ティファが己の全てを使い切る寸前まで不安の渦中にいる人々を励ましているその時、過酷な戦場であってもカール平原・パプニカの平原で戦っている地上の戦士達は誰もが前に出て戦い抜いていた。
-パプニカの平原-
こっちに魔王軍最強と評されてるミストバーンが来るって運が悪いんだか何なんだかと、内心で悪態をつきながら負傷した仲間達を残りの仲間と円陣を組んで守り抜きながら戦う中、ダイとヒュンケルがタッグを組んでミストバーンと打ち合いをしている。
戦場は地上側が序盤から崩されたのだ。
ミストバーンは上空に現れると同時に、引き連れてきた自らの軍団のシャドー達に一斉に冷たい息・ヒャダルコで地上軍を一斉攻撃を仕掛けたのだ。
それは上空からであり不意の攻撃でもあり防ぎようの無い物であった。
ポップやフォブスター達といった火炎呪文を操る魔法使い達は咄嗟にメラ系を上空に向けて放ち相殺を狙い、ダイは竜闘気を全開にして周囲の人々を守ろうとしたが、シャドー達の数はあまりにも多く、そしてヒャダルコの攻撃の最中ミストバーン自身が地上に赴き騎士・兵士達を蹂躙し始めた。
どれほどの数がいようともミストバーンからすれば紙を切るのと大差はないとばかりに向かってくる兵士達を易々と両手の剣で切り裂こうとしたのをすぐさま横槍が入った。
文字通り槍を持って戦うかつての弟子が、一直線に自分に向かって来たのだ。
「ミストバーン!!!!」
・・・・あの弟子には、敵に対して叫びながら斬りかかるのは愚かな事だと修行中散々に打ちのめして教えてきたものをと失望を再び覚える。
あれほど目を掛けていただいたのに人間の中に戻り、弟妹弟子達と共に魔王軍ひいてはバーン様に反旗を翻した愚かなかつての弟子。
しかしその愚かさが今は都合がいいと、ミストバーンは邪魔だとばかりにカール騎士・兵士と有志達を無視を払うかの如く暗黒闘気で吹き飛ばし、元弟子が自分の下に辿り着きやすくしてやる。
程なくすれば-代わりの肉体-が必要になる。その前に、その時の為に-育てた肉体-を回収するべく。
「ダイ・・・ここは俺とマァムとおっさんとノヴァで防ぐ、お前はヒュンケルとミストバーンを頼む!フォブスターさん、まだ行けますか?」
「は・・・子供にそう聞かれては大人として大丈夫だと意地でも言わせてもらおう。」
「ポップ・・・マァム、クロコダイン・・・」
「ダイ!俺もヒュンケルと共に不死身を押し出している最中にいるのだ。幸い俺の新しい武器には火炎呪文が内蔵されている。ここは任せて行ってくれ!!」
「行ってきてダイ!幸いあいつ等の弱点もヒャドだ!マホトーンもマホカンターも持っていないあいつ等の相手なら僕でもできる!!」
「・・・分かった、頼んだよ!!」
幸いと言うべきか、パプニカの平原を攻めてきたのはミストバーンとシャドー達だけであり、最初のヒャダルコの一斉攻撃で負傷した兵達をすぐさまポップとチウの姿を模した式達が中央に集めて円陣を組む。
ミストバーンとしては半数以上の敵を最初の攻撃で葬り去りたかったのだが、ティファの式達が攻撃寸前は間に合わずともその後すぐにヒャダルコ攻撃の間に入り盾としての機能を果たしが為に、予想よりも地上軍が残った事を忌々しく思った。あんな珍妙な代物に作戦の邪魔をされれば当然ではあるが、地上軍にとっては僥倖でありすぐに周囲を火炎呪文が使えるポップとフォブスタで左右を固め、クロコダインにアックスに内蔵された火炎呪文の方ではなく爆裂呪文の方で上空にとどまるシャドー達を落としていき、マァムがシャドー達が射程圏内に入った瞬間を見すまし素早く拳や脚に貯めた光の闘気で薙ぎ払っていく。
物理攻撃が効きづらいシャドー達だが、光の闘気で切り裂くのは容易でありすぐに霧散していく。
近づけばシャドー達とても無事では済まず、しかし彼等もミストバーンから引く事を許さずと厳命されており何体倒されようとも攻撃の手を緩める事をしなかった。
人間と違い、MOが切れようとも固有スキルの冷たい息を使えるシャドー達は、彼等の闘気とMPが切れるのを待てばいい、じり貧になるのは目に見えているのだから。
その様子を横目で見ながらヒュンケルは焦りを覚える。かつて目の前の男が似たような作戦を立案して魔界の反乱勢力を壊滅に追い込んだのを間近で見ていたからだ。
ミストバーンは諸事象でしゃべる事を極力控えている為、ヒュンケルに教えを授けるのはもっぱら実戦であった。
それはヒュンケル自身に暗黒闘気を使用した攻撃を加え、時に自分の戦い方を間近で見せていた。
その度にヒュンケルはミストバーンに怖れを抱くとともに、いつか自分もこの力を手に入れてアバンを殺すのだとずっと考えてた。
その想いが実らずに良かったのだと今だからこそ思う反面、かつて蹂躙された反乱勢力とポップ達の姿が重なる!
反乱勢力も今と同じように攻防一体の戦い方をしていたが、闘気と魔力が切れたと同時にシャドー達の固有スキルで凍らせられそして壊滅をしたあの場面が脳裏をよぎった時、凄まじい破壊力を秘めた一撃を咄嗟に止めていた。
一瞬のこととはいえミストバーンから視線を切ってしまったヒュンケルの隙を見逃す程ミストバーンは甘くはなく速攻で手足の腱を斬りに来たのだ。
「・・・・愚か者が・・」
その一言にはどのような意味が込められているのか分からない言葉と共に、重くも鋭い斬撃を槍で食い止める。
ダイの方は手近に取り残されていた兵士達をシャドー達に襲わせて餌にし、案の定ダイは食い付き救助を行いつつ少しでも敵を減らそうとしている遊撃隊の誰かに引き渡すべく一時離脱を余儀なくされた。
分断されたのはまさにそんな時であった。
ヒュンケルと打ち合いをしながらもミストバーンは、-残りの軍勢-を出現させヒュンケルとダイ達を孤立させた。
ダイも広範囲の攻撃を行うにはまだ戦っている地上の兵士達を巻き込みかねない乱戦となっているのでそれは叶わず、ポップ・ノヴァ達もまたいつ果てるとも知れないシャドー達の攻撃を凌ぐので精一杯となりつつあった。
「ダイ!!ポップ・・」
「余所見とはな・・・」
「ゥツ!!」
闘魔傀儡掌!!!!
「ウ・・・・アァァァ!!!!!」
弟妹弟子達の危機に気を取られたヒュンケルから距離を取ったミストバーンは闘魔傀儡掌でヒュンケルを絡み取り首を絞め全身に暗黒闘気を流し込む。
その激痛はかつてバルジ島でのハドラーとの死闘において、ヘルズクローで肩を貫通されメラゾーマを流し込まれた時の比ではなかった!
あれとても地獄の業火に焼かれるほどの激痛であったが、事暗黒闘気の集合体であるミストバーンは地上はおろか魔界においても暗黒闘気使いとして随一であり、ヒュンケルの肉体の欠損を最低限にするべく不要であるか細い神経のみを攻撃を加え、地獄の呵責を元弟子に対して味あわせている。
主と、そして自分の期待を裏切った愚かな弟子を罰するが如く
その声に仲間達は駆け付けようとするがシャドー達に阻まれ身動きが取れず、素早い動きを得意とするチウも駆けつけたくとも戦力が違いすぎた。
パプニカの平原で地上軍に危機が訪れている時、カール平原もまた同じような状態に陥っていた。
此方は単純な人海戦術で来られたが、敵の軍勢の中にマホカンタを使える魔物が混じっており、アバンはすぐさま状況の不利を悟った。
青年ポップに大規模な魔法で敵を消耗させ味方が倒すという方式が使えなくなったのだ。
しかし青年ポップはそんな事は当たり前という顔をして敵に突っ込んでいったのだ!
「魔法が無ければ借りてきたロットで斬り殺せばいいんすよアバンさん!!」
叫ぶと同時にズバリとメイジキメラの懐にトベルーラで潜り込み、下から切り上げ首を落とし、直ぐに少し離れた所にいるガメゴンロードに近づ甲羅の中にロットを差し込み一気に魔法力を刃に変えて内臓を破壊しとどめを周りの戦士達がさしていく。
動ける魔法使いを目指しているんすよ
不意に砦での特訓を頼んだ時の青年ポップの言葉を思い出す。それは魔法が封じられた状況でも戦えるようにという意味だといった彼の言葉は本物であり、アバンは笑みを浮かべながら大地斬でオークやゴーレムを切り裂き、敵の攻撃呪文を海波斬で切り裂いて近づき再び大地斬で倒していく。
その作戦は当たり、次第にマホカンタを使うモンスター達は数を減らし、青年ポップはここぞとばかりにメラゾーマを繰り出し敵を分断し、地面を抉るように小型メドローアも放ち始める。
これであの外道が来てもいいだろうとばかりに見回せる範囲の地面が根こそぎとなっていた。
青年ポップはなるべく大地にダメージがいかないようにと、メラとヒャドを極限まで絞っての事だが、これで罠は無くなっているはず。
ダイ達の方を手厚くしたのは直ぐに勝負を決めさせ後に合流をし一気に畳みかける算段であったが、この分だとこちらが行くようだという考えがアバンの脳裏をよぎった瞬間、ぞ割とした悪寒が全身を駆け巡り、冷たい視線を浴びせられた。
視線の元を辿ってみれば・・・馬鹿げた道化の服を着て大鎌を持ち肩に一つ目小僧を乗せた男の姿がそこにあった。
「み~つけた~。」
不気味な赤い瞳を三日月に吊り上げたソレは、獲物を見つけたと悦んでいた。
アバンはその言葉にはたと気が付き急いで周りを見回せば・・・いなくなっていた!ティファがこさえた彼等を模した式達がいつの間にかすべて刈り取られていたのだ!!
「ふっふっふ!初めましてですね~先代勇者様!青い髪に変わった髪の貴方はアバン=デ=ジニューアル三世で間違えありませんよね!!」
しまった!!
今日もアバンはモシャスをしていたが、激しい攻防でいつの間にかモシャスが解かれていたのを気が付けずに臍を噛む・・・しかしそれよりももっと不味い!!
「この・・・どぐされ外道!!!!」
冷静沈着に戦いを進めていたポップが、キルバーンと呼ばれている外道の姿に怒りに我を忘れて打ち掛かっていった!!
「おやおやいいのかい?不用意に僕に近づけば・・・」
「やかましい!!!!」
キルバーンは昨日と同じ目に遭うと青年ポップを揶揄おうとするのをポップは叫びあげながらイオラをキルバーンの周りに打ち込み、そしてすぐにメラの壁でイオラを誘爆させた。
その威力は凄まじく、またキルバーンとポップの間に地上のモンスターを飛び込まさせようとしたピロロを阻みそして目くらましともなり、ポップを見失ったキルバーンは一旦空間に入り仕切り直しをしようとしたが、昨日のようにどこからとも分からず体に衝撃が走り地面に叩き落とされたが昨日と違いきちんと受け身を取って直ぐに体勢を立て直して前を見ればそこに見えたものは
「手前ぇは・・・代償払ってでも俺がぶち壊す!!!」
「はは!!いいねその顔!奇麗な坊やが憎しみに身を任すのか!!最高だ!なんて素敵なんだ君は!!!」
そこには勇者の三番弟子という高潔な志はなく、心の中を怒りで満たされてしまっていた青年ポップが自分を殺しに来る姿があった!
それこそ後ほんの少しの憎悪を抱けば、魔道に堕ちる程の憎しみを発していた。
ポップは人生で初めてであった。
怒りを覚えた事は数多あれども、憎しみを覚えそれを力として敵を倒そうとしたのは。
それほどまでに目の前の外道が許せなかった。
生命を弄び娯しみとするこの男を!
「いいよ!僕を斬り殺しなよ坊や!!!そして墜ちておいで!!!」
この肉体は所詮仮初の物!頭部さえ残れば問題はなく、奇麗な坊やを魔道に堕とせるのならば本望だとばかりにキルバーンは大鎌を捨て去り、まるで駆け寄る恋人を受け入れ抱擁するかの如く両手を広げてポップを迎え入れる。
斬り殺したその瞬間、憎しみに染まった彼を捕まえるべく・・・・しかしキルバーンの目論見はいつでも邪魔が入る。
それはアバンではなく、異界のチウが窮鼠包包拳でブラックロットを槍の長さに伸ばして大振りに振うポップの懐に突っ込み、キルバーンと反対方向に吹き飛ばしながら自身もポップの服を握りしめ共に地面に叩きつけられる。
チウはポップよりも自分の方が頑丈であるのを良く知っているので、不意の攻撃で受け身を取れないポップの代わりに地面側に体を入れて衝撃とダメージの全てを受けたのだ。
「ツゥ・・・・・チウ!!」
パン!!!
戦場に、乾いた音が鳴り響く
後少しで、外道を倒せたと地面に叩きつけられながらも激昂するポップの横面をチウが叩いた!
それは痛みが少なくとも、ポップの胸の底まで響く強さが確かにあり、憎しみに塗れようとしていた心にまで届いた。
見ればチウは泣いていた、ボロボロと、叩いた方のチウが泣いているのだ。
「チウ・・」
「だめ・・・だよポップ!!!あんなのの言葉の通りにして!!君この後どんな顔でティファさんに会おうって言うのさ!!!」
「!!それは・・・・あいつは!!!」
「敵だ!倒すべきものだ!!それでも今のポップがしようとした事は駄目だよ!!!憎まないで!許さなくともいいから黒い心に負けないでよポップ!!!」
チウは泣きながらポップの胸を打つ。もう少しで憎しみのまま敵を斬ろうとしたポップの事を思って。
チウだとてポップの心情は分かっている・・・それでも、あの明るく笑うポップの心を穢される方が、チウにとっては我慢できない事であった。
だがそれは戦場において致命的であった。
「やれやれ、目論見は崩れたけれども-目的-は達せられたね。」
「しま!!」
ドプリと、重い水の音が戦場に響くと同時にキルバーンは満足そうに笑う。
それは魔具で、敵を生きたまま閉じこめる水牢であった。
動きのとまった獲物を捕らえる事はキルバーンにとっては苦も無くことであり、水中に浮かぶ球体の水牢に捕らえた二人を嬉しそうに眺め回す。
青年ポップが魔法を発動させようとあがこうとも、この水には魔力を拡散させる呪法が練り込まれており、チウの先ほどの技も水の中では使う事も出来ない。
「先代勇者様、見てください。奇麗な可愛い坊やたちが、後ほんの少ししたら苦悶に歪めた素敵な顔が見られますよ?」
うっとりと悍ましい事言い放つ死神の肩に、愛嬌のある一つ目がとまり歌い出す。
「つ~かまえたつ~かまえた~。早く連れ帰って遊ぼうよキルバーン!!」
無邪気に残虐なる事を歌う一つ目小僧は、戦場を睥睨する。
人質を取られたも同然の彼等に動くなと言えばすぐにこの戦場の方はつく。
向こうもどうやらうまく事が運んでいるようで、もう少し遊んでいける。
ピロロとキルバーンが嘲笑う中、アバン達は手が出せずに歯噛みする事しかできなかった。
今日はここまで
諸事情で次回出す救出隊は次回となりますm(_ _)m