勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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異世界行っても矢張りこれやります(〃艸〃)


いしの積まれる世界:最終決戦前夜①

貴方は魔界の貴族なのですか?

 

他界の北方の勇者にそう呼ばわれたキルとしては本気で驚いた。

 

「冗談を。僕はしがない宮仕えがせいぜいの男だよ。」

 

小難しい話はここまでにしてお茶でも飲んでお開きにしましょうと、異界のアバンの説明が終わった頃合いを見計らってキルが用意していたお茶を、この世界の少年・少女達と、ティファ達全員を集めてキル自らが寝る前にどうぞとお茶会のサーブを務めた。

 

ここが自分達の世界であったなら用意するのはミストとティファであり、チウがお茶の用意の手伝いをして他の者達は子供達が茶器の用意や出される茶菓子の用意の手伝いをしてワチャワチャとしているが、今日は子供達にはお手伝いをキルがさせなかった。

 

「君達は楽しむだけでいいんだから。」

 

優しいが有無を言わさないきっぱりとした物言いに、キル大好きでお手伝いがしたいんですオーラを出したチウをティファが抱っこしてお席に座らせて諦めさせた。

こうなったキルは意見を翻す事は先ず持ってないのを知っている。それはどんな事であってもというのを良く知っている。

大戦時は自分達の事をどれ程気に入ってくれようとも、最後まで魔界の為にその身を捧げる様に戦い抜いた主と親友の側を離れなかった事からそれが伺えるのだから。

 

その言葉に甘えて少年ダイ達はキルに全て給仕してもらっている。

お茶の淹れ方からして-ドールさん-は優美であった。

 

繊細で高価なカップではないありふれたカップである筈なのに、彼が持ってお茶を淹れるだけでまるで高価な器に変わってしまったような気すらする・・・お茶を淹れたカップをソーサーにおいて手元に置かれる時にふわりと紅茶とそしてさわやかな森のような香りがドールさんから漂い、鼻が利くダイはその香りにうっとりとしてしまい、女性陣は思わず頬を染めてしまい、大将軍の家に産まれ貴族としての嗜みも有るノヴァも久方ぶりの-香水-の香りにうっとりとしてしまった。

ノヴァの育ったリンガイアは北方に位置し、湖と針葉樹が多い農耕地に適さない国であった。

それでも人々は小麦と芋を育て、海と湖の恵みを享受して自然と共に生きてきた。

香水もそんな自然の恵みを使った、高位貴族のみが嗜みでつける贅沢品であった。

故郷は今や灰燼に帰してしまった・・・自分がオーザムの救援に向かった矢先にリンガイアもまた襲われたことを知って取って返して見たものは、モンスター達や自然の脅威から城下町全てを守る大門と城壁諸共全てが破壊された亡国であった。

道々に逃げ遅れた人達の屍が、瓦礫と化した城も同様で生者のいない死の街に忘れ果てた香りを身に纏ったドールを自然と目で追えば、彼は他の者達にも同様にお茶を淹れ、終われば茶菓子を食べやすいようにサーブしていく様は手馴れており、持て成す事になれている一流の貴族の如くにノヴァには映った。

彼の国では貴族が貴族を真に持て成すときの茶会では、執事や従者を使わずに優雅にもてなす事が礼儀であり、王侯貴族であっても王族の直系でない限りみんなそうしていた。

その姿とキルが重なり針葉樹の様な香水の匂いも相まって、ノヴァは自然とキルは異界の魔界にて貴族、それもかなり高位の貴族なのではないのかと推察したのだが、返って来た言葉はどこか困惑をしていた。

 

「僕はずっと宮仕えで、領地はおろか家臣なんてものも持った事のない男だよ。がっかりとさせてしまったかな?」

「あ!いえ・・・お茶・・・美味しいです・・」

 

身分にあまり触れられたくないようなキルの声音に、不味い事を聞いてしまった事を察したノヴァは、話題切り替えでお茶が美味しいと本心を伝える。

 

ノヴァの言葉に、普段紅茶など飲まないダイもポップも茶菓子ではなくお茶を美味しいと飲んでいた。

 

「なんか・・・師匠やさ・・・言ったらなんだけどパプニカ王城で二・三度飲ませてもらったのよりも美味い・・」

「ポップ・・・でも・・・うん・・・そうかも・・」

 

庶民の舌のポップとしても、様々な事で立ち寄り出してもらったパプニカ王城の紅茶よりもおいしいという発言にそれは不味いよとダイも言いかけたが嘘はつけなかった。

二人のちょっとアレな発言に全員がちらりとその国の現君主たるレオナを見れば、レオナもまた降参とばかりにキルの淹れたお茶の美味しさを認めた。

 

「残念ながらポップ君とダイ君の言うとおりね・・・・貴方も料理人ってやつなのかしらドールさん?」

 

高級茶葉で慣れているはずのレオナも唸らせるお茶の美味しさに、キルは本心からの感想に嬉しくなる。

なぜならキルはお茶の淹れ方を教わったからだ。

 

「それは嬉しい言葉ですね。残念ながら僕は料理人でもないですが、お茶の淹れ方はこのチウ君に教わって練習したからね。

美味しいと言って貰って何より。」

 

にこりと笑ってお茶の師匠を紹介し、そうと言われた異界のチウは当然顔を真っ赤にして抗議した!

 

「キ・・・・ドールさん!!揶揄うのやめてください!僕が教えたと言っても一度か二度でしょう!!!!」

 

・・・危うくキルバーンさんと言いかけたがそこはぐっと堪えて頑張ってドールさんと呼んだが、自分を揶揄うなと猛抗議した。

自分はお茶の淹れ方を聞かれたので一度か二度しか手解きしていないのに、さも凄い事を伝授したような言い方はどう聞いても揶揄っているようにしかチウには聞こえなかったが生憎キルは本気だった。

 

「何言ってるんだい。君に教わってからは向こうの料理長様にも淹れ方教わってないんだよ。」

 

つまりミストにも手解きを受けていない事を伝えれば、本当にチウにしか教わっていない事を意味してチウの顔はさらに赤くなるのを、この世界のチウは驚いた顔をする。

 

「君は戦い方だけじゃなくて人間の日常も老師様に教わったのかい?」

 

不思議そうに尋ねるチウに、異界のチウはそうじゃないともごもごと赤くなって応える。

自分がお茶の淹れ方を教わったというか覚えたのは、ティファさんのお茶の淹れ方が奇麗だったからだと。

 

向こうの世界は過酷な戦いの中でも料理人ティファは合間を縫うようにお茶を淹れご飯を作り、そして最後は矢張りお茶を淹れてくれていた。

敵がこない時は特訓もしたが、三食とお茶が途切れる事は終ぞなかった・・・それこそティファが-自分から魔王軍に捕まりに言ったも同様な最終決戦前-であっても、ティファが残してくれた者達が三食とお茶を出してくれたのは言う必要が無いがそれは兎も角として

 

「僕くらいの小さな手がスルスルと動いて、奇麗なカップやソーサーを出していたのが奇麗だったんです。」

 

今お茶を飲んでいるティファの手を見れば、確かに然程の大きさはなく少年ダイよりも関節一つ分ほど小さいが、その手は魔法の手のようだったとチウは言葉を続ける。

あの小さな手が少し大きなポットで美味しいお茶を淹れてくれるのを目で追ううちに、いつの間にか人数に応じたお茶の葉の量や蒸す時間に淹れるタイミングが分かるようになり試しに一度淹れてみれば美味しいとティファ自らに褒められた。

それ以来チウは暇があれば隊員達やゴメスさん達にもお茶を出すようになり、喫茶するようになったキルにも淹れてあげれば本気で感動されそして教えて欲しいというので一度か二度実演しただけで・・・・つまるところ

 

「僕から教わったというならドールさんのお茶の先生はティファさんという事になります。」

 

だからそんなに褒めそやなさいでほしいというチウの言葉を、そのティファ自身によってひっくり返された。

 

「それは違うよチウ君。」

「・・・・へ?」

「確かにドールは君から教わっているけれども、私はチウ君にお茶の淹れ方教えていないでしょう。

自然と私のを見様見真似で自分で覚えたんだからほぼ独学と言ってもいい。だからドールのお茶の先生はチウ君で間違いない。」

「・・・そんなティファさんまで!!」

「ふふ、お嬢ちゃんもああいっているんだから観念してねチウ君♪」

「ドールさん!」

「あ~・・・確かにチウのお茶美味いもんな。その点にはドールの言葉に納得だわ。」

「ポップまでもう!!もう知らない!!!」

 

赤くなって怒るチウが可愛く、少年ダイ達もティファ達とのやり取りに吹いてしまい、笑い声が上がるのを離れたところでお茶ではなくお酒を嗜んでいる大人達は目を細めて見守る。

ブロキーナ老師とマトリフは流石に深酒はやめておくと部屋に戻ったが、他の大人達は子供達を肴にまだ飲んでいる。

 

「・・・・私達もあのような光景を日常にしたいものですね。貴方達の世界ではあれが普通なのでしょうね・・」

「・・そうですね・・・決して平坦な道ばかりではありませんが・・・特に-子供達-が集まるといつでも笑い声が溢れますね。」

 

この世界のアバンと異界のアバンは子供達の笑い声に癒される。

それは全員同じだが・・・ちょっと毛色の違う大人も二人いる・・・・

 

「・・・・・ドールの奴・・・・ティファ様に近づきすぎだ・・・・・」

「あの野郎・・・好き勝手しやがって・・・」

 

槍使いと鍛冶屋さんは大のキルバーン嫌いであり、子供達に近づきすぎだと歯噛みしているのを、事情を知らない周りの大人達はこの二人大丈夫かと横目でチラチラと見ながら酒を飲み、特にこの世界のラーハルトとロン・ベルクはそんな二人が嫌になる。

 

「・・・・貴様それほど気になるのならばバラン様のご息女をここにお連れすればよかろう。」

「ティファ様が羽を伸ばしているところを邪魔しろと?」

 

真っ当な事を言ってもけんもほろろな異界のラーハルトに匙を投げたくなる・・・・そもそも当人がいないところでは様呼びしているのに、当の本人には小娘呼ばわりもどうなのだと突っ込みたいがもう知らんである。

 

そんな異界のラーハルトを、これまた異界のヒュンケルがティファもチウもポップも楽しそうだからと宥めている姿に、この世界のアバンはキョトンとしてそして・・・ほんの少しだけ羨ましくなる。

自分のヒュンケルも良い子で、情の深い子供なのを承知しているが、どうしても自分はヒュンケルを咄嗟とは言え川に落としてしまいそれが為に魔道に堕としてしまった負い目があり、ヒュンケル自身もバルトスの事が誤解だと解ければ自身の成した国崩しの罪悪感から自分達に線引きをしている・・・あちらでお茶を飲んでいるが、どこか輪に入ろうとするのを躊躇う姿が悲しくて・・・・思わず吐露してしまう・・

 

「ヒュンケルさん・・・どうしたらあの子の心を軽くしてあげられるでしょうか・・」

 

愚かな問いなのはアバンは百も承知している・・・・どれだけ異界の人達に縋れば気が済むのだと言われ所業なのも分かっている・・・・それでも矢張り大切な子供なのだヒュンケルも!

恥を承知で吐露した想いを、異界のヒュンケルはアバンに問われた事の内容をおぼろげながら察して、そして真剣に悩んだ。

この世界の事は向こうの者達は三神達から聞かされており、あまりの違いに特にクロコダイン・ヒュンケル・ラーハルトは心胆を寒からしめた。

自分達は、三神達の策がなければ大罪を本当に犯してしまっていたのだと。

それを知っているだけにこの世界のヒュンケル達を思うとヒュンケルの胸がキリキリと痛む。

 

「俺は・・・幸運だったんです。俺達の世界では・・・・少なくとも俺はパプニカの軍勢に敗北を喫して国を攻め落とすどころか軍の半数をその時喪って、その後すぐ俺自身がダイ達に敗れ・・・・そして救われたんです。」

 

この世界のヒュンケルの様に国の不意を突いて攻め滅ぼすという事はなく、大罪を犯し切る前にダイ達に止めて貰えた男だというヒュンケルの言葉に、この世界のアバンは何も言うことが出来なかった・・・・比べられる話ではない、国を攻めた時点で人類に反逆したのだから・・・それでも目の前のヒュンケルの言う通り、自分達のヒュンケルと心情が同じになる事は決してないのをアバンは悟る。

国を攻め滅ぼし人死にを大量に出してしまった罪悪を、戻って来たヒュンケルは終生苦しむのだろうとアバンの心は搔き毟られるような痛みを覚える・・・・自分があの時ヒュンケルの不意打ちを食らっても受け止められるほどの器量があったのならば、川に落とす事なぞせずに悲劇を起こしたのはつまるところどこまでいっても自分の器量のなさであったのだ!ティファ達がこの世界に来る悲劇の下になったのと同様で・・・

 

そう思う至るとアバンの心は暗くなる・・・・己の器量のなさがこの世界の悲劇を生み出しているようで・・・何がハドラー大戦の英雄かと己自身を蔑みかけたその時、光が差した。

 

「それでも俺は何度も自分を殺したくなりました。先生を仇として狙った事を、人間を蔑み死んでも構わないと思った事を、弟妹弟子達が止めてくれようとした時、俺はティファとダイを本気で殺そうとした事を今でも夢に見るんです。」

 

それはヒュンケルの告解であった。あの時の暗い想いを夢に見て苦しむ心を引きずっているというヒュンケルの言葉に、それならば何故貴方は明るく笑えるのだというアバンの問いに、ヒュンケルの顔は矢張り明るかった。

 

「周りのみんなが俺の事を心配してくれているからです。ティファ達はいつだって俺の事を大好きで大切な仲間だと言ってくれるんです。誰が俺の罪を責め立てようとも共に償う道を歩いてくれると・・・・笑ってくれるんです。」

 

そうされるうちに自分もいつしか心からの笑みを仲間に師に向けることが出来たのだというヒュンケルの言葉にアバンは光明を得た気がした。

暗がりにまだ残っているヒュンケルに、躊躇わずに本当にヒュンケルが大切なのだと届くまで・・・届いた後も何度でも愛情を注げばいいのだと・・・・注いでいいのだと言って貰えた気がして・・・・

 

ちらりとまた子供達の席を見てみれば、ダイはヒュンケルに先程のクッキーを進めておりレオナがそれをぱくりと食べてマァムに行儀が悪いと怒られそして・・・笑っている。

 

諦めたくな・・・もう先生と呼ばなくてもいいから、あの子が暗がりに落ちないように、誘われても落とされないように守ってあげたい・・・・

 

「アバン・・・」

 

いつしか涙をこぼすアバンの手に、フローラの手が優しく被さった。

 

「明日を勝ち抜いて、またこうして宴を開きましょう。」

 

勝って楽しい時間を紡いでいこうという女王陛下の言葉に、アバンは静かに頷きそして周りの大人全員、それこそこの世界のバランとラーハルトとロン・ベルクも思うところがあり、そして異界のヒュンケル・ラーハルト・ロン・ベルク・アバン・マトリフもまた無言で手にしている杯を掲げて静かに乾杯をして飲み干した。

 

全ては勝ってからだと

 

 

 

そろそろ-策-を施す時間だろうかと、異界のアバンが怜悧な算段をつけているとはつゆ知らずに




今宵ここまで

リンガイア内情は完全オリジナルですm(_ _)m

この作品名物(?)決戦前のあれやこれやの回に突入しました!
本編を覚えてくださっている方もそうでない方も、この回はシリアスとコメディーを織り交ぜて後二・三話続きます(* ´艸`)

・・・・・フラグも書いていくので必要な回だと思ってお見逃しの程を~・・・
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