ガンガンガン!!!
ポップが中庭でチウ達から辛い現実を教えられているその時、大広間は未だに青年ポップを案じて今後どうしてあげるべきか、戦場には出さずに特訓だけでも手伝ってもらうべきか、それともこのままそっとしておくべきなのかで意見が割れてる。
アバンとしてはそっとしておく方であるが、ダイ達としては矢張り実戦から得られている戦い方をもっと教わりたいと思っている。
それに体を動かした方が余計な事は考えなくて済むのではなかろうかという体育会系のちょっとアレな思考が割と多く、ノヴァとしても、自国が攻め滅ばされて鬱々として来た時矢張りじっとしているよりも何かをしていた方が気が紛れ、もう数ヶ月もたったのだと驚いた経験から、特訓でないにしても何かしらをしていた方がいいという意見に、父であるバウスンやカール騎士達にも頷く者達がいる中突如として金盥が叩かれた音が大広間に満ち溢れた。
その音源はどこからとみてみれば、入口に空の小鍋とお玉を持ったティファがいた。
見れば彼女所の後ろにはごっくんとむっくんとそして似たような式達が夕食のパンとスープを持って待機している。
「お話合いが終わりそうにもないのでとりあえずご飯にしませんか?」
空腹だと碌な事考えないので温かいもの食べてくださいというティファに、ダイはどうしても聞きたい事があるとティファに迫った。
「お姉ちゃん!!ポップさん大丈夫なの!!??ポップさん一体どうしちゃったのさ!!」
「ティファさん・・・・」
ダイの真っ直ぐな問いに、アバンはティファが答えてくれるとは思っていない。
ティファは常々自分達の行動には何かしらの対価を誰かが何かが支払う可能性があると言っている。
奇跡の万能薬はマザードラゴンの肉体と、助けられたバランは己の竜の騎士としての力全てとダイの絆を持っていかれた事からそれが伺い知れる。
情報は値千金と言われている。この場合は比喩では決してなく、だからこそティファは力強い言葉や助言はくれどもあちらの具体的な話や経験に基づいた話が一切なかった。
毎食の用意もフローラがきちんとお金を払い、ティファ達は砦で過ごせるというギブアンドテークが成立しているから大丈夫だと言われている。
そしてポップの特訓も、己の身を守る為に周囲を鍛えているのだからそちらもそれで釣り合いが取れているらしい。
しかしダイのこの問いには、おそらく青年ポップが地上のモンスターを倒したからと言って心が砕けかけたのは、向こうでどのような戦い方をしていたからだという具体的な情報を開示しなければならないだろう。
そうでなければ説明がつかない程、自分達にとって青年ポップのあの有り様が分からない。
もしかしたらダイの様に幼い頃から共に育ったモンスターが狂暴化し己の手で倒したなどのトラウマがあり、魔法使いとして今日の様に攻撃の支援サポートを専らとして直接手に掛けたことが無いのではないかとさえもアバンは考えている。
しかしそれはティファからの情報を得なければならず、対価が発生するのではないかという危惧から聞けず、ダイがどれ程青年ポップを案じようともティファも困った顔をして申し訳ないというのだろうと見ていたが
「ダイ君、皆さんも、兄は確かに今苦しんでいます。しかし兄は、兄達は様々な困難だけではなく今日の様に己の心を砕くほどの苦悩を何度も経験してきて、その度に立ち上がって来たのです。
兄は優しいですが決して弱くありません。
ですからほんの少しだけ待ってあげてください。」
自分のシャツを懸命に握りしめて兄の様子を教えて欲しいというダイの手をティファはそっと握りしめて大広間にいる全員に優しく語りかける。
そしてティファの言葉は続いた。
「皆さんはどうして兄がキメラ数羽を倒したからと言って心に傷がついたのか不思議でしょう。」
「う・・・うん、俺も・・・デルムリン島のモンスターのみんなは友達だけど・・・戦いなんだもん。」
ダイの悲しそうにしながらも割り切っている考えに、ティファは悲しそうに笑うのをダイも大広間にいる戦士達も不思議になった。
戦いをしているのが悲しいのだろうかと思ったが、次の言葉は途轍もない返答であった。
「私達の世界の地上のモンスター達は、少なくとも陸のモンスター達は狂暴化をしなかったのです。
私達が戦い倒したモンスター達は全てが魔界のモンスター達ないし戦士達だけだったのです。」
その答えに大広間にどよめきが奔った!
それは無理もない話で、魔界側の侵攻の度に地上のモンスター達は魔界の邪気や邪悪な気配によって狂暴化をするというのは不問律に近く、例外は破邪系のマホカトールやミナカトールと言った結界を施した中のモンスター達が浄化され狂暴化がなくなった時のみである。
「詳しい事は本当に対価が発生しますのでこれ以上は言えない事を申し訳なく思います。」
その奇跡のような現象がどのような方法で起こったのかを尋ねようとしたアバン・マトリフ達を敬遠するように、これ以上は言えないというティファの言葉と詫びに、一同の口が閉ざされるのを見すましティファの言葉は続いた。
「皆さんも想像してみてください。例えば戦場で魔族との戦士同士の戦いの時、相手が自分が殺されそうだからと従卒で戦場に出てきた魔族の子供を盾代わりにされ斬り殺したとしたら・・・その魔族の子供に闘う術があろうとも無理やり連れてこられた幼い子供であったなら・・・はたして皆さんも敵を倒したのだと胸を張れるでしょうか?」
物凄い具体的なティファの問いに対して全員が真剣に考えそして・・・呻き声がそこかしこで上がった。
確かに魔族の戦士との戦いに否やはなく、倒せれば何の問題も無い。
しかし魔族だから行って、敵対心の無い従卒で連れてこられた幼い魔族の子供を身代わりとして斬り殺してしまっては・・・・だから・・・
「俺・・・俺だったらやだ!だってその子は闘いに来たんじゃないんでしょ?敵って言えないじゃないか!!!」
誰もが思いながらも、それでも魔族を倒したのだからと苦い思いをしながら否やが癒えない大人達を代弁するようにダイが叫んだ。
敵は倒す。それでも・・・魔族だからとって敵になっていない子供を斬るなんて嫌だと、泣きそうになりながら少しだけ青年ポップの心が分かった気がした。
「つまりポップさんにとっては、地上のモンスター達ははそう言う括りになるって事っすかティファさん?」
ティファのたとえ話から青年ポップの心の一端を割り出した少年ポップの言葉にティファは頷く。
「その通りです。あちらの世界では兄と地上のモンスター達は仲が良く、デルムリン島はもとより、テラン・パプニカの海岸付近・ロモスの王都近くの森などで人々と穏やかに過ごしているところがあるのです。」
あちらの世界の・・・なんという夢物語の世界かとカール騎士達はおろか、アバンとマトリフまでもが何かの物語でも聞かせられているのだろうかと呆然とした。
まるで幸せしか存在しない子供に聞かせるお伽噺のようだと・・・
その反応は当然の事だとティファは受け止める。
自分が神々達が用意してくれた破魔の石を、大戦以前から世界各地においてきてからこその絡繰りであり、そもそもが自分という本来存在しない者の介入ありきなのだがそこまで教えるつもりはない。
たとえ-対価・代償の件-が多少なりともかたが付いたとはいえども、必要のない話だと。
伝えたいのはそこではない。
「兄は其れでも戻ってきます。どうか待ってあげてください。」
確信に満ちた言葉、青年ポップならばきっとたち直り戻ってくるとティファは頭をダイ達に向けて深々と下げる。
何故なら兄ポップが戦う理由は、-誰をも見捨てない-事なのだから。
ティファの信じる心に答える様に、ティファの頭に大きな手が優しく置かれる。
「ありがとうなティファ、情けねぇ兄ちゃんの姿見せちまって。」
優しい手つきと同じくらいの優しい声の主は、自分の晒した醜態にも動じずに自分を信じ切ってくれた妹に感謝の言葉を述べた後、様々な事に驚いているダイ達に向かって妹と同じく頭を下げた。
「俺のせいで折角あの外道死神を叩ける機会をふいにして申し訳ない。己の未熟だと恥じ入るばかりです。」
それはとても真摯で、先程まで腑抜けていたものとは思えないほどの強い声音に、青年ポップの心境の変化はどうした事だとアバンですらが図りかねているのを、ポップがチウ達を抱きしめ泣きながらも答えを出してきた。
その携えてきた言葉を頭を挙げながら話し始めた。
「俺達の世界では地上のモンスター達は少なくとも陸では狂暴化をしなかったので、俺は地上のモンスター達を倒したことが無いんです。」
先程のティファと同じ事を言う青年ポップの言葉に、ティファの言葉は真実であったのかと驚く中、青年ポップは顔をしっかりと上げて決意を述べる。
「それでも俺は、この世界にいる限り闘う事を辞めたくない。俺がうじうじしてたって、泣いたって少年勇者達が戦わなければならない事に変わりはないんだ。」
温かいチウ達の体温を感じながら、自分が沈んだとてチウ達は今日の様に戦場で誰かを助ける為に闘い、まして友達どころか家族にも等しい地上のモンスター達を少年ダイが倒しているというのに自分だけが安全な場所でめそめそしていたくはない。
懸命に戦い抜いてきた少年ダイ達を見捨てないと決めたのは自分自身なのだから。
「俺に出来る事を成し遂げたい。ここから向こうの世界に帰った後も胸を張って生きていく為にも、其れよりもこいつ等を、こいつ等を支えて戦っているあんた達を見捨てたくなんて絶対にない!!誰かに酷い事を押し付けてのうのうと生きていくなんて俺はごめんなんだ・・・・逃げた先にはきっと何もなくなっちまう・・・皆優しいから俺のせいじゃないって言ってくれても俺自身が知ってる・・・逃げた事を、戦える力があるのに手前ぇよりも小さな子供に何もかもを押し付けた事を・・・・そんなの絶対にご免だなんだ・・」
少しずつ、泣きそうになるポップの言葉に特に少年ダイとポップの胸の内を揺さぶる。
ポップはロモスにおいてクロコダインの力にビビッて仲間を見捨てかけた。
しかし偽勇者の一行だと馬鹿にした魔法使いまぞっほの一括に勇気を貰って青年ポップと似た様に答えを出して戦場に舞い戻った。
俺にだってプライドってもんがあるんだ・・仲間を見捨てってぬくぬくと生きていくなんて・・・死ぬよりかっこ悪りィやって・・そう思っただけさ
あの時の苦悩を、今この凄くて何でもできると思っていた青年ポップは大戦を戦い抜いき平和を守って来た魔法使いとしての矜恃を以て、乗り越えてきたのだ。
それはダイも同じ事を感じ取り、青年ポップに近づき抱き着いた。
「ポップさん・・・・俺も・・・俺達も頑張る・・・だから無理しないでね?戦えなかったら言ってくれていいんだから・・・俺のポップも、俺に戦いが無理でもそれでもいいって言ってくれたから・・・」
「ダイ・・」
「ポップ殿・・・・我等を鍛えてくださるだけで十分です!」
「そうです!異界の事情がここと違うと分かりました・・・・俄かには信じがたいですが・・・」
「無理だけはなさらないでください!!」
「戦いはなにも勇者達だけではござらん!!我等もいるのです!!!」
「貴方達だけに闘えと言うものはここにはおりませんぞ!!!!」
魔法使いの携えてきた答えに、戦士達の胸を熱くさせた。
確かに向こうはあり得ない程の奇跡が起きた場所かは知らない。それでもその現状に甘えず、己だけが守られることを潔しとしなかった、青年とは言えまだまだ大人達から見れば子供ともいえるポップの答えはそれほどまでに重大であった。
それは偏に、異界から攫われてきたからと言って愚痴一つ弱音一つ吐く事は無く、それどころか己達を鍛えてくれた健気な人であったから。それがあったればこそたったの三日という短い時間しか過ごしていない彼等に、ポップは信頼を得て、そしてかれもまた仲間なのだと全員が受け入れたのだ。
その事を、情けない自分を励ましてくれる砦の者達の心が嬉しくて、ポップの顔は次第に歪み涙が零れそうなのをぐっとこらえて宣言する。
「ご迷惑をおかけしました!!今日の食事配りは俺が全部します!!!」
その言葉に、青年ポップが出した答えだとは言え受け入れてよいのだろうかと迷っていたアバンの背中を、マトリフが強く叩き、何をするのだと振り返ったアバンに対してマトリフは二カリと笑った。
あいつの出した答えを尊重してやれ、何があっても俺達はバックアップしてやろうぜという無言の言葉に、アバンは溜息をつきながら目の前の光景を見守る。
それは青年ポップを囲んでダイとポップが抱き着き、マァムとメルルとレオナは例の可愛いエプロンを取り出し手伝う気満々であり、ヒュンケルとクロコダインもテキパキと支度を整える中で、青年ポップの頭を大人達が頭をわしゃわしゃとしている光景を目に焼き付けんとしているアバン達は気が付か無かった、否!先程ま頭の中に持っていたあるティファの言葉に生じた疑念が抜けてしまった。
向こうの世界の話には対価が必要だったのではないかという事を。
それを見ているティファは-色々と間に合った-とほっとする。
本当はー詳しい事ーでなくとも、向こうの地上のモンスター達が凶暴化をしなかったというのは割と重要情報であり対価がいるのだが、その対価を気にしなくても良い様にする為に兄ポップがちょっと出てくると言って部屋を後にした後、ティファもすぐに-外-に出た。
式達に夕飯の支度をきちんとさせる様にしてから。
それはこの世界のテランの湖の中にある竜の騎士だけが入れるという神殿に行き、試してみれば入れたので中央に安置されている水晶に話しかけた。
一度はバランによって神殿が崩されたような描写が原作であったので、大戦後目を覚ましたティファは一度神殿を訪れてみれば復元されていたのでもしやこちらもと思い来てみればビンゴであった。
そして水晶に自分の事を知っているかと問えば、マザードラゴンの思念体と繋がっているので知っているというので好都合だとマザードラゴンを呼び出し、この世界で自分の-動ける範囲-を増やしたいと話、其の為の条件付けを申し出たのだ。
敵を倒すにも、向こうの情報を開示するにも対価を気にしていては動けないのでは-自分の存在意義-に意味がない。
「私は向こうの世界の生命の運命の流れを弄り過ぎたと代償を払わされましたが・・よくよく考えてみれば厳密には違うのでしょうね・・」
ティファの一切を向こうのマザードラゴンから聞かされているこの世界のマザードラゴンは真剣にティファの考えに耳を傾ける。
向こうでティファの生命と魂が、戦いの終わりに持っていかれたのも当然知っている。
だが対価・代償の神マリシュースが説明した内容にティファは疑問を持ってずっと考えて、そういう事に詳しそうなヴェルザーに問うてみた事がある。
「向こうの世界で大魔王達が落とした柱によって、傷ついた大地と龍脈の修復に大量のエネルギーが必要だった。それはその時死ぬはずの生命体か、六大精霊王様たちと大勢の精霊達が贖う筈だったエネルギーを、私のせいで得られなかったせいもありますよね。」
きっとそういう理不尽にも思える程のエネルギーの循環の話よりも、人々の生命の営みを阻害したと言った方がお前が傷つくだろうとから、あの悪神のやりそうなことだとは、自分の考えた事をヴェルザーに言ってみたティファに対しての、ヴェルザーの答えであった。
人の、生命の誕生と死はほんの少しで変わることなぞざらにあり、であるならばその営みの邪魔をしたと言って、世界を繋げたエネルギーに加えて、ー大魔王の魂ーまでも取るのは少々取りすぎであるだろうと、あの悪神に人生を弄ばれたようなヴェルザーだからこその正確な感想であった。
それが正しいのであれば
「この世界にはまだ柱は一つも落とされておらず、大地も天地間のエネルギーを循環させる役割を担っている龍脈も傷一つないでしょう。」
それはこの世界が辿る筈だった運命によって消費するはずだったエネルギーが余剰として出るはず、それを自分によこせと。
どこにいようとも-勇者一行の料理人-は、勇者達を最大最終の敵の下まで送り届ける為に-何をしても仲間を守り抜く-ことが第一であるのだから。
ティファもまた兄と同じく己の矜恃を掲げて決断を下した。
柱を最悪は一本で止める事、それ以上は自分の行動で支払う対価・代償を自らの寿命で賄うと、それはいけない、やめてほしいと必死に懇願と説得してくるマザードラゴンの言葉を蹴り飛ばした。
元は貴女達が始めた事なのだ、最後まで黙って見届けろと言葉で押し潰したティファは、この世界の命運と己の生命を紐づけにしたのだ。
それをティファの中で見ていたクロファは拍手喝采を持って主人格を誉めてやる。
それでこそだと。
己自身を平然と賭けの対象としても信念を貫くことこそがー自分達ーの存在意義なのだから
・・・・其の事に後悔はないのだが・・・・明日には来る救出隊に何と言おうと苦悩しながらティファは兄を手伝いスープをよそう。
食事の準備も料理人の仕事なのだから。
今宵ここまで
原作でも、怯えて逃げながらも、苦悩し周りの言葉に助けられたダイとポップを参照にさせていただき、向こうの世界のポップにもたち直って頂きました。
そしてそれを支えるべく、主人公が本当の意味で本領発揮しました。
すなわち味方にも何も言わずに守る体制を万全にするために己の何もかもを賭けたのです。
次回また激突となり、そしてとうとう異界から助けがやってきます。