ティファは待っていた。ただひたすらに、兄かチウ達を伴ったアバンかノヴァとヒュンケルの誰かが来るまでひたすらに。
追加の式取り出すか戦場に来たら自分で自分の腕を燃やし潰すと言った兄の言葉は本気だ。
兄は・・・兄達は己の言葉を曲げない・・・それこそ己の命を懸けて守り通す、きっと自分がどちらかをすれば、兄は魔法のグローブを外してメラゾーマで両腕を焼き切る事をする。
だから・・・ひたすらに待って日が暮れる前に自分を呼ぶ声がした。
「ティファさん!ティファさん!!」
この世界のチウよりも大きくなったことで少しばかり低くなったチウの声が、そしてアバン達の声もする・・・何かとても焦ったような声に、ティファは胸騒ぎを覚えてすぐに声の下へと向かった先には・・・・
「ポップ兄!!!!」
キメラの遺骸を抱え、呆然とした兄が少年ダイ達に守られるように囲まれている異常な光景に、ティファは内心で歯嚙みをした。
自分の世界に引きずられすぎた事を後悔した・・・原作で地上のモンスター達の狂暴化とその後の顛末を-知識-で知っていたはずなのに!!
砂煙で確認できなかったとは言えどもその可能性を考えもせず、警告も発せられなかった無能な自分を今すぐに殺してやりたいが今は其れよりもすべきことがある!!
「にぃ・・・おかえりなさいにぃ・・・帰ろう、砦に皆で帰ろう。」
ここは未だに敵地と変わらない。悪魔の目玉の気配をそこかしこに感じているティファは、兄の下にたどり着く前に大規模結界を張り巡らし、各隊の点呼をアバンが急がせそして帰途につく。
自分の声を聴いても顔を上げずに、キメラの遺骸を離さないポップをダイ達が両脇を支え一路隠し砦にたどり着く。
ベンガーナ・ロモスへの侵攻を防いだ隊は士気を大いに上げる中、パプニカの平原での若き魔法使いの惨状を目にした者達は素直に勝ち戦だとは喜べず、アバンの指揮の下負傷兵から城に入れて回復魔法ないしティファが買い付けてきた薬草での手当の準備を進めさせる。
そしてアバンの最重要事項はそこではない。
負傷兵に重篤者はおらず皆三人一組の体系を崩さず、そのおかげで一部まひや痺れは見られたが薬で賄える範疇であり、軽傷が多いのでそこは心配はしていない。
平時においてもモンスター達がごく稀にだが群れの頭数が多くなりすぎ群れ全体が飢えて自然狂暴化するスタンピードでこれよりも深刻な重傷者を出すこともあり、それに比べれば何という事はない。
一番の問題は異界のポップが、まさか-あれしきの事-で心砕かれるとは予想外であった。
ポップの話では魔界のモンスター達相手には自分達と変わらない姿勢で立ち向かっていたが、こと地上のモンスター達への攻撃時には顔は強張りそして・・・キメラ数羽を斬った瞬間に、異界のポップは-全て-が崩れたのだと。
誤算だった・・・まさか異界のポップがそこまで地上のモンスター達に心を寄せていたとは・神算鬼謀とまで言われたアバンをしても予想しえなかった。
何故ならば地上のモンスター達は魔界からの勢力が進攻してくるたびに狂暴化してしまう悲しい一面があり、だからこそ人間から忌まれ怖れられそして平和な世になっても怖れの対象とされるのだ。
だからこそ大戦を終わらせてきた彼であれば、数年というブランクはあれどもダイ達のサポートをこなしつつ、的確な指示を出しながら戦場において若き勇者と魔法使いに自分の持っている戦いの知識を実践で教えてくれるとアバンは見込んでいたのだが・・・
「にぃ・・・・眠い?後の事はティファがしておく・・・-この子-をこの筒の中に入れてあげよう?筒なら腐敗しない・・・戦いが終わったら景色のいい所にティファとにぃで埋めてあげよう?」
「ん・・・・そうだな・・・そうしてやろう・・・」
砦に辿り着いたアバン達はまず真っ先に負傷兵の手当てに動いた時、ティファは真っ先に兄の心の手当てを優先させた。
ざっと見た限り自分の手がいる程の重傷者はいないのを見て取り、アバンとダイ達には理を入れ、兄をここ二日間自分達が寝ていた部屋に引っ張った。
目に力はなく、自分に引っ張られてようやく歩く兄をティファは情けない兄だとは欠片も思わない。
兄は、自分の持てる力全てを使って戦場から逃げ出すことなく戦い抜いた偉大な兄なのだから・・・・心を砕いても若き勇者達の為に。
そして部屋につきすぐに兄を寝台に挙げて背中に二人分の枕を入れて上体を起こし、先ずはキメラの遺骸を受け取り筒に入れた。
-この世界の大戦が終わった後に-ともに埋めに行こうという妹に、ポップの強張った表情が自然と緩み、そして誰が何を言ってきても離さなかった遺骸を引き渡す。
どこにいても優しい妹の心が嬉しく、そして賢く諭い妹ならば戦場で何があったのかを察せども、直接見せなくて済んだ事に安堵して。
「先生!!ポップさん大丈夫なの??!!」
「どうしよう・・・俺達がもっと強ければあの人が戦場に出なくてよかったのによ・・」
間近で青年ポップの心が砕ける様を見たダイとポップは居ても立っても居られないありさまで師を頼る。
彼等には青年ポップの心がどうしてあそこまで傷ついたのかがそもそも分からない。同じような魔界のモンスター達相手の時は普通だったのに・・・
「ダイ、ポップ・・・少しそっとしておいてあげましょう。」
「・・・・それでいいのかアバン?」
「ヒュンケル・・・」
回復呪文が使えるマァムと共に負傷兵を運ぶのを手伝い、マァムは手当てに残り、自分は運ぶのにひと段落が付いた頃に起こったアバンと弟弟子達のやり取りを黙って見ていたヒュンケルが、珍しく口を挟んだ。
どうしても師に対しての罪悪感から素直になれず、遠巻きに見ていたヒュンケルだったがあの青年ポップの事が気がかりで口を挟んだ。
しかしアバンの言葉に変わりはなかった。
「元々彼を、そしてチウ君を戦場に出す気はなかったのです。-帰れるその時-まで私達の手伝いをしていただけただけでも僥倖だったのです。」
そのおかげでたった三日間という短い期間でダイの折れた心は折れる以前よりも強くなり、ポップ達も二日間の彼の特訓で格段に動きが良くなっていた。
そしてお調子者の一面をのぞかせる彼の存在が、殺伐とした砦の雰囲気を明るくもしてくれていたのだ。
地上のモンスター達を相手に出来ないのであればそれでも構わない・・・そもそも彼等をほぼ無傷であちらの世界に返す予定が・・・己の見積もり甘さで彼に要らぬ傷をつけたのだ!
自分が強固に固辞していれば、あの子供ならば引き下がったはずなのに・・・期待をしてしまった・・・縋ってしまった己をアバン自身が許せなかった!!
「残虐な死神の目にもとまってしまったのです・・・ヒュンケル、私は貴方達同様に彼等を守りたい・・・分かってください・・」
なまじな回復をさせて戦場に出してまた傷つき、最悪は死神の大鎌が彼を捉えないとも限らない。
残虐を好み、向こうのチウの純粋な心を傷つけ涙を流す様に悦んだキルバーンに、異界のポップが目をつけられてしまったのであれば・・・心の回復はここではさせず、戦場に行かせずにに迎えを待たせた方がいいという非情なる決断をアバンは下したのだ。
最悪は自分の首を落とし前として、迎えに来るであろう者達に渡す事を視野に入れているアバンは、叶う事ならば大戦が終結するまで待ってはくれまいかと算段をしている。
彼等を愛しているという者達が来るその時まで、自分の何もかもを引き換えにしてでも守り抜くのだと、言葉には出さずとも決意を表情に浮かべているアバンにヒュンケルは師の覚悟を受け取りそうかと一言言い放ち頷いてその場を立ち去った。
妹弟子達の手当てを受けた負傷兵達を今度は各部屋に行くのを手伝うべく、青年ポップの事で胸を痛めて泣いている弟弟子達を師に託して。
「以上の事により、異界のポップを戦場の立たせることをしないと提言しますが、皆さんはどう思いますか?」
青年ポップと共に部屋にいるティファと、獣王遊撃隊と共に今日の出来事の反省会をしている異界のチウを抜いて、主だった者達大広間に再び集め、フローラが臨席する中で成されたアバンの提言に、おおよその戦士達は驚きを隠せなかった。
「しかしアバン!彼の魔法使い殿はこの大戦と同じ戦いを終えられたのだろう!!??」
「そうだ!実力も一級品で敵を倒す為の知識は我ら以上なのだぞ!!」
何があっても三人一組を崩すなとはあの異界の魔法使いのこの二日間での特訓での教えであり、互いに背中を庇い合い二人が地上をもう一人が上空を警戒することで死角を無くす事で生存率を高め合うのだと教わった彼等にとっては、まさしく死者どころか重傷者を出さなかった知恵を授けてくれたポップが、-たかだかキメラ数羽-の為に心が壊れかけているとは信じがたかった。
異界の魔法使いの教えは理論や机上の空論では決してなかった。実際の戦場を多く潜り抜けてきた経験に裏打ちをされたものであったのを、ここにいる戦士達が一番肌で感じている。
彼は数多の死線をここにいる若き勇者達以上に潜り抜けてきた、本物の戦士であるのだと。
「きっとその戦場に出来てた死神とやらが何かの悪しき呪法をかけられたに違いない!」
「アバン!お前確か破邪の洞窟の深部に潜り込んだんだろ?なにか呪いを解く方法はないのか?」
「戦場に出す云々はいいから彼の魔法使いの心を解き放てやってくれ!」
誰もが、純粋にポップを案じている。
彼等は一様に悪辣なる死神の魔の手によって、心を汚されたのだと信じている。
しかしアバンはその考えを否定した。
話で聞く限り、異界のポップの攻撃はキルバーンですらが反応できない程決まりかけ、運よく-一つ目の使い魔-の援護がなければ仕留めかけていた。
そんな中で呪法を使う暇はなかったはずだと。
しかし彼等は、この世界にの戦士達にとってはアバンの説明こそが納得がいかなかった。
「アバン・・・俺達はここにいるダイ殿が彼のモンスターアイランド・デルムリン島で育っていたのを承知している。だがそのダイ殿とても!敵になったからには地上・魔界の区別なく敵になったモンスター達を倒しているではないか!!」
そこが一番の問題であった。幼い頃からモンスター達を共にしてきたダイですららがきちんと戦っているというのに、歴戦の兵たる異界の魔法使いがそれに躓くとはとても思えなかったのを、彼等は悪意無き想いを口に出す。
「-たかが敵のモンスター-を倒したからと言って!なぜあの魔法使い殿の心が傷つくというのだ!!」
「そうだ・・・やはり魔界の恐るべき呪いが・・・」
その言葉に、ダイもヒュンケルも苦いものを感じるがそれでも賛同できる部分がある。
二人も共に魔物に育てられそして今は敵になった彼等をやむおえずとは言えこの手で倒している。
それは決して敵を倒したのだという心を明るくさせる者ではないが、だからと言って心に傷を負う程の事でもなかった。
彼等は狂暴化してしまい敵となってしまった。ならば倒さねばならないとその事に疑問を持ったことはなかった。
それをして諭いアバンやあのマトリフすらも見誤っている。この世界では、狂暴化したモンスター達は倒さねばならない事に、何故異界のポップの心が傷ついたのかを掴み切れていない・・・・そして妹のお陰で少し心が軽くなり、心配をかけたと詫びに来た時彼等の言葉を聞いた異界のポップがその言葉に怒りを感じて大広間に怒鳴り込もうとしたのを、反省会を終わらせ偶然大広間に出向いた-チウ達-が必死に引っ張り中庭に連れ去った事を。
「放せ!!放せよチウ!!お前達二人してなにすんだよ!!」
中庭についたチウ達は、暴れようとするポップを持ち前の怪力で押さえつけている。
今放せばポップは怒りに任せて大広間で何を言い出すか分かったものではない。
自分たちの耳にも入った言葉がポップの怒りに火をつけてしまった事は承知しているが、それでも尋ねた。
「ポップ・・・・そんなに何を怒ってるの?」
静かなチウの言葉に、ポップの頭にかっと血が上った。
「ふざけんなよ!!あんな・・・たかが敵のモンスターってあいつ等は言ったんだぞ!!あいつ等は・・・あの地上のモンスター達は・・・好きで暴れたくなかったのに!!」
異界のポップの言葉に、この世界のチウは目を丸くする。敵になってしまった彼等に同情しているのかと、頭が少しおかしいのではないのかとすら思った。
同族同士だとて縄張り争いで争うのが自分達であり、そもそもモンスター達を気に掛ける人間は時折いるがそれは平時での気まぐれか余程優しいか馬鹿なのかのどれかであり、基本はあんなものであると、チウ自身が一番知っている。
そしてそれは異界のチウも良く知っている。それは大戦前から、そして大戦後にも味あわされたあの事件以降も、ポップよりも世界を飛び回っているチウだからこそ知っていた。
それは言い辛い事ではあるが、チウは意を決して話始めた。
「ポップ、-僕達-モンスターに対する世間の目はあんなものなんだよ。いつ暴れるか分からない不気味なものなんだよ。」
その言葉に、ポップは頭を鈍器で殴られる思いがした。
チウが、何を言っているのかすらが理解できなかった。
確かにティファが目を覚ます前にロモスでチウをモンスターだからと侮り、言葉でなぶりものにした馬鹿達がいた。それは宮廷の腐った世界での出来事だとポップは思っていた。
世界ではモンスター達は穏やかに暮らし、現にテラン・パプニカの海岸近くでは人とモンスター達が近くで暮らしていても互いに危害を加え合う事がないのをポップは知っている。
そして・・・デルムリン島では大魔王の誕生日を祝った浜辺での鍋パーティーでは、多くの島のモンスター達も共に楽しんで・・・笑い合っていたのに・・・
「ポップ・・・」
ポップの考えを何と無しに分かったチウは、言葉を続ける。
「僕達獣王遊撃隊が、ゴメスさん達と一緒に時折起っちゃうスタンピードを退治しているのは知っているよね?」
「ああ・・・いっつもお前達だけにやらせて・・」
「それは良いんだよ。ポップにはポップがしなければいけない事があるけれども今はそこじゃないんだ。
山奥や都市部から離れたところではもう-僕等-に対しての警戒心が芽吹いているんだ・・」
「・・・な・・に?」
「僕らモンスター達は矢張り怖い物だって・・」
スタンピードや災害救助に駆け付けても、近頃は感謝されるのは人間のゴメス達であり、酷い所ではあれ等も今の内に退治した方がよいのではとコッソリと訳知り顔で言ったものを、ゴメスが怒りでその者を殴り飛ばし、フォブスター達がその者の村の長に、ゴメスの行為が正当であると申し立てる騒ぎが二回ほどあったのだ。
人は矢張り怖いのだ、訳も分からず暴れるモンスター達を。
腹がすいたが為に自然狂暴化してしまう事、頭数を減らせば落ち着く事、産卵期を、縄張りを、えさの保存場所だと知らないから・・・識ろうともしないから・・・・自分達の立ち位置はこのような者だと、異界のチウは儚く笑ってポップに告げるのを、この世界のチウは何を当たり前の事を話しているのだという表情に、ポップは堪らなくなった!
「ふざけんなよ!!!!」
ポップは万力を以てチウ達の拘束を引きはがしそして二人のチウを胸に抱きしめそして叫びあげた。
自分は今まで知らなかった・・・・地上のモンスター達が置かれつつある現状を・・その現状に対する怒りと、知らなかったことに対する無知なる自分が憎くて。
「お前達だって生きているのに!!この大地で共に生きている同じ生き物のお前達が!!そんな扱いを受けているのが当たり前でいいわけがねぇじゃないかよ!!!」
たった数年・・・・・それだけで魔界の惨状を知り救いたいと願う者が多かった地上の人達に芽生えた・・・あるいは甦った考えに、ポップは怒りを覚える。
「飲んで食って笑って騒いで!!!俺達と何も変わらないじゃねぇかよ!!お前達と俺達と何が違うってんだよ!!!!!」
優しい優しその怒りに、この世界のチウはポップの本気を知って驚きながらも、それが嫌ではないと抱きしめ返す。自分を暗い世界から引き揚げてくれた老師様とマァム・ダイ・ポップ・ヒュンケル、そして自分を認めて獣王の笛を託してくれたクロコダイン以外にも自分を案じてくれる者がいるのを知って嬉しくて。
そして異界のチウは悲しくなる。この優しい考えはきっと、ポップ達の死後には消えてしまう事を感じているから・・・・たった数年で忘れ去られていく、優しい心が朽ちていく様を見せつけられているチウは、どうかこれ以上この優しいポップ達を傷つけないでと祈りを込める。
自分達の世界はあまりにも幸せだったのだと思い知る事がこれ以上ない事を願って
今宵ここまで