勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主役はこの方


いしの積まれる世界:幕間・死神の涙

三人の宝たる子等を抱きしめ、-ドール-ことキルは光で心が満たされる。

一度はとれたポップの手が解けて行ったとき、攫われるのを阻止できなかったあの時、絶望の声を張り上げながら自分の何もかもが砕けていった・・・絶望に全てを砕かれた。

 

キルの声に全員がすぐさま宝物庫に集まり、そこで見た物はチウがしていたローブ止めのブローチを握りしめ泣き伏し床を打ち付けているキルの姿しかなかった。

銀の手甲は両方ともひびが入りそこから-青い血-が流れ出るのにも構わずただひたすらに-なにか-を砕かんとするが如く床に拳を打ち付け泣き叫ぶキルにミストはすぐさま親友に駆け寄り、とにかく己を傷つける行為を止めようと後ろから抱きしめ羽交締めにして名を呼び続けた。

 

「キル!!私だ分かるかキル!!!何があったかは知らないがよせ!!!」

「あ・・・・あぁああ!!放してミスト!!あの子達が!あの子達を・・・助けてあげられなかった・・・・掴んだのに・・・・掴まえてあげられなくて!!!」

 

自分を抱えているのが親友と分かってもキルは暴れる事をやめなかった。

ティファ達を助けられなかった己れが許せずに、仮面から覗く瞳の部分からとめどなく涙を溢れさせ、己を打ち壊そうとするのをさしものラーハルト達も手を貸しキルの動きを封じる。

 

普段からこいつなぞ壊してしまおうと、ラーハルト達大人はつけ狙っている。

それもこれもティファを手にせんと大戦時から今に至るまでの数多くの行為を考えればそれは当然だが、何があったのかは知らないがこんなに絶望に突き落とされているものを放っておくものなどこの場には一人もいなかった。

 

ラーハルトとロン・ベルクが両腕を取ってやっと動きを封じ込めたところに三神達から緊急通達が入り-一切の説明-がなされた時・・・・地獄の蓋が開き文字通りの-死神-が姿を現した。

 

後ろから押さえているミストは仕事時の-死神-と共に敵を殲滅してきたので知っているが、ラーハルト達は初であった・・・・氷の如く冷たい瞳をしている-死神キルバーン-の気配に、百戦錬磨たる彼等をしても背筋が凍る思いがした。

普段の彼は、陽気にお喋りをし主共々子供達を目一杯甘やかしている甘い彼の姿であり、大戦時で敵であってもこんな冷たい気配を感じた事は無かった。

 

大戦時から-死神-は眠っていた・・・ロモスのあの森で一人の少女に出会ってから、その少女に興味を持った事で一つ二つしか考えていなかった思考が沢山の事を考え始めてから。

 

それまではヴェルザー配下のピロロに操られるに任す人形であった。

知らぬとはいえ疑似思考回路に興味を持ったバーンに、生命が芽吹くハイ=エントを施され数百年の年月を掛けて育った-本物の思考-を有しながらも、ヴェルザーの下にいる事にうんざりとし、其れよりも魔界を救わんと一つの道を駆けのぼるバーンを主としてずっと魔界の神の傍らにあり覇業を手助けしてきた純粋な親友の下にずっといたいということ以外はさして興味が無かったから。

 

それまではヴェルザーの指示と、バーンの指示は一致していた。

ヴェルザーはバーンの懐に入り込み覇業の手伝いをしてやれと。ゆくゆくは地上を破壊するかその道半ばで隙を見せたバーンを殺す心づもりでいたのだろうが、その命令はピロロは兎も角-キル-はバーンに仕えて五十年程で己の中で破棄した。

 

好きになったのだからしょうがないでしょうと、心の中で嘯きながら。

 

そんなキルの興味をティファが引いた・・・・・当の本人は低きなぞまったくなかったのだが・・それは兎も角、彼の中で蒔かれた-生命の種-の成長が一気に加速をした。

好きはやがてすべてを手に入れたいという愛に変わり、その代りの様に-攻撃性-が低下を見せた。

それまでは生命を消しても何も感じなかったキルは、見向きもしなかった命に少しづつ興味を持った。

何故彼等は強大な力を持っている魔界の神に、命を賭して歯向かうのか、戦いに駆り立てられているのかを考察までし始めた。

そして敵の自分に笑い続ける風変わりな少女に似たような-良い子達-に出会えた事が彼を生命に近づけた。

チウとパプニカの城の魔導研究所の三つ子の長、キル曰くのお爺ちゃん学者たちインス・フォス・ワイズ達もまた使者だとは言え、ティファを人質に取った憎い敵の自分に礼儀正しかった・・・・戸惑った、そして魅かれた彼等の心を理解したいと願う程に。

 

そして・・・魔界はそんな優しい心によって救われた時、-死神-は時折愚か者達を狩る時以外は眠りについていたのを・・・・叩き起こされた、それも大戦が始まる以前の、己の好いた者達以外の生命に興味なく狩っていた時よりも怖ろしい、己の意思で相手を殺す気に満ちた、本当の死神が誕生した瞬間であった。

 

ティファとチウとポップを攫った者全てを殺しつくしてやると

 

すぐさま救出隊は誰にするかで揉めたが、人員は先ずは六名と定められ、三神達から内三人が指名された。

諸事情でアバンとマトリフそしてキルの三人、そしてもしかしたらを考慮されてラーハルトの四人であった。

 

アバンとマトリフにはあちらから空間を安定する呪法の陣を張りそれを空間使いのキルが安定させる事、そしてあちらのラーハルトがそろそろ竜の血で蘇りそうなのですぐに味方にできる様にあちらのダイ達に合わせるべく、異界のラーハルトにエスコートさせようと提案がなされた。

自分と同じ似姿の者ならばそこから誰だと興味を持ち、猜疑心の強い者とても話位は聞くのではなかろうかと・・・きかなくともこちらのラーハルトならば制圧して引きずっていけそうなので八割はそんな理由でラーハルトが選ばれた。

 

そして行くにしてもバーンとダイは力が規格外すぎるので-今回-は不可能であり、二人に次ぐ実力の持ち主としてヒュンケルとロン・ベルクが選ばれた。

 

「私達の代わりにあっちの神様の頬引っ叩いてやってちょうだい!!」

 

とはレオナの言葉であり

 

「今回の事は赦せません!!絶対に文句を行ってきてください!!」

 

とはメルルの言葉であり

 

「・・・・私も行きたい・・・ティファを我が物顔でどうこうする奴なんてこの拳で砕きたいのよ・・・」

 

とはマァムの言葉であった。

 

実力不足で外された感のあるクロコダインは忸怩たる思いがあったが六人を快く送り出し全員の願いを預かって他界に渡るその前に・・・・・あちらのキルバーンは最悪な奴だがお前それでいいのかというラーハルトの言葉に、キルは肩を竦めて主に許可を得た。

 

「バーン様、-僕の今の姿-を晒しても?」

 

その言葉はかつてミストが、主より預かっている真の姿を晒して敵を殲滅する時に伺い立てていた言葉であった。

その言葉に、バーンは重々しく頷く。

 

「許可する。真の姿で子等を救いに行ってまいれキルよ。」

 

その言葉が終わると同時に、一陣の風がキルを覆いそしてアバン達の前に姿を現したのは、褐色の肌に黒い長髪を後ろで赤い組み紐で髪を結った、赤い瞳の魔族であった。

 

「ここ半年で僕の姿が出来上がったんだよ。いつお披露目しようかバーン様と相談していたんだけれども、まさかこんな時にとは思ってもみなかったよ。」

 

長身で鼻梁がスッと通った彫りの深い端正な顔立ちをした男の苦笑した気配はまさしくキルであった。

 

数百年をかけて育てられた命が、完全なる生命となったのだ。

 

それは奇跡のようなお伽噺であったが、-ティファ-という存在が成して来た事に比べればそれはあっても不思議ではなかろうと誰もが思った。

キルに秘術を掛けたのが魔界の神大魔王バーンであればなおさらである。

生命の種を植え付けられ、生命に興味を持ちそして慈しむに至った彼に起きた奇跡を、全員はすんなりと受け入れたのだ。

 

そして、彼等は間に合った。

 

パプニカの平原にて少年ダイ・ポップ・マァム・クロコダインとノヴァとそして囚われかけたヒュンケルをアバン・マトリフ・ヒュンケルが救い出した。

 

カール平原にて罠に食われかけたアバンと水牢に囚われた青年ポップとチウをラーハルトの大技が救い出し、キルがポップとチウを抱き留めそしてキルバーンをロン・ベルクが叩き壊した。

 

救い出した後、ラーハルトはこの世界のラーハルトを探してくるのでティファ様を頼むと言い残してキルから通信用の目玉を受け取り走り去る。バラン様ならば自分の所縁のある回復の泉近くに自分達を埋葬するだと踏んで先ずはそちらに向かった。

残されたアバン達は彼等に砦に案内を頼もうとした時、一同は緑の魔法陣によって隠し砦へと辿り着いていた。

 

何が起きたのかの考察は後回しだという他界のアバンの言葉に全員が動いた。

少年ポップの足に治療を済ませたヒュンケルは断りを入れて大広間の隅に一つだけあった柔らかいソファーの上にそっと降ろし、戻るまで絶対に安静にしていてくれという言葉を残し、ポップとチウを抱きかかえたまま先行したキル達を追った。

 

大広間にはテーブルや椅子はどかされており、中央に-青い陣-だけがあった・・・あれは血だと、長年戦士として戦いに身を置いてきた者達はすぐ様に悟った・・・この砦で青い血を持つ者は只一人!ティファしかいない・・・きっとまた何か無茶をしたのだと容易に察せられた男達は、走るのももどかしいとばかりにティファの気配のする部屋へと急ぎそして・・・・青白い顔をして横たわっているティファの姿があった。

 

傍らにいたこの世界のバランは、青年ポップとチウ達に場所を明け渡す。

そして必死にティファの名を呼べばうっすらと目が開きポップとチウが抱き着けば、三人はキルの腕の中に収められた。

 

掴まえてあげられなかったことを詫びれば、ティファもまた己がキルであることを分かってくれた。

カール平原においても、ポップとチウは自分が名乗らなくとも分かってくれたように。

 

水牢から出され地面に叩きつけられる前に二人を抱き上げ、そして抱きしめれば、ポップがおずおずとした声で尋ねてきたのだ。

 

「お前・・・キルバーンか?」

 

それは周りの者達には聞こえない程の小声で、尋ねるというよりも確認するような声音であった。

自分が食事を摂る姿を見せた事は幾度かあるが、それは笑いの仮面の口部分を外した姿であり、完全に見せた事は親友のミストにも愛しいティファにもなかった。

それでも、この青年は分かってくれた、自分がキルであることを・・・それはチウも同じで、何かを言おうとしては言葉に詰まりしゃくりあげている・・・安堵して泣く寸前のチウの姿に、キルもまた二人を掴まえてあげられたことが嬉しくて二人を離さないまま泣き崩れた。

 

そして三人を掴まえられたことにキルはまた涙を流すのを、アバン達もまたうっすらと涙を浮かばせながら見守っている。

 

二度とこの子供達を手放すものかと大人全員は改めて誓う。

-敵-全てを破滅に導く道筋をつけながら




今宵ここまで

内訳とキルの事情全てが書けたかと思います・・・・うちのキルは今このような状態となり、バーン様とダイ君はこの救出隊には入れませんでした。
これで異界の方達に正体バレずにいけると思います(`・ω・´)

いよいよこのシリーズの最終終盤に向けていきますが・・・その前にもう一つくらいは幕間のような、小石世界と異界の人達との違いを描いたコメディー回が書ければと思います。
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