隠し砦は男の子達も女の子達も未来に目を向け始めている頃、この世界の大人達は未だに少しだけお酒を嗜んで四方や話に花が咲いていた。
ヒュンケルと違いクロコダインは大人達と共に酒を飲み、自分の知らない少年ダイとポップとそしてヒュンケルの話をアバンから聞いてはあいつ等もやはり子供なのだと楽しそうに聞いている傍らで、この世界のラーハルトもバランにお酒を注ぎながら真剣に聞いていた。
自分の価値観を変えて男達の内の一人が少年ポップであった。
あれは自分達と対峙した時はひよっこもいい所で、ルードを辛うじて倒せたもののそのせいでガルダンディの逆鱗に触れ嬲り殺しにされかけたのを、後から来たヒュンケルに助けられ、そして手助けを受けながらもガルダンディを倒した。
そして、死にゆく自分の半生を話してやったら二人の男達は泣いていた・・・・甘い奴等だと言いながらも、自分だとて泣いていた・・・その涙の理由は今をもって分からない。
自分の話を真剣に受け止めて分かってくれたのが嬉しかったのか、最後に出会えた者達が力だけではない心優しき者達であったのが嬉しかったのか・・・・・坂を転がるように人を憎んで殺して来たバランと自分達・・・それを止めた男達の半生を知られるとあって聞き耳を立てているのを、周りの大人達は勘づいているが何も言わない。
バランも-ダイ-と呼ばれている我が子ディーノの事を知りたいと、ラーハルト同様に聞き入る中、異界の大人達が戻って来た。
「ただいま戻りました。遅くまで皆さん起きてますね~。」
のんびりとした異界のアバンの声に、バランはそっと入口の方を向けば矢張りどうしても目は大人達に伴われた少女ティファに行ってしまう。
バランは一通りの話をアバンとマトリフとラーハルトから聞いている。
自分が死んだと思った-後-の話を聞いた時は嘘だと喚きたかった・・・しかしもう自分は気が付いていた。
どのような奇跡かは分からないが、額ではなく右手に紋章を宿した少年こそが成長した我が子ディーノであると・・・ならば、妻が側にいない理由は幾らもない・・・ないのだと観念した。
そしてその後の顛末を聞いた時は己自身を殺したくなった。
三界の秩序の守護者にしてすべての生命の守り人足らんとする竜の騎士たる自分が・・己の仕出かした不始末から人を恨んで堕ちるところまで堕ちた事に絶望すらした・・・
激情に駆られ一国と無辜の人間を殺しつくし、そして・・・・何故黒の核晶から我が子を庇ったというあの時に死なせてくれなんだのだと、自分を助ける為にその身を引き換えにした母である聖母竜・マザードラゴンすら恨んだ。
しかし、そうしなければ地上と天界は大魔王バーンの手によって滅ぼされていたであろうことは察しがついている。
自分が守り通したはずの息子の心は、自分の死と共にその時一度死んでしまったのだと。
マザードラゴンや天界の神々にとっても苦肉の策であったのだろう。
それを引き起こす事をしでかしたのも、自分が魔道に堕ちそして大魔王バーンに力を貸したが故の・・・・いわば全てのとは言わないまでも元凶は自分ではないか・・・
「私は生きていくべきなのだろうか・・・」
一度だけ息子達が居ない時を見計らって診察に来た異界の少女に尋ねてみれば、怖ろしく冷たい一言を放たれた。
「もう一度ご子息の心が死んでもいいならば好きになさい。」
そう言ったきり何も言わずに脈を取られ淡々と体調だけを尋ねられそしてそれっきり言葉を交わしていない。
巻き込まれた私に甘えるなと突き放された物言いであったが、しかしこう言われた気がしたのだ。
己の罪を抱えて息子の為に生きて行けと・・・・
冷たき一言にバランは苦悩し、そしてある考えに至った。
その通りだ・・・・罪を悔いて死ねばきっと息子の心もその時に・・・罪業を背負って生きていく覚悟を、バランの心の中に芽生えた。それは明確ではなくとも、確かに我が子の心の為のみに生きていこうという思いであった。
其の想いを芽生えさせた少女は、次の日には血塗れになりながらも何か事をなしそして今は異界から来た仲間たちに囲まれて心の底からの笑みを浮かべている。
少女の周りはいつも賑やかだ。
「ドール、私本当に後は寝るだけでいいの?アバン先生~私まだ起きてられるので薬草準備の手伝い・・」
「ノンノン。ティファ、寝るのも大切なお仕事です。-明日-は忙しくなるのですからもう寝なさい。
ちゃんと真っ直ぐポップとチウ君のいるお部屋に行くのですよ?」
・・・・・年頃の娘をあの青年と同部屋にするのはどうなのだろうかと、この世界の大人達はバランも入れてそれでいいのかと突っ込みたくなる。
如何に兄弟の契りを交わしたとはいえども赤の他人だろうにと思った彼等はきっと悪くない。
悪くないが、少女の年齢を聞いたというのにまるで幼い子供の様に笑って首を縦に振りながらハイと返事をするさまを見ていると、-まだ幼いのであればよいのだろうか-とも思わされてしまう不思議な少女であった。
十五の女子に見えない程の幼い振る舞いをしている少女。
十五の女子とも思えない程の老練した思考と振る舞う少女。
どちらも年相応に見えず、まるでお伽噺に出てくる妖精か何かの化身ではなかろうかとすら思えるほどに、不思議な子共・・・・きっと異界の大人達はそんな少女と青年ポップとチウを心の底から愛し、そしてその想いを隠す振る舞いもせずに三人の子供達に接している。
自分達はこの子供達を心の底から愛している、其れの何が悪いとばかりに・・・眩しかった、この世界の大人達には何の衒いも無く愛情を惜しみなく注ぐ彼等の姿が言葉が眩しくそして・・・・羨ましかった。
ダイ達とヒュンケルとすらも軽口を楽しむクロコダインとても、心の隅では罪悪感に震える時があり、彼等の中に本当の意味では入れているのだろうかと暗い気持ちに襲われる時すらがある。
其の所為だろうか?
ダイとポップが本当に苦しんでいる時に間近にいたはずなのに気が付けなかったのは?
彼等なれば、子供達のほんの少しの瑕疵にも気が付いてたちどころに対処するのではないだろか?
そんな・・・都合のいい事なぞあるわけがない・・・・神だとて、この世界の事がどうしようもなくなったから少女達は巻き込まれ利用すらしているというのに。
万能なものなどいない、まして心の内を聞きもせずに察せられる者もいないというのもまた然りで、自分の罪と向き合い償う道を探す事をしながらも、-大人-として彼等を愛し守る者になるのだとクロコダインもまた心に誓いを立てる。
もう二度と、己の心を温かき道に連れて来てくれたダイ・ポップ・マァム達が悲しまなくて済むようにしたいと、杯の中の酒を胃の腑に流し込みながら思う。
その先の未来も共に同じ道を歩かんと
・・・・この世界のラーハルトは少女がいると頭痛がする・・・・何もその少女が悪い訳では決してない!
寧ろご飯足りますか?御代わりはだれでも自由ですよと、いきなり人間だらけの隠し砦に-あの野郎-に引きずられて来た自分が少しでも馴染めルとまではいかずとも、居心地を少しでも良くしてくれようという優しさは確かに伝わり、何よりもバラン様のご子息ディーノ様にも優しくそして懐かれておられる姿には敬意すら湧くのだが・・・問題は-あの野郎-だ!!
「いいか小娘、アバン殿の言う通りどこにも寄るな、何かの策を施そうとするな、ただ寝所でポップとチウと一緒に寝ていろ。
兎に角寝る以外何もするんじゃ無いぞ。」
「・・・・ラーハルト・・・・あのね、私もね・・・もう十五歳になるんだよ?」
幼い子供に噛んで含む様に膝をついて少女の肩に両手を置いているラーハルトに、少女が抗議したくなるのもこの世界の大人達にはよく分かる。
どうも・・・五歳かそこらの子供に言い聞かせるような言葉に、アレは無いだろうと思うのだが甘かった・・・
「ふん!お前が真っ当な十五歳の子供であったら俺もこんな事言わずに済んでいるという自覚を持て!」
「うみゅ!!・・・・ラーハルトの意地悪~・・」
「・・・頼むから本当に自覚を持ってくれ・・・俺達の心臓が持たん。何よりもバラン様とディーノ様が悲しまれるぞ?」
どこの世界の十五歳の女子が、他界などという訳の分からない場所に放り込まれても持ち前の力を十全に発揮し、他界に着いて早々に最大のラスボスに目を付けられるのだという言葉に、アレは無いだろうと思っていた大人達も納得してしまった!
要は、これ以上自分を使った事をしてくれるなという異界のラーハルトなりの優しさなのだろうとはラーハルトも思うのだが・・・・主君の娘にもう少しこう優しくしてもいいのではないのだろうか・・・・・自分はディーノ様に優しく・・・あの魔法使い達にももう少し歩み寄ろうとラーハルトも決意した・・・・・本当はラーハルトどころか向こうの世界では生存しているガルダンディとボラホーンも含めて竜騎衆一同は主君の息子よりも娘の方を第一としており、どのような言葉でティファに話そうともその想いは砂糖の上に更に粉砂糖をぶちまけたよりも甘やかしているのを・・・・知らぬが何とかである。
初対面でティファ様に近寄る者は先ず三人が精査し、それから遠くで見守るのが基本スタイル。
少しでも可笑しなうわさが上がっている者は彼等の-近づけてはいけないリスト-に漏れなく入れられ来たが最後、ティファに会う前に-丁寧-に排除されている・・・
しょうがないなと少女が折れて、おやすみなさいと引き払う寸前に、ドールが少女を抱き上げた。
「-明日-は僕が持ってきた服を着るといいよ。それとはいこれもどうぞ。」
優しく少女を抱き上げリングを渡す。異界の者達にとってはマジックリングはありふれたものなのだろうかと思う程に易々と使われすぎている。
「はりゃ、ドールこれ中身何?」
「ふふ、寒さ・暑さを通さないぐっすりと眠れる向こうの寝間着を持ってきたんだよ♪」
「ふぁ!キ・・・ドールお手製の-ぐっすりさんいらっしゃい!-だね!!」
・・・・・は?
「ふふ、そうそれ。これ着て今日は槍使い君と先代様の言う通りぐっすりとお休みよ。」
「ふっふ!我ながらナイスネーミングセンスだと思います!!」
・・・・あの馬鹿馬鹿しいネーミングを自分の寝間着につけたのはあのドヤ顔している少女なのか!!??・・・・なにか・・・・あの少女が残念な子供に見えてきた・・・そんな少女を愛おしそうに見て話を続けているドールという男もどうなんだ?
「明日の服もその中に入ってるからね。」
「私が向こうで来ている洋服ですか?」
「いやぁ~、向こうでできた時間で僕の新作。」
「ほぁっつ?」
「といってもデザインはお嬢ちゃんが大戦時に来ていた詰め襟ワンピースそのままで、シルクの長ズボンはワンピースと同様当然耐火・耐寒・耐魔法と耐防御性に優れた布地で作ってあるからね。」
・・・・・それ一体いくらの服だ!!やっぱりこの男魔界のどこぞの貴族だろう!!!
一人の少女の為に湯水のごとく大枚使う奴なんてそれしかないだろいうというこの世界の大人達の突っ込みと、またティファ様に贈り物をしをってと異界のラーハルトは歯噛みしあのアバンですらも冷たい目をキルに向けている。
もしもティファがこいつに恋心抱きそうになったら・・・その前に-蒸発-してもらいましょうとか思っている・・・・ちなみに異界のヒュンケルはティファがこの世界で作ったアメを貰って速攻で口にして、ご満悦で見張りを買って出てルンルン顔で歩哨していたりする・・・いたらもっとややこしくなるだろうがそれは兎も角、キルはあらゆる意味で完全復活していたのだ。
人選決まる前あたりから復活を果たし、チウ君とポップのは今回は諦めてティファの服を二着速攻で作り持ってきたのだ!
その服の入ったリングをティファがキラキラした顔で受け取ってくれたのがまた堪らないと、ドールの相好が崩れるのが異界のラーハルト達には面白くなく、速攻でティファをドールの手から奪い去り、もう寝ろと入り口前まで抱いたまま送る姿に、この世界のラーハルトは矢張り頭が痛くなる。
もういいから少女には寝て欲しいと、思ったラーハルトは絶対に悪くない!
今宵ここまで・・・・・
え~・・・このほのぼのと言いましょうかそれぞれのお話は次で終わりですの。
その次から、小石世界の命運をかけた最終決戦が始まります<(_ _)>