・・・・なんだこの光景は、俺は確かカールの隠し砦でダイ達に新たな武具とダイの鞘のヴァージョンアップをしていたはずだが・・・それもたった半日しかたっていないのに砦の中のこの光景は何なんだ?
御年二百五十歳越えのナイスミドルな魔界の名工様は、ダイの鞘のヴァージョンアップが出来たと大広間に意気揚々とやって来た。
それは寝食を忘れる程で、異界からこの世界の神達によって攫われて来た稀人達と共に砦にやってきて三日間、外の世界の事は愚か砦内部で重要事項を決める会議があろうがご飯の時間だろうが知った事ではないとばかりに、ロン・ベルクはダイ達の武具の為に日夜頑張っていた。
異界のチウから貰った有難い代物を有効活用すべく、先ずは光魔の杖で培ったノウハウでポップにブラックロットを拵え、次にクロコダインのグレートアックスの刃の部分にだけあれを使用した。
そして残りはヒュンケルの鎧の魔剣を作るには到底足りず、そもそもが時間も無いのでそちらは諦め、武闘家マァムの為に魔法防御を完璧に備え鎧と、左肩部分にナックルダスターを収納した攻防一体の鎧化する魔甲拳に取り掛かった。
異界のチウから貰った最後の材料は、マァムの心臓を守る一番大切な部分にロン・ベルクは迷わず使い切った。
異界のチウもマァムと同じ武闘の師を仰ぐ同門であると言い、何よりも紳士的な態度にチウならば弱い方を率先して守るだろうと、チウの意思を組み上げダイの方よりも少し力が足りなさそうなマァムの守りを優先させ、それが完成させるやいなや休む間もなくダイの鞘のヴァージョンアップに取り掛かりそしてすべて完成したぞといつも誰かしらがいる大広間に行ってみれば・・・
「はっはっはっはっは!!!こんなにうまい酒を飲める日が来るなんて最高の気分だぜ!!ダイの剣の完成か!-お嬢さん-が眠りから覚めた後以来の最高の酒だ!!!」
「あの・・・ロン・ベルクさん・・・飲みすぎてないですか?」
「そうですロン・ベルクさん!飲みすぎはほどほどに・・・」
「硬い事を言うなよお嬢さん!それに地上の酒は魔界のに比べれば水も同じだぞチウ!!お前も飲むかポップ!!嫁さん貰ってもう一人前なんだから付き合え!!」
「・・・ロン・ベルクさん・・・ポップに悪いこと教えないでいただけませんか?」
「はっ!もう嫁貰った一人前の男に過保護が過ぎるぞアバン?マトリフも飲むか?」
「・・・・誰かこの絡み酒馬鹿放り出せ・・・」
ロン・ベルクは生まれて初めて茫然自失とした・・・それほどの光景が目の前に繰り広げられている・・・自分と同じ似姿で、なのに洒落た服でめかし込みながら馬鹿笑いをして酒をかっ食らっている自分ってなんだ!!??
あれが・・・もしかしなくとも異界の自分なのだろうか・・・だとしたら認めたくないとロン・ベルクは速攻で頭に浮かんだ答えを必死にかき消そうと脳内で絶叫した!
酒を馬鹿笑いしながらかっくらうのは良い!!自分も時折地上界で友誼を結んだジャンクとときたまそれをしているからだ。
それは興が乗り楽しくなった時にはそれくらいは酒飲みはするだろう・・・問題は!異界の自分の膝に乗っている者達だ!!
何故異界のチウと・・・そして年頃の娘になっているであろうティファという少女を膝の上にのせながら青年ポップの肩に腕を回して酒を飲んでいるんだ!!
その周りには異界のアバンとマトリフとヒュンケルがいて・・・見知らない半魔の男と魔族の男が面白くなさそうにしながらも食事の支度に勤しんでいるシュールな事になっているのは何なんだ!
アバン達!唖然呆然として俺を見るんじゃない・・ジャンク達も白い目で俺を見るんじゃない!俺には幼女趣味は無いんだよ!!!俺が武器作りに勤しんでいるとき何があったんだ!!誰か説明しろ!!このバカ騒ぎは何がどうしてこうなった!!!
なぜこんなカオスなどんちゃん騒ぎになっているのか・・・・遡ってみよう・・・
ドール事キルが無事に子供達三人を掴まえてあげられた事にほっとして涙を流した後、名残惜しいが他の救出隊にもティファ達との再会を譲り渡した。
ヒュンケルも泣き崩れた。ロン・ベルクもまた涙を浮かべて三人を抱きしめ、マトリフはその間に三人の子供達の頭をゆっくりと順番に撫でていき、アバンも熱い抱擁で三人を包み込み、一頻り再会を喜び合った後は、この世界の勇者達が待つ大広間へと場を移した。
全員が静かに待っていた。異界からの救出隊が来たのだ、今後ティファ達はどのように行動するのかをきちんと話を聞くべく・・・もしかしたらこれまでのこの世界の行状の沙汰もあるかもしれないと、フローラとアバンは為政者としての観点からそれを考察しそれもやむ無しと考えている。
この世界は三人の子供達にはあまりにも過酷で、多くの傷をつけたのは間違いなく、それは敵だけのせいではなく味方で大人であった自分達の不甲斐なさもまた一因である。
であるならば魔王軍は滅ぼされる事は決定事項であり、こちら側も何らかの償いを要求されてもおかしくはない・・・そう大人達は覚悟をしていたのだが・・・・・それは吹き飛ばされた、一人の半魔の青年と、それと同じ似姿をした男が大広間に突撃を掛けてきたことによって・・・・詳しく言うのならば一人は鎧の魔槍を着込んでおり、その男に首根っこを掴まれた簡易な布服を着た男がやかましく砦に入って来たのだ!
「手間を掛けさせおって!!お前の主はここにいる!サッサとくればいいものを!!」
鎧の魔槍を着込んだ男が怒鳴れば、首根っこを掴まれた男も声を荒げるのは自明の理であり・・
「異界から来たなぞそんな胡乱な話を誰が信じる者か!言え!これは魔王軍の誰の策略だ!!!」
・・・首根っこを掴まれた半魔の青年の言い分が正しい・・・どこの世界の者が、そんなお伽噺をすんなり信じるというのだ、普通は罠疑って当然だろうとこの世界の誰もが思った事は正しい・・・最後にラーハルトに相対したヒュンケルと、竜騎衆達にボロボロにされたポップは当時の恐怖を思い出し若干青褪めながらも砦の入り口近くから聞こえる口論の後半部分に賛同する・・・・自分達だとて目の前で見ていなければ信じなかった・・つまるところさっさと信じた先生の方が・・・後は推して知るべしだがそれは兎も角、足音と口論の声は次第に大広間に近づきそして・・・扉が開けられた・・・・鎧の魔槍を着たラーハルトが、行儀悪く足で蹴っ飛ばしてだ・・・
そして首根っこを掴まれていたラーハルトは、不意に大人しくなった。
ラーハルトは異界のラーハルトが考えていた通り、例の回復の泉近くに竜の血を与えられ埋葬されていた。
そして運よく黄泉がえりを果たし、手紙を読んで泣き伏していたところに声を掛けたのだ。
ラーハルトとしては精一杯の、それこそティファやチウやマァム達に接するように、黄泉がえりを果たしたこの世界のラーハルトが混乱しないようにとしてやったのに・・・この世界のラーハルトは初手から異界のラーハルトを名乗ったものに牙を剝き、その魔槍はヒュンケルに託したものであり返せ盗人とまで宣って来た!
この世界のラーハルトも強かった、黄泉がえりを果たしたばかりだというのに素手に闘気を纏って手刀で首を幾度も狙われ、とうとう己の話を聞かない頑固者に腹が立ち、槍で鳩尾をついて大人しくなったところを首根っこを掴まえ道々話した。
曰くお前の主は生きているが、息子であるダイ少年を庇って命を落とさんとしたところを、自分の主の息女であるティファ様の作りし奇跡の薬で辛うじて命を永らえたが、その代償として今から遡る事十二年分の記憶を全て消え失せ力も魔力も無いただの一般人になった事。
そしてそれが原因で自分の主の娘と大切な仲間二人がこの世界の神々によってその奇跡の薬諸共攫われて聞いたこと全てを聞かせたのだが、当然そんな降ってわいたような話をはいそうですかと承知する者はおらず、この世界のラーハルトに暴れるのに辟易としたラーハルトは、有無言わさずに砦に入った・・・神速であるがゆえにそれは目玉もとらえきれず、そしてラーハルト達の気配を感じたティファが迎えの式鳥を放ち誘導した事ですんなりと砦内部に入りそして首根っこを押さえていたラーハルトを思いっきりバラン達の方に投げつけた。
「目の前にいる方がお前の主だが、先も行ったようにそのお方にはお前の記憶はない・・無いがお前も-俺-もバラン様に救われた身・・・生涯をかけてその方を守れ!ご子息をお守りしろ・・竜騎衆の長であるお前の生涯をどう使うかはお前次第だがな・・」
鎧の魔槍の男の言葉には誠があった、その熱意の言葉とそして目の前にいる主と、横を見ればヒュンケルが-二人-おりそして自分を唖然と見ているポップは最後に見た時から月日が経っているとはいえ残された主バランからの手紙よりもはるかに年月を経ているのが分かり、周りを見回せば部屋の隅にあるソファーの上で自分に手を振っている少年ポップの姿を見て、ラーハルトも認めざるを得なかった。
目の前の半魔の話は本当であり・・・つまるところ主は代償として己の愛息子との縁につながる全ての記憶を失ってしまったのだと・・自分達との絆全ても諸共に。
それを信じたくなくて頑強に話を拒んでいたのに、己を見知らぬものとして見るかつての主君の顔にラーハルトは泣き・・・・そうになったのだ・・・そう泣かなかった・・それはラーハルトの心が鋼だったわけでも、その前に少年ダイ達が何か凄い立派な事を言って彼を心服させ俺が記憶と力を失ってしまった主バランとご子息たちを守るでは全くなく・・
「小娘!!!!お前は一体!!お前はどうして俺達に心配しかかけんのだ!!!!」
・・・・異界のラーハルトの絶叫が原因だった・・・確かティファという娘は向こうの竜の騎士バランの息女でお前の主の大切な娘様だろうに、なんでそのご息女に対して小娘呼ばわりしているのだ!!
しかもがくがくとそんなにゆすぶって!お前一体どこの蛮族だ!!
さっきのこれぞ騎士の鑑であったお前はどこに行った!
だが鎧姿のラーハルトは本気で絶叫をして、-ドール-に抱き上げられているのを無理やり引っぺがし!鬼の形相で怒鳴っていた。
「ディーノ様達が泣いていたぞ!お前はひと時もじっとしておれんのか?厄介な奴等に目を付けられなければ気が済まんのか!!!!」
・・・・事のいきさつ全て聞いている全員としては、これは絶対にティファという少女のせいではないだろうと擁護しよとしたが・・・する必要はなかった・・
「どうして・・・お前は平穏に生きていくのを許されんのだ・・・・・」
鎧のラーハルトの言葉は次第に弱々しくなりそして・・・他の者達と同じくティファを抱きしめたまま泣き崩れた。
力強く腕の中の少女を抱きしめる様は、二度と手放さんとばかりにきつく抱きしめる様はまるで少女に縋りつくようで・・・鎧のラーハルトこそが迷子の子供が親にようやく出会えたように取り縋っている。
其の想いはこの世界の者達には分からずとも、異界の者達には分かりすぎる程であり、特にティファには思い当たる節がありすぎラーハルトの理不尽な言葉の数々に黙って受け入れていた。
不安だったのだラーハルトは、幼い頃から父を母を立て続けに失い人との絆も断ち切られ寄る辺なき身を父に拾われた半魔の青年は、失う事はもう御免だとばかりに怯えている。
それはヒュンケルととても良く似ている。
絆を結んだ者を喪う怖ろしさを知る男達は、特にティファを喪う事を何よりも怖れている。片や妻がいてもう一人も結婚をした、愛する家族が出来てもティファは特別だから。
きっとそれは、ティファによってさまざまな形で世界と絆を持てた者達全員が同じ思いを抱いている。
それはかつて勇者ダイ一行の合言葉が-世界を救う事はティファを救う事になる-
あの合言葉は生きており、そしてその合言葉は広がり続けていたのだ。
・・・・そこまでは普通の感動の再会であった。
この世界のラーハルトも、二・三バランと話した事で事実確認を取ると同時に落ち着きも取り戻し、忠誠を新たにダイと共にバランに捧げ、この戦いの後になぜ自分がそうするのかを話しますとバランに約束をした。
その際はどこまで話せばいいのかをヒュンケルとポップに相談しながらだなと算段をつけて・・・あの二人ならば、己の半生を知って泣いてくれたあの二人ならば親身に相談に乗ってくれるだろうと信じて。
鎧のラーハルトも落ち着きを取り戻し、ポップとチウにも熱い抱擁を交わした。
「ポップ、-向こうの花嫁-が、お前達を攫った神達に文句を言って欲しいと言っていたぞ。
チウは怪我をしなかったか?お前に可笑しな口をきいたどぐされ外道がもう一度現れたら俺が壊してやる。」
いつものラーハルトに戻った事に、子供三人がほっとしている間に・・・アバン先生はチートを発揮していた。
即ちこの世界の動きがいい元気がまだある兵士達に号令を発して食事の支度をさせたのだ!
「いつまでも-うちの子供達-に甘えていないでくださいね?食事くらい自分で作る!
芋の皮剝いて切って沸騰したお湯にベーコンと人参と共に入れれば塩とパテギアで味整えてスープが出来るでしょう!ほらここに朝買い込んでるパンの残りがありますでしょう・・・・レイラさんとスティーヌさんですね。初めまして私は異界のアバンの方です。
この度はうちの子供達が大変お世話になっております。
食事の支度は私が手伝いますのでどうぞよろしく。」
厨房でアバン先生は真っ黒な気配で鬼軍曹化していた。
レイラとスティーヌは兎も角!普段もっとまず飯ですごす兵士達が!!ティファの食事がいいとか贅沢抜かすなと言外に言い放ち、携帯食よりも千倍もましだろうとビシバシと簡単美味しいスープの作り方を教えて作らせているのを、子供達は知らずに今日は-大人が頑張る-という言葉を素直に信じて-一仕事終えたロン・ベルク-の膝の上にティファとチウを預けたラーハルトも食事の手伝いに行き、大人ヒュンケルもテキパキとイス・テーブルの支度に取り掛かり、おじさんマトリフの方は青年ポップの頭を一頻り撫でた後、安静を言いつかった少年ポップの足をマトリフと共に再度診て、今日一晩で治るだろうと太鼓判を押して少年ポップを安心させる。
マトリフ達は互いに神隠しを知っているので、アバン達の様にすんなりと互いを受け入れた。
ヒュンケル達の方は、青年ヒュンケルは大人ヒュンケルの振る舞いに戸惑っている。
どうしてそんなに屈託のない笑みを浮かべて自分の弟弟子にあれほど慕われているのだと・・・
そして食事の支度が整う中当然大人達の為の酒が用意され、感動の再会の時くらいはと真面目なノヴァも何も言わないのをいいことに・・・言っても酒飲みにあしらわれるだろうがそれは兎も角、ティファとチウを膝に乗せているロン・ベルクは思いっきり酒をかっくらい、この世界のロン・ベルクに唖然とされたのだ・・・
今宵ここまで
次は糖度百%書きたいな・・・