草品類は商店から個人店、そしてベンガーナのデパートまで品薄であった。
自分達の世界は自分と三神様達が頑張ったので陸のモンスター達は狂暴化を防ぐという大きなアドバンテージを得られたために、様々な恩恵があった。
魔王軍と呼応する事はなく、反対に向かっていき民衆が逃げる為に時間を図らずも稼いでくれたり、行商人たちが余程の事をしなければ襲う事も無かったので行商人の往来は其れなりに出来ていたからであり、翻ってこの世界はと-クロファ-は溜息をつく。
もう少し薬草類があれば、楽になるだろうと式で空飛ぶ靴を作ってステルス結界を張って実にあちこちにの場所を巡り最後に復興しつつある城下町により商店を見たが無いので森の中に入っていた。
ロモスのネイル村の近くにも薬草の群生地帯はあるが、この後の用事もあるのでクロファはパプニカの森で野生の薬草をそこそこ摘み、ここまであれば大丈夫だろうと薬草集めを終えて、あちこちの大陸や場所に潜ませた式達を見たが依然悪魔の目玉やシャドー達が洞窟の仲間で自分達を探しており・・・そして大海原の超上空にいるパレスの位置は変わらずそして-中-で影が苛立ち死神と一つ目も手持ち無沙汰にしているのを覗いてにんまりとする。
流石にもどきであっても似非大魔王の側は除かないが兎も角、用事を済ませて戻っても大丈夫そうだと空飛ぶ靴でかつて地底魔城があった今は火山で穴が開いて自然の風穴になった場所に飛ぶ。
あの者達は大人しくしているだろうか?
「・・・ハドラー様・・・お加減は・・」
「アルビナス・・・ヒムたちも済まない、不甲斐なく自分の体にあのようなものがあったのに気が付けずに利用され・・・間抜けな主を持ったが為にお前達に華々しい戦場を与えられずに消え果るのだから・・」
「そんなハドラー様!!俺は・・・俺達はハドラー様によってこの世界に産まれて・・あんなすげぇ奴らと戦えたんです!!!」
「左様、ヒムの言う通りですハドラー様・・・最後の時までまだ時間があるのであれば共に・・」
共に勇者達と最後の一選をされては困るのですよ、そこは諦めてください。
「お前は!!!」
「貴様!!!」
「何をしに来たのです!得体のしれないものがハドラー様に・・・」
「おやこれは薄情な物言いをなさいますねクィーン殿。私がいなければ似非大魔王の奸計の道具にされ生きていることが知られれば処断されること間違いなしのそこな魔王と貴方達を逃がしたというのに。」
「そ・・・それは・・」
「恩知らずとはまさにこの事でしょうかハドラー殿?」
「・・・・何の用だ・・・そもお前は誰だ?」
元地底魔城の風穴の奥に潜んでいたのは、黒の核晶を起動され辛うじて生きていたハドラーと彼の親衛騎団のポーンヒム・クィーンアルビナス・ナイトシグマ・ルークブロックであった。
遡る事ティファが、改良版のラック=バイ=ラックを使用した時、本来であれば同時にポップ達と共に陣から出ていたのが五分も遅れて出てきたのはなぜか?
それはティファではなく、逃げる寸前でクロファが意識を乗っ取り寄り道をする為に自分の座標だけ書き換えたからだ。
ティファがこの世界が原作に近い世界であると知ったと同時に情報収集するために古来よりの詫びの作法でバーンに頭を下げた様に、クロファもまた情報収取をする為に、ティファが頭を下げている間にティファが落とした持ち物のうちのリボンをこっそりと小さな虫に変えてパレス全体を巡れせて情報を集めさせ、目当ての-六人-を探し当てた。
最初の一人は問答無用で筒に入れ、ここに来る道すがら出して大半の説明を終えている。
後はこの五人に説明するかと思うと少々面倒だが仕方がないと、クロファは溜息をつきながら、自分を警戒している親衛騎団と、注意深く見ながらも億劫なのか牙を剝いてこないハドラーに対し、挨拶もそこそこに自己紹介とそしていま世界で起きている事の一切を説明した。
バランはハドラーに仕込まれた黒の核晶で一度は死んだが、自分の作った薬のお陰で助かり、そして勇者達をバラン諸共ハドラー達にしたように丸ごと逃がした事。
そして実はアバンが生きていて今勇者達と共に入れ似非大魔王に対して反撃の機会を伺っている事。
「私達も数日のうちに帰れますが・・・その前に影の参謀か似非大魔王本人が襲来して迎え撃って決着がつくと思うので、残念ながら今の貴方の体がそれまでに回復するとは思えません。なにせあなたの命の源の一つとも言えたーアレーが無くなっているのですから。」
原作でハドラーがダイに挑めたのは、十日程体を休ませることが出来たからこそだとクロファは見積もっており、数日では無理だとハドラー達に断言する。
「そうか・・・俺は何も成せずに・・・・こ奴らの想いに報いる事も出来ずに死んでいくのか・・・」
クロファと名乗る少女の言葉に憤りではなく悲しみをハドラーは感じて涙をこぼす。
打算があり再び世界を手にせんとした想いとそして、命を救ってくれたお方の為にと戦った末がこのざまだと思うと、自分の間向けさにヒムたちをも巻き込んだのが申し訳ないと悔し涙を流すハドラーに、ヒムは涙を流し、ブロックは労わるようにハドラーの側に膝をつき、シグマとアルビナスが憤りをどうすることもできないと歯噛みする中、クロファから問われた。
「貴方は生きたいですか?それともここで朽ち果てますかハドラー?」
その問いは、少し前の戦士としての誇りを第一としていたハドラーであったならば即座に打ち捨てて行けと言っていたであろうが今は迷いが生じた。
自分が今死んでしまえば、本島にヒム達を意味のない死に巻き込み・・・犬死ではないかと。
その迷いに、クロファはにんまりと笑い
「助けて欲しいのですがお願いできますか-ザボエラ-さん。」
な!!!
「やれやれ・・・ワシに死んでほしいのかのお主は。」
「ここで貴方を殺そうとするような間抜けであれば私が即座にハドラーの首を跳ねますのでご安心を。」
事も投げにハドラーを殺すとクロファは言い切る。
クロファは元々ティファの様にハドラーを尊敬しておらず、体内にあんなものがあり体に異常が起きても改造のせいだろうと自分で自分の肉体を確かめようともしなかったハドラーを間抜けだと思っている。
百歩譲ってそんなの原作知らなければ無理だろうと言われても、お前決戦時大魔王の門番のくせして親衛騎団を地上に出して勇者との一騎打ちという私闘に拘って馬鹿じゃないのかととも思っている。
それでは戦力をわざと分断して勇者と侵入者を何をしてでもくいとめるはずの門番の責務放棄であり、責務放棄したからと処刑したバルトスとどこが違うのか?
自分がバーンであったならば勇者と諸共に死ねと黒の核晶起動させてやるわと物凄い低評価である。
ただ、その愚かとも言える信念に敬意と好感は持てるがそれだけであり、ハドラーな対応は自然冷淡となる。
そんなクロファの呼びかけに応えて暗がりから出てきたザボエラの言葉に、クロファはにこりと笑うがザボエラの事をそこまで評価しておらず、それどころか生み主のハドラーの影響で卑劣で強者につくダニ野郎とさえ思っているヒム達は蔑みの目でザボエラを見、そしてハドラー自身は己の体に黒の核晶があるのを知りつつ黙っていたザボエラに対して複雑な気持ちになるのをクロファは構いつけずに話を進める。
「貴方達を逃がす前にここにいるザボエラさんの事を捕まえまして、ここに来る道すがら、黒の核晶を使用されながらも生きている貴方の命を永らえさせることは可能かどうかを確認したところ、護身用に持っている小型のアレを使えばあるいはと言っていましたので試してみますか?」
この日と自分達の世界でも用意周到で抜け目のない方だったのでもしやと思って聞いてみましたと事も無げに言うクロファに、ハドラーは唖然としてが、親衛騎団の特にヒムが食いついた!
「本当か!!ハドラー様助かるのか・・・・・おい爺さん!!!前は手荒な事をしてすまなかった!!その事が許せねぇってんなら俺の核を壊してもいい!!だからハドラー様をたすけてくれ!!」
「私からもお願いします・・・ハドラー様を助けてくれるのであればなん・・・」
「ストップですよお嬢さん。」
ヒムとザボエラの出会い方は最悪であった。
抜け駆けをしたザボエラをハドラーの命令で追ったヒムが捕まえ、そしてザボエラが何を言っても構いつけずに蔑みの目で牢獄に放り込んだ。
その時の事を詫び、そしてそれでも気に食わなければ核を壊しても構わないというヒムと、主を助けてくれれば何でもするという彼等の現金な言葉を冷ややかに書きつつクロファが止めた。
「この御仁に対する報酬はもう申し出てそれで成立していますのでこれ以上は不要かと。
そしてお嬢さん、自分の身を大切にしなさい。女性が簡単に・・・いえ心からの決意であっても内容や条件も確かめもせずに何でもする等と口走らない事をお勧めします。
さてハドラー、彼等は貴方に生きて欲しい、そしてその方法はここにいるザボエラさんが持っていますが、どうしますか?生きたいですか死にたいですか?」
全てを提示したクロファは、平板な声でハドラーに最後の問いをする。
「その前にザボエラよ。」
「何でしょうか・・・ハドラー様・・・」
自分を冷遇し尽くした男に様をつけたくはないのだが、親衛騎団の力を知るザボエラはクロファの力が本人が言った通りの実力か分からないので一応ハドラーに様をつけて応えるのを、ハドラーはさらに問いかける。
「俺の事を改造してくれたあの時に、俺の体内に-アレ-があったのを知っていたか?」
親衛騎団達には、自分の体の損傷を勇者達との激突の末だと嘘を言った。
そうでなければ自分に黒の核晶をしこんだ大魔王に憤り飛び出していきかねなかったからだ。動けない自分ではヒム達を止められないとの判断であり、故にハドラーはぼかしてザボエラに問いかけたが果たしてザボエラは直ぐに察して答えた。
「知っておりましたが、何かをして差し上げようとは思いませんでしたな。」
そのいっそ冷淡ともいえる言葉と表情に、ハドラーは怒りではなくむしろ納得をした。
「そうだな・・・・考えてみれば俺はお前も含めて配下の者達に真に何かを報いた事は無かったな・・・」
先の大戦時、水晶の通信や配下に書簡を持たせ各軍団とのやり取りに歯がゆさを覚えていたハドラーであったが、ザボエラが開発をした悪魔の目玉の便利さを当然のごとく使い続け、死しても生命力の強い物であれば復活する蘇生液の事に対しても、そして自分の肉体を最高の超魔生物にしてくれた時の本気で感謝をした事があっただろうかと問われれば無いとしか言えない。
そんなハドラーの独白にもザボエラは心を動かさずに淡々と言葉を述べる。
「今更言われても詮無い事、儂はここにいるクロファという娘と取引をしたのでハドラー様を助けるにすぎん・・・小娘、本当にお主は儂の望みを叶える道筋があるのか?」
訝しむように見るザボエラをクロファは好感が持てるという温かい瞳を向ける。
「貴方のそういう抜け目なさが好きです。」
「ふん!言葉はいらん!!できるのかどうかだけ答えろ。」
自分の言葉にも釣られないところが益々いいと微笑みを浮かべるクロファは、ティファとは違って始めからザボエラを評価している。この爺様は凄い発明家だ。軍団長をさせても基本は研究班長や責任者に抜擢し、そして良いを作るたびに軍団の主要人物たちの目の前で褒賞を与えて誉めそやし、自尊心を満たしてやれば良いのに、そうはせずに・・・まぁそれをしてもその主よりも強い者が現れるか命が危険にさらされれば寝返るのがザボエラだろうが、飴と、力と逃げることなど出来はしないと示して裏切れば道連れにする位の鞭でもってこの爺様を囲ってやれればいいのだとクロファは思っている。
だからこその取引
この世界の似非大魔王の負けは-本格的なお迎え-が来れば確定する。
その時にと・・・・その申し出は遅くとも七日以内に分かる、駄目な時には自分にはこの世界のことなぞ知ったことではないので解放する。
その時に似非大魔王に走ればいいだろうというクロファの暴論ともいえる申し出に、七日後に決めればよいだろうとザボエラは受けたのだ。
ハドラーを助けた後は・・・あるいはうまくいかずともどちらでもいいのだから。
己の命が第一であるザボエラは、とりあえずは自分の命を握っているクロファの頼みを聞いて、さっそく治療を施し後はハドラー次第だと言ってクロファの筒に再び入れられる。
逃げようとも先程五分ほど逃げたが、何かの術でクロファの元に戻されたので抵抗は無駄だと悟ったのだ。
しかしこの小娘は自分の何かを必要としているのは長年の生き残りの中で培った勘が告げているので、そこまでは心配をしていなかった。
クロファもザボエラの双方どちらも、ハドラーは生きようと死のうとどうでもいいのだ。
「ティファ!!遅かったな!!!」
「ごめんなさいポップ兄、チウ君。薬草摘んでたら・・・」
ティファに人格を戻したクロファは、例の如く自分の記憶を改ざんさせ夕方になって戻ったのは薬草を摘んでいたせいにする。
戻ったティファを、特訓で疲れていたポップ達も出迎えそして夕食となり今日は兄とチウの三人で同じベットに眠る。
明日も何事もありませんようにと思いながら
「・・・・・誰の差し金なんだい・・・・いや・・この得体の知れなさはあの疫病神の娘か・・ピロロ・・・このお礼はたっぷりとしなければならないね・・」
「・・・・小娘さんごときが・・・」
ティファ達が眠っている時、上空のパレスでは大騒動が起きていた。
なんとパレスに在中していた魔界のモンスター達が一斉にキルバーンに向かって襲い掛かって来たのだ!!
大幹部であり死神の彼が襲われたのには訳があった。
「僕退屈なんだ、遊んでおくれよ君達!!」
残忍に笑う-キルバーン-が一つ目の使い魔を連れて暇つぶしに自分達を狩りに来た事に憤り、大参謀ミストバーンに陳情を入れに行こうと徒党を組んで彼の者の執務室に押しかけに行く途中でまたもや-キルバーン-が現れそして・・
「君達ミストに何の用なのさ?彼は今忙しいんだから煩わせるなら僕が許さないよ?」
その言葉に、パレスの魔界の戦士達の怒りの業火が宿った。
己の所業を知らぬ存ぜぬと謳いあげ、見下す様に自分達が束になればと襲い掛かり・・・そしてパレスに血の雨が降った。
「・・・僕の事を許せないって言った・・・・」
かかって来た彼らは一様に、お前が先に自分達を殺したのだろうと、襲って来たのだろうと訳の分からない事を言って来た・・・自分の姿は兎も角、死神の大鎌を持っているのを見れば軍内部から怖れられている死神だと分かるだろうにそれでも襲ってきた不可解さ・・・この奇妙さはあの疫病神の小娘の気配と似ていた!
方法は分からないが、自分の偽物でも作って彼等の一人か二人・・・いやもっと殺して罪を着せに来たか・・・・・ここにいるのは決戦時に必要な戦士達、この補充をするのにまた地上消滅の足止めをされる。
何故ならば柱を落とそうにもあの邪魔者たちを消さねばならず、自分達だけで確実にして目られずにまた地に潜られれば手に負えなくなる。
それを防ぐ為の人質作戦は潰え、ならば人海戦術をと考えていたのだが・・・何をしたのか、あらゆる苦痛をあの疫病神娘に与えた末に聞き出そうとキルバーンとピロロは誓い、そしてミストバーンとバーンに報告をしなければいけない事を忌々しく思う。
自分が他者の思惑で動かされたのだから。
その様を小さな羽虫が捉えて、兄の腕の中でクロファは笑う。
あのパレスに自分の闘気を沁み付けた物を複数おいてきた。
それを陣としてこっそりと作った偽死神を複数こさえてパレスの戦士達を複数人大鎌で首を掻き切らせた。
式には戦う力がなく衝撃を受ければ消えてしまうが、それでも不意を突き柔らかい喉笛くらいは一度きりであれば掻き切れる。
小物の一人二人なれば、そこまで代償はいらないはずで、そもそもが柱で数多の命が奪われるはずのこの世界の帳尻合わせの一環くらいにはなるだろうと考えての謀略戦。
衝撃で偽死神が消えても、神出鬼没な死神の仕業だと、目の前でこれまで互いを支えてきた戦士達が-退屈しのぎという残虐なる理由-で殺されれば憤りを覚え不振の種をまいて諍いでも熾せればと思っていたのだが、思った以上の収穫にほくそえんでクロファは安心をして眠りにつく。
綺麗事だけで勝てるほどこの世界は甘くない、あちらの世界の様に優しさと善意だけでは不足だと感じるがクロファは別にそこを突くつもりは毛頭ない。
この世界のアバンもその為に様々な策を敵味方双方に仕掛けたが、彼自身この世界のあの外道の本当の怖しさを己の目で見ていない。
足止めさせるにはまだ不足だった事をクロファが補完した。
不足しているのに力を貸すにも住み分けをすればいいのだ
この砦全般の表の綺麗な事は全て兄とチウとティファがすればいい。
そして自分が魔王軍相手に謀略戦を仕掛けてやればいい。同じ手は二度は通用しまいがそれでも、これだけ時間を稼げればー色々と間に合いー似非大魔王の最後は決定だろう。
最後のピースも手に入れているし・・ふぁ〜、ティファ曰くの何とかなるだろう
しかしだ、ここまでしても世界が滅んでしまっても、自分達は悪くないでしょうし
今宵ここまで・・・・
物凄い謀略戦で幕です。
この世界のアバンも謀略戦を仕掛けましたが、それでは不足だとクロファの登場と相成りました。
自分達の世界のバーンやキルバーンとは違う悪辣さに、今のままのレベルの小石世界のダイ達では勝てないと見切り、時間を稼ぐべく彼等と同等の謀略戦を仕掛けました。
ハドラーもザボエラもこのさき必要となる人物達になるのですが、今回はここまでとさせていただきます。